皆様、こんにちわ。
以前から原案があった「内緒の旅行」を文字の形でまとめてみました。
この作品は「迷い人」参加者さま限定でお持ち帰り&アップが可能となっています。
アップの可能期間はエンドレスです♪
アップの際に誤字脱字等に気づく、文体を自分のものにしたい、挿絵を入れたい、背景を入れたい、承前と本編だけを入れたい、レイアウトを変えたい―などのご要望があります場合は、内容を変えなければ少々の編集を加えても大丈夫となっております♪
この宇宙次元に散らばる諸世界のなかに、セレンダイルとフォーテイルというふたつの種族が共存する世界がありました。
しかし、ふたつの種族はお互いの特性を生かして共存するというよりも、刃を交える形で接することが多かったのです。
水と陸の種族の戦いは永遠に続くとさえ思われていたのですが、果ての無い戦いはフォーテイル族が異世界から召喚したひとりの魔法使いによって一応の終焉を迎えることとあいなりました。
異世界人の魔法使いは、フォーテイル族の暮らす大地とセレンダイル族の住まう水の境にシャイアという金色のの草を編み出すことにより、両種族の領域に境界線を作ったのです。
金色のシャイアはセレンダイル族の上陸を決して許しはしませんでしたが、フォーテイル族にも代価を与えたのです。シャイアがこの世界に生まれてからというもの、フォーテイル族は日の光のもとにある水に触れることが叶わなくなったのです…
魔法使いは二種族の境界線の代価として、両種族に対して均等に痛みを背負わせることにしたのでしょうか?
それはこの世界の誰にもわからないことでした―
とはいえ、セレンダイル族は魔力に長けた種族です。
現在はシャイアの金色の輝きに阻まれて上陸を阻止されている彼らも、時が過ぎればいつまた陸を侵攻するかはわかりません。
ゆえに、ふたつの種族の間に境界線が敷かれてから千年が過ぎても、フォーテイル族はセレンダイル族への警戒を解くことはありませんでした。
フォーテイル族が国家を作っている大陸のひとつにヴェストゥールという名のものがありました。
ヴェストゥール大陸に暮らすフォーテイル族は都市国家連合体という形をとって国家を運営しています。
そうした都市国家群の南方には「南方五都市」として知られるいつつの街―セネイ、パルム、ウィスタン、レイリス、ルーシェ―がありました。
しかし、これら5つの街はともに協力し合って独自の文明を編み出すというよりもむしろいつ果てるとも知れない戦乱の渦中にあり、都メレルも手を焼くほどの状況にあるのです。
パルムも例外ではなく、常に周囲の街との関係では緊張を強いられていました。長の奥方が若君と姫君をひとりづつ残して早逝したこともこの緊張状態が一因とされているのです―
奥方亡き後、長はエリーシアという女性を後添えに迎えました。
長の強い希望であるとはいえ、≪封印貴族≫の出であったエリーシアをパルムの街の女主人とするにあたっては周囲は難色を示し、結局のところは長が周囲の反対を押しきる形で強引にことを進めることになったのです。
その後、周囲の思惑はともあれ、パルムの長とエリーシア夫人の夫婦仲は他の街でも羨まれるほどのものとなりました。
そして、エリーシアは夫との間に黒髪の姫を授かることとなったのです。
ライシェリーゼと名づけられた黒髪の姫君は、やがては「ディレイの白百合」として名高いディレイの副長の家クローナ家のメリルアンジェ姫とともに「パルムの赤薔薇」と称される評判の美姫へと成長することになるのですが、≪封印貴族≫を母に持つ姫にとってフェイラム邸での日々は穏やかとは程遠いものでしかありませんでした。
屋敷での窮屈な日々に耐えかねた姫は、ついにティーアの名を捨てて屋敷を出奔する決意を固めます。
ライシェリーゼ姫が、ロイの率いるライディストに紛れて生まれ育ったフェイラムの屋敷を後にしたとき、彼女は18歳でした―
幼い頃の愛称「ライシャ」と名乗るようになったライシェリーゼは屋敷を出奔してからずっと、ライディストの一員としてロイや皆と行動をともにしていました。
勿論、これはヴェストゥールでは異例のことであるのは言うまでもありません。
ヴェストゥールでは、女性は家屋敷の奥で慎ましく生活することが当然のこととされているのです。これはロイのような旅商人においても例外ではありませんでした。現に、ライディストの構成員のなかにも妻や子がいる者もいるのですが、その者たちも妻子を街にある自分の家に置いて旅をしているのです。
「ロイ、今度はどの街からまわるの?」
「ん…そうだな…
シャレインの金や水晶の受注は―」
「シャレインの金と水晶は竜騎士団やマトゥーラからも受注があるわね。」
ライシャは机の上にあった帳簿の一冊を手にしています。
発注先が記してあるものです。
「―帳簿の扱いも慣れたものだな…」
「あれからもう一年以上になるんですもの。わたしも少しは商隊の一員らしくなったでしょう?」
ライシャは碧の瞳でロイの方を真直に見つめます。
「そうだっな。
そうだ。今度の旅はおまえは来る必要はない。家でゆっくり骨休めでもしていてくれ。」
「…え?」
「聞こえなかったのか?
今度の旅は男だけで行くと言ったんだ。」
ロイは念を押すようにライシャにそう告げました。
「まさか、ロイ…
他の隊みたいに≪封印貴族≫を置くつもりじゃないでしょうね!?」
ライシャはくってかかります。
≪封印貴族≫であったエリーシアの血を引く者としてフェイラム家で過ごしていたライシャは、自分と同じように南方の≪封印貴族≫の血を継ぐ者がどこでどのような扱いを被っているかを聞き知っているのです。
ライディストのような旅商人が自分の一行にそうした者を入れるということは、≪封印貴族≫の者が単に隊の食事の支度、衣類の洗濯や繕いもの、商品の細工や修繕などといった仕事をを受け持つということだけを意味しているのではありません。
街を通過する際、隊が不意の事態に陷った場合などには≪封印貴族≫として連れている者が保険料や通行料代わりとしてその街に置いて行かれることもあるのです。
そうして置いて行かれた者が帰りに迎えに来てもらえるかといえば、すべてそうなるとは限らないのが常でした…
ライシャの出生の秘密を知るロイは、ライシャが隊に≪封印貴族≫を置くことについて反対する気持ちを察していました。
ゆえにライディストには旅商人としては珍しく、隊員に≪封印貴族≫を置いていないのです。
「それはない。」
「だったら―」
「聞き分けのないことを言うな。
もうおれは寝る。
明日は早いんだ。」
それだけを言うと、議論はこれで終わりだといわんばかりの調子でロイは自分の寝室に引き上げました。
「ロイの莫迦っ!」
ライシャは寝室に向かうロイの足音を聞きながら、彼が出ていった扉に向かって大声でそう言いました。
いつもであればもう暫くもすればロイはライシャのもとに戻ってきて彼女をなだめるような調子で軽く詫びを入れるのですが、今夜はいくら待っても彼は寝室から出てくる気配はありません。
ロイを待つうちに、ライシャの胸の内にはだんだんと不安が広がります。
本当であれば旅商人は女性や子供は自分の家に置いて仕事をするもの…
なのに、ライシャは今まで例外的にライディストの一行にまじり、ロイや皆と一緒に仕事をしていました。それはライシャが男性と同じように仕事をこなすことができて、さらに武器の扱いもひととおり知っているということをロイが正当に評価していた結果だと思っていたのです。
でも、今夜急に「今度の旅は来なくていい」と言ったということは、今まで彼が一緒に旅をするのを許してくれていた本当の理由は、ライシャが隊の一員として欠かすことのできない存在というわけではなく、もしかするとフェイラムからの追っ手から確実にライシャを守るには、彼女を自分のそばに置いておく方が有利だということかもしれないのです。
もうライシャが屋敷を出てから一年以上になります。
これだけ時間が経てばパルムの長も姫の捜索を諦めたとも考えられます。
ロイもそう考えたのかもしれません…
―やはり…
≪封印貴族≫は≪封印貴族≫…
女は女でしかないのね…―
ライシャは溜息をついていました。
翌日、荷を積み終えたライディスト一行はそれぞれの家族に見送られて出発しました。
しかし、今日のライディストの風景はいつもとは少々違います。
ロイの隣で馬を進めているのは黒髪の艶やかな女性ではなく、副隊長のロデアルドなのですから。
ロデアルドがロイの横に来るのはかれこれ一年ぶりでした。
ライシャが隊にまじるようになってからというもの、ロイの隣にいるのはライシャということになっていたのです。
「隊長、今回はライシャさんは―」
「黙れ!」
ロイは一喝して隊員の問いかけを遮りました。
ロイ自身、わけのわからない苛だちに苛まれているのです。
今朝の見送りの女性や子供のなかにはライシャの姿はありませんでした。いえ、ライシャは今朝の朝食の際にも、確かに食事は用意してはくれたものの、ロイとはひと言も口を利いてくれなかったのです。
昨夜の決定はライシャにとってはそれほどまでに衝撃が強いことだったのでしょう。
それでも、今回の旅ばかりはライシャを連れていくわけにはいかないのです―
隊は神経質な不穏さを孕んだままで道を進めていきます。
「せめて理由を説明するべきじゃなかったんですか?」
ロイの様子が少々落着いてきたのを見計らって、ロデアルドが切り出しました。
「おまえもそう思うのか?」
「悪いことをするわけでもないんでしょう?だったら…」
「とは言ってもなぁ…」
ロイはまた溜息をつきました。
今朝、やはり連れていけないことをライシャに言った時、彼女はどんな表情でロイを見つめたでしょうか。
一言も口をきかずにともに朝食の席についたとき、見送りに来ないろ決めたとき、ライシャはどう感じていたのでしょうか…?
改めてロデアルドに言われてみると、昨日からのライシャの様子がまざまざと思い出されます。
家に残されたライシャは、ロイたちが出発してから暫くは、何も手につかない状態でぼんやりと日々を過ごしていました。
いつもであれば今ごろは最初の街かふたつめの街に着いていることでしょう。
隊の皆は荷の積み下ろしや仕入れを行い、ライシャはそれらについての帳簿を整理したり、衣類やタペストリーなどの積荷に不備がある場合はそれらの修繕にとりかかる手はずを計算している頃合です。
なのにこうして家でじっとしているとすべてが狂ってしまったように感じられてなりません。
フェイラムの屋敷にいた頃は毎日、家のなかでこのように静かに暮らしていたはずなのに、一度旅商人としての暮らしに慣れてしまうと、普通の女性としての日々が別の世界の出来事であったかのようにも感じられるのです。
そうしていても時間だけは静かに過ぎていきます…
ぼんやりと時計を見たライシャは、改めて自分が今19歳であることを思い出しました。
新しい生活に慣れることで手一杯だったので、そんなことを考える余裕さえなかったのです。
19といえば、フォーテイルの娘であれば誰でも成人の儀で着る晴着の用意を始める年頃です。
20歳の成人の儀に着るドレスを自分の手で縫うこと―これは娘であれば誰でも―国主の姫君も平民の娘も…≪封印貴族≫の娘であっても―誰一人の例外なくこなさなければならない仕事でした。
ライシャもフェイラムの屋敷にいれば今頃は父母から街長の姫君の晴着に相応しい美しい布を渡されて、順調にいけばドレスの仕立てや、展示用のタペストリーの作製などにとりかかっていることでしょう。
もしかしたらタペストリーではなく当日の宴席の料理についてあれこれ考えているかもしれません。
異母兄や異母姉の横槍が入らなければ。
「…」
そこまで想像したライシャは思わず苦笑していました。
現実的に考えれば、異母妹の食事に毒を盛ることも考えかねないような異母兄と異母姉が、成人の儀でより美しく装うライシャの邪魔をしないはずがないのです。
ライシャ自身、そんな日々に耐えかねてフェイラム家をあとにしたのですから。
ライシェリーゼが「パルムの赤薔薇」と称されるようになったのは15歳の儀の時でした。
ヴェストゥールでは子供が15歳になると、男の子は大人用のフェレーズをまとい、女の子は大人の女性のフルレングスのドレスを着るようになります。ただし、このときの晴着は20歳のときとは違って親が用意することになっています。
男女とも、この着替えをもって子供時代に別れを告げることになるのですが、この第一の成人式ともいえる儀式が15歳に行われることから「15歳の儀」と呼ばれているのです。
このときにライシェリーゼが着たのは真紅のドレスでした。
父がこの日のためにロムルから取り寄せてくれた品です。
真紅のドレスをまとい、艶やかな黒髪にシャレインの黄金細工の髪飾りを飾って、街長の姫君に相応しく気品をもって歩くライシェリーゼの姿は、列席した者皆に彼女の血筋のことさえ忘れさせるほどの見事なものでした。
―母とともに離れにいることが多く、公式の場にもあまり姿を見せないライシェリーゼは宴の空気に酔ってしまってこっそりと庭に出ました。
宴が行われている広間から少し離れると、多少は喧騒もおさまります。
庭の木に手をかけようとしていたライシェリーゼは、次の行動にとりかかろうとして、今自分がどんな格好をしているかを思い出しました。
今着ているのは足首までのスカート丈の子供服ではなく、ヴェストゥールの最高級の生地で仕立てた大人用のドレスです。このような格好で木に登ったりすれば、次の瞬間にはドレスを台無しにしてしまうことでしょう。そうなればまた悪い噂が立って、今日の主賓の母として、父の隣の席にいるエリーシアにも迷惑がかかってしまうことは明白です。
「…」
ライシェリーゼは軽く額を木にあてました。
金の髪飾りが軽い音を立てます。
「そこにいるのは誰だい?」
「!」
ライシェリーゼはびくりとして振り返りました。
彼女の前にいるのはひとりの若者です。
どうやら彼も宴の場から抜け出してきたようです。
「あなたは今日の招待客の方ですね。
ひ…人に名を聞くときには自分から名乗るのが礼儀であると教わらなかったのですか?」
背筋をのばしたライシェリーゼは、今日の招待客のひとりと思しき若者の方を真直に見据えます。
「姫君、失礼しました。
ジェラルディン・イリス・ヴァルトゥスと申します。
本日のフェイラム家の姫君の15歳の儀の祝宴に招かれたのですが―
美しい真紅の薔薇の花を目近で拝めるとは思ってもいませんでした。」
ジェラルディンと名乗った若者は優雅な身のこなしでライシェリーゼの手を取りました。
片や、若者の名を聞いたライシェリーゼの方は混乱極まっています。
「ヴァルトゥス」といえば、ヴェストゥールにその名を知らぬ者は誰一人として存在しません。
その名は国主の家の名なのですから。
そして「イリス」とは国主の家の一族の男性の名に添えられるもの―女性形は「アイラ」―です。
つまり、ライシェリーゼは今国主の一族のひとりを相手にしているのです。
「わたしは…
―ライシェリーゼ・ティーア・フェイラムです。」
ライシェリーゼは半ば恐る恐る名乗りました。本名を聞いて彼がライシェリーゼにどのような反応を返すかが怖かったのです。
かといって、国主の若君に偽名を名乗るのも失礼でしかありません。
「では改めてよろしく。
パルムのライシェリーゼ姫―赤薔薇の姫君。
―今更あの喧騒のなかに戻るのもなんですね。
そういえば、フェイラムの家には美しい庭園があるらしいが、夜の群花というのもさぞや美しいことでしょう。
よければ案内してはくださらないか?
薔薇の妖精の案内で南方でも評判の庭園を巡ることのできるわたしはなんと幸運なのだろうか。
今日、ここに招いてもらえて本当によかった。」
若君はライシャの名を聞いてからも、最初と同じ微笑みを彼女に向けてきます。
国主の若君であれば、「パルムのライシェリーゼ」といえば誰を母に持つ姫であるかを知っているはずなのに…。
ライシェリーゼが「パルムの赤薔薇」と呼ばれるようになったのはそれからでした。
とはいえ、エリーシアのことを知る者は母方の血筋のことを意識するのでしょうか、ディレイのメリルアンジェ姫のように大量の求婚の書状に悩まされることにはなりませんでした。
このことはライシェリーゼ本人よりもむしろ、エリーシアの方が気に病んでいました。
エリーシアとしては、自分が≪封印貴族≫の血のために屋敷で肩身の狭い思いをするのは仕方がないとしても、叶うならば娘には同じ思いをさせたくはなかったのです。
その後どれかけかして、メレルの宮廷から正式にライシェリーゼに求婚の書状が届きました。
求婚の主はジェラルディンです。
この知らせはフェイラムの屋敷中をあらゆる意味で驚かせました。
パルムの長は喜びと驚きをもって受け取り、エリーシアは心から娘の幸運を祝い、未来の幸福を願いました。
求婚状の噂を聞いた街の人々もまた驚き、複雑な思いでフェイラム家の第二姫を祝福します。
しかし、皆が皆ライシェリーゼの幸福を願ったわけではありませんでした。
なかにはライシェリーゼが国主の若君の求婚を受けたことに関して、あまりよく感じていない人も存在していたのです―
―ジェラルディン様…久しぶりに思い出したわ。
今はどうしていらっしゃるのかしら。
結局あの話はお異母姉様やお異母兄様の横槍でお流れになったけれど…
今にして思えば、わたしにとっても、そしてジェラルディン様にとってもこれでよかったのかもしれないわね―
ライシャは回想を断ち切ると、現在に意識を戻しました。
ロイが彼女を旅に連れて行く必要性を感じなくなったとしても、仕事は他にもいろいろとあるのです。
それに、今の彼女が旅に不要であるとしても、ロイがいない間に彼女が別の技能を身に着けていれば、今度はロイの方から隊に戻ってくるように言ってくるかもしれないのですから。
ライシャは銀と宝石を相手に格闘しています。
宝石細工の技を身に着けようとしているのです。
といっても本格的なものではなく、旅にも持っていける道具類と手近な材料を使う簡易的なものですが。
それでもライシャがこの技を持っていれば、ライディストが取り扱う品にも多少なりとも幅がでるはずです。
現に、タペストリーや高価な布類などは、旅の途中でも高価な品の修繕や改修ができるライシャが隊に入ってから新たに扱い始めた品なのですから。
家の扉がにぎやかに叩かれる音がしたのは、3個目のネックレスの作製にとりかったときでした。
「…?」
ライシャは半ば訝しみながら外を見ます。
あの騒々しい叩き方はロイのノックに似ていますが、ライディストが旅を終えて戻るにはまだ時間がかかるはずなのです。
まさかロイが仕事と仲間を放り出してひとりで家に戻るなどということもあり得ません。
「ライシャ!開けろ!」
扉を叩く音に交じって人の声がします。
「…!ロイ!!」
ライシャは道具を放り出して慌てて家の戸口に向かいました。
詳しい事情は知らないけれど、ロイがひとりで戻ってきたのです。
これはただごとではありません。
「ロイ!何があったの!?」
戸を開けると同時にライシャはロイに声をかけます。
ロイは急いで家に入りました。
「あまり騒ぐな。他の隊員の家族が気づくだろうが。」
「まあ。あなたの声の方が大きかったわよ。」
「そりゃすまん。
ほら、これ。」
ロイは大事そうに抱えていた荷物をライシャの前に放りました。
ほどけた包みの端からは布が見えます。
「これ…」
「来年は成人だろう?
フェイラム家のお姫様にはお粗末な品かもしれんが…
これで何か作るといい。」
「来年って…
ロイ、おぼえていたの?」
ロイの放った荷物を拾い上げたライシャの瞳には光るものがあります。
ライシャ自身も自分が来年20歳になることは今日まで忘れかけていたのに、それをロイはおぼえていてくれたのです。
しかも、ライシャ一人のために仕事に穴をあけるようなことまでしてくれたのです―
「あの家を出たのはたしか18だっただろう?」
「そうよ…
まさかあなた、あの時はこのために『来るな』って―」
「贈り物は秘密にするのが常識だろうが。
あの父上でさえ、おれが20歳になったときは家に呼び戻して祝いの宴を開いてくれたんだ…。
一緒に暮らしていて、しかもおまえが来年20歳になることを知っているおれが放っておくわけにもいかないだろう?」
「有難う…!」
ライシャはロイの身体に腕をまわしました。
セダイユ夫妻の外伝です。
ライシャさんが城出してから一年目なので、多分まだ御夫婦にはなっていない頃と思います(本編でこの頃もう御夫婦になっていた―という設定が出てきてもいいように、今のところはどちらでも通るようなかんじで書いていますが)。
今回の外伝は、ヴェストゥールの成人式のことを考えていて思い立ったものでございます。
ライシャさんが城出したのはティーンエイジャーの頃だった(と思う)ので、多分ロイ君がこのあたりのフォローなんかをしっかりしてたんじゃないかな?と思えたもので…。
日本でも成人式の晴着といえば女の子にとっては一生に一度の大イヴェントのひとつ(わたしは振袖を着たときにそう感じました…)なので、初めて着る大人用のドレスや、成人式の晴着の感覚はおそらくヴェストゥールの女の子にとっても同じじゃないかな?とも思えるんですね♪
ロイ君がライシャさんに贈った生地の詳細については皆様でご想像くださいね♪
ちなみにわたしは、ロイ君が贈ったのはロムル産の布地じゃないかな?と想像してます。
こう思うと、ライシャさんへの贈り物のために必死になって貯金しているロイ君の健気な後ろ姿なんかも同時に想像してしまいますね〜。
この外伝では、ライシャさんの母親違いのお兄様とお姉様もちらっと顔を出していますが、このふたりはライシャさん本人に恨みがあったワケじゃないと考えています。
どちらかというと、「自分たちよりも綺麗に生まれるなんてユルセナイ!!」という思いよりも、エリーシアさんがパルムの長の奥様になったということで、自分たちの母が蔑ろにされた―と思ったがゆえのことじゃないかな?と思えるんですね…。
先妻のふたりの子とライシャさんの年齢もそう離れていないような気がするので、もしもそうなら、エリーシアさんが長夫人になった頃は、ライシャさんのお姉様とお兄様もまだ母親が恋しい年頃のはずですものね。
―幼い頃の心の傷というものは、容易には癒せないものなのですね…(とはいえ、その気の毒な事情を差し引いて考えても、異母妹の食事に毒を盛りかねないというのは、ちょっとやりすぎだと思うが。)…
このふたりの容貌については、母違いとはいってもこれだけお綺麗な妹がいることから察するに、ある程度はお綺麗なんじゃないかな?と想像しています。
ジェラルディン君のエピソードは、ライシャさんが「パルムの赤薔薇」と呼ばれるようになった経緯について思い巡らせていたら出てまいりました。
「≪封印貴族≫の娘」といわれると同時に、「赤薔薇の美姫」として愛でられるというからには、どこかにそれなりの事情があったたも思えますものね。
確かに、こうした評判も宮廷発のものであるのならば、ライシャさんの出生と関係なく広まる可能性もありますね♪
ジェラルディン君のお歳についてはわかりませんが、当時15歳のライシャさんとの出会いの風景から想像して、ライシャさんが15歳だった当時、18〜22歳くらいだったんじゃないかな?と想像しています。
―とすれば、本編でこの人が出てくるととしたら、ナイスミドルな殿方としての登場ということになるのでしょうか?
奥様がいるかどうかは不明ですが、もしもジェラルディン君にまだ奥様がいなかったら、ロイ君とどんなふうに対峙―しても仕方ないかもしれないけど、ロイ君たちは御夫婦なんだよなぁ…………。
うーん。
尚、今回の背景は、執筆者特典品から抜き取ったものでございます(どの圧縮ファイルに入っているかはナイショ♪)★
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