れくいえむ
あの時私の中で封印されたはずの
19の頃の私が
アノコにとても会いたがっている
「ハヤク アノコニアワセテヨ ハヤク オイキヨ アノコ 二 アイニ・・・・・」
19の冬に私はたくさんのものをなくした。
左手の手袋
あの人の大切なアルバム 日記帳 詩集
アドレス張
全財産入っていたお財布 定期入れ 学生証 かばん
あの人からもらったGジャン
「素足で履くのが渋いのだ」 とあの人から教えられた茶色のデッキシューズ
あの人がいろんな女の子からもらった手紙の束
いちばんの仲良しだった女友だち
そしてあの人
夢と希望
何もかもなくした私が、それでもなんとか生きてこられたのは
そんな私のそばで、いつもいっしょに眠ってくれたアノコがいたから
「人間だったらよかったのにねえ」
アノコに向かってそう話しかけたら、
「みゃあ」
とだけ、返事をしてくれたっけ。
アノコはいつも温かかった、いとおしかった、大好きだった
アノコがそばにいてくれたから、
私は、なんとかやってこられた。・・・・たぶん。
でもいってしまった。あっけなく。アノコまでが。
アノコの亡骸は、私の目にふれることなく動物病院で葬られてしまった
戻ってきたのは、一握りの、アノコの茶色の毛の束だけだった・・・
そう、ほんの一握りのアノコの柔らかい茶色の・・・・・・・・・・・
その一握りを見た瞬間、何かが、私の心に、つきささった。
痛い痛い痛い痛い!ものすごく痛いのよ。
でもとれないのよ。誰か外してお願い
痛くて痛くて痛くてどうしようもないのよ
叫ぼうにも声が出なかった
押しつぶされて押しつぶされて
桃太郎の話をいつも聞かせてくれた優しかったおばあちゃんがいなくなった時も
自慢話ばかり聞かされてうんざりしてたけれど、かっこよかったおじいちゃんがいなくなった時も
私にクリスマスツリーと晴れ着を買ってくれた大好きなおばちゃんがいなくなった時も
あの日病室の二階の窓からいつまでも私に手を振ってくれたおじちゃんがいなくなった時も
バイクの事故であっけなくあの人がいなくなった時も
あそこまでは悲しくも痛くもなかった・・・・・・
そのときはじめて気がついたのよ
私が、この世で一番大切にしていたのは、
あの人ではなく、友だちでもなく、りんごでもなく、メロンパンでもなく、
父でもなく、母でもなく、弟でもなく、夢でもなく、希望でもなく、憧れでもなく
アノコだったのだ、と。
それからしばらく
廃人のような私が、街をさまよい続けた。
廃人のような私が、街をさまよい続けた。
ゆくあてなんてなかった。
ゆくあてなんてなかった。
どこにもどこにもどこにもどこにも・・・・なかったのに・・。
やはりあのときもっと
完全に息の根を止めてから封印すべきだったのかもしれない
あの日、一握りのアノコの茶色の毛の束といっしょに
庭の片隅の名前も知らない木の根元に
埋めて葬り去ったはずなのに
今でも
19の頃の私が
毎年この時期になると
たずねてくるの
私がどこにいて、なにをしていようと、おかまいなしに
たとえ私があのこのこと、すっかり忘れて平和にくらしていたとしても、おかまいなしに
必ず探し出して
たずねてくるの
そしてすっかり冷え切った干からびた声で
私の耳元で囁くのよ
「ハヤク アノコニアワセテヨ ハヤク オイキヨ アノコ 二 アイニ・・・・・」
♪戦場のメリークリスマス(MIDI by KAZU
さん)