前世を語る会

(雑誌TILL入選作)

 

 町主催の前世を語る会に参加した

参加資格が「前世を語ることができればどなたでも」

となっていたので

気軽な気持ちで参加した。

会場は町民センターの中にある体育舘だった。

 前世のことを語れる人などそう多くはないと、まばらな人数の参加者を予想していたが

会場は前世を語りたい人でにぎわっていた。

 受付で番号札をもらった。75番だった。75番目に前世を語ってくれというわけなのだろうか?

 

 ところで私は、自分の前世を克明に語ることができる。

私には、かつて縁日の金魚だったという記憶がしっかりと残っているのだ。

以前からこのことを誰かに話したい、誰かに聞いてもらいたいと思いつづけてきたのだが

なかなかその機会にも恵まれず今まで生きてきてしまったという感じだった。

次に生まれ変わった時、果たして金魚だった時の記憶が、まだ残っているかどうか

さだかではないので、今を生きているうちになんとしてでも話ておきたかったし

そのような機会を待ち望んでもいた。

 だからこの町に引越してきて、ほんとうにラッキーだったと思う。こんな会を主催してくれるのは

この町だけのような気がする。

 

 金魚だった頃の私は、毎日をハードに生きていた。

たくさんの金魚たちに混じって、なるべくぶつからないように泳がなければならず

神経をすり減らせていた。

 細心の注意を払って泳いでいるのにもかかわらず、時々ぶつかってしまい

気まずい思いをすることもあった。

 ごめん。いいえこちらこそ。などと相手も控えめな金魚なら

その後何事もなかったようにスムーズに泳げるのだが、たちの悪い金魚とぶつかってしまった時は

最悪だった。難癖をつけられたり、嫌みを言われたりと、ろくなことはなかった。

 そんな時は、「いっそあたしをここからすくって。すくってよ」

と願うのだが、願い虚しく、誰もすくってくれず、案外たちの悪い金魚の方があっさりすくわれてしまったりした。

 

 でもやっぱり、どこの誰かもわからない人にすくわれて、どこかに連れていかれるのは恐ろしかった。

 大切にしてもらえるかどうかなんてわからないし。

あたしたちをすくいに来る人は、たいてい「すくう」ことしにか興味ないみたいだったし。

 

 仲間の金魚たちが、次々とすくわれてしまった時のことを思い出すと

今でも胸が痛む。あの頃のあたしは、わっかの上でもがいている仲間たちを見ても

どうしてやることもできなかった。自分の無力が悲しかった。

 仲間たちを助けることはおろか、自分が逃げるのにせいいっぱいだった。

 辛い記憶。本当は忘れてしまいたいくらい辛い記憶だった。

 なのにいまだに夢に見てしまうのだ。見るまいと思って眠ってもこればっかりは

どうしようもなかった。

 

 

 会場には、折りたたみ式のパイプ椅子、整然と並んでいて

すでにほとんどの人が着席していた。椅子の背もたれのところに

番号を書いた紙が貼りつけてあった。番号順に着席しなければならないらしかった。

 会場は、私語でざわめいていた。こんなにたくさんの人びとが、

自分の前世を語りたがっていると思うとなんだか空恐ろしかった。

 

「時間が参りましたので、そろそろ会の方をはじさせていただきたいと思います」

 壇上からマイクで司会者らしき人の声が響いた。とたんに私語が消え会場は一瞬しんとなった。

 

「それでは、一番の方。壇上にお上がり下さい」

司会者らしき人は歯切れのよい口調でそういい、持っているマイクを机の上に備えつけ

一番の人を迎えた。

 

 一番の人は、これといって、特徴のない平凡な中年の男の人だった。

少し緊張しているようで、声を震わせながらしゃべりはじめた。

 

「一番サワムラタケシ。45歳、酒屋。前世はアヒル。以上」

それだけ言うと、会場に向かってぺこりと頭を下げ、そそくさと階段を降り、自分の席へ戻った。

 

 二番の人は、紫がかった銀色の髪が印象的な上品な感じの老婦人だった。

「二番サワムラシズエ。72歳。無職。前世はアヒル。以上」

 穏やかな口調でそう言うと、会場に向かって一礼して、足元に気を付けながらゆっくりと階段を降りた。

 サワムラタケシにサワムラシズエか、2人は親子なのだろうか?前世も同じアヒルなのは

単なる偶然だろうか?それとも前世もふたりは親子だったのだろうか?

 

 四番目の人の自己紹介が終わった時、みな紹介が同じ形式なのに気がついた。

すなわち、番号、名前、年齢、職業、前世、以上。そのくり返しだった。

それも体言止でいたって簡潔、よけいなことを言うものは一人もいなかった。

 

三番、オカダユリコ、28歳、アルバイト、白鳥、以上

四番、イブキツバサ、18歳、高校生、つばめ、以上

五番、ホンダタカヒコ、36歳、警察官、きりん、以上

六番、アサノシノブ、43歳、主婦、マリーアントワネット、以上

 とまあこんな感じで、一定のリズムを刻んで、スムーズに会は進行していった。

 見事なまでに型にはまった自己紹介が続けられた。番号、名前、年齢、職業、前世、以上。そのくり返し。

 聞いているうちに、もしかしてこれってかなりでたらめでインチキな会なのではと思い始めるようになった。

 五十六番の老人の前世が、桃太郎侍だったと知ったあたりかたそう思うようになった。

 その後もどんどんエスカレートしてゆく、とんでもなく妙な前世の人が次から次へと現れた。

 宮本武蔵だったいう人が三人もいた。

 ピーターパンや河童だという人まで現れた。

 ついには、鍋のふただとか冷蔵庫だとか百円ライターだったという人まで現れる始末。

 そんな前世ありなのか?

だんだん真面目に聞いているのがバカらしくなってきた。

 でたらめな前世を語りあったってなんに意味もないじゃないか。

 あんな人たちといっしょにされてはたまらないと思った。

 あんな人たち?

そんなふうに決め付けてしまってよいのか?

私の前世だってでたらめだと思われるかもしれないのだ。そうなのだ。

前世を証明する方法など、どこにもないのだった。

 

なんだか急に虚しくなってしまった。やっぱ順番が回って来る前に帰ろう。

 73番の人が終ったところで席を立ち、出口に向かった。

 74番の人の前世が、ドーナツの真ん中であると知ったのは

出口のドアをちょうど閉めるところだった。

 

 

 

   了

 

 

 

 

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