聴覚障害者とは?

.聴覚障害・ハンディキャップ・コミュニケーション・手話.

本当は、「障害者」.という言葉を.「障がい者」.として.表現しておきたかったが、

本ページは、ボクの.大学時代の卒論の一部を.抜粋改訂したため、

あえて、当時(2002年)のままにしておきました。

 

第1節 「“聴覚障害”とは?」

 世間では、一般的に.「聴覚障害」という言葉を聞くと、「単に.耳が聞こえない」という認識を.持ちがちである。

 つまり、聴覚機能に関して.障害がある.という意味だが、実は、聴覚障害には.レベルが様々あり、それによって、耳が聞こえない、あるいは聞きにくい、と.区別できる。

 

 聴覚の障害は、その障害部位によって、『伝音性難聴』.『感音性難聴』.『混合性難聴』.の3つに.分けられる。

 

 『伝音性難聴』とは、外界からの音を空気が振動して.内部へ伝える働きをする.中耳と外耳といった伝音系に.障害があり、音の振動が.内耳に.十分伝わらないことである。 一般的に、聴力の低下は.70dBまでで、補聴器によって.音を大きくすれば.はっきりと聞こえるようになっている。 その理由は、伝音系は、音が.なるべく.能率よく.内耳に伝わるように働いているだけにすぎないからである。 また、この難聴は、自然に治らなくても.医学的に再生できる可能性は高い。 外耳道閉塞、鼓膜狭窄、耳官狭窄、耳小骨連鎖異常、事故による故障(難聴)などは、それに.あたる。

 『感音性難聴』とは、内耳や.聴神経・聴覚中枢の感音系に.障害があり、外界の音を.脳の中枢へ伝えることができないことである。 これは、伝音性難聴と違って、補聴器によって.音を大きくしても、音が.ビリビリと.聞こえたり、大きな音は.ガンガン響いて.聞きづらいことが.多くみられる。 そのため、言葉が.はっきりと聞こえない。 感音性難聴の大部分は、聴力損失が.80dB以上に.落ち込むので、話し言葉の自然な習得に.大変な困難が見受けられる。 また、この仕組みや.病理の大まかな点はわかっているが、細かい点は未解明である。 そのため、感音系に障害あるものを.手術などで再生し治すことは.難しい。 ここの故障には、老人性難聴、騒音性(職業性)難聴、抗生物質の薬害による難聴、遺伝などが.含まれる。

 『混合性難聴』とは、伝音系と.感音系の両方に.障害があり、小さい音はよく聞こえないし、少し大きすぎると.ガンガン響いて.聞きづらい状態である。

 

 要するに.聴覚障害とは、聴覚の働きの一部、または.全部が.何らかの原因によって.障害を受けている状態をいう。

 あくまでも、全く.耳が聞こえない状態を.「聴覚障害」と呼ぶべきものではない。 かすかに.音が聞こえる状態(聞こえづらい)でも、耳の仕組みに.障害があれば、「聴覚障害」の領域に入る

 

第2節 「聞こえの程度」

 耳が聞こえない人、耳が遠い人には、その人々の聞こえに.様々な違いや程度の差があり、それを

dB(デシベル).という単位で.表している。

 このdBは、聴力レベル(聴力損失)の程度を表し、オージオメーターという聴力測定器で.計ることができる。

 

   @ ささやき声まで.よく聞こえる=正常耳 (聴力レベル.1030dB)

   A 小声では.聞こえにくい=軽度難聴   (聴力レベル.3050dB)

   B 普通の会話が.聞こえにくい=中等度難聴 (聴力レベル.5070dB)

   C 大声の会話でも.聞こえにくい=高度難聴 (聴力レベル.70100dB)

   D 耳元の叫び声やジェット機の音くらいには感じるが、日常の音は聞こえない

                        =高高度難聴 (聴力レベル.100dB以上)

              .聴力レベルの参考.・・・畠口健が考案した.“ヒヤリングレベル”.(5段階)

 

 日本では、一般的に、50dBまでは.軽度難聴、70dBまでは.中等度難聴それ以上は.高度難聴.に分類される。

 

第3節 「日本の“聴覚障害”判定基準の実態」

 日本で、「聴覚障害」と認定されているのは、上述(前節)の.C、および.D..70dB以上の高度難聴だけ.で、A..B..軽度・中等度難聴は.福祉の対象とされていない

 

 ところが、WHO.World Health Organization=国連による世界保健機関).では、聴覚障害の認定は.40dB以上.と規定している。 アメリカ(大部分の州)ほか.四カ国も.30dB以上、スウェーデンが.40dB以上、デンマークに至っては.20dB以上を.「聴覚障害」とみなしている.(ベター・コミュニケーション研究会=略称BCS,1984年調査)

 

 WHOの国際障害分類による.平均聴力レベルによる難聴の分類は、以下の通りである。

 

   @ 2640dB = 軽度難聴.デンマークアメリカ.ほかで.「聴覚障害」認定)

   A 4155dB = 中等度難聴.WHOの基準スウェーデン.ほかで「聴覚障害」認定)

   B 5670dB = 準高度難聴

   C 7190dB = 高度難聴.日本.ほかで.「聴覚障害」認定)

   D 91dB〜  = 高高度難聴

 

 つまり、先進諸国では、軽度・中等度の難聴者に、福祉の手を.差し伸べているのが.現状.である。

それに比べて、日本は.厚生省の障害判定基準.および.難聴の分類が.厳しすぎる.のではないか、と考えられる。

 

第4節 「日本の“聴覚障害者”の概数」

 日本の聴覚障害者は、何人.いるのだろうか。

 

 厚生省は、1951年以来、概ね5年ごとに、わが国における.身体障害者の実態調査を実施している。

 1987年に.実施した調査によれば、全国の18歳以上の.身体障害者(在宅)の総数は、2,413,000.と推計され、人口1000人に対して2.6%、すなわち、1000人のうち.27人が.身体上に.何らかの障害を持っている、としている。

 そのうち、18歳以上..在宅の.聴覚音声言語障害者の数は、354,000.(全障害者の14.7.いる.と算定している。 すなわち、聴覚音声言語障害者の出現率は、健常者を含めた全人口(およそ1億3000万人).0.27.である。 これは、聴覚音声言語障害者は.1000人のうち.2.7.という計算ペースにあたる。

 

 都合により、ここに.図表を載せておかないが、聴覚障害者の年齢別の分布によると、年齢別の分布で、70歳以上の人は.他の年齢別に比べ、聴覚障害者が多い。 それは、身体衰退からくる.老人性難聴のせいだからであろう。

 聴覚障害者の年々の推移に関しては、1987年の調査で、18歳以上の.在宅の聴覚音声言語障害者の数は、1951年に比べてみると、3.5倍以上に.増加している。

 このほかに、18歳未満.の身体障害を持つ児童については、聴覚障害児が、年々減少しつつある(少子化)が、1987年の調査では.13,600.(全障害児の14.7%).の聴覚音声言語障害をもつ児童がいる。

 

 以上の結果から、18歳未満と.18歳以上の.聴覚音声言語障害者を合わせると、367,600.13,600人プラス354,000人).の聴覚音声言語障害者が.日本にいる.と推計できるわけである.1987.厚生省.「身体障害者実態調査」)

 

 しかし、この調査は、聴覚障害者と.音声言語障害者を.一括して.計算しているので、聴覚障害者だけの数にすると、上述の数字より少ないかもしれない。 それ故、前節で.述べたように、日本は.障害判定基準が厳しい。 日本は、全人口に対する.聴覚障害者の出現率が0.27%であることは.前で.述べた通りである。

 

 一方、障害判定基準が.日本よりも.緩和している.欧米・西欧諸国では、全人口に対する.聴覚障害者の出現率は、スウェーデンで.7〜8%、オランダ、カナダで.3%、その他の国では.4%前後.とされている。 障害判定基準が.欧米の場合、平均聴力レベルが.40dB.前後、日本は.70dB以上.と違うので、当然、出現率にも.大きな差が生じる。

 それならば、日本の聴覚障害者出現率を、外国並みに.5%.と仮定しておこう。 すると、日本の人口は.1億1700万人1980年国勢調査)に対し、実に.600万人の.聴覚障害者が存在する.計算となる。 厚生省発表の.37万人.とは、16倍の.開きである。

 

 日本は、世界でも1〜2位を争うほどの.高齢化社会であるから、高齢者は多く、当然、老人性難聴者も多い。 また、経済成長下における.過労やストレスによる騒音性(職業性)難聴や、薬害や.病気による難聴、ヘッドホン難聴のような.後天性難聴が増加している.データも.ある。

 そのことを.念頭に置くと、厚生省発表の人数.37万人、出現率.0.27.という数値は、受け入れ難い。

 

 本論では、障害判定基準を.外国並みにしておくと、約600万人.の聴覚障害者数が出る、ということを.採用したい。

 従って、日本にいる.聴覚障害者の概数.は、「600万人.である、と推定できる。

 

第5節 「“聴覚障害”の等級」

 日本では、障害判定基準により、聴力レベル.70dB以上.だと、身体障害者手帳の交付ができる

 この手帳交付を受けている.聴覚障害者は、全国で、37万人.とみられている。

 身体障害者福祉法による.身体障害程度等級・聴覚障害の等級は、6級のみ.である(1級と5級はない)。 詳しくは、以下の通りである。

 

   ●.2級..両耳..聴力レベルが.それぞれ.100dB以上.のもの

   ●.3級..両耳..聴力レベルが.それぞれ.90dB以上.のもの

   ●.4級..両耳..聴力レベルが.それぞれ.80dB以上.のもの

        両耳.による.普通話声の.最良の.語音明瞭度..50%以下.のもの

   ●.6級..両耳..聴力レベルが.それぞれ.70dB以上.のもの

        一側耳..聴力レベルが..90dB以上他側耳..聴力レベルが.50dB以上.のもの

 

 但し、聴覚障害2級と.音声言語機能障害3級(発声がきわめて不明瞭な状態).重複して、最重度の「1級」に.認定することができる。

 

 なお、聴覚障害の.等級別の.人数割合については、以下の通り.1987年厚生省調査)

   6級.・・・・.91000

   5級.・・・・.02000

   4級.・・・・.66000

   3級.・・・・.65000

   2級.・・・・.90000

   1級.・・・・.28000

 

 全国にいる.聴覚障害者のうち、4分の1が.2級.を持っている。 つまり、日本には、両耳の.聴力レベルが.それぞれ.100dB以上の.聴覚障害者が.多く.いる。

 

第6節 「“聴覚障害者”の定義」

 これまでの記述で.聴覚障害者」と書いてきたが、ここでは、聴覚障害者の分類を.示しておく。

 

 日本では、聴覚障害者の分類は、3つ.がある、と考えられる。

 @「ろう者」、A「難聴者」、B「ろうあ者」の3つで.ある。

 

 『ろう者(聾者)』とは、日本では.一般的に.手話を使う.聴覚障害者」である。

 言語的分類では、音声言語の基本的概念を習得する.3〜4歳くらい以前に.重度の聴覚障害が発生した.聴覚障害者.をさす。 障害等級が.1〜3級.の聴覚障害者に.こう呼ばれることが多い。

 

 『難聴者』とは、音声言語の基本的概念を習得する.3〜4歳くらい以後..重度の聴覚障害が.発生した.聴覚障害者をさす。 また、補聴器をつければ、ある程度.聞こえる.聴覚障害者.のことをさす。 これは、老人性難聴や.中途失聴者など、聞こえの程度が軽い人..こう呼ばれることが多い。

 

 『ろうあ者(聾唖者)』とは、「聴力に.重い障害があり(ろう)、話すことにも.障害の大きい(あ)状態」の.聴覚障害者をさす。 これは、「耳が聞こえず、口がきけない者」という意で、昭和初期の頃では.その言い方が多かった。 だが、現在では.「ろうあ者」という言い方は.ほとんど.されていない。

 どちらかをいうと、ろうあ者という呼び方が.差別と偏見に苦しんだ.かつてのろ.う者を.想起させるのに.対し、ろう者ということばは.昔からあった.とはいえ、最近は.自らに対する.自覚と誇りを意識した.新しい語感を.ともなっている。

 

 というように、聴覚障害者とは、もちろん.耳が「聞こえない」とか.「聞こえにくい」人々のことだが、その聴力の程度は.全く聞こえない(全聾とも呼ぶ)から.補聴器をつければある程度聞こえる(難聴)まで.かなりの幅がある。

 そして、聴力の程度とともに.重要なこととして、聴力を失った時期の問題が.ある。 生まれたときから.耳が聞こえない(先天性)という人がいる.一方で、大きくなってから.事故や.病気で.聞こえなくなった中途失聴者(後天性)や、加齢とともに.耳が遠くなった老人性難聴の人々も.いる。

 こうした聴力の程度と.失聴の時期とが、複雑に絡み合い、一口に.聴覚障害者といっても.その様態は、実に.様々.である。

 

 だが、広義でいうと、聴覚障害者を.音声言語概念習得以前以後に.関係なく、視覚的な手段.(手話や口話など).に頼って.コミュニケーションを行う者を.「ろう者」と呼ぶ.ことが.多い。

 逆に、耳の聞こえる者は.健聴者ではなく、単に.「聴者」と呼ばれる。

 

 この説明は、今日の.大多数の人々の見方を.反映するものといえる。

 医学的視点からにすれば、耳が聞こえない人のことを.「聴覚障害者」と呼ぶかもしれない。 しかし、聴覚障害者同士で.話をするとき、手話や.口話などの.コミュニケーションをとって.話が進行していくのだから、聴覚に.障害があるかどうかは.まったくといっていいほど、問題にならないため、ろう者自身の障害者意識は薄れている。

 だから、文化的視点から見たときは、ろう者を.「聴覚障害者」という言葉で.呼ぶことは、あまり.馴染まない。

 

第7節 「“聴覚障害者”のハンディキャップ」

 この節では、聴覚障害者のハンディキャップについて、紹介する。

 ハンディキャップhandicapとは、一般的にいえば、最初から.自分が負っている.不利な条件のことを指す。

 しかし、ここで述べる.ハンディキャップとは、障害の積み重ねの頂点であり、人として.生きていくことの.すべての分野に立ちはだかる壁であり、溝であることを.指す。 つまり、聴覚障害者たちが.社会生活を送るとき、生じる.社会的不利なもの.を、ハンディキャップという。

 

 障害には、一次的障害、二次的障害、三次的障害の.3つの階層が.考えられる。

    疾患..一次的障害..二次的障害..三次的障害

          ↑   ↑   ↑   ↑   ↑   ↑

                障害

 

 上で示す.「疾患と障害の関係」のように、一次的障害である.インペアメント(機能・形態障害)は、二次的障害のディスアビリティ(能力障害)を.引き起こし、更に、三次的障害のハンディキャップ(社会的不利)につながる。

 すなわち、一次的障害は.身体機能の損失や欠如.を意味し、二次的障害は.一次的障害に起因する能力の不全や遅延.を、三次的障害は.一次的障害と.二次的障害の結果として.生じる.社会的な不利益や.不都合.を意味する区分である。

 

 これを、聴覚障害者の階層に.当てはめると、以下のことになる。

 

   @ 一次的障害.『インペアメント(機能・形態障害)』

    聴覚に.障害があること。 聴覚器の損傷を.さす。

    薬害、病気、事故など、様々な原因で.聞こえなくなる(聞こえにくくなる)。

   A 二次的障害.『ディスアビリティ(能力障害)』

    音声言語音声情報の取得の制限、発語発音の不明瞭などの.言語障害、言語力の遅滞、

    ことばの意味の特異理解と呼ばれる現象(例えば、砂遊びで、「ふるい(篩い)」をとるように

    いわれた聴覚障害児が、「それは“古い”ではなく“新しい”です」と返事したというような現象)

    などを.さす。

   B 三次的障害.『ハンディキャップ(社会的不利)』

    音声言語、音声情報を基幹とする.社会への適応困難を.さす。

      例..医師法や.薬剤師法における.欠格条項など

 

 

 一次的から.三次的障害のうち、ハンディキャップは、三次的障害に.当てはまる。

 聴覚障害者のハンディキャップは、様々にある。

 例えでいうと、言語的には、生まれつきの.聴覚障害者の場合は、音声言語の獲得が.困難になる。 これができないと.日常会話は.もちろん、生活に.必要な言語的やりとりができない。 また、言語獲得ができても、医療場面におけるコミュニケーションが.うまく通じないために、命取りになる場合さえある。 学校では、授業内容がわからず.お客様扱いにされる。 その他、テレビでは、ドラマやニュースの内容が.理解できず.情報不足になり、時としては.時代遅れになりやすい。

 

 聴覚障害のもたらす.ハンディキャップは、生活の全般に.わたっている。

 ここでは、「家族」.「子育て」.「地域」.「職場」.「病院」.「店」.の分野に.分けて.ふれてみたい。

   (米川明彦.『手話ということば』.より引用)

 

   ●.「家族」

    ・家族間での.コミュニケーションがとれないために、家族の一員として.一緒に考え、

    対応することが.難しく、疎外感を覚える。

    ・親は.手話を知らない場合が.多く、親とは.簡単な話しかできない。

   ●.「子育て」

    ・子どもの夜泣きが.わからない(聞こえない)。

    ・声が聞こえないため、子どもの訴えが.何かわからない。

    ・子どもが.幼稚園や保育所へ行くようになって、歌を覚えてきて.家で歌っても.わからない。

    ・兄弟喧嘩をしているとき、聞こえないので、どちらが悪いか.わからない。

   ●.「地域」

    ・地域の住民が.聴覚障害についての理解が.不十分なため、誤解を受けることがある。

    ・近所付き合いが.しにくい。

    ・情報が入らないため、不安になる。

     (※1999年9月30日に起きた.茨城県東海村原子力事故の際、緊急通報が.

       聴覚障害者に.直接伝わらず、危険を知らずに.外出してしまった例が.ある。)

   ●.「職場」

    ・職場で.上司の指示が.わからない。

    ・朝礼や.会議の内容が.わからない。

    ・筆談を求めても.簡単に書かれ、詳しい説明がない。

   ●.「病院」

    ・病院で.名前を呼ばれても.わからない。

    ・医者と.コミュニケーションが.とれない。

    ・医者が.聴覚障害者や.手話通訳者に対する.理解が不十分で、通訳を.拒否することが.

    ある。

    ・医者は.筆談で.大丈夫だと.ひとり合点する。

   ●.「店」

    ・銀行で.キャッシュカードを使って.不都合があったとき、インターフォンが使えない。

    ・店で.注文を聞かれても.わからない。

 

 このように、聴覚障害者のハンディキャップは、枚挙に.いとまがないほど.多くある。

 そのハンディキャップを補う方法として、やはり.コミュニケーション手段は.不可欠である。

 

 そのコミュニケーション方法とは、主に、補聴器の使用、手話、筆談、字幕など.である。

 

 次節では、それらのような.コミュニケーション手段の役割について.展開する。

 

第8節 「コミュニケーション手段の概要」

 人間が人間らしく.社会生活を営む上で、もっとも.大切なものは、コミュニケーションである。

 耳から入る情報の量は、「耳学問」という言葉が示すように、かなり.量が多い。 しかも、「しゃべる聞く」という情報のやりとりは.「見る」という方法より、肉体的にも.精神的にも.エネルギーが少なくてすむ。

 

 しかし、聴覚障害者は.耳が聞こえない。

 伝音系難聴の大部分や.突発性難聴は、手術によって.聴覚機能の回復することはできるが、感音性難聴や.老人性難聴などは、医学的に.回復することは.まったくといっていいほど.不可能に近い。

手術などでも.聴覚機能の回復ができない.ろう者は、コミュニケーションに.問題が生じる。

 また、一口に.聴覚障害といっても、先に説明したように、軽度から.高高度難聴まであり、また.聞こえ方も.千差万別である。 そして、コミュニケーション手段も、その人によっては.様々である。

 聴覚障害者のコミュニケーション手段は、大きく分けると.以下の3つの種類がある.と考えられる。

 

 一つ目は、「聴覚活用」のコミュニケーション手段である。

 これは、補聴器などを.装用することによって、外界の音を集積し、自分の耳へ.伝達することである。

 

 二つ目は、「視覚活用」のコミュニケーション手段である。

 これは、相手の口の形を読み取って理解する.読唇術や.手話、筆談などを.さす。

 

 三つ目は、「触覚活用」のコミュニケーション手段である。

 これは、指感知や.点字など、触覚を.頼りにしながら、コミュニケーションをとることである。

 しかし、聴覚障害者は、この触覚活用のコミュニケーションをとることは少ない。 ほとんどは、視覚障害者や.盲聾の障害者が.使用する。

 

 この3つの手段は、それぞれ.明確に.独立しているわけでない。 相互に.関連し合い、作用し合っている。

 また、聴覚障害者のコミュニケーション手段と.その利用数に関しては、以下の通り。

 聴覚障害者の.概ね.80..補聴器を使用

 約.20..筆談手話.など、視覚活用のコミュニケーションを.利用。

 触覚活用.のコミュニケーションをとっているのは、ほんの.0.1.にすぎない。

   .都合により、図表は、省略。

 

 聴覚障害者が.コミュニケーションをとるとき、頼りにしているのは、補聴器..視覚的言語.(筆談・手話・口話)である。

 

 補聴器だけを.頼りにしている.聴覚障害者もいれば、視覚的言語だけを.頼りにしている.聴覚障害者もいる。

 だが、滑らかなコミュニケーションをとるには、単独だけでなく.聴覚活用と.視覚活用の両方を.相互作用しながら.とるのが.最適である.と考えられる。

 それは、補聴器の装用だけで、コミュニケーションが.十分.とれるとは.かぎらない.からである。

 世間では、聴覚障害者が.補聴器を使用すれば、はっきりと.音が聞き取れるようになる.と思われがちだが、実は.違う

 聴覚障害者の聴力レベルによっては、補聴器の機能が.十分に.役立たない.場合もある。

 

 なお、補聴器の詳しい機能や.効果については、次節で.述べる。

 

第9節 「聴覚活用のコミュニケーション手段としての“補聴器”の実態」

 聴覚活用の典型は.補聴器.で、聴覚障害者の.80..使用している。

 

 聴覚障害者への.素朴な伝達の方法として、まず.考えられることは、話し手自身が.声を大きくすることである。 しかし、不自然に.大声を出し続けると、話し手も.苦しいし、周囲のほかの健聴者にとって.迷惑な場合がある。

 そのために、話し声を拡大して.聞く.個人用の装置、すなわち.補聴器が必要.とされる。

 

 補聴器の原理といえば、例えば、ふつう、健聴者は.公会堂などで.コンサートや.講演を聞くときは、当然のことながら.話し手と.聞き手の距離が離れるほど.聞き取りにくくなる。 そのために、マイクロホンで.話し手の音声をとらえ、電気的増幅処理により.拡大して.拡声器から.音を出し、この拡大された音声を聞いている。 補聴器も、基本的には.この原理に.かなっている。

 

 補聴器は、音声が聞こえる.ということの有用性から.考えれば、便利な.福祉的補助具である。

 だが、それは、世間的・一般的な人の考え方であり、実は、そうともはいえない。 聴覚障害者の一部では、補聴器を補えば.簡単に.言葉をとらえることはできない.ことも.ある。

 

 耳のそれぞれの故障と.補聴器との関連は、以下のようである。.(図表、省略)

 

 伝音系の故障.では、耳に入る音を、補聴器を使って.聞こえが悪くなった分だけ.大きくすれば、元と同じような状態で.音が聞こえる。

 

 一方、感音性難聴.では、テレビや.ラジオの本体が.故障して.音が.変に.ビリついたり、よくわからない音が出たり、あるいは.まったく.音が出なくなったりするのに似て.音声は聞こえるが、話の内容は理解できない状態となる。 つまり、音声は聞こえる(響いている)が、音声の中身内容は.まったく.わからず、言葉を聞き分けることは.困難.である。 従って、手話、口話、筆談などの.コミュニケーション手段の併用が.必要.となる。

 

 混合系.は、障害の部位が.伝音系に近い場合は、使い方次第で.補聴器の装用効果が.かなり上がる。

 障害の部位が.感音系に近い場合は、装用訓練を積んでも.補聴器だけでは.音を聞き分けることは困難で、やはり.視覚活用のコミュニケーションの併用が.必要.となる。

 

 老人性難聴.の場合は、内耳から脳までの間にある.感覚細胞が減少したために起こる.難聴である(聴神経と脳との老化)。 これは、感音性難聴が.大部分を占め、ふつう.高音部から障害が出てくるが、耳の中の.どの部位が.故障しているかによって.聞こえ方も.違うし、当然、補聴器を装用したときの効果には.差異がある。

 

 

 このように、補聴器の効果は.難聴の分類によって.様々に.異なる

 特に、感音性難聴の場合は、補聴器をかけても.効果は.すぐにはあがらないし、発声聞き取りなどの訓練が.必要になる.わけである。

 

 一般の人々は、眼鏡をかけると.よく見えるのと同じように、聴覚障害者が.補聴器をかければ.何でも聞こえる.と信じている。 それは、聴覚障害者が.補聴器をつければ.失われた聴力を.簡単に.取り戻せる.と理解している面が.多分に.ある。

 しかし、これは、大きな.思い違い.である。

 

 眼鏡と.補聴器の.基本的な違いを、小田恂(まこと).次のように.解説する。

   「眼鏡は、主として.屈折異常といって、視力低下によって.倍率が合わない人の場合に.

   眼鏡によって.矯正して.視力を向上させる.わけで、この場合でも.視力神経の働きが正常.

   という条件がつく。 これに.相当する聴覚障害が.伝音性難聴.で、音が伝わりにくくなった

   ための.難聴だから、補聴器で.音を拡大して.正常に近い聴力が.得られる

   感音性難聴.の耳では、音が神経に達しても.それを.分析する能力が落ちている.ので、

   補聴器の効果は、その神経の分析能力の差によって.さまざま。

   ことに.言葉は.いろいろな周波数の集合で.できているので、難聴の種類や.程度によっては、

   ある周波数の音が.特に.聞こえにくいということが.生じる。 つまり、言葉を識別する能力が

   人によって.異なるので、補聴器を装用しても、効果のある人と.ない人に.分かれる。」

     (岩渕紀雄.『自立への条件』.より.引用)

 

 感音性難聴者.にとって、補聴器は.ただ.音を拡大するための機器に.すぎない

 人の声や.テレビの音声、音楽などは.聞こえるけど、言葉を識別することは.その人によって.様々に.異なる。

 補聴器の効果は、伝音性難聴..聴力が.少しでも残っている(残存聴力)難聴者..補聴器の使い方次第で、ハンディキャップを補う.ことができる。

 

 感音性難聴者.の場合は、補聴器によっても.ハンディキャップを解決することができない.のならば、残る解決方法は、視覚的コミュニケーションか、発声聞き取りの訓練に.頼るしかない.というのが.現状.である。

 

第10節 「視覚的コミュニケーション手段 ・・・ @.筆談」

 補聴器だけでは.聞き取れない言葉を.目に見える形にする方法として、視覚的コミュニケーションがある。

 その手段は、手段の多い順に.あげると、筆談、手話、口話(読唇術).がある。

 

 筆談.は、聴覚障害者の.「聞きたい」.「聞こえたい」.という.切実な希求を満たす.視覚活用の方法である。

 これは、ノートや.メモ帳などに.文字を書き、それを相手に見せ、言葉を伝達する方法である。 つまり、「書くと.聞こえる」.ということで.コミュニケーションの機能を果たしている。

 

 筆談は、一対一のときは.メモ程度の筆談でも.間に合うが、大勢の人とのコミュニケーションのときは、膨大な筆記量があふれ、効率が悪くなる。

 そのためには、OHP.(オーバーヘッド・プロジェクター)という手段をとることがある。

 OHPとは、話し手の内容を.筆記通訳者がシートに書き写し、それを.会場に備えたスクリーンに映写し、即時に.多くの人に.情報として伝える装置である。 これは、講演や.会議の議事進行状況を伝えるときに使われる。

 

 最近では、大学で.ノートティク.という筆記手段が増えている。

 大学というのは、高校までと違って.講師が黒板を書きながら授業を進めることは.あまりない。 むしろ、板書きより.講師のマイクによる音声話で.授業が進むことが.多い

 そのため、聴覚障害学生が.大学の講義の内容を理解できず、お客様扱いされることが.多い。 そのハンディキャップを補うものとして、ノートティク制度の導入を.各大学で取り入れている。

 ノートティクとは、その名前通りに、聴覚障害学生のノートを作っていくことであり、ノートティカー(ノートに書く人)が.講師の話を要約して.ノートに書きながら、講師の音声言語を.文字に変えて.聴覚障害学生に伝える.通訳方法の一つである。

 

 このように、発言者の音声言語を.文字に変えて伝える「筆談」(筆記通訳・要約筆記)の方法は、話し手の言葉に.忠実であり、細かい内容まで.伝え合える点では、長所がある。 特に、手話と.指文字のできない中途失聴老人性難聴者らにとっては、不可欠なコミュニケーション手段.になっている。

 だが、筆談の問題点は、聴覚障害者側からみると、書く.スピードが遅い、発言の流れが.つかみにくい、崩し文字が.読みにくい、書き手の実力の問題などが.ある。 また、書き手側からにすると、OHPなどの備品の準備作業、話し手の音声言語を要約して.筆記することへの.体力的精神的な負担.がある。

長所も.短所も.ある.筆談だが、聴覚障害者の.14.にあたる.84万人..この手段を活用している.と推定される。 それは、手話活用の5%に比べ、はるかに.多くの人が使っている

   .※14%.・・・.40dB以上の聴覚障害者(推定600万人)を.対象に推計したため、

           手話のできない中途失聴や.老人性難聴らが.筆談手段を活用していることが

           非常に多い。 そのため、手話活用は.5%にすぎない。)

 

第11節 「視覚的コミュニケーション手段 ・・・ A.口話」

 「口話」とは、口の動きを見ながら.話や.言葉を読み取ったり、自分でも.声を出して.コミュニケーションする方法である。 口の動きや.形を見て.話をする点から、「読唇」.または「読話」とも.いわれる。

 

 口話の特徴は、道具の必要がなく、口の動きを見ていさえすれば.話が読み取れるということでは、手軽な方法である。

 しかし、長い間、口の動きを見続けることは.苦痛であり、せいぜい10分間が.限度である。 また、話し手の口元が見えなければ.役立たない。 距離や.位置や.明るさの制約は、手話よりも.大きい。

 

 聴覚障害者は、ただ単に.口の形「a」・「i」・「u」・「e」・「o」を読み取り話し手の表情雰囲気文脈.などを.総合的にとらえ、話し手の言葉を理解.する。

 しかし、「タマゴ」.「タバコ」.「ナマコ」.などのように、口の形が似ていても.内容が異なる言葉などは、読み取りにくい.し、間違いやすい。

 他に、口の動きが小さい.「救急」.「意志」.などの読み取りにくい言葉が.多く.存在するため、コミュニケーションのすれ違いが生じ、トラブルを起こす.こともある。

 

第12節 「視覚的コミュニケーション手段 ・・・ B.手話」

 「手話」とは、手や.表情、上体の動きなどを用いて.言葉を伝えるコミュニケーション方法である。

 

 手話の中には、一般的に知られている「手話単語」や、五十音に対応した「指文字」、人称を表す「指差し」、うなずきや.眉毛の上げ下げといった「非手指動作」などがある。

 そして、それらが.一定の文法規則に基づいて.組み合わせ、相手へ.内容を伝達するようになっている。

 

 さて、次節では、様々に.誤解されているようである.手話について、詳しく.説明していきたい。

 

第13節 「手話の特徴 ・・・ @.世界共通語ではない」

 「手話」の特徴は、第一に、手話は.世界共通語ではない.ことである。

 これは、手話を.ジェスチャーやパ.ントマイムのように考えているところに起因し、それなら.どこの国でも通じる.という.誤解のことである。

 

 例えば、日本の手話で.「男」.「女」.と表すとき、男は.親指を立てる形を、女は.小指を立てる形で.表す。 それは、ジェスチャーから取り入れたものであり、国民誰でもなら.わかる。

 しかし、外国では.そのような手話(ジェスチャー)では、通じない。 世界の多くの国では、親指を立てるジェスチャーは.「良し」.「OK」.という意味である。 また、小指を立てるジェスチャーは.欧米では見られず、シンガポールでは.「一番あと」.の意味であり、中国香港などでは.「悪い」.という意味である。 中国の手話でも.「悪い」.の意味である。 タイのジェスチャーでは.「友情」.の意味であり、インドのジェスチャーでは.「トイレへ行きたい」.の意味である。

 

 では、各国の手話で.「男」.「女」..どう表すか。

 アメリカの手話では.ハットのつばで.「男」を、パキスタンの手話では.ヒゲで.「男」を.表す。

 台湾の手話では.イヤリングで.「女」を、アメリカの手話では.帽子のヒモで.「女」を表す。

 

 また、日本の手話で.「虹」を表すとき、「七」を意味する.手の形で.アーチを描くようにして.表す。 「七色の虹」ということから.作られた手話である。

 虹が.七色ということは.世界共通の認識か.というと、それは.違う。 英語文化圏の人は、虹は.「六色」.という。 ドイツ語文化圏の人は、虹を.「五色」.という。

 

 このように、手話は、世界共通語ではない。

 手話は、その国の伝統文化のなかから.取り入れた.ものが多く、地域文化が違えば、当然、手話も.異なった.ものとなる。

 

第14節 「手話の特徴 ・・・ A.音声言語とは別の体系をもった言語」

 手話の特徴の第二に、手話は、音声言語(人の言葉)とは.別の体系をもった言語.である。

 これは、手話が.音声言語を手に.置き換えたものにすぎない.という誤解のことである。 日本の手話は、日本語とは.別の言語体系をもった言語である。

 

 例えば、『雨』.という手話は、「雨」.「雨が降る」.を表す。 『雪』.の手話は、「雪」.「雪が降る」.を表す。

 手話には、日本語の.『〜が降る』.に相当する単語はない。 また、手話は.日本語のように、「雨」.「が」.「降る」.のように.三つの単語から.なるのではなく、一手話単語で.「雨が降る」.と表すことが.できる

 現象世界が.「雨」.「が」.「降る」..三つに.区切られて.目に見えるのではなく、「雨が降る」.という.一つの連続体として見えるだけである.のと同様に、手話も.一表現である。

 また、日本の手話には、助詞(「は・を・に・が」).助動詞(「である」「でしょう」「でした」).ない

 格関係は、運動方向や.体の向き、指差しなどで.表される。

 受動形は.多くの場合、能動形の逆方向の運動によって.表される。 例えば、「叱る」..「叱られる」..逆方向の運動である。

 

 このように、手話は.音声言語とは.別の体系をもった言語である。

 

第15節 「手話の構造 ・・・ @.音韻論」

 手話は、一般に.どのような構造をなしているのであろうか。

 

 まず、手話の単語を取り上げて.みてみる。

 日本手話で.「思う」.は、人差し指の指先を.頭に接触させて表す(手話の単語を.日本語で表記するが、日本語の意味と.必ずしも.一致しているわけでない)

 手話は、手の動き全体で(ジェスチャーのように).その意味を表していて、音声語のように.要素に分析できないように見えるかもしれない。

 しかしながら、実際は、手話も.音声言語と.同様の下位の分析レベル(音韻レベル:手話では.音を使わないが、音声言語の音韻論と.同じ分析レベルという意味で.「音韻」.という用語を用いている)が存在する。

 

 手話の単語は.三つの.音韻的な要素からなる.と考えられている。

 手の形(手形)、手の位置、手の運動.である。

 

 「思う」は、人差し指を伸ばした手の形(G手型という)、頭の位置、そして.接触という運動からなる。

 そのうちの一つでも.要素が変わると、別の意味を担う語となる。

 例えば、位置が.頬に変わると、「うそ.〔音韻的要素:人差し指、頬、接触〕、

人差し指をねじるように.回転させると、「考える.〔音韻的要素:人差し指、頭、ねじる〕、

「うそ」の手型に.中指が付け加わると、「.〔音韻的要素:人差し指と中指、頬、接触〕と.なる。

 

 このように、手話の単語は、音声言語同様に、限られた要素の組み合わせにより.生産的に.構成されている。

    (小林春美佐々木正人〈編〉『子どもたちの言語獲得』より引用、一部改筆)

 

第16節 「手話の構造 ・・・ A.形態論」

 手話は.また、語形が.豊富に変化する。

 

 例えば、「渡す.という動詞は、手のひらを.上方に向け、手前から前方に動かすことにより.作られるが、運動を.小刻みに繰り返すことにより、「渡し続ける.という意味になったり、前方への運動の後、更に.側法に.弧を描くことにより、「みんなに.いっせいに.渡す」という意味になる(※アスペクトを表す語形変化)

 また、手の運動の起点と終点を.逆に、すなわち、前方の位置から手前へ..変化させることにより.あなたが.私に渡す.という意味に、前方の位置から側方に動かすと.あなたが.彼(彼女)に渡す.という意味になる。 運動の起点と終点が.動詞.「渡す」.の主語と.目的語を示している(一致を表す語形変化)

 

 手型も.様々に.変化する。

 「渡す」.の基本型は.指を閉じ.伸展させた手の形(B手型という)を用いるが、薄いもの(例えば、本)を渡す場合には、O手型(親指と.他指の先端を接触)に変わる。

 また、細長いもの(例えば、棒)を渡す場合には、S手型(手を握った形)に.変化する。

 というように、渡されるモノの性質(薄っぺらいもの、細長いものなど)によって.手型が変化する(このような手型を.「類辞」(classifier.と呼ぶ。 日本語でも.1枚や1本などの助数詞が.同じ働きをしている)。

 

 ここで.重要なことは、手の形が.扱うモノによって.連続的(アナログ的)に.変化するのではなく、きわめて.少数の手型に.限られていることである。 パントマイムのように.現実を.そのまま.模写しているのではない。

    (小林春美佐々木正人〈編〉『子どもたちの言語獲得』より引用、一部改筆)

 

第17節 「手話の構造 ・・・ B.統語論」

 手話は、手や.指のみで.構成されているのではない。

 表情や.体の向き、口型も.使用される.(これらを.まとめて、「非手指要素」(non-manual signal)という)。

 これらは、文を構成する上で.重要な役割を担っている。

 

 例えば、眉を上げる動作が付加されることにより、その文が.疑問文であることを示したり.(文例1)、「PA」という口型を.動詞につけることにより、動作の完了を表したりする.(文例2)

 

 〈.文例1.〉 あなた 本 買う.(眉上げ)  ⇒.「あなたは.本を買いますか?」

            

 〈.文例2.〉 自転車 壊す.(PA) 私  ⇒.「私は.自転車を壊した」

 

    (小林春美佐々木正人〈編〉『子どもたちの言語獲得』より引用、一部改筆)

 

第18節 「手話の構造 ・・・ C.階層論」

 手話の構造の特徴を.挙げると、まず.空間的.である。

 手の運動や.位置により.文法的なカテゴリーが表示.される。

 

 また、同時的.でも.ある。

 手型、運動、位置を.同時的に結合して.語を作ったり、手の動きに.表情を重ね合わせて.文の種類を表している。

 

 このように、手話には、独自的な構造の特徴.をもっている。

 

    (小林春美佐々木正人〈編〉『子どもたちの言語獲得』より引用、一部改筆)

 

第19節 「手話の長所短所」

 手話には、長所と.短所が.ある。

 簡単に分けて.示しておくと、次のようである。

 

 ●.「長所」

  ・手話は.口話よりわかりやすい。

  ・窓越し、騒音の中でも.手話があれば、視覚上のコミュニケーションがとれる。

 ●.「短所」

  ・政治、経済、裁判、医療、科学などの専門分野における.専門用語対応の手話単語が少ない。

  単語が見当たらない場合は、指文字で.一音ずつ.表す。

  ・現代のような情報社会では、新しい言葉が.次々と.出てくるが、それに.対応する手話ができる

  までには.時間を要する。(例:IT、ユーロ.など)

 

 このように、手話は.長所も.短所も.ある。

 聴覚障害者にとって、手話は.口話よりは.わかりやすいし、精神的・肉体的な負担が少ない

 また、街で.手話を使っている聴覚障害者をみかけると、仲間意識が芽生える。 仲間意識とは、「あの人も.私と同じ.聴覚障害者なんだ」という気持ちである。

 街や駅などで.多くの健聴者が賑わっているなかで、聴覚障害者一人では.手話は使えない。 聴覚障害者が複数いて、互いに.手話で語り合う.というのは、自分のほかにも.聴覚障害者がいる.という.安心感を与えてくれる

 口話や.筆談という手段も.あるが、やはり.手話の方が、聴覚障害者の自然的なことば.というイメージが強い.し、ろうの文化は.手話によって.生まれ培ってきた.という事実も.ある。

 

 それは、小島茂樹の言葉を.借りると、

  「逆説になるが、人間が.世の中に.ただ一人しか存在しなければ、言葉は.成立しなかった

  で.あろう」。

 

 言葉は、人間が.各々の意思を伝え合うために.作られたものである。

 当然、世の中に.聴覚障害者が二人以上いて.補聴器もなかった時代では、身振り(ジェスチャー)など.何らかの形で、手話的なコミュニケーション方法が存在していた.と考えられる。

 「音声言語」が.健聴者の言葉ならば、「視覚言語」(身振り、手話、指文字)は、聴覚障害者(特にろう者)の言葉である。

 

 まさに、手話は、聴覚障害者にとって.かけがえのないコミュニケーション手段.である。

 そして.近年では、国際国家が、手話を.「聴覚障害者の第一言語」.として.認められる傾向に.なりつつある。

 

第20節 「手話を.否定的”.に捉える.聴覚障害者たち」

 手話は、聴覚障害者のコミュニケーションの中心である.というイメージが強いが、実際には、手話を知らない.聴覚障害者が.過半数以上.多い

 その理由は、以下の.2つがある.と考えられる。

 

 一つ目は、聴覚障害者の.70..老人性難聴.といわれている(高齢化社会)。

 高年齢になってから.耳が不自由になった人々にとって、手話は.学びにくい状況.である。 どちらかをいうと、手話を学ぶより、補聴器をつけ、相手の声を拡大して.聞き取るようにした方が、体力精神的に.楽である。

 

 二つ目は、中途失聴者.にとっても、手話は.なかなか.馴染めにくい

 中途失聴者というのは、失聴する前、まだ.健聴者として.社会生活を営んできた経過をもつ人々である。

 それが、突然の失聴で、そのショックは大きく、障害という事実の受容が.なかなか.できにくい

 そのため、これまでの音声言語に固執し、手話・指文字を覚えようという.積極的な生き方には.進みにくい。

 

 手話は、老人性難聴者や.中途失聴者にとって、敬遠されがちな.コミュニケーションである。

 

 

 さらに、ろう教育.のなかでは、聴覚障害学生が.手話で.コミュニケーションとることは.禁止.されている。

 手話は、聴覚障害者にとって.心の安らぎとなるコミュニケーションとなる.はずである。 しかも、聴覚障害者のハンディキャップを補うことができる手段である.ことは、前で.述べた通りである。

 

 重度の難聴をもった子どもでも、手話を使うことは.否定されているような.ろう教育の思惑とは何であるか。

 それは、ろう教育の.主な方針は、健聴者を.モデルとした教育.としていたからである。

 徹底的な.発音の練習、聞き取り読話の練習などを通して、日本語の獲得を目指し、聴覚障害学生を.健聴者のように近付いてもらう、という考え方が、多くの聾学校には.あった。

 自ら.障害を克服し、偏見や.差別にさらされる社会に対応できるためには、このような口話主義教育こそが.重要だ.と考える教師は.多数いた。 そのため、ろう教育の中では、手話は.排他的にされた。

 

 そして、このような教育を受けた.聴覚障害学生たちは、それが正しいことだ.と勘違いするようになり、手話を.否定的にする者は.少なくはなかった

 

 参考文献

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