| 創作小説@長編 | オリジナル学園物 | 二次小説 | 海老 | 落書き置き場 1 2 | 日記 | チャット | リンク |
| 適当更新小説@期待しちゃ駄目よ? |
|
第二十二話 Ignition 朝。雀が囀り、ニワトリが高らかに鳴く時間帯である。 早朝である。人影かまばらなのは当たり前の話だが、その場所だけは違っていた。 星海学園から差ほど離れてはいないが県境をまたいでいるため、一応は他県である。 そこはヴァルハラ学園と言う名の学校であり、フェイトが通っていた学校である。 敷地は広く、校舎は四つある。 校門から見えるのが職員室と、化学や物理、錬金術と言った教科の専用の実験室が入っている特別棟で、その校舎から渡り廊下を渡ると三年生の教室があり、校門から一番遠い場所に一年の教室がある。 校舎から少し離れた場所には学食があり、朝から使用可能と言う有り難い場所なのだ。 主な理由――この理由が一番の理由なのだが――は、早朝練習を行った各運動部の空腹を満たすためである。 特にバスケ部は全国クラスの実力で、ほぼ毎年インターハイに出場している。 そのため朝練も毎日あり、朝練が終われば部員達は汗を流した後、最初に向かうのが学食である。 空腹を主張する胃を満たすために朝から御飯三杯は軽く食べるためか、学食の維持だけでかなりの資金が必要になっているらしい。 そんな食堂から差ほど離れていないグランドに面した程近くに部室棟があり、校舎とまではいかないがそれなりの大きさの建物だ。 サッカーや野球を始めとした各運動部の部室はこの部室棟にあり、着替えも主にこの部室で行っている。 部室棟のすぐ近くには、剣道。空手。柔道を始めとした武道の練習場があり、その隣に大きな体育館がある。 その体育館には熱気に包まれていた。 聞こえてくるのは、バスケと言うスポーツでの特有の音だ。 バッシュが床と摩擦し、キュッと言う音をたて、ボールがバウンドする音が常に響いている。 紅白戦を行っているのか、白のユニフォームと赤のユニフォームに別れている。 審判は口にホイッスルをくわえながら、試合の流れを見ている。 その周囲。恐らくは一年生なのだろう、手を頭上に掲げながら走っている。 一年の教育係なのか、青い長髪の少年が声を上げた。 「手ぇ下がってんぞ!声も小いぇ!」 青い髪の少年……カシェルの怒号にも似た声に、一年達は声を上げた。 絶叫と言うには声が小さく、明らかに体力が尽きかけている様にしか見えない。 基礎は技術を身につけるのと同時に、スタミナをつけるために行われている。 新一年生は、中学の頃には近隣の中学校ではスタメンだったようだが、ヴァルハラのバスケ部の門を叩き現実を思い知らされる。 ヴァルハラ学園……過去には全国大会決勝まで進むこともあったが惜敗し、未だ全国の頂点に立ったことは無い。 全国制覇と言う目標は果てしなく遠い事を、彼等は知っていた。 勉強の用にすればする程、報われるモノではなく、ほんの一握りが報われる世界。 毎日厳しい練習を続けたとしても、インターハイへ出場した学校が翌年には予選で敗退すると言う話も珍しいものでは無いし、全国大会で一回戦負けと言う現実もある。 体育館内の熱気はいつもの事だが、一人だけ周囲の部員とは違いどこか気が入ってない者がいた。 金髪の生徒で紅白戦を行っているのにも関わらず、意識が他の事にとられているように見える。 その結果。彼はらしからぬミスをしていた。 目を当てられないようなミスであり、結果としてレギュラーから控えのメンバーとなってしまっていた。 名はルシオ。フェイトのライバルであり親友でもある少年だ。 同じPGであり、鎬を削りあった。共に練習をし、時にはNBAの試合をテレビでみたり、プレイの内容を議論したりと、共に高みを目指していた。 けれど、フェイトはバスケどころか学校自体も辞めて、転校していた。 近隣の星海学園へと転校し、バスケとは無縁の生活を送っていると、ついこの間聞いたのだ。 無気力になってしまったわけではない。彼が愛したバスケを辞めなければならなくなった理由を知り、彼の慟哭を知ったからだ。 無理強いする事も出来ず、ただ自分の置かれている状況を考えてしまった。 「どうしたの、ルシオ?」 「プラチナか……あの変態ロリコンストーカー教師の件は大丈夫なのか?」 「あぁ。それならば、アーリィに言っておいた。今頃はアーリィの折檻を受けている所だろう」 「……レザードの話になると性格変わるな」 「そうかなぁ?」 この話を聞いていた周囲の部員は何も言わなかった。否、いえなかった。 ルシオは体育館を出ると校門へと向かう。 レギュラー落ちし、ベンチからも落とされた彼は練習をしても身が入らず、モヤモヤとした思いを抱きながら走り続けているのだ。 理由は分かりきった事だ。フェイトが辞めた理由を知った。それ以上になにがあろうか。 校門から外に出ると、先ほどの練習で乱れていた息を整えるのもそこそこに走り出した。 プラチナは手にストップウォッチを持っており、一週ごとのタイムを計るようだ。 軽い屈伸運動の後、ルシオは走り出した。 悩みを抱え、どうすればフェイトと戦えるのかを考えながら、ただただ真っ直ぐに走り出す。 思い悩み、それをどう解決すればいいのか、若い頃には誰もが思い悩むだろう。 それから逃げるのか、それを超えて行くのかは……本人が決める事である。 誰かが何かを言ったところで解決するわけでもなく、フェイトがまたバスケを始めると言うことも、ソレと同じなのだ。 ルシオがなにを言おうと、彼の意志は彼が決める事。だからこそ、ルシオは悩んでいるのである。 答えなど既に出ているのだ。フェイトの意志以外がそれを解決する事は、決してありえないのだから。 ◇ 夏が近づいている。GWを過ぎて近隣高校による交流試合を終えて早二週間。 梅雨独特のじめじめとした空気が漂い始め、空は今にも振り出しそうな雨を蓄えた曇り空が広がっている。 そんな空の下をアルベルは走っていた。 軽いランニング程度で流しているが、流している汗は尋常では無い量に見える。 ジャージの下に着ている換気性の高いシャツさえも汗で濡らし、ジャージも僅かながら濡れ始めている。 星海学園の外周を走る事1時間。一周するだけで2km近くは走る為、既に10km近くは走っている事になる。 2kmとあるが、学校の敷地全てを含めた場合である。一応はエスカレーター式の学校である為、大学、高校、中学、小学の校舎を併せての面積である。 校舎ごとの敷地の外周は約700〜800m前後、と言った所が正確な数字だ。 高等部の正門の前で止まると、そのまま倒れこんで仰向けになった。 どんよりとした曇り空。文化祭も近いが、それ以上に体育会系クラブ……主に夏を本番とする部活に限るが……にとって、これ以上にない祭典が近づいている。 全国高校競技大会。 俗に言うインターハイと言うモノで、全国大会と言えば分かりやすいだろう。 野球部や陸上部のみならず、様々な部活が全国の頂点を目指して練習に励んでいる。 バスケ部にとっては、最大の大会と言っていい。 バスケットボールを始めてから早6年。 ろくでもない人生ともいえるが、それでも青春を費やしてきた。 夏が近づくたびに高揚しながら夢想を描く時もある。 今年こそは、と。 そんな夢想ともいえる考えを抱きながら、地区予選突破もままならない状況にあり、歯がゆい思いをしてきた。 可能性としてはそれほど低くは無いが、選手層の薄さが致命的とも言え、それを解消する手段も無い。 冷酷な現実と言えばいいか、目標が高すぎるゆえか、情熱も冷めつつあった。 そんな時に起したのが、今年に入ってすぐに起した暴力沙汰で、無期停学をくらって家に篭っていた。 バスケをやめようと、さえも思っていた。 だがそれさえも、六年と言う長い生活サイクルの一つとなっていたためか、早朝のジョギングもやめることも出来なかった。 停学が解けて学校に登校してみれば見覚えのある顔があり、声をかけていた。 思い出しただけでも腹立たしいらしく、舌打ちをしていた。 苛立ちを募らせ、街で喧嘩を売ってきた三名を叩きのめすが、それでも苛立ちは消えはしない。 結局は彼……フェイトがバスケを辞めた理由も知らぬまま、半月が過ぎていった。 喧嘩を吹っかけはしなかったが、1ON1の勝負を吹っかけたが条件をつけられ、クレアを初めとした面子に付きっ切りで勉強を教えられて提示した点数にギリギリで届かなかった。 悔しさは当然生まれ、消えかけていた情熱に再び火が灯る。 再び燃え出した情熱は、彼を更に馬鹿にさせていた。 バスケ馬鹿に。 アルベルは面白くも無い授業に顔を出し、舟をこぎながら授業が終わるのを待っている。 他の生徒は教壇に立つ教諭の話を聞き、黒板に書かれている文字をノートに写していたりする。 その中で、アルベルのように睡魔と闘う生徒もちらほらと居り、中には幸せそうな寝顔を見せている生徒もいた。 授業は科学。クリフが教壇に立ち、力学か何かの話をしている。 彼の教育方針はある意味、放置。と言っていい。 話を聞いていなかったものは、あとのテストで阿鼻叫喚の地獄を味わう事になる。 と、チャイムが鳴り響き、クリフは教科書を閉じ、出席簿を持つと足早に教室を後にした。 クリフが出るよりも早く、教室は喧騒に包まれる。 生徒達は自販機までジュースを買いに行く者や、早弁を行う生徒もいる中で、アルベルは眠っていた。 スゥスゥと寝息を立てながら、休み時間を睡眠に費やしているのを見ると、疲れが溜まっているのだろう。 周囲の生徒はアルベルに話かけようとはしていないが、数人の女子生徒がアルベルの寝顔を携帯のカメラで撮影している。 隠れアルベルファン、と言う所なのだろう、女子生徒は写真を保存すると本体のメモリーからminiSDへと画像を移動しながらその場を去っていった。 春の陽気に誘われているのだろうか、アルベルは珍しい事に涎を少しだけ垂らし、眠り続ける。 全くの余談ではあるが、この時のアルベルの寝顔は高値でファンの間で取引されたとかされなかったとか。 時は瞬く間に過ぎて往き、放課の時間が訪れる。 帰宅部の生徒は足早に学校を去っていき、バイトに精を出す生徒もいれば、ゲームセンターで遊ぶ生徒もいる。 誰もいなくなった教室で、アルベルは目を覚ました。 ボーっとした顔で教室を見渡した後、時計を見る。 時間は既に4時を指しており、授業が終わってから30分以上は過ぎており、教室にはアルベルだけしか居ない。 机を見てみると、枕代わりに使っていたタオルには大きな涎の後があり、口元をてで拭うと大きな欠伸を一つ。 席を立ち、鞄を担ぐと教室を後にした。 向かう先はもちろん体育館。かかとを踏み潰した上履きが、リノリウムの廊下を叩く音が響く。 その響きは下駄の様な小気味良いおとではなく、ペタペタ、とサンダルの様な音が耳につく。 階段を下りていき、体育館へと向かって歩く途中、D組にいるフェイトが気になったが、あの1ON1を行った際の約束を違えるわけにはいかず、アルベルはその思考を切り捨てて体育館へと急ぐ。 体育館に入ると、バレー部と卓球部が体育館を占領しており、アルベルは体育館の使用できる日を思い出し、携帯を取り出して日付を確認する。 火曜日の表示があり、アルベルは舌打ちをすると体育館を後にした。 体育館が使えないなら今日はトレーニングがメインになり、アルベルにとっては意味の無い行動と言える。 実力をつけるならば、40分をフルに走り回れる体力と瞬発力を持続させる為に、試合形式で部活を行った方が効率的といえる。 武道において、過去は実戦形式の組み手を行い、戦う為に使う筋肉を鍛え上げていった。 だが、この方法は極めて危険、と言うよりも修行を行っている本人の身体を壊す危険性が高く、100人の弟子がいれば数人残れば良い方だと言う。 もっとも、バスケと言うスポーツと武道を一緒にしては元も子もないのだが。 「なにやってんだ、アルベル?」 体育館から下駄箱に移動し、靴を履き替えようとした所で声をかけられ、振り返る。 そこにいたのは半そでにジャージを穿いたクリフの姿があり、その後ろを歩いて行くバスケ部員の姿もある。 アルベルは鞄を提げたまま、何も応えない。沈黙が二人の間に訪れ、部員達の視線がアルベルたちへと注がれる。 体育館内はバレー部の掛け声と、卓球部のラリーの音が聞こえるだけだ。 クリフの問いかけに、アルベルは何も応えずに背中を向けて歩き出した。 話す事は無い、と言う意思表示。クリフは苦笑しながら、その背中を見つめると何かに納得したように頷いて、鼻歌を歌いながら歩き出した。 まだ日は高い。アルベルは上履き代わりのサンダルから、履き古したバッシュに履き替えて校門からでていく。 向かう先は決まっていた。いつも練習をしている公園へと向かっているのだ。 シャツを鞄の中へとつっこみ、下に着ていたタンクトップのシャツ一枚になると、鞄を提げたまま軽いランニングで公園へと走り出した。 その後ろ。アルベルがライバル視しているフェイトは、大きな欠伸をして寝ぼけ眼を擦りながら、校門を出た。 靴はアルベルと同じ履き古したバッシュで、リュックを背負っている。 校門を出てすぐ真正面。遠くなっていく背中を見て、フェイトは眉を細める。 小さくなっていくアルベルの背中を見つめ、フェイトはなんともいえない表情をしていた。 その表情は嫉妬にも似た羨みの感情。無意識のうちに、フェイトは右足のスラックスを握り締めていた。 強く。血がにじみ出そうなほど強く握りこんでいたが、それは金髪の男に止められた。 フェイトは意識を取り戻した様に周囲を見渡し、握りこんでいた手の手首をクリフが握っていたのに気付き、フェイトは表情を和らげる。 「どうした……なんかあったのか?」 「なんでもない……」 「そうか。ま、血は出てねぇようだが……苛立ちと言うよりも嫉妬だな」 「うるさい……」 小さく、不満を顕にしたフェイトは背を向けて歩き出した。 校門を出て遠ざかって行く背中を見つめながら、クリフは大きく伸びをする。 伸びと同時に大きく口を開けて、欠伸を一つ。ついでに空を見ると、日が紅くなり始めている。 今日は体育館が使えないので外での練習が主になるため、現在部員は学校の外周を走らせているのだが、何人もの部員が並んでいた。 ほぼエスカレーター式のこの学校の外周は長い。一周するだけで2km近くはある。 それを二人一組で一人五周と言うリレー方式のあくびと伸びを終えたクリフが振り返ると、先頭集団らしき部員達の姿が見えた。 先頭は副部長のスティングと女子の部長であるクレアと副部長のネルの三人。 続いてソロン、リーベル、アストールと続いている。 「……アルベルを何とかしねぇといけねぇか?」 だんだんと近づいてくる教え子達を見つつ、クリフは呟いた。 クレア達はその場に立ったまま動かず、手首や首筋に指先を当てている。 どやら脈を図っているらしく、5分毎の脈拍を計測して体力の回復速度を計っているのだ。 バスケとはダッシュ&ストップの連続である。故に、体力の回復は重要な要素を締める。 30秒ルールによるボール所持の制限以内にゴールを決めなければ得点にならず、その為に速攻、カウンターと言った全力疾走は必要となってくる。 中にはラッシュ&ガンと言う、攻めに攻める戦術を選択する高校もある。 また、全国クラスと成ると、メンバーチェンジはどのチームでもする事だが、中核となる選手は20分を走り回る選手はざらである。 クリフは嘗ての経験から、そういった回復速度が絶対的に足りないと考え、現在ではリレー方式で学校の外周を走らせているのだ。 一周するのに早くても1分弱。二人一組で交互には知らせて一人五周を走って終了となるのだが、これは直に理解できると思うがかなりのきつさだ。 そもそも長距離を走る場合は一度も止まる事無く走りぬく、と言うのがポイントになる。 しかし、コレは一周をすれば次の走者にバトンタッチし、その走者が帰ってくるまでにある程度息を整えなければならないのだ。 こういった体力回復が重要な競技はいくつもあり、テニスやバドミントンがその典型である。 バスケには関係ないとも言えるだろうが、それでもインターバルの二分間の間に体力の回復はしなければならないのは確かな事で、早いに越した事は無い。 バスケに関係ないとも言える事も取り込むことで、全体的なレベルアップを計っているのだが未だに成果があると断言できないのは、彼自身正しいと思っていないからだ。 しかし、バスケを初めとしたスポーツは練習に練習を重ね、試合に勝利する事で成果を得ると言える。 クリフが教師になって10年近くが経過し、監督になったのは3年前の事だ。 それまでは膝を痛めた事によって断念したバスケと言うモノを避けている節があったが、彼を再びバスケに関わらせたのはアルベルである。 彼の熱意、情熱、執念と言った感情を内包したモノに感化され、気付けばバスケ部の顧問兼監督を務めていた。 ミラージュはただ苦笑し、出来る限りのサポートをするといった。 腐れ縁ともいえるランカーも同じ事を言った。だから、クリフは監督となり、今の三年生とともにここまで来た。 再起が出来るとは思って居ない。栄光など、既に過去の事だ。 強豪は強豪であるが、それでもいずれは弱体していき、新たな強豪が生まれてくる。そういったものなのだ。 十年以上前では、星海学園はそうだった。けれど、それは既に遠い過去の様に思えてくる。 膝を壊すまでは星海学園のバスケ部の中心となり、全国大会を目指して練習に明け暮れた。 全国まで駒を進め、決勝に至るまでに負けてしまいそれ以後は、全国どころか予選突破もままなら無いほど弱体化していった。 漸く、復活の兆しが見え始めてきた。 アルベルとフェイトの存在が、起爆剤になればと思う反面、クリフはフェイトの足の事を考えればその判断は間違っていると言える。 足を手術して完治した。と言うものの、バスケのようなスポーツをするには幾許かの不安が残るのだが、ここ最近のプレーを見ると嘗てのキレが戻っている、そんな気がするのだ。 再起不能とまで思われたあの傷を克服し、新たな目を手に入れようとしている。 見えていた片鱗だったが、確実にその目を大きく成長させていた。 「監督ー?」 「ん? あぁ、どうした?」 「いえ、言われた事を終わったんですけど……?」 「そうか。なら、今日はフルで使えるから紅白試合を男女混合でして、それで終わりにするか」 「え? なんで、女子と混ざって試合をするんッスか?」 「女子には女子の長所があって男子には男子の長所がある、その逆もあるからな。現に、3Pシューターの成功率は両手の女子の方が成功率は高いだろ?」 「そういわれてみれば……確かに」 「んな事より、さっさと紅白試合をして来い。俺は用事ができたから、帰るわ。ミラージュかランカーにきてもらっとけよ」 ソレだけを告げると、クリフは歩いていった。 あっけにとられた、と言うべきなのだろう、一瞬の呆然の後クレアは苦笑しながら職員室へと向かうのだった。 ◇ フェイトは家路を歩きながら、考えていた。 情熱と言う炎が消えずに、胸の奥底で燻っていたのは確かな事だ。 けれど、ドロップアウトした自分が通じるわけが無いとも考える。 足腰の鍛錬をメインにミラージュの実家の道場で鍛えたが、怪我をする前と同じ様に動けるかと聞かれれば否定するしかない。 手術をしたことである程度は治ったと言える。が、完治には程遠いと言うのが、現状だ。 とは言うものの、足には問題もなければ後遺症も残っていない、と言うのが医者の言葉だなのだが、本当かどうか信じられないと言うのが彼の心境でもある。 ため息が出る。 半月近く前の勝負が、彼の中にある消えかかっていた情熱に、火をつけた。 燃え盛るような炎ではなく、ただ消えそうで消えずにいる燻る火だ。 フェイトはある種の絶望を抱いていた。 絶望は己の脚に対するモノであり、それ以外に走る事も跳ぶ事も出来ないと言う恐れだ。 だが、あの勝負はその絶望を払拭するには至らなかったが、それでも可能性を見出す事が出来た。 走る事が出来た。飛ぶ事が出来た。 それは、絶望を希望に変えるには容易く、可能性を見出す事が出来たのだ。 希望的観測に過ぎないものであるのも確かなことで、フェイトは一縷の希望を得たのもまた確かなことである。 右足に痛みが走り、フェイトは立ち止まった。 ズキズキと、希望を否定する様に痛みが起こる。 本来ならば肉体的な痛みなど無いけれど、心が痛みを発していた。 精神的なものだと、医者は言っていた。トラウマにも似たこの痛みは、きっかけがあればすぐにでも消えるのだろう。 心が高揚する。 今すぐにでも走り出したい。 ボールを手にもって、跳びたい。 燃え出した炎は全身へと行き渡り、彼の心を焦がしている。 バスケットボールをしたい。もう一度……もう一度、あのコートに立ちたい。 そう思う反面その全てを否定する自分が居るのもまた事実だ。 心がかき乱される。平静を保っているつもりでも、心が騒ぎ立てる。 今すぐ走り出せ。今すぐコートに立て。 今すぐ……今すぐにアルベルと試合え、ルシオと試合え。 ただそれだけの為に焚きつけられている。 自然と、フェイトは足を速めており、どんどんとスピードを上げて全力で走り出した。 アスファルトで舗装された地面を強く蹴り、前へと進む力に変える。 風を切って走る事が、この上なく気持ちよかった。 思い返せばここ最近は全力で走った事が無かった。 最近はクリフと1ON1でプレイしていたが、その時も全力で走ると言う事が出来なかった。 心を締め付け、抑圧していた何かがあっさりと崩れ落ちたのか、フェイトの顔には今までのような陰鬱な顔ではなく、太陽を思わす笑みを浮かべていた。 燃える燃える、メラメラと。魂が焼け焦がれる様に燃え上がり、情熱が燃え盛る。 魂に火がついた。情熱にも火がついた。後はサビを落とし、走れるエンジンを積み込むだけだ。 気付けば痛みは霧散し消え去っていた。 |
|
|||
|
|