私立星海学園
第一話『転入生』
春、それは新しい日々の始まりでもある。
ある人は学校に入学、ある人は進級、ある人は新入社員と、様々な始まりがある。
少女はベッドの中でまどろんで居た。
部屋にある目覚まし時計が、けたたましい音を立ててなっているのだが、少女が目を覚ます気配は無い。
すると、どたどたと部屋の外から足音が聞こえてきた。
部屋のドアが開き、腰まである長い髪の少女が入ってくると、目覚まし時計を止めてから、眠っている少女の布団を引っぺがす。
蒼い髪の少女が目を強く閉じて、身を丸くする。
「マリア〜〜〜! 早く起きないと遅刻だよ!!」
マリア、と呼ばれた少女が起きる気配は一向に無い。
業を煮やした少女は、マリアの顔を掴んで思いっきり揺さぶった。
流石にこの攻撃で目を覚まし、マリアは口を開く。
「ちょ、ちょっとソフィア・・・やめて」
「目覚めた?」
「・・・えぇ」
「はぁ・・・おばさん下でご飯作ってたよ、それに・・・後5分遅れたら新学期早々遅刻だよ?」
「え?」
ソフィアと呼ばれた少女の言葉に、マリアは目覚まし時計へと視線を移す。
時計の単身は8時より少し前、長身は12時の少し前。
流石に眠気が吹き飛び、意識がはっきりした。
ベッドから降りると、慌てて制服に着替えて部屋を飛び出て、下へと降りていく。
ソフィアはため息をついて、部屋を出ると下へと降りて行った。
リビングではマリアが朝食を慌てて食べており、ソフィアは開いていた席に座ると、マグカップに入ったコーヒーを受け取り、それを飲む。
「ご馳走様!! ソフィア、もう少しまってて!」
「今年で高校卒業なのに、なんでああなのかしらね?」
「私もそう思います・・・」
マリアの母親の呟きを聞いて、ソフィアはコーヒーを飲みながらそれを肯定した。
リビングを出たマリアは、洗面台へと入り入念に歯を磨き、顔を洗う。
顔の色は良い。
うん、と小さく頷き部屋へと戻る。
ファンデーションを顔全体に薄く塗り、唇にはピンクのルージュをぬる、ソレで身支度は終わり。
鞄を持ってマリアは階下へと降りて行って、リビングへと顔を出した。
「お待たせ、ソフィア」
「それじゃ行こっか」
ソフィアが立ち上がり、先に出たマリアの後を追っていく。
時間は8時15分。
後15分で完全な遅刻名為に、二人は走る。
信号に何度か引っかかるものの、学校への道をひた走る。
会話は無い。走っているのだ、当然だ。
しかし、走っているのだが二人とも、その速度は遅いと断言できるだろう。
前方、ほんの数mの処から一人の少年が姿を見せ、マリアは止まろうとしたのだが止まれず、その少年とぶつかった。
しかもぶつかっただけではない、押し倒すような形でマリアが上に覆いかぶさった。
「あい・・・たたた」
「いってぇ・・・」
「どこ見て歩いてるのよ!?」
「それはこっちの台詞だよ。 急いでるからって、前方不注意は良くないと思うよ?」
「前方不注意はそっちでしょ!?」
「この場合、どっちもどっちって気がするけどね。 ところで、怪我は無いかい?」
少年がそういい、マリアはふと身体を見る。
押し倒すようにして、自分が彼を押し倒しているのに気付き、顔を紅くした。
それで毒気を抜かれたのか、興奮が急速に冷めた。
「あ、え、っと・・・大丈夫よ」
「そう、なら良かった。 その制服・・・確か、星海学園の制服だよね?」
「え、えぇ、そうだけど・・・」
「マリア! 早くしないと遅刻だよ!!」
「え、嘘!?」
マリアはその体勢のまま、ソフィアの方へと振り返る。
彼女の髪の毛が少年の顔にかかった。
ほのかなシャンプーの香りが、少年の鼻腔をくすぐった。
と、直ぐにその髪の毛が消えた。
マリアが立ち上がって、少年に背を向けて走り出していた。
彼女達の後姿を見て、少年は笑みを浮かべている。
「さて、僕も行かないとね・・・」
少年は小さく呟き、マリアたちと同じ方向に向けて、歩き出した。
マリア達は直ぐに自分の教室を確認し、靴を履き替えると三階の3年D組へと走る。
教室に入るとほぼ同時、チャイムが鳴り響いた。
「ま、間に合ったぁ・・・」
教室に入り、開口一番がそれだった。
自分の席に座ると、昔からの友人であるマリエッタが話しかけてくる。
「新学期ぐらい余裕を持ってきなさいよ・・・」
「仕方ないじゃない、昨日はNBAの試合を見てたんだから」
「バスケ好きよね、マリアって」
「趣味よ、趣味」
小さく、そして意味深な笑みを浮かべて、マリアは答える。
バスケが好きなのは昔ある約束をしたからだ。
何時、その約束をしたのかは分からないが、物心が付いたときにはその約束が頭の中にあった。
『ばすけっとぼーるのぷろせんしゅになった・・・くんのおよめさんになってあげる』
ただ、その言葉だけが、幼い頃から彼女の頭の中にあった。
何故か約束の相手の名前だけが不鮮明で、それが誰なのかも分からない。
少しセンチの入ったマリアだったが、マリエッタの一言により、慌てて教室をでた。
彼女達は体育館へと向い、校長ブレアと、学園長であるルシファーが壇上に立ち、長い話しを聞かされた。
ブレアの方はそうでもなかったのだが、ルシファーの話が長すぎる。
大きなあくびをして、マリアは話しを聞いて居た。
始業式が終わり、再び教室へと戻り担任が来るのを待っている。
ざわつく教室内。教室の扉が開き、担任が入ってきた。
「オーーーーホッホッホッ! 私が3年D組の担任のベルゼブルよッ!」
学園一の変態教師が担任になった。
マリアを含めて、教室の全員が大きくため息をつく。
当然の反応といえるだろう、なにせ彼は中等部や大学部にも名を馳せる変態なのだから。
ある意味で、最悪の当たりくじだろうか。
ソフィアのクラスの担任はと言うと、何故か良くベルゼブルと行動を共にしているベリアルであったりする。
「あ、私としたことが忘れてたわ。 あなた達、良くお聞き!」
しゃべりながら、くねくねと踊って鞭を振り回すベルゼブル。
正直、気持ち悪いの一言なのだが、誰もそれを言わない。
言ったが最後、お姉言葉で一日中付きまとわれるのだ。
最も、彼なりのスキンシップなのだが、そのスキンシップの相手にとっては、それは拷問に近いだろう。
中にはベルゼブルと言う名前を聞いただけで、奇声を発する生徒も居たくらいだ。
生徒達は鞭攻撃をプロテクトで防ぎ、中にはワイドエイミングのプロテクトスキルを使っている生徒も居た。
よっぽど生徒に嫌われているベルゼブルが、更に言葉を続けた。
「さぁ、入ってらっしゃい、ニューフェイス!」
ある意味イッちゃっている男だ。
ベルゼブルの声と共に、一人の少年が入ってきた。
蒼い髪の毛の少年。
線の細い身体なのだが、意外な位生気が溢れているようにも思える。
しかし、制服はこの星海学園のモノではない。
教壇に立ち、少年が口を開いた。
「ヴァルハラ学園の紋章遺伝子学科から編入してきたフェイト=ラインゴッドです、よろしくお願いします」
自己紹介をして、礼儀正しくお辞儀をする。
窓の外を眺めてボーっとしていたマリアが教壇の方を向いた。
「あ・・・」
マリアが小さく驚きの声を出した。
だが、誰もそちらへと振り向かない。
フェイトと名乗った少年は、教壇に立っている。
その視線は、一点を見つめており、その視線の先には自分が居た。
長い間・・・そう感じてしまう程にフェイトは、マリアを見つめている。
それを破壊するように、担任のベルゼブルが口を開く。
「あぁ、カッコ可愛い男の子ね、食べちゃいたいわ・・・」
「あの、それよりも僕の席はどこですか?」
「あら、ごめんなさい。 そうねぇ・・・丁度、窓際の後ろの席が開いてるから、そこに座ってくれるかしら」
「はい」
小さい返事の後、フェイトは自分の席へと向けて歩き出した。
その日は重要事項を聞いただけで終わり、今週一杯は昼までで終わると言うことだ。
マリアは、マリエッタとソフィアと一緒に駅前のアーケード街に来ていた。
何時ものメンバーで、可愛らしい小物の売っている店ではしゃいでいる。
ソフィアは猫の人形を見つけると、それをきらきらとした瞳で見つめており、マリエッタとマリアは失笑する。
時間が昼をさした。大要も丁度天頂にあり、お腹もすいたのでファーストフードの店で、腹ごしらえをする事になった。
安いし、それなりにお腹も膨れる、それが理由だ。
席に座り、ふとマリアは外に視線を向けた。
「あら?」
その声に気付いたのは、彼女の幼馴染で1学年下のソフィアだ。
「どうしたの、マリア?」
「ほら、アソコ歩いてるの・・・」
「あ、フェイトくんね。 何してるのかしら?」
マリエッタがそういい、一人の見知った顔が現れた。
星海学園高等部の保険医であるミラージュ=コーストだった。
驚きの顔を見せる三人。
なにせ、ミラージュには恋人がいるのだ、科学の教師であるクリフ=フィッターという男が。
ミラージュは学校では見せたことの無い笑みを浮かべており、フェイトは微笑んでいる。
「ミラージュさん、もしかしてクリフ先生を見限ったんじゃ・・・」
「ミラージュ先生って、年下好きなのかなぁ?」
「ミラージュでもあんな笑みを浮かべるのね・・・」
と、反応は三者三様であった。
因みに、上からマリエッタ、ソフィア、マリアの順である。
二人は移動する事無く、その場で喋っており、フェイトが歩いてきた方からクリフがやってきた。
修羅場発生か!?
と興味心身で、三人は彼等の動向を見守った。
しかし、期待したような事は無く、クリフはフェイトの頭をがしがしと撫でている。
撫でると言うよりも、髪型を乱している、と言った方が良いだろうか。
どうやら、ミラージュとクリフとは知り合いのようだ。
フェイト達は三人揃って歩き出した。
その後を付けるように、マリア、マリエッタ、ソフィアは彼らの後を追っていく。
辿り着いたのは、ミラージュの実家であり、この界隈で有名な神宮流古武術の道場で、フェイト達はその中へと入って行った。
「ここって・・・ミラージュ先生の実家よね?」
「えぇ、そのはずよ」
マリアはそういい、眼前にある門を見る。
でかい。
その一言に尽きる程に、でかい門がそこにある。
中に入りたいが、女三人では空けられないほど大きく、諦めて背を向けた瞬間、門が音を立てて開いた。
振り返り、そちらを見ると中から出てきたのは、フェイトとクリフの二人で、小さく失笑を浮かべているフェイトが、三人に気付いた。
「あれ? 確か、同じクラスの・・・」
「マリアよ。 こっちは、マリエッタとソフィア」
マリアがそういって、隣にいる二人を紹介する。
目の前にいるフェイトは少しだけ、はにかんだ様な笑みを浮かべた後、よろしく、とだけ言って去って行った。
クリフは小さくため息をつくと、口を開く。
「結構、人見知りする奴なんでな、ゆるしてやってくれ」
「それはそうとクリフ、フェイトくんと知り合いなの?」
「まぁな。 俺の恩師の一人息子なんでね」
「もしかして、とは思うけど。 彼のご両親って・・・」
「あぁ、お前の想像通りだ」
クリフはそういい、マリアは腕を組んだ。
話が見えないソフィアとマリエッタだったが、次にマリアが口を開くのを待っている。
関係ない話にはなるが、クリフとマリアは兄妹の様なもので、クリフとマリアの両親は旧知の仲であるため、昔からの知り合いなのだ。
無論、ミラージュもそうである。
そして、マリアが再び口を開いた。
「紋章遺伝子学の権威、ロキシ=ラインゴッドの息子・・・か」
マリアは小さく呟き、背を向けて歩いていくフェイトの背中を見つめていた。
その夜、マリアはお湯のはられた浴槽に入り、昔の事を考えて居た。
何時の間にか、自分の頭の中にあったあの約束。
誰と結んだ約束かは分からない、ただその約束は絶対に果たしたい約束。
小さくため息をつくと、浴槽から出る。
彼女の美しい肢体を水滴が流れ落ちていく。
ソフィア程では無いのだが、胸もそれなりにあり、足も長い。
同世代の娘ならば、『可愛い』と言う言葉が合うのだが、彼女の場合は『美しい』や『綺麗』と言う言葉が最も似合う。
学園一の才女と呼ばれるが故に、何度も告白された。しかし、それを全て袖に振っていた。
誰と結んだのか分からない約束を守る為に。
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