私立星海学園







第二話『ロザリオ』








始業式から二週間後。
マリアは、部活に顔を出していた。
彼女が所属している部活は、無論バスケ部。
バスケ部、といっても女子バスケ部ではなく、男子バスケ部のマネージャーだ。
男子のマネージャーを勤めている為か、彼女と近づきたいと言う目的の部員は少なくない。
だが、練習がきつ過ぎて直ぐにやめていく、と言うのが現状であるが。
顧問はクリフで、バスケ部の男女を兼任している。
クリフの隣で、制服姿のフェイトがパイプ椅子にすわりながら、バスケ部の練習を見ており、彼の表情はどこか羨ましそうな表情であった。
時折、隣に立つクリフが、フェイトに声をかけており、何を話しているのかは分からない。
練習は下校時間ギリギリまで行われ、練習が終わるとバスケ部の部員は体育館に居なくなった。
蒼い髪の少年、フェイトはセンターサークルに立つと、バスケのゴールへと向かい歩き出す。
フリースローラインまで来ると、シュートを打つ構えをとった。
ボールはもちろんその手には無い。
足をかがめて、軽い跳躍をしようとしたが、そこでやめた。

「・・・帰ろう」

小さく呟き、フェイトは電気を消し、戸締りをして体育館の鍵を体育教官室へと持って行った後、学校の敷地内を後にした。
ゆっくりと歩き、家路の道を急ぐ。
途中、スーパーに入り、食料品を買って再び家路の道を歩く。
アパートの自宅・・・いや、賃貸マンションと言うべきだろう・・・まで歩き、一息つくと階段を上っていき、部屋の前まで来て鍵を取り出した。
鍵を開けて中に入り、電気をつける。
散乱した荷物の中を歩いて行き、冷蔵庫の中に先ほど買ってきた物を入れて行くと、自室へと歩いていく。
自室に入ると、制服の詰襟を緩めて一息つくと、上を脱いでハンガーにかけると、ベッドに腰をかけた。
先ほどまで歩いていた場所と違って、キチンと整理整頓されていた。
ゲーム機のハードや、ソフトやらが散乱したテレビの前を除いて、ではあるが。

「飛べない鳥・・・か」

そう小さく呟いて、フェイトはベッドに寝転がった。
一方、マリアは机に向っている。
今年は受験であり、受験勉強を行っているのかと思いきや、日記を書いているだけだった。
時間は7時半。
夕食はもう食べているので、日記を書いているのだろう。
日記を書き終えると、ペンを置いて日記を閉じて引き出しの中に入れて、テレビをつけた。

「・・・面白い番組してないわね」

テレビのチャンネルを変えていくが、彼女が面白いと思う番組は無かった。
仕方なしに、一冊の本を手にとってそれを読み始める。
タイトルは『竜皇戦記』と言うタイトルだ。
ファンタジー小説で、旅の途中で偶然に出合った者達が共に戦い、そして輪廻転生の中で、そのお互いの愛や絆を深めていくものだ。
ページを一つめくり、文章に目を通す。

『護ってみせる。 必ず・・・お前を今度こそ護ってみせる、あの時・・・護ると誓ったのに、その誓いを果たせなかった・・・だからこそ、お前を護ってみせる、絶対にだ!!』

この台詞が、妙に自分の胸を打つ。
前世で護れなかったふがいない自分を責めながらも、前を向き、歩いていく。
そんな姿は、ある種の理想であった。
失敗、後悔、挫折・・・それは簡単に人の心を折る。
後悔をしながらも、この物語の主人公は前に進んでいるのだ。
それが何故か共感できてしまう。
読み進めて行くと、携帯が鳴り響いた。

「誰かしら?」

携帯を手に取ると、名前を見て小さく微笑を浮かべて、電話に出た。

「もしも〜し」

「どうしたのよ、急に?」

「ん〜〜〜面白い情報があってさ」

「面白い情報?」

「そっ、フェイト君に関する情報よ」

「で、マリエッタ。 その情報って言うのは?」

「まぁ、電話じゃなんだからさ、明日朝からバス乗ってレクリエーションに行くでしょ? その時に話してあげるわ、見せたいモノもあるし」

「レクリエーション・・・?」

「あれ? 明日じゃなかったっけ、確か少しとおでして湖の畔でバーベキューって話だったけど」

「そんな話・・・すっかり忘れてたわ」

「あのね、クラスの行事を忘れないでよ」

苦笑しながら、マリエッタがそういう。
マリアは、ただ笑うしかなかった。
翌日、私服姿のマリアは、彼女の家の近くでマリエッタと待ち合わせをして、学校へと向い歩いていく。
マリアの服装は、足にぴったりとフィットした黒いパンツに、Tシャツの上にブラウスに似たようなモノを羽織っている。
靴は茶色のショートブーツだ。
手に持っている手提げ鞄の中身は、携帯や化粧品等の身の回りの品。
マリアとマリエッタは、自分のクラスのバスに乗って、座席に座り話を始める。
たわいも無い雑談をしていると、フェイトがバスに乗って一番手前の窓側に座り、窓の外を見つめていた。
程なくして、バスが出ると一気に騒々しくなり、担任のベルゼブルがキーキーうるさいのだが、生徒全員がシカトをしている。

「それにしても、副担任のランカー先生と対照的よね、ベルちゃんって」

「そのあだ名どうにかしたら? 気持ち悪い事この上ないわ」

身震いしながら、マリアが答える。
ベルちゃんとは無論、ベルゼブルの事である。
何故か、マリエッタだけは、ベルゼブルとは仲が良い。
趣味というか、そういうなのが合う為かして、話が弾むらしい。
フェイトはと言うとMDを聞きながら、ボーっと窓の外を眺め続けており、その姿はどこか儚い印象をマリアに植え付けた。
バス内で、後ろの男子生徒たちが馬鹿騒ぎしており、騒々しい。

「あ、そういえば。 昨日の電話の続きなんだけどさ」

「あぁ、フェイトくんの事についてよね?」

「うん、そうよ」

マリエッタは答えると、手持ちの鞄から一冊の雑誌を取り出して、それをマリアに手渡した。
しおりが挟まれているのを見ると、どうやらマリエッタの言うフェイトの情報は、そのページにあるらしい。
ページを開くと、大きな見出しがある。
そこには、三冠王と書かれており、雑誌の出た日付は約二年前の九月だ。

「その雑誌に書いてあるように、彼・・・二年前のバスケの新人戦の時に最優秀選手賞、得点王、MVPの三冠王に輝いたのよ。 で、彼はその類まれな反射神経と的確な指示能力、3Pシューターの才能で天才PGと呼ばれてたらしいんだけど・・・」

そこで、マリエッタが口を紡いだ。
前からの視線を感じ、マリアはそちらへと視線を向けた。
フェイトがこちらへと視線を向けており、マリアの視線に気付くとそっぽ向いた。

「彼に・・・話してた事、聞こえたのかしら?」

「違うと思うわ。 彼、音楽聴いているし、後ろの馬鹿騒ぎで聞こえてないわ」

「なら、続きだけど・・・一年の12月頃にいきなり学校に来なくなって、それっきりなのよ。 ヴァルハラ学園って言えば、この近隣ではバスケの名門校で有名でしょ? 天才的な3Pシューターである彼がやめる理由が無いのよね・・・」

「確かにそうね、どうしてかしら?」

「その理由は、彼のみぞ知るってところね」

「この情報と雑誌、ウェルチ経由ね?」

「うん、彼女以外にこういう情報にうるさい人いないじゃない?」

マリエッタはそういうと、雑誌を鞄の中にしまった。

「それもそうね」

と短く答え、笑みを浮かべた。
それから、湖に着くまでたわいも無い雑談が続いた。
晴れ渡った空を見つめながら、フェイトはボーっとしていた。
水平線を見つめ、小さくため息を付いた。
転校してきたばかりなので、友人はそんなに居ない。
仲の良い友達同士が集まって班を組んでいるため、フェイトは疎外感を感じて居た。
一人、ジュースを飲みながら、肉を食べている。
そんな彼を見かねたマリエッタが、マリアをフェイトへと押しかけようとしていた。

「ほら、マリア! 話しかけてあげなよ」

「な、何で私なのよ?!」

「だってほら、マリアって女子の学級委員じゃない? 男子の学級委員が一人で黄昏てるんだから、元気付けてあげないとね!」

「私はマリエッタの、フェイト君は男子全員の推薦でしょ?」

「そうだっけ・・・? でもさ、コレがきっかけで急接近、って言うのもありえるわよ?」

「あのね、そう都合のいい展開になるわけ無いでしょ?」

マリアがそういい、小さくため息をつきながら、フェイトの方へと歩いていく。
肉と野菜が刺された金串を数本持ち、皿の上に乗せると、木の下に座りジュースを飲んでいる彼の目の前にたった。
マリアに気付き、視線を上げる。
少し、悩んだような顔をして、フェイトは口を開いた。

「えっと・・・確か、マリア・・・さんだったっけ?」

「えぇ、はい。 コレ」

短く答え、手に持っている金串を皿ごと渡した。

「ありがとう・・・マリアさん」

「お礼は良いわ。 それと、マリアって呼び捨てで良いわ」

「わかった。 ありがとう、マリア」

フェイトは小さく笑みを浮かべて、手に持ったジュースの缶を置くと、食べ始めた。
マリアは背を向けて、マリエッタの所へと戻っていく。
時間が過ぎていき、帰りのバスの中でマリアは、マリエッタの肩にもたれ掛かり、眠っていた。
見るのは夢。
幼き子どもの頃の夢だ。
笑顔で話しかけてくる少年の瞳は、とてもキラキラと輝いていた。
真っ直ぐと前を見つめて、夢を持っていた。
将来はNBAでプレイすると言う夢を持っていた。
とても子どもらしく、且つ現実できる様な夢である。
遊んだのは、たった数日だけなのに、その少年と約束をしていたのと、その少年に何かを貰った記憶が、その夢でよみがえった。
目を覚ますと学校の近くを走っており、マリエッタも眠っているのに気付いた。
マリエッタを起こさないように、身体を起こすと小さな話し声が聞こえてきた。
前の方からで、フェイトが携帯を使って誰かと話しているようだ。

(誰と話してるのかしら?)

小さな疑問が、頭を過ぎったとほぼ同時くらいか、マリエッタが目を覚ました。
眠そうに目を擦り、ボーっとしたかおをマリアへと向ける。
しょぼしょぼとした目を擦り、窓から外を見て口を開いた。

「あれ、星学の近くだね」

「えぇ、もう直ぐつくんじゃないかしら?」

「そういえば、来月の中旬頃から中間考査よねぇ・・・憂鬱になるわ」

「そんな回避不可能のイベントもあったわね」

「マリアは良いわよねぇ〜元々頭が良いしさぁ」

唇を尖らせて、マリエッタが言う。
ふぅ、と小さくため息を付いたところで、バスが止まった。
星海学園の校門前に止まり、ベルゼブルが立ちあがった。

「はい、今日のレクリエーションはコレで終わりよ。 あんた達、寄り道しないで真っ直ぐ帰るのよ!!」

既に何人かの生徒はバスから降りており、ベルゼブルの話を聞いていない。
マリアとマリエッタは、一応ベルゼブルの話しを聞いてから、バスから降りて帰宅した。
家に帰り、服を着替えるとあるものを探し出した。
あの約束と同じ様に、何時の間にか持っていたペンダント。
帰りに見た夢、あれを見なければ思い出さなかっただろうものだ。
ペンダントはシルバーのアクセサリで、ロザリオの中央に赤い宝石のようなものが付いている。

(これ、どう見ても本物・・・よねぇ?)

心の中で呟き、マリアはゆらゆらと揺れる銀のロザリオを見つめていた。



















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