私立星海学園



















第二十話 一つの答えと馬鹿騒ぎ




















フェイトは足早に屋上へと向かっている。マリアはゆっくりと、気づかれない距離を保ちながら後をつけていく。
人が殆どいない校舎の中なので、見失うわけが無い。
見失うわけが無いのだが、マリエッタとウェルチと言う妨害者が現れたおかげで、時間を食ってしまった。
気づけば時間は5時を回っており、マリアは屋上へと早足で向かっていた。
階段を登っていると、重苦しい扉の音が聞こえて、次いで階段を下りる音が聞こえてくる。

すれ違うのを警戒し、丁度3階の廊下に面した場所だったので廊下の柱の影でこっそりと階段を伺う。
降りてきたのは彼女が良く知る人物だ。
一瞬だけしか顔が見えなかったが、明らかに泣いていた。
呆然としてしまった。何があったんだろう、としか思えなかった。
マリアは階段を登り屋上へと歩く。

4階にたどり着き、屋上は目と鼻の先と言った所で、屋上のドアが開く音が聞こえてきた。
錆付いているせいなのか、耳障りな音だった。
階段を下りてくる足音。思わず身を隠してしまい、少しだけ顔を出して足音の主を見る。
青い髪の少年……フェイトだ。

(フェイトとソフィアが二人でいた……のかな?)

「なにやってんだ、お前?」

「うひぇ?! あ、アルベル? あんた、なんでこんなところにいるのよ?!」

「クリフの野郎に呼び出されてな。 出席日数が足りないらしくてな、どれか一つ授業をサボれば留年確定だそうだ」

「それはご苦労様で……でも、IH制覇にもう一年費やせるじゃない」

「黙れ、阿呆。 で、テメェはこんなとこでなにやってんだ?」

「え? あ、えーっと……あはははっ」

「……まぁいいけどよ。 さっさと帰って寝るか」

大きな欠伸をした後、アルベルが呟き、階段を下りていった。
マリアは結局、ソフィアが何故泣いていたのかを知る事が出来なかった。
夕暮れの閑散とした校門が見え、小さくため息をつくといえに変える事にする。

「あ、そういえば居間何時かしら……って、ご、ごぢにぢっぷん?」

時計を確認して呟く。
家まで10分かかる。更にシャワーを浴びて汗を流して、軽く化粧をして服を着るのに20分かそれ以上はいる。
更に、待ち合わせのビルまで自転車で20分ほど。
確実に遅刻決定である。しかし、マリアは焦らない。

「どうせ九品仏が、遅れてやってくるのが主人公なのだよ諸君!とか言いながら最後に着そうだからいいか」

事実、去年と一昨年もそうやって最後にやってきた。
一昨年はどこかで見張っていたのか、最後のクラスメイトが来てから5分後にやってきた。
去年も同じで、きっかり五分後にやって来ていたのを思い出し、靴を履き替えて自転車置き場へと向かう。
排気音が聞こえてくる。ある程度のチューニングがされているのか、時折聞く排気音とはまた違った音だ。
チューニングされているのではなく、メーカーによって排気音が違うのは誰でも知っている事だ。
そのバイクは走り去り、それに続いてマリアの乗る自転車も去っていった。

自宅に帰りるとすぐに着替えを持って風呂場へ走り、汗を流して服を着る。
デニム生地のスカートと、群青色のキャミソールの上にしろのカーディガン。
腕にはシルバーのブレスレット。胸元にはいつも身に着けているチェーンを通したリング。

また汗をかくだろうが、気分の問題だと思うことにして、鞄に携帯と財布、ハンカチにポケットティッシュ、その他女性の必需品を入れて家を出た。
日差しは柔らかくなっており、マリアは原付にのってエンジンをかけた。
その音はフェイトの乗っているバイクと違い、排気量が比べ物にならない程だった。
聞きなれたエンジン音を少し不満に思いながら、マリアは原付を走らせた。

原付で走る事5分程度で、集合場所である真目財団日本支部の総本山にたどり着いた。

真目財団。

世界に展開する会社であり、一企業が持つに不相応な情報収集能力を持っている。
その情報網は世界を網羅しており、あらゆる情報を得る事が可能なのだ。
真目は世界中に進出して成功を収めている、それには確かな情報を得る事でなしえた事だった。

企業ビルが立ち並ぶオフィス街に聳え建つ摩天楼の一角であり、ビル群の中央に聳える真目のビル。
真目グループは複合企業に近く、企業でありながら国家の諜報機関と比べてなんら遜色はない。
真目グループの成長はその情報収集能力を駆使し、ここまで企業を拡大させたのだ。
語る事はまだまだ沢山あるが、原作を知らない方が多いので割合させて頂こう。

そんな真目のビルの下には、見知った顔が並んでいた。
ざっと見渡したかぎり、フェイトと九品仏の姿はない。
自転車やら原付やらか真目のビルの下に大量に止まっており、違和感がある。
と、原付とは明らかに違う排気音が聞こえて、集まった面々はそちらへと振り向いた。
XJ-R400に乗った二人がいた。一人はタンデムに座り、もう一人は運転を行なっていたのだろう。
タンデムに座っていた人物がヘルメットをとると、青い髪の少年の顔が表れた。

「クリフ、運転が乱暴すぎるって…」

「んだぁ? なら、ミラージュの車に乗ればよかったじゃねぇか」

フェイトに答えた後、スロットルを握っていた手を離してヘルメットをとった。
言葉通り、科学技術教諭のクリフの顔が表れた。

「それは勘弁してください」

フェイトが顔を青くしながら答えると同時か、一台の車が平面ドリフトを行ない、道端に車を停めた。
漆黒の車体で、アメ車を彷彿とさせる車体だ。
高級車ではないが、それなりの値段はするだろう。
視線が集中するなか、一人の女性が車から降りた。
見慣れた顔で、養護教諭のミラージュだった。

「お待たせしました」

何事もなかった様に言い、一同は唖然とした。
ミラージュと言えば、星海ではクールビューティーの代名詞。
その彼女が走りやバリの改造車を運転しているのが意外だったのか、目を丸くしている。
ちなみに、二人が来たのはベルゼブルの代わりだったりする。
去年の話だが、ベルゼブルが酔っ払て893との抗争に発展したのだが、まだ佐山・御言が在学しており逆に893が壊滅させられた。
しかもそのニュースはもみ消されているする。

「後は大志だけか」

和樹の言葉に、一同は沈黙した。
クラス編成は繰り上がりなため、去年も同じ顔触れだがフェイトは今年初の転入生なため、まだ顔馴染みが少ないのが現状だ。

「あれ、大志は来てないの?」

フェイトの言葉に、ふと疑問が浮かぶ。
マリアは今まで軽くスルーしていたが、ある疑問が浮かび上がった。
フェイトの言う大志は、現星海学園の問題児・九品仏大志である。
大志とはなぜか面識があり、転校してきたフェイトと知り合いだった。

簡潔に言えば、彼はゲーマーである。大志もおそらくはあらゆるゲームをプレイしている。
それ故、ゲームショップで知り合っていてもおかしくはない。
本当のコトはわからないのだが、限りなく事実に近そうだ。
そんな他愛もないコトを考えていると、変なヘルメットをかぶり原付に乗っている人物が近づいてくる。

「待たせたようだな諸君!我輩のためによく集まった!!」

大志が高らかに叫ぶ。ヘルメットをかぶっているために怪しさ抜群だが、みんな気にしていない。
ふと、黒塗りの高級車が道端に止まっているのに気付き、大志はその車に近づいていく。大志が車に向かってすぐに闘真と由宇が姿を見せた。

「ごめんごめん、少し遅れちゃったかな?」

「こいつ等の事だ、はっちゃけすぎて時間など気にしてない」

いや、それはどうかな、と闘真が苦笑しながら由宇に返す。ともあれ、3ーDの人間が全員揃った所で移動を開始。行き先は高級ではないが焼肉屋だ。
大志のポケットマネーで行く事になっているが、どこにそんな金があるんだろうか、とだれもが考える。
しかし、その考えも結局は大志だからいいや、で終わってしまった。
どうも彼に対する認識は、どうでもいいこと、というのがクラスメイトの認識らしい。
原付などは麻耶の権限により、真目のビルKIBOUの下においておいて良い、と言う事だ。
オフィス街の真ん中にあるが遊ぶ場所は目と鼻の先なので、移動は徒歩となった。
フェイトは和樹と話しながら歩いており、マリアとマリエッタ、クレアの三名が固まって話をしている。

「そういえば、期末テストが近いわね」

「そうですね。 進学の事もありますから、色々と大変ですよね」

「かーーーー! なにを言ってますか、成績トップクラスの癖して!!」

「いきなりなによ、マリエッタ」

「そー言う余裕はやめぃ」

受験生なのに、遊んでいていいのか、と思う。
けれど、受験生とは言っても遊びたい盛りである、仕方ないで済ませておけば問題は無い。
マリアは苦笑して、飛場と美影を見る。
黙っていれば顔もいいし、もてる飛場だが口を開けば自滅が多いのは愛嬌と言うべきなのだろうか。
あくまで黙っていれば、と言うのが前提だが。

飛場の隣を歩く美影をみる。
歩くたびにその長い金色の髪が揺れている。
綺麗といえば綺麗だ。絶世の美女とは言いすぎだが、それでも美しい事には変わりは無い。

峰島由宇と坂上闘真、そして闘真の妹の真目麻耶の三人が話をしている。
話の内容は仕事とかそういうのではなく、闘真についてだ。
闘真の存在自体はクラスの人間にとってはある意味で稀有。
奇人変人が多いクラスにおいて、のほほんとした彼は重要なのだ。
が、彼も奇人に分類されるのである意味、無意味といえるかもしれないが。

徒歩で移動する事4〜5分程度で、目的の場所についた。
高級焼肉店である。
予約は取っていないが、またもや兄の為に麻耶の権限で焼肉店を乗っ取り……基買収し、打ち上げパーティーが開催された。
遠慮も無く高い肉を頼んで食べまくる。

さすがに未成年なので酒は飲まないが、その分食べまくる。
クリフは酒を飲みながら食べており、一部の人間が羨ましそうにソレを見ているが、一切の視線を無視。
喋りながら食べる。食べる。食べる。
もはや、肉の在庫整理をしてやるぜ、とかそんな勢いで食べまくっている。

これ以上、食事シーンの表現は無理なので、食事後。
店から出た面々は満悦した表情で、九品仏大志が先頭に踊り出ると手を叩いて視線を集中させた。
無論、道を通る人々もそちらへと視線が集中する。

「諸君。人間の三大欲求の一つ、食欲は満たされたか!?」

「もう満腹ー! やっぱ、おいしかったわぁ!!」

「九品仏ーー! またお前のおごりで食いに来ようぜ!!」

大志を讃える声が響く。
周囲の人達はドン引きと言うかなんと言うか。
そんなものは、青春真っ盛り。歳をとれば若い事は馬鹿な事をしていたな、と思い出に変わるモノだ。
だから、大志は満足そうに頷き、再び口を開いた。

「さぁ! 食欲が満たされた所で、このエリクール市最大のアミューズメントパーク、ジェミティキングダムに行くぞ!」

「ジェミティ……キングダム?」

「うむ。世界に羽ばたく真目グループ出資の元、スフィア社との合同で建設された一大アミューズメントパーク! ボーリングやゲームセンターを初めとして、ありとあらゆる娯楽を詰め込んでキャッチフレーズは“真目に通ずる道は世界に通じる”である! オープン前だが真目麻耶嬢の心配りによって今宵、特別に我輩たちが遊べるように手配していただいた!! 皆の者、真目麻耶嬢に盛大な拍手と感謝を述べよ!」

大歓声が上がり、近所迷惑な事この上ない。
しかし、異常なまでにハイテンションになった星海学園の問題児クラスの3−Dに、そんなものは通用しない。
かくして大志と真目麻耶の手によって、面々はジェミティキングダムへと足を運ぶ事になった。
電車を乗り継ぐかと思ったが、またまた麻耶が準備した十数台のリムジンにのって、ジェミティキングダムへと向かう。
人数の関係上、最後尾のリムジンにフェイトとマリアの二人だけが乗り込む事になった。
因みに、ミラージュとクリフは九品仏大志、千堂和樹、高瀬瑞稀、牧村南の六人と乗っている。

最後尾のリムジンに、フェイトとマリアは乗っていた。
何を話せばいいか分からず、マリアはただ黙ったまま口を開こうとしない。
フェイトは頬杖をつきながら、流れる景色を見つめている。
その表情には憂いがあり、何かを迷っているようにも見えた。
意を決して、マリアは口を開いた。

「どうかしたの、ボーっとして」

「え? あ、いや……なんでもないよ、なんでも」

「そう……」

その言葉を最後に、再び沈黙が訪れる。
何を話すべきなのだろう、と考えていると、フェイトが口を開き、ゆっくりと話し出した。

「……バスケをさ、また始めようかなって、思ってるんだ。以前話したけど、僕の足は爆弾を抱えてる。いつ爆発するか分からないけど、それでもさ燻ってた火がまた燃え始めたんだ……一度ドロップアウトしたけど、それでもまだバスケへの情熱は燃え続けてたんだ」

「……なら、バスケ部に入るの?」

「実はね、もう入部届けはクリフに出してるんだ。 後は、週明けのテストが終わってから強化合宿の時に紹介されるはずだよ」

「そう……なの? でも、本当に大丈夫なの?」

「それはまだ分からない。 ここ一ヶ月以上はクリフと1on1をしてたけど、今のところは問題なし、かな?」

「気をつけてよ?」

「分かってるよ」

どこか、心に引っかかっていたモノが取れたように、二人は饒舌に喋り続けていた。
気付けば大志が行っていたジェミティキングダムについた様で、リムジンのドアを開けられて外には煌びやかと言える街灯のきらめきがあった。
既に大半の人間は中に入り遊んでいるらしい。
協調性が無い、と言うべきなのだろうがそれはそれ、これはこれ、と言う事にしておこう。
中に入り、まず地図を見る。
広大な敷地におおよそで考えられる数のジェットコースターを初めとしたアトラクション。
食事をするための敷地と、子供向けのヒーローショーを行うためのドームらしきモノ。
遊園地さえも生温く感じるほど、遊ぶ場所が大量にあり、恐らく一日では遊びきれないほどのアトラクションがあるだろう。

「凄いわね……」

「あはは、流石は世界の真目だね」

「お金って、ある所にはあるのね……」

少しあきれたようにマリアは呟き、二人そろって中へと入っていった。
マリアがまず向かったのは日本最速記録を更新したジェットコースター『ライトニング・プラズマ』である。
某聖闘士の技からつけられた名前の如く、その速さは光速といえば語弊があるが時速300km近くまで出るという話だ。
フェイトは及び腰だったが、はしゃいでいるマリアを見て肝を据えた……否。据えるしかなかった。
周囲には死屍累々の勇者たちが。どうやら、彼等よりも早くこのライトニング・プラズマに乗ったようだ

順番は直に回ってきて、マリアはフェイトの手を引いて一直線に一番前へと向かう。
通といえば通だろう。しかし、フェイトにとっては地獄の一丁目に近かった。
死刑を待つ囚人の如く死刑執行のベルが鳴るのを待つ。
いい方はオーバーすぎるが、その様な心境なのは確かな事である。

発進のベルが鳴り響き、フェイトは息を呑む。
ガタン、と音を発した後、ゆっくりと動き出した。
カタカタカタカタと音が鳴り続け、車体が急とも言える坂を上って行く。
頂点が近づいて行くにつれて、緊張で身体が強張ってきた。

ドクンドクン

心臓の音がイヤに耳につく。フェイトは隣に座るマリアを盗み見た。
興奮しているのか、口元が緩んでいてどこか楽しそうだ。
苦笑を浮かべるしかなく、気が緩んだその瞬間。僅かな気の緩みとともに、人工的な加速を加えられた早さが襲い掛かってきた。
声を上げる事さえもままならず、フェイトは右に左に身体を揺さぶられていく。
更に5回もの連続捻りを加えて一際大きな山を越えた。

そして、眼前に聳えるのはループ状の線路が三つ。
フェイトは顔を引きつらせながら、それを見た。
山の頂点から加速し、一気に山を下り降りて一つ目のループへと入って行く。
そこでフェイトは意識を遮断したいと思ったが、それは叶わず一つ目のループを超えて二つ目のループに差し掛かった。
フェイトはただ早く終わってくれ、と祈りつつライトニング・プラズマは駆け抜けて行くのであった。

元の場所に戻り、そこには死屍累々の面々がいた。
フェイトは口から魂が出ており、顔はかなり荒んだ状態にある。
それと相反するように、マリアは嬉々とした顔で隣に座っていたフェイトを見て、目を丸くした。

「ど、どうしたの?」

「……どうしたもこうしたも、コレさ、ライド・ザ・ライトニングよりも凶悪だったよ」

「確かにそうだけど、楽しくなかった?」

「……楽しいと思えるマリアがおかしいのか、怖かった僕がおかしいのかどっちが正しいのか今の僕には分からないよ」

少し無表情で答え、憤慨にも似た顔をしてマリアはフェイトを睨む。
ジト目で見られながらも、フェイトは表情を変えずにマリアの顔を見ていた。
改めてみて思う。彼女は綺麗だと。
同世代であれば恐らくは『可愛い』と言う言葉が合う少女ばかりだろう。
しかし、彼女の整った顔立ちは比較に出来る対象が居ない。

ふと、マリアが視線を逸らして見詰め合う形になっていた状態がなくなり、二人の間に奇妙な沈黙が訪れる。
周囲は馬鹿騒ぎをするD組の連中がうようよと。
時折だが罵声や爆発音が響くのはこの際、愛嬌と言う事にしておこう。
周囲の音が二人に苦笑を浮かばせた。

「それじゃ、もっとほかを回ってみようか」

「そうね。 次は……あ、この『アナザー・ディメンジョン』って面白そうね」

「異次元世界って……まぁ、確かに面白そうだから行ってみようか」

「えぇ、早く行きましょ」

肩をそろえて歩き、二人はアトラクション……アナザーディメンジョンに向かうのだった。











































少しだが、時を遡るとしよう。
遡る時間は約5時間前。文化祭が終わった哀愁が漂う学園の屋上である。
フェイトは屋上で夕暮れの空を見上げていた。
赤い空。太陽は山間に消えようとしており、それを見つめながら、小さく息を吐いた。
彼は今、人を待っている。相手の名はソフィア=エスティード、一つ下の学年でマリアの幼馴染の少女だ。

彼女に好きだと告白され、考えた。彼女ともマリアとも、付き合いは極めて短く浅い。
マリアとはクラス委員ゆえによく話すし、友達としても色々と話すのだが、それだけの関係。
マリアがフェイトに対して、恋愛感情を抱いているかわからないのだ。

好きか、と聞かれれば好きだと彼女は答えるだろう。友達の好きとして。
考えてみれば自分とマリアの接点といえば、クラスメイトと言うだけだ。
確かに仲は良い方だろう。だが、それ以上でもそれ以下でもないただの級友。それは、決して変わらない事実である。

好きだというなら、伝えないといけない。待っているだけでは何も始まらないし、何も手に入らない。
最初の一歩を踏み出す勇気がない。
それは誰もが恐れる一歩だ。
ただ想うだけでは、何も伝わらない。自分の口で、言葉でしか、想いは伝わらないのだから。

赤い空からグラウンドへと視線を移す。誰も居ない校庭は閑散としていて、祭りが終わったのだと実感させる。
虚しい、と言うわけではない。だが、祭の後の哀愁と言えば良いだろうか、そんな言い表わせない感情があった。
それでも、ある種の満足感、あるいは充実感がある。楽しいと思えた祭が終わり、後片付けに追われている現在……とはいうものの大まかな後片付けだけでなのだが。
出し物…九品仏大志が立案したコスプレ喫茶は大成功といえるだろう。ただ一つを除いては。

それを含めて楽しかったと、フェイトは純粋に思った。この星海学園に編入してから、たった4ヵ月しか経っていないが、ヴァルハラにいた頃よりも楽しいと思っていた。
この界隈では、ヴァルハラはバスケの強豪だが、県をまたいで星海とヴァルハラがあるため、近隣校との練習試合では違う県でも、近いという理由だけで昔から参加している。

ヴァルハラに居た時はバスケ部に所属していて、バスケの厳しい練習の毎日だった。
練習すればするほど巧くなっていくから、辛いとは思わなかったし辞めたいとも思わなかった。
だが、ヴァルハラには一年も在席しなかった。

辞めた理由は一身上の都合となっているが、本当は事故に遭い右足を負傷したからだ。
事故に遭い、フェイトがベッドの上で意識を取り戻し、右足の状態を聞いた時は目の前が真っ暗になった。リハビリで歩く事までは治るが走る事はできない、そう主治医に告げられたから。
大好きなバスケを辞めなければならなくなり、その日の夜、彼は一人きりの病室で泣いた。

茫然としていたある日。
紋章遺伝子学の権威である父・ロキシの提案で、移植者の紋章遺伝子を組み込んだ人工の骨を本来の骨に変わり、足に移植した。
体の良い臨床実験、と言うところだ。
この実験がうまく行けば、人工心肺を移植したとしても、拒絶反応が極めて低下するらしく、医療技術の向上に繋がる。

フェイトはその実験体になる事を承諾した。
正直に言えば、溺れた者が藁にも縋る、そんな思いだった。
手術後、目立った反応はなく、全治半年。リハビリに半年を費やして歩けるようになった。

クリフの恋人とも言えるミラージュの実家の道場に通い、体を鍛えた結果、全力と迄は言えないが、走れるようになった。
ヴァルハラから星海に転校の為の手続きを行ない、手続きが終わってから学校が始まるまでの間に、ミラージュの監視のもとで身体を鍛えた。
格闘家の様な筋肉ではなく、身体を絞り込むボクサーに近い身体にした。
結果、短い距離、時間ならば走れるようになり、その後は筋持久力をつけるために、長距離を走る事にした。

星海に転校してから少しして、アルベルにからまれた。
アルベルの名前は聞いた事がある。星海と言う湖泥に埋もれたダイヤの原石、それがヴァルハラのバスケ部監督のガノッサの言葉だ。
その言葉通り、瞬発力、持久力をはじめとしてアルベル自身の能力は高く、バスケのプレイヤーとしての素質があるらしい。
だが、ガノッサの言葉通り、アルベルの才能は世に出る事無く埋もれていくだけだった。
それはアルベルだけでなく、各地の高校の生徒たちにも言える事だ。
IHは誰でもいける場所ではない。毎日同じ練習をし、それでも高校の3年間で全国に行ける可能性は限りなく低い。

星海学園のある地区及び圏内ではほぼ毎年ヴァルハラがIHに出ている。
だが、そのヴァルハラでさえも四千校あまりもある高校の頂点に立った事が無い。
昨年と一昨年のインターハイを征したのは流桜学院で、選手の実力、層の厚さ等をとってみて、それに比肩する高校は数少ない。
ヴァルハラも、IHではベスト16どまりなのだ。全国制覇は、遠くかすんで見える。
それでも、誰もが全国制覇を目指して、夏にぶつかり合うのだ。

以前から星海の顧問がクリフだと言う事は知っていた。クリフは星海のOBで、当時は全国区クラスの選手だった。
そのクリフでもIHを征した事は無い。
クリフの指導がダメというわけじゃなく、監督としてもレベルは高い。そんなクリフが教えているのに、PGをしている事に違和感を覚えたから。
アルベルの才能は他でもなく司令塔であるPGではなく、Fのポジションにあるとフェイトは思っていた。

アルベルの得点力は高く、最近の試合の殆どがアルベルの得点だ。ソロンもPGとしての能力は高いが、アルベルとおなじようにFの方がうまく機能すると感じていた。チーム内でも二位の得点率で、3Pシューターもそこそこの確率で入れている。
チームの主軸になっているのはこの二人で、どちらかが抜ければ負ける確率がぐんと高くなる。
その結果。選手層の薄さと、チーム内の同じポジションでもレベルの差が開いていると言う二つの理由によって、星海のバスケ部の衰退があった。

以前は真剣に全国を狙っていた。
だが、現在では趣味でバスケをする、という生徒が増えていて、少しでも練習がキツクなると辞める生徒が続出し、三年生で残ったのはアルベルを始めとした現在のレギュラーのみだった。
またバスケを始めると決めたからか、随分とバスケの事を考えている気がする。それだけしたかった、と言う事なんだろうか?

そんな事を考えていると、屋上の錆付いたドアを開ける音が耳に付いた。
振り返ると、ソフィアの姿がそこにあった。
赤い夕焼けの光を浴び、ソフィアの髪が小さくゆれる。

「あの、話ってなんでしょうか?」

ソフィアが緊張した面持ちで尋ねる。
控えめで料理上手。更に言えば美少女に分類され、同学年でも競争率が高いだろう。
だが、フェイトは断るつもりだ。
付き合えば、それなりに充実した学園生活を送れるだろう。相手に対する愛情がなくても、付き合っていけば生まれていくだろう。
それまでもてば、の話だが。

とにかくここ最近、フェイトはこの事について考えていた。彼女に対して、少なからず好意というものを抱いているだろう。
異性に対するような親愛の情ではなく、友人に対する友愛の情のそれであるのだが。
しかし、それでも言わなければならない。
拒絶の言葉と言うワケではないが、それでも相手の事を考えてしまう。
恋愛はそう言うものだと理解している。
だから、彼女に対しての言葉を告げるために、口を開いた。

「この間の事なんだけどさ……」

フェイトの言葉に、ソフィアは身を固くした。今から言う言葉は、聞きたくないだろう。それでも、目を逸らさずに真直ぐに見つめてきた。

「なんて言えば良いかな……君の事は好きだと思うんだ。だけど、その好きはさ、女性に対する好きじゃなくて、友達に対する好きなんだ。告白された事は嬉しかった。けど……僕の中では君は友達なんだ。だから、ごめん。君とは付き合えない」

フェイトの言葉を聞いて、ソフィアから表情が消えた。正確に言えば消えたのではなく、表情が固まったと言ったほうが正しいか。
ショックだと言う事を、フェイトはわかっていた。同じような体験をした事があるのだから、当然だと言えるだろう。
しばらくの沈黙の後、ソフィアが口を開いた。

「あの、好きな人がいる…ん……ですか?

急な問い掛けに、フェイトは黙り込んでしまった。
そんな事は、一度も聞かれた事が無かったから、返答に迷いが生じていた。
好きな人。言葉にしてみても具体的には誰なのかわからない。

身の回りにいる女性といえば、同じクラスのマリアとマリエッタ。
マリアの幼なじみのソフィア。
周囲からは公認となっているクリフの伴侶(?)ミラージュ。
アルベル関連で知り合って比較的仲が良くなったクレアとネル。
後はトラブルメーカーのウェルチ位だろうか。

事細かに数えるなら、ヴァルハラの時も数えるが、バスケ漬けの生活だったため、仲がいいのは片手でも数えられる人数だ。
思案が言葉をさえぎり、結果的に無言の肯定と取られたのか、ソフィアは走り去っていった。

「……」

彼女の後ろ姿を見送りながら、胸がチクリと痛んだ。
けれど、傷つかない恋愛などないのは、分かり切ったことだ。
誰も彼もが傷つかないこと等ありえない。だからこそ、フェイトは自分の言葉で伝えた。
いつまでも答えを先送りにするワケには行かない。
ヒドイと思われただろうか、ふとそん考えが頭によぎる。首を振り、その考えを振り払う。
恋愛なんてそんなものだ、と割り切るしかない。




綺麗な恋愛。




幻想と言える言葉だ。それでも、憧れてしまうのは仕方ないことだろう。
綺麗も汚いもある、それが恋愛なのではないだろうか。
フェイトはただ一人、屋上にたたずみ、くれていく夕日を見つめていた。
楽しく、騒々しく、それでいて充実した祭りは終わってしまった。
夏の気配がある。すぐそこに、暑い夏が近づいていた。
そして、バスケ部にとっても、彼にとっても熱い夏が訪れようとしていた。






















第一部  燻る情熱編……完












































後書き
な、長かった……それはもうホントに長かったですね。
この学園物を描き始めたきっかけは単に、春だから桜が咲いてたから、それだけです。
まぁ、それは冗談として。
今は無きフェイマリ祭でのチャットの中で桜の話がでて、その時に入学式の季節とかどーのこーのと話になったわけですよ。
本当なら読みきりで、続きを書くつもりは無かったのですが、ついつい『第一話』としてしまったのであら大変ね、と言うことなので御座いますです。
……冗談じゃなくてホントなんですよね(笑
確か、三年ほど前の話だったかなぁ……三年経って漸く第一部が完結し一段落、と言いたいところですが第二部を考えると大変な事になります。

そう。アルベルと言うか、バスケ部に所属したならば誰もが一度はIH制覇と言うのを夢見たでしょう。
無論バスケ部にのみならず体育会系クラブに所属したならば、多分。
まぁぶっちゃけね、全国大会まで書くか地区予選で終わるか、を思案中です。
全国大会編まで描くとなるとマジで、長くなります。ッツーか、試合描写だけで指がつりそうな上に、脳がパンクしそうでござるー
バスケ経験者助けてーーーーー!!

とまぁ、そんなわけで第一部 燻る情熱編は終了いたします。
では、第二部にご期待せずにお待ち下さいませ!


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