私立星海学園







第九話『交流戦 後編』








練習試合はまだ続いており、バンデーンと星海学園の試合は、あの後16点も追い上げられ、4点差の58−54で星海の勝利に終わったが、色々と課題を見つけた試合となった。
昼食の後、アールディオンとバンデーン、その次にヴァルハラと星海学園と言う風になっている。
アルベルは一人でどこかに消えてしまい、クレアが校内を歩いて探していた。
すると、茂みの奥の方から声が聞こえてきた。
アルベルの声で、どこか苦しんでいるようにも聞こえる。
そちらへと足を向けて、茂みを掻き分けていくと、左腕を冷やしているアルベルの姿があった。
額には大量の脂汗が浮かんでいる。

「アルベル・・・火傷の痕が痛むんですか?」

「チッ、テメェには関係ねぇだろ」

「そう言って、人を邪険にするとお弁当上げませんよ?」

クレアはそういって、自分とは別に作って来たお弁当をちらつかせる。
そう、アルベルの昼食は何時もクレアが作っているのだ。
アルベルは毎朝早朝から自主トレをしているため、弁当を作る時間はない。
いや、そうではない・・・作る時間があったとしても、大雑把な彼が弁当を作るだろうか?
そもそも、ウォルターは結構歳がいっているので、朝も早い。
大抵がアルベルが自主トレを行う前くらいに目を覚ましている。
何時も自主トレを開始する時間が6時頃なので、大体5時半かそれ以前には目を覚ましていたりするのだ。
主な日課は愛犬との早朝の散歩、それが終われば乾布摩擦、と健康的な生活を食っている為か、未だに痴呆症が始まる様子はない。
話は戻るが、一日の貴重な栄養摂取源がなくなれば、結構どころかかなり厳しくなる。
下手をすれば今日だけではなく、これからずっと購買部でパンを買わなければならないかもしれないからだ。
チッ、と舌打ちをして、アルベルは右手を出した。
お弁当箱を渡すと、クレアはアルベルの隣に腰を下ろす。
持っていたタオルで、額の汗を拭いた。
無言、クレアのやりたい様にやらせており、アルベルは口を開かない。
そんな時だ、優しい風が吹いた。
クレアの髪が風に吹かれ、風の中に舞い、髪を押さえた。
そんな幼馴染の仕草をみて、少しだけ鼓動が早くなる。
視線に気付き、クレアがアルベルへと振り返った。

「どうしたんです? 私の顔になにかついてますか?」

「別に何でもねぇ」

「そうですか・・・」

沈黙が訪れ、アルベルとクレアは黙々と弁当を食べる。
女性だからして、小食なクレアに対し、ドカベンに近いでかい弁当箱を半分近くは平らげているアルベル。
どこか嬉しそうにアルベルが弁当を食べているのをチラリと、横目で見る。
無表情、といえる表情だ。それでも、少しだけ照れているような、そんな気がした。
弁当を食べ終えて、休憩中。
後10分程で、昼休みは終わるのだが、アールディオン大付属高校とバンデーン高校との試合なので、1時間近くは間が開く。
アルベルは木の幹にもたれて寝ている。
先ほどの試合の疲れがたまって居たのだろうか、すぅすぅと小さな寝息を立てていた。
優しい笑みを浮かべると、クレアは自分の着ているジャージの上着をアルベルの上半身にかけると、腰を上げてその場を立ち上がろうとしたとほぼ同時くらいか、アルベルの頭が肩にもたれ掛かってきた。
意識的にではない、ただ体重がクレアの方へと傾いた結果だ。
頬を赤らめ、クレアは本当に寝ているかどうか確かめるが、眠っている。
小さく息をつくと、着ているジャージをアルベルにかけた。
一時間後、ヴァルハラとの試合がある。
恐らく・・・いや、確実に圧倒的な実力差を見せ付けるだろう、それでもアルベルは全力を尽くすだろう。

「アナタの目標は全国制覇。 ヴァルハラに勝たなければ、それは叶わない・・・だから、頑張ってくださいね」

小さく呟く。
少しすると、クレアにも眠気が訪れた。
眠ってはいけないと思うものの、結局クレアは寝てしまった。
五月とは言え、この陽気では仕方ないだろう。
その一方で、マリアは考え込んでいた。
つい先ほど聞いてしまった事。
フェイトが何故バスケを辞めた理由、それを知ってしまった。
知りたい、そう思っていたが、知らない方が良かったとも思ってしまう。
弁当を食べ終えると、一人になりたいのか、学園の敷地内を散歩する。
暖かな陽気。本来ならば、気分も良いのだが、フェイトの事を思うとそんな気分にはなれなかった。
何故か?
好きな事、今までそれに打ち込んで来た事を断たれれば、放心状態になるだろう。
フェイトの場合、子どもの頃から打ち込んできたのだ、ショックは大きいはずだ。
時折見せたあの陰鬱な顔が、それを物語っている。
その時だ、優しい風が吹き、マリアの長い髪が風の中で踊る。
ヴァルハラとの試合まで、あと40分程ある。
体育館ではバンデーン高校とアールディオン大学付属高校の試合中。
後40分も、どうやって時間を潰そうか、そう考えていた。
ふと、ついこの間のフェイトとアルベルの1ON1の試合でみた、エアウォークを思い出した。
白い翼があるフェイト、その姿はとても綺麗で、荘厳とも思えた。
足を壊していたと言う事実を知った今でも、そう思えてしまうのは不謹慎だろうか?
考えれば考えるほど、マリアの思考はマイナスに落ちていってしまい、如何し様も無い程に、陰鬱な方向を向いてた。
時間を潰すのはいいが、今は試合を見たくない気分だった。

「約束かぁ・・・あの約束の相手は、誰なのかしらね?」

誰かに問いかけるように、小さく呟いた。
日差しが気持ち良い。
こんな日は、あの公園で読書に限るのだが、今は無理だと考えてきた道を戻ってきた。
時間は後20分程で、帰り道に昼寝しているアルベルとクレアを見つけ、少し羨ましいと感じてしまう。
あの二人は付き合っていると言うわけでもないが、不思議と一緒にいる時間が多い。
無論、ネルも居る事は居るのだが、そちらは喧嘩友達的な感じが強く、会えばしょっちゅう口論に発展し、クレアがそれをなだめると言うのが日常だ。
早朝の自主トレは付き合ってないものの、深夜の自主トレに学校での早朝練習では、二人で何かしている事が多い。
何かとは言っても、アルベルとクレアの一対一なのだが・・・体力差に差があるものの、アルベルは自主トレを行った後なので、意外と良い勝負を行っている。
周囲では付き合っていると囁かれているが、当の本人は否定とも肯定とも取れないような、あいまいな返事をするだけだった。
最も、アルベルには怖くて聞けない、と言う事だが。
起こすのも悪いと思い、マリアはそのまま体育館へと戻って行った。
そして、今回の交流戦の最大の目玉、と言うべきだろうか、ヴァルハラ学園VS星海学園の試合が始まった。
主審はバンデーンのビヴィグ、副審はアールディオンの部員二人。
センターサークルにリーベルとカシェルがたった。
慎重さは殆ど無い、と言っていい。
周囲に敵味方が並びブザーが鳴るのを待つ。
ドクンドクン。
心臓の鼓動の音が、やけに大きく聞こえ耳に付く。
ブザーが鳴り、ボールが放り投げられた。
ボールに向かい、二人が同時にとんだ・・・はずだったのに、頭一個分の差をつけて、カシェルがボールをルシオの居る方へと弾く。
アルベルがルシオのマークに付き、ボールを付きながらルシオはフェイクを入れるが、それを見抜きアルベルは対処する。
一進一退と言うべきか、彼らの言った通りアルベルの実力は、ルシオ並だ。

(お前の実力は認めるよ、アルベル。 だけど、お前以外はどうかな?)

真横へとボールを投げる。
ロキがそれを受け取ると同時、全員がゴールしたへと走った。
一瞬だけ意識を取られたその隙に、ルシオもゴール下へと走る。
ロキはドリブルで走る。
スティングがマンツーマンでディフェンスに付く。
左へのフェイクを入れて、レッグスルーでボールを持ち替えて、スティングを抜くと走る。
それをスティングが追うが、ロキはラウリィへとパスすると、すぐにシュートを打った。
弧を描き、リングへと向う途中でカシェルがボールを掴み、リングにたたきつけた。

(アリウープ(※1)が宣戦布告か、おもしれぇ)

アルベルは一人、燃え始めた。
ソロンからスティングへとパス。
周囲を見渡した後、ドリブルで前に進む。
同じポジションのラウリィがディフェンスに入る。
ディフェンスもプレッシャー(※2)の掛け方も、スティングに比べれば巧い。
センターサークル付近で二人の攻防。
辛うじてラウリィを抜くと、アルベルへとパス。
それを読んでいた・・・と言うよりも、先ほどのバンデーン戦において、アルベルにボールが集中しすぎていたのだ、予測は容易いだろう。
ルシオがインターセプト(※3)して、速攻。
ディフェンスのいないゴールへと、ボールは吸い込まれていく。
更に得点を重ねられた。
アルベルとソロンが少し言葉を交わした後、ソロンからアルベルへとパスが渡った。
速攻で一人、切り込んでいく。
昨年の地区予選では1回戦でやり合った。
その時とは段違いなほど、スピードも技術も上がっている。
ロウファがディフェンスに入るが、それをロールとレッグスルーで回避すると、ラウリィとロキがディフェンスに入る。
小さく笑みを浮かべると、ボールを後ろへと投げる。
当然、と言う位にソロンがそれを受け取り、ドリブルで進む。
センターサークルは既に超えて、3Pラインの近くま来ており、ルシオがソロンと相対した。

「まさか、僕に君が付く日が来るとわね」

「随分と余裕だな」

「とんでもない、これでも一杯一杯なんだよ」

そういっている割には、ルシオの動きを良く見ており、身体を動かしながらボールをとり難い位置でついている。
やりにくいな、と心の中で呟いたルシオの隙を見つけて、ソロンがシュートを打った。
3Pラインからのシュート、リバウンドはカシェル一人とリーベルとスティング、そしてアストールの三人。
リーベルとスティングが双子のチームワークを見せて、カシェルを抑えている。
だが、ボールはゴールを通り抜け、点差は一点差となった。
クリフはその試合展開をみて、呟く。

「まぁまぁ、ってとこか。 ヴァルハラもまだ手を抜いてるみたいだからな、点を取るのは今のうちだぜ」

その呟きは無論、マリアにも聞こえている。
ラウリィとルシオの二人が、見事なパスワークでゴールへと切り込んでいたが、最後でスティングがインターセプトして、ドライブ(※4)。
すぐにセンターサークルを超えて、リング下へと入り込みレイアップ。
カシェルがディフェンスに入るがぶつかり、ボールはリングをくぐって床に落ちた。
笛が鳴り、審判が口を開いた。

「ディフェンシブチャージ! バスケットカウントワンスロー(※5、6)!」

スティングがフリースローラインに立ち、ボールを受け取る。
ボールを付きながら、気持ちを落ち着かせ始めた。
数回ボールを付いた後、シュートを打つ。
バックボードにあたった後、リングに当たりボールがリングを通り、床に落ちた。
得点が1P加算されて、二点差をつけて星海が有利になる。

「気ぃぬくんじゃねぇぞ!!」

アルベルの声が体育館内に響く。
人一倍負けず嫌いな彼だ、今までの苦渋を返すつもりなのだろう。
点差が開けば自ずと慢心を生む、それで何度苦汁を舐めた事か。
それを引き締める為の一言だ。
経過した時間はまだ4分程、気を抜かなければ然程点差を付けられずに第一クォーターを終えられる。
少し息を整え、ルシオのマークに付いた。
気を抜けば一瞬で抜かれるので、気を抜く事無くボールとルシオの動きをみる。
細かなフェイクを入れながら、アルベルのマークを振り切ろうとするが、振り切れずに居た。
付かず離れずの位置で、ルシオへのパスがあれば、確実にインターセプトするだろう、そう考えてかルシオへのパスは無かった。
プレッシャーをかけてるアルベルと、マークを振り切ろうとしているルシオとは別に、4対4で試合をしている状況に近い。
お互いが、斬り込み隊長であるPGが二人して競っているのだ、無理もない。

(やれやれ、二人とも同レベルだから振り切るのは難しいか? なら、僕の出番か)

パスを受け取ったロキがロウファへとすぐにパスを渡し、走った。
ロウファもドリブルで切り込むと、同じポジションのアストールがディフェンスに着く。
しかし、ロールと見せかけて、すぐ真横へとパスを出した。
ラウリィが受け取ると、すぐさまシュートを打つ。
ボールはリングに当たる事無く、リングを通り抜けて床へと落ちた。
ふぅ、と一息つくとラウリィが背を向ける。
得点差が1点差で星海が追う側となった
そのまま第1クォーター、第二クォーターと過ぎていく。
点差は広がり7点差の32−27で、まだ星海が追う側だ。
10分のハーフタイムで、どれだけ消耗した体力を回復できるかが、ある意味で鍵になるだろう。
スポーツタオルを頭に被せ、アルベルは息を整える為に、極力口を開かないようにしている。
手にはスポーツ飲料水があり、時折少しだけそれを飲んでいた。

(クソッ・・・俺一人では無理なのか? ヴァルハラを超えねぇと、全国制覇なんざ叶わねぇ)

心の中で呟き、手にした飲料水を一気に飲み干した。
それは高1からの目標だった。
1年の頃は、新人戦に置いてフェイトとやり合い、実力差を見せ付けられた。
それ以来、朝晩のトレーニングを欠かさなくなった。
高2になるとすぐに、ヴァルハラとの練習試合があり、実力でレギュラーをもぎ取ったアルベルは、フェイトとやりあう事を心の奥底で楽しみにして居た。
しかし、ヴァルハラのレギュラーの中にも、ベンチにも、姿は無かった。
アルベルの善戦により、一応は10点差まで詰め寄るものの、負けてしまう。
それからトレーニングの量を増やした。
毎朝の太陽が乗る時間帯に起きて、早朝の自主トレ。
それが終わると、部活での朝練。
授業中は殆ど寝ていると言っていい状態だ。
放課後の部活を終えると、帰りにどこかで夕食を食べると、何時もの場所で一人練習をする。
ずっとそんな生活を続けている。
フェイトに勝つ為に、全国制覇となす為に。
一瞬だけ、意識が飛んで居たのをクレアの声が引き戻す。

「アルベル、アルベル!!」

「・・・なんだ?」

「クリフ先生の話、聞いてました?」

「・・・聞いてねぇ」

「ちゃんと聞いて下さい」

クレアが急用でこれないマネージャーの変わりに、クレアが入っている。
少し眠そうにしているが、スコアはちゃんとつけている。
先ほど、クリフが言って居たことをアルベルに説明すると、アルベルが頬杖を付き口を開いた。

「あの野郎、何考えてやがんだ。 いきなりポジション替えるなんざ、阿呆か」

「私も同意見ですが、ある意味で的を得てるかもしれません」

「あぁ?」

「これを見てください。 リーベルさんよりもアストールの方がリバウンド率が高いんですよ、それを踏まえてなのかアストールさんがCに入って・・・リーベルさんがPF に入りました。 これで、二人のバランスが保てると思います。 それに、アルベルがPGからSFにポジションチェンジしました」

「んだと?」

「今までの試合では、殆どアルベルが得点源ですから・・・アルベルなら、ドリブルで切り込んで敵のディフェンスも崩せますし」

「随分と買われたもんだな」

「アナタの努力が買われた証拠じゃないですか?」

クレアはスコアを見ながら呟いた。
ポジションチェンジを行い、アストールがC、リーベルがPF、スティングがSG、ソロンがPG、アルベルがSF。
第3クォーターに入り、ヴァルハラの面子が少々困惑している。
星海が急にポジションチェンジを行ったからだ。
だが、所詮は苦し紛れだ、と考えて居たのだろう。
ボールがソロンに渡ると同時、ドリブルで走った。
今までの動きとは違い、とても鋭いドリブルだ。

(コイツ・・・アルベル並だな、注意した方が?!)

ソロンのマークについていたルシオをアッサリと抜き去り、パスを行う。
ギリギリでインターセプトができない位置に居たリーベルへとパス。
パスは通るが、そのパスを読んでいたかのように、カシェルとロウファのWチーム。
リーベルがドリブルが苦手なのを見抜いたのだろう、すぐ側にはサイドラインがあり、四面楚歌の状態だ。

(な、なんで俺にWチームなんだよ!?)

粘ってボールをキープしていたが、パスをする事ができず、24秒ルールによりボールはヴァルハラ側へと移る。
ロウファから、カシェルへとボールが渡り、すぐにアストールがディフェンスに付いた。
キュッキュッと、バスケでは当然の音が、体育館内に響く。
カシェルからロウファへとパスが戻るのを見て、リーベルがインターセプト。
ほんの一瞬だけ間を置き、スティングへとパスされた。
スティング、ソロン、アルベルの三人がゴールへと走る。
それぞれのマークについていたラウリィ、ロキ、ルシオも追いかける。

「そのままシュートを打て!!」

「え?」

「さっさと打てっつってんだろうが、ボサッとすんじゃねぇ!!」

アルベルの言葉に従い、ゴールへと向けてシュートを打つ。
ボールの軌道は少しずれている。
だが、リングに一番近づいた時に、それを掴んでリングへと叩き込んだ。
着地するとすぐに背を向けて、歩き出した。

「あの野郎・・・味な真似してくれるじゃねぇか」

カシェルに対するモノではなく、ヴァルハラに対する宣戦布告だろう・・・それを同じアリウープで返したのだ。
アルベルの実力は、ヴァルハラないでも認められているらしく、それを見てか全員が高揚感を感じて居た。
それからの試合は白熱していき、点を取れば取り返すと言う試合展開になり、点差は依然として7点差。
拮抗した試合で、そのまま第4クォーターを向える。
点差は7点差で59−52で追う側なのは変わっていない。

「ハハッ、今までの星海とは全く違うな。 面白くなりそうだよな、ロウファ?」

「確かにそうだね、本気で行くかい?」

「やれやれ、交流試合で本気を出すとはね・・・それだけ、星海が復活して着ている、という事かな?」

「僕は皆さんの趣旨に任せます」

「よし・・・それじゃ行こう、あいつらに実力差を見せてやろう」

ルシオが立ち上がり、コートへと入っていく。
それに続き、ロキ、カシェル、ロウファ、ラウリィが戻る。
今までとは違う雰囲気を感じ取っており、アルベルは少しだけ、笑みを浮かべていた。
第四クォーターが始まると、ヴァルハラが速攻で攻め込んでいく。
早いパスワーク、それを止められず点を取られてしまう。
アッサリと点を取られ、スティングがソロンへとボールをパスすると、間を置かずアルベルへとボールが渡った。
アルベルとソロンの二人を攻撃の起点としており、アルベルに渡ると二人のマークが付いた。

(Wチームか・・・まぁ、良い判断だな)

心の中で呟くと同時、パスをだした。
アルベルはこの試合では、数えるほどしかパスを出していない。
その先にはリーベルがおり、すぐにシュートを打てる位置にいて、受け取るとすぐにシュート。
だが、カシェルがそのシュートを阻み、ロキへとボールが渡った。

「さぁ、遊びは終わりだ」

ロキの誰にも聞こえないような小さな呟き。
そのまま、試合は一方的なものとなった。
点差は開いていき、結果的に20点差以上付けられ、85−62と言う形でヴァルハラの勝利に終わった。

「クソッ・・・」

「アルベル!」

「あぁ?」

「楽しかったよ。 次は・・・地区予選で当たった時は、最初から全力で行く。 地区予選決勝でまってる」

「・・・次は返り討ちにしてやる」

ルシオの言葉に、そう返すと背中を向けて歩いていく。
荒れている息を整える為に、体育館を出ると人気の居ない場所へと移動する。
アルベルが一番気に入っている場所。
人もあまり通らない場所、アルベルは腰を下ろすとタオルを頭にかけた。
悔しさ、それがあふれ出す。
練習試合とは言え、またヴァルハラに負けた。
勝たなければ、全国大会・・・インターハイには出ることはできない。
超えなければ全国制覇は夢のまた夢だ。
しかし、可能性が無いと言うわけではない。
フェイトが入れば、その可能性は大きくなる。
だが、フェイトはバスケを辞めたと言っていた。
アルベルは直感的に、フェイトがバスケを辞めたのではなく、辞めざるを得なかった状況になったのだと、感じていた、
そうでなければ、あの時にあれほど感情的になるはずは無い。
彼は感情を抑えているつもりだったのだろう、だが、アルベルから見れば、抑えていないと感じて居た。

(辞めた理由なんざ知るか、テメェにはもう一度コートに戻ってもらうぜ)

心の中での呟き。
結局、交流戦はヴァルハラの圧勝に終わり、幕を閉じた。
その夜・・・アルベルは休む事無く、何時もどおり夜の自主トレを行っていた。
ボールが転がっていく。
それを拾いに行こうと、そちらへと足を向けようとしたが、思わぬ人物が立っていた。

「やっぱりここに居たんですね、アルベル?」

「・・・何かようか」

「別に用と言うわけではないですよ。 明日が休みとは言え、今日はもうこれくらいにしたらどうですか?」

「テメェには関係ねぇだろうが」

「何言ってるんですか、身体を壊すだけですよ」

「・・・チッ」

小さくしたうちすると、アルベルは上着を羽織ると、クレアに近づいていく。
ボールを受け取り、アルベルは一人先に歩いて行った。
少しだけ苦笑し、クレアはアルベルの後を追っていき、すぐ隣まで行くとアルベルの顔を覗き込んだ。
前髪で目が隠れてしまうので、こうやって見るとアルベルは綺麗な顔立ちをしている。
多分、性格がもう少し良くなればもてるだろうと、クレアは考えており、そうなれば少し、嫉妬するだろう。

「なに人の顔をじろじろ見てやがる」

「いえ、こうやって見ると、余り変わってないと思って」

「何が言いてぇんだ、テメェは」

「別に、なんでもありませんよ」

そういい、少しだけ笑みを浮かべた。
アルベルは息をつき、空を見上げた。
もう、何年も空を見上げた事は無かったが、何故か空を見たいと思ったからだ。
星が煌く空、とても綺麗だった。

(久々に空を見たが・・・たまにはいいもんだな)

アルベルはまた前を向くと歩き出した。
一方フェイトはと言うと、風呂に入るために、着替えを持って脱衣所に入った。
服を脱いでいく。
右足に、大きな傷があった。
新しい方に分類されるだろうか、恐らくは1年近くは前のモノだろう。

「あの日から1年も経ってるのか、早いもんだよな」

右足に触れて、フェイトは呟いた。
あの日、バスケを止めるきっかけとなった傷を作った日。
事故にあった。
車を運転していた者の過失で、フェイトは傷を負ってしまった。
その結果が、今の状況だ。
バスケを止めようとしたのだが、止めたくないと思った。
だが、1年近くのリハビリを経て、杖なしで歩く事ができる様になり、彼はクリフの家に居候して星海学園に転入した。
傷がズキズキと痛み出した。
気分が陰に入ると、それを遮るように痛みを発する。
長年の生活で染み付いた朝晩のジョグの時も、ズキズキと痛みを発していた。
昨日、アルベルとバスケをした時は、不思議と痛みを感じる事は無かった。
何故だろうか、あの高揚感が未だに彼を支配している。
痛みが随分と和らいでいる、そんな気がした。
浴槽にはられたお湯の中に入って、フェイトは入念に右足を揉んだ。
痛みはある。だが、フェイトは毎日こうしている。
あの日から毎日そうだ、もう日常的な事。

「僕だって・・・また、バスケがしたいよ」

ポツリと呟いたフェイトの頬を涙が伝い、流れ落ちた。
フェイトは、久々に涙を流した。
バスケへの想いは未だに、断ち切れていないと、フェイトは感じていた。



























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