GUN BRAVE RELOAD
GUN BRAVE RELOAD
〜The Shine Of Eternaly〜
追憶の過去
アヴェンジャーが、アルフェス達の手によって壊滅してから3ヶ月が経った。
彼等は平穏な日々を送っており、何事もなく平和に暮らしていた。
だが・・・・そんな平和とは裏腹に、裏の世界で大きな動きがある事を、彼等はまだ知らなかった。
平和になってからもアルフェスは、とある組織に関しての情報を収集していた。
その組織の名は"ゼウス"と言う名で、古代フィラウス帝国十二天神と呼ばれる戦士の字を由来した組織の名前で、『雷帝』と呼ばれた人物をモチーフとした名前である。
そして・・・今また熱き戦いの火蓋が、切って落とされようとしていた。
ユナイテッドアーツより、西方へATの歩みにて15日の所に、広大な森があった。
その森は遙か昔より、霧に閉ざされている森で、その森の奥深くには、一つの泉がありその近くに、人が近寄れぬ遺跡が存在しており、遠い昔にその遺跡で大きな戦いがあった。
現代では邪龍戦役と呼ばれる戦いである。
また、そこから西方へ行くと禁断の国が存在しており、世界中のあらゆる国から恐れられている国の名は・・・『エルシェント帝国』と言う。
かつては、フィラウス、フォトスフィアと言う名で呼ばれており、その帝国は、代々と竜皇と呼ばれる一人の男によって治められ、平和な生活を送ることができ、戦争とは無縁なため、永世中立国となっている。
しかし、闇の世界の住人・・・魔族と呼ばれた存在との戦いの影には必ず、この帝国の姿があった。
封龍戦争、第一次竜魔戦争を除く、第二次竜魔戦争、邪龍戦役、黄龍戦争、ベルヴァイザー戦役・・・歴史に残る戦いには、ほぼ全て『グリード』と『ディアナ』の名があり、現在この帝国は世界政府すら介入出来ない程の権限を持っている、と言うより世界政府を創りあげ、それを統率していたのがこの帝国の皇帝なのだ。
世界政府を創りあげた理由や真意は不明だが、世界政府を創りあげた結果…アルフェスと杏子が創設した組織は政府の思惑が入り、凶悪な犯罪者や危険視されている傭兵を捕縛し、アナハイラスと呼ばれる牢獄へと、投獄する組織となった。
だが、実際はある事件をきっかけに姿を消した友人が追っている組織に関連しうる人物を捕縛していたのであるが、その全てが何らかの能力を持つ者達であった。
そして・・・アヴェンジャー争乱より時は遡り5年、アルフェスと杏子の2人は、ある場所へと向かっていた。
アルフェスが乗っているのは、アルフェス専用のカスタマイズ騎である黒霊騎士(ブラック・ファントム)と呼ばれる騎体で、杏子が乗っている騎体も専用のカスタマイズ騎である白銀凰(アルジャンテ・ロワイヤル)と呼ばれる騎体だ。
2人の乗る騎体は、西方へと向かっており眼下には、濃い霧がたちこめる広大な森が広がっていた。
「そろそろ降下するぞ」
「ん、わかった」
アルフェスの乗る黒霊騎士から、通信が入り杏子は短く答えると、黒霊騎士が降下し始め杏子の白銀凰もそれに続き、降下し始めた。
前方に、遺跡の様な物が騎体の視覚素子に写り、それが操術室のディスプレイへと写された。
黒霊騎士と白銀凰が着地すると、アルフェスは騎体を起動させたまま地面へと降り、杏子はちゃんと騎体を停止させれから地面へと降り、アルフェスの隣りに立つ。
深い霧が立ちこめるこの場所は、一般的に禁断の地と呼ばれており、一説によると異界への門があるという噂もある、2人は足並みを揃えて中へと入っていく。
光が射し込む事の無いそこだが、何故か一定の間隔を置いて松明が灯されており、薄暗い光の中を2人は進んでいく。
その途中、破壊された柱や大きな窪み、更には巨大な獣の骨があり、薄暗い松明の光に照らされ、何とも言えないオーラを放っている。
アルフェスはキョロキョロと見回しながら、長く暗い道を歩き、杏子は何処か顔色が悪いまま、アルフェスの服の裾を掴み、何とか恐怖に耐えている、といった感じだ。
歩いていく内に、瓦礫の山が2人の行く道を遮り、脇道へとそれていく。
そこは真っ暗な闇とも言えるほど、暗かった。アルフェスは携帯の電灯を取り出し、そのスイッチを入れると明るい光が広がり、辺りを照らした。
そこも荒れ果てており、二つの剣が交差して突き刺さっているのを見て、アルフェスは歩みを進めていった。背中に隠れるようにして、杏子はアルフェスについていく。
暫く歩き、開けた空間に出ると、まず巨大な窪みが目に付いた。
大きな爆発があったのでは、と思うほどのクレーターにも関わらず、内壁が壊れている様子はなく、所々瓦礫が積み上がっている程度だ。
「すげぇな・・・」
その凄惨たる光景を見て、アルフェスが思わず言葉を漏らした。
床には、所々乾いた血痕があり、ここであった出来事が、現在の常識を越えていると言うことを、アルフェスと杏子は認識した。
一通り調べてみたが、ここには何もなかった。
再び歩みを進めていくと、廊下伝いの一室から光が漏れているのに気付き、2人は銃を手にする。
恐る恐る、部屋の中を覗き込むとぼんやりと光を放つカプセルが、中央に置かれていた。
アルフェスと杏子は、それを見て驚きの声を漏らす。
カプセルの中には金髪の少女が眠っていた。
「まさか、本当とはな・・・」
「エリシア・・・」
「・・・そうだ。 お前達も、知っているだろう?」
不意に、後ろから発せられた声に2人は同時に銃を後ろへ向け、トリガーを引こうとするが顔を見て、2人はそれを止めた。
かつてスティアフォード戦役とバニシングブリットにて共に戦った戦友でもあり、アルフェスの盟友とも言える男・スフィード=アルバートが、そこに立っていた。
かつてとは違い、多少窶れたという感じを受けるが、それにもまして身体が引き締まっている。
恐らく、出来るだけ脂肪を削ぎ落としたのだろう、以前とは違う風貌になっていた。
スフィードは、部屋の中央に有るカプセルへと近付いていく。ゆっくりと歩き、靴音が部屋に響く。
カプセルに手をあてて、スフィードは眼を瞑り静寂が訪れる。
その場にいる三人の、誰もが口を開かなかったが、その静寂は一人の男によって消え去った。
「ほぅ・・・部下からの報告があったので来てみたのですが、再び貴方達にあえるとは意外でしたね」
部屋に入ってきたのは、一人の男。
黒髪に碧眼、黒いロングコートを羽織った男で、切れ長の目と縦に割れた瞳孔が、三人を見る。
それから、中央にあるカプセルに視線を移して、僅かだが顔を顰めた。
アルフェスは銃口を男へと向けて、口を開いた。
「フィリッド、てめぇ・・・何故ここにいやがる!」
「おっと、私は貴方達とは争う気はありません」
「どうだかね・・・」
「・・・降りかかる火の粉は振り払わなければ行けませんね」
「まて、アルフェス、フィリッド。 ここでやり合うというのなら、俺がお前を殺すぞ?」
スフィードは抑揚の効いた声で、2人に言う。
ここで、やり合えば本気で彼等を殺すつもりだ。
2人は銃をホルスターに入れると、スフィードの方へと向き直る。
悠然として佇むフィリッドだが、その表情からは何処か、哀しみを感じ取れた。
カプセルの中で眠っている女性・・・エリシア、と呼ばれた女性は何も答えず液体にみたされたそこで、ただ目覚める事のない眠りについており、四人はただ彼女を見つめていた。
「その女性が、あの実験の犠牲者ですか・・・」
フィリッドがゆっくりとした足取りで、そのカプセルへと近付いていく。
警戒心を解くことなく、アルフェスはフィリッドの動向を見つめていた。
カプセルの間に立り、義腕の右腕で、そのカプセルに触れる。
哀しみ、と呼べる表情を浮かべながらフィリッドは、彼女を見つめている。
小さく口を開き、言葉を発する。
「すまない・・・私が至らないばかりに、お前を危険な目にあわせてしまって・・・」
誰にも聞こえない呟きを発し、フィリッドはコートを翻して振り返った。
凛とした表情と、彼から発せられる覇気は、以前にもましていた。
その日から・・・数ヶ月後。
アルフェスが、齢19にしてある組織を創りあげた。
後に、アヴェンジャーと呼ばれる組織である。
そしてアヴェンジャー創設から2年、組織は世界政府に併合され、政府直属の機関となっており、凶悪な犯罪人を始めとして危険思想の持ち主、SSランクの傭兵や危険視されている暗殺者等を捕縛する組織となっていた。
元々は、ある事を目的として創設されたのだが、それは創設者のみが知ることである。
アヴェンジャー本部の司令官室のオフィスに、アルフェスは居た。
やる気が無さそうに、火のついていない煙草をくわえながら、足を組んでその足を机の上に乗せていた。
「こら、アルフェス。 そう言うことはしないの!」
「んぁ? 良いじゃねぇか、やる事は全然ねぇんだしよ」
「そ、それはそうだけど・・・」
「杏子・・・小姑って呼ばれているのを気にしてるのか?」
「そう呼んでるのはアンタだけよ!!」
そう叫び、アルフェスに向けて手にしている書類の束を投げつけた。
厚さ4cmもある書類の束が、顔面にぶつかりアルフェスは椅子から転げ落ち、鼻の頭を押さえながら立ち上がった。僅かだが、目尻に涙が浮かんでいる。
杏子は、溜息を付いた後大げさに肩を竦めて、アルフェスを見る。
鍛えられている身体だ。
二丁の銃を片手で扱う握力に、判断能力やそれの対処等、その殆どが傭兵の中でもトップクラスだろう。
「全く、そんな程度で痛がらないの」
「あのな、痛いモノは痛いんだよ・・・」
「はいはい、イタイのイタイのトンでいけー」
「・・・お前が、普段俺をどういう目で見ているのかが、よぉぉぉぉく分かった」
「あ、あははは・・・・」
顔面にぶつかって散らばった書類を束ね、それに目を通していく。
パラパラと捲っていくだけで、頭の中には入っていないだろう。
一応、目を通し終えてアルフェスは、その書類の束を手にして杏子の元へと歩み寄って行った。
彼女の目の前に立つと真面目な顔で、杏子を見つめると腰に手を回して、抱き寄せると彼女の口唇を奪った。
僅かに、彼女の体が震えるがすぐにそれは収まり、腰に手を回す。
「もぅ・・・いきなり何するのよ」
「ん、まぁたまには良いじゃねぇか、な?」
抱いていた杏子を離すと、アルフェスは手にしていた書類の束を、机の上に置いて向き直る。
杏子は薄い紫のタイトスカートを履いており、同じ色のジャケットを着ている。
整った顔立ちで、タレ目がちの眼で丸い黒縁の鼻眼鏡を描けており、端から見ればキャリアウーマンと言った感じだ。
誰も彼女が、戦場で『音速の銃士(ソニック・ガンナー)』と呼ばれ、恐れられているとは知らないだろう。
無論、アヴェンジャーの人間は知っているが。
少し捲れ上がったスカートの裾を直し、僅かに乱れた髪を整えて、アルフェスを見た。
先程とは違い、真面目な顔をしておりその表情は、凛としている。
「杏子、実はだな・・・」
「ん? どうしたのよ、改まっちゃって・・・コーヒー呑む?」
「あぁ、貰っておく」
杏子の入れたコーヒーを一口飲んで、息をつく。
ソファに腰を下ろし、杏子もその隣へと腰を下ろした。
「さっきの続きだが・・・俺はこの組織を潰そうと思う」
「・・・」
「まぁ、お前は判っているとは思うが、組織は俺達の意図を離れ世界政府の直下の機関になっちまった。
俺達は奴等の情報を得るために、能力を持った者を捕らえて情報を聞き出していたな?」
「えぇ・・・現在のように、アナハイラスに入れる事無くそのまま開放していたわね」
「そうだ。 奴等の情報は殆ど無いと言って良い。 だから、この組織を潰す」
「世界政府直下の特務機関を私的な理由で?」
「私的じゃないさ、十二分な理由だ」
コーヒーを飲みながら、2人は話していた。
その時だ、オフィスに一人の人間が入って来た。
ゴーグルをつけた銀髪の少年だ。
何かの報告に来たのか、彼の手には報告書があった。
少年の名はJ・D、彼の本名を知る者は彼の素顔を知っている者と、肉親ぐらいであろう。
「え〜〜っと・・・アルフェスさん、ちょっと良いですか?」
「ん? どーした?」
「えぇ・・・ルーシェンの事なんですが」
「ルーシェンか・・・アイツが又何かしでかしたのか?」
「しでかしたと言えば、しでかしたかも知れませんね」
頭を掻きながら、答えるJ・D。
年齢は14、5歳と言ったところか、まだ幼さを残した顔立ちをしている。
手にした書類の束を、杏子に手渡すと自分でコーヒーを煎れて、それを啜った。
受け取った書類に目を通しながらコーヒーを啜り、呆れたように息をつき、それをアルフェスに手渡した。
「・・・これは、始末書か?」
「えぇ、全部ルーシェンの物ですよ」
「マジか!? よくもまぁ、こんだけ始末書を書いたもんだ」
そう言って、手の中にある始末書の束を見て、肩を竦めた。
厚さは大体1cmあるか無いくらいで、かなりの量に達している。
流石に、アルフェスでも溜息を付いており、かなりげんなり賭していた。
ルーシェンは優秀と言えば優秀なのだが、頭が固すぎるのだ。
始末書に目を通し終え、アルフェスは其の始末書の束を机の上に置き、再び息を着いた。
「さて・・・どうした物か」
腕を組んで考えるが、良い案が出ない。
実際に、始末書を書くときなどは、大抵がある事が絡んでいるからだ。
そのある事、と言うのがアルフェスに対しての批判である。
彼は、アルフェスを崇拝しているところがあるので、尊敬する者に対して尽くす節があった。
が、それはある意味で盲目的な狂信者と言えばいいか、その様な節もある。
絶対的な信用、そして裏切る事はないと思い込んでいるが故、数年の後に事件は幕を開けるのだ。
杏子は、自分の能力“未来詠み(リード・ザ・ホープ)”の力で、その事を知っている。
未来を詠むという事は、無限の可能性を摘み取ることとなり、生きる希望すらも無くなっていくと感じており、杏子は詠んだ未来を誰にも話すことはなかった。
「J・D、お前には話して置くが・・・近々俺達は組織を抜けるよ」
「本気、何ですか?」
「当たり前だ、本気じゃなきゃいわねぇさ」
アルフェスの答えを聞き、J・Dが銃を抜こうとするが、杏子の持つ銃がJ・Dの側頭部に押しつけられ、J・Dの動きが止まる。
アルフェスも銃を抜いており、銃口がJ・Dに狙いを付けていた。
身動き一つ取れない状態で、J・Dは再び口を開こうとするが、何故かそれすらも躊躇った。
この状態で、何時間過ぎただろうか、正確に言えば5分も経過していないのだが、極限まで高められた緊張感が、時間という概念すらも忘れさせようとしているのだ。
アルフェスが銃を納めると同時、杏子も銃を納めた。
そして、J・Dは口を開いた。
「どうやら本気みたいですね。 ま、僕に止められるなら止めてますけど、無理そうですねぇ」
「ま、そう言うこった。 俺としては、このままにして置きたくはないがな」
「ならどうして?」
「俺の意向と、政府の意向がかみ合わないのが原因だ、と言えば納得するか?」
「はぁ・・・そんなので納得できるワケないじゃないですか、全く」
「でしょうね、でも組織を抜けたからと言って、別に支障はないと思うわ。 暫くの間は監視されそうだけどね」
杏子はそう言いながら、手に持っている銃を弄くっている。
そして、その日から一週間後、ルーシェンとJ・Dがアヴェンジャーの新司令官と副司令官に任命され、新たな動きを生みだした。
その日から丁度一年後・・・J・Dは自宅の屋根に寝転がり、ひなたぼっこをしていた。
着ている服は、相変わらずのジーンズ、上は黒いタンクトップ、ゴーグルを外しておりその素顔が露わになっていた。
黒い宝石が埋め込まれた右目、そして蒼い瞳が青い空を見つめている。
風が吹き、J・Dの髪が宙を舞った。
ルーシェンと共にアヴェンジャーの指揮を執る様になってから、急激に仕事が忙しくなった。
それも其のハズ、裏家業の人間や傭兵、殺人鬼などは大抵がアルフェスの名を知っており、其のアルフェスを恐れていた為か、表だった行動に出にくかったのだろう。
彼が引退すると同時にそれまで大人しかった者達が活発化していき、仕事内容が増えたのだ。
そんな忙しい中、J・Dは久しぶりの休日を満喫していた。
「いい天気だナァ・・・」
そう呟き、屋根の上でウトウトとしていると、いきなり爆発音が轟き、J・Dは慌てて身体を起こし屋根の上の方へと歩いていき、そこからぐるりと辺りを見回した。
ある場所から、黒い煙が上がっており、J・Dはそれを見て場所を確認する。
場所は、アルティナ=レイドナーの住む屋敷であった。
J・Dは屋根から飛び降りると、二階のテラスを掴んで勢いを殺して地面に着地、ゴーグルをつけてRGX−SV209・・・ブレイドと呼ばれているバイクに乗ると、エンジンを掛けてスロットルを回し、煙の上る場所へと向かっていた。
現場に着くと、既に警察関係と報道陣が取り囲んでおり、J・Dは野次馬に紛れてそれを見ていたがふと、気になる事があり身分を明かし、中へと入っていった。
焼け跡を一人で歩き、少し変に思う場所を見つけて、何度か其の場所を叩いてみると空洞があるのか、音が響いており、J・Dはナイフを取り出してそこに突き刺した。
「よっこらせっと!」
重苦しい音と、上に乗った燃えカスが堕ちて、暑い空気が解放された。
携帯用のライトで、その中を照らすと長い金髪の少女が倒れており、J・Dは慌てて中へと降りていく。
少女の脈を計り、J・Dは身体を見てみる。
全身に傷があるが致命傷、と言う傷ではないが、左目が抉り取られているのか、左目の部分から血が流れ出ている。
J・Dは彼女を抱き上げて地下室から出ると、一人の男がそこに立っていた。
「隆一さん・・・?」
「久しいな、冬真。 アルティナは無事か?」
「アルティナって言うんですか、この人」
「あぁ。 だが、先に病院へ連れていくから俺の車に乗せる」
「わかりました。 僕はバイクで、後ろを付いていきますから」
そう言い、J・Dは抱きかかえている少女アルティナを隆一に任せ、バイクのある場所へと歩いて行く。
隆一はアルティナを後部座席に乗せて、車を走らせた。
公道を100km近くのスピードで走り警察に追われたのは言うまでもないが、J・Dのお陰で何とかそれを撒き、隆一はある病院へとアルティナを運び込んだ。
其の病院は、アルティナの家・・・レイドナー家が経営資金を出している病院で、腕利きの医者が居るので一安心と言った所か。
手術中と言うランプが点き、長い手術が始まった。
手術室の前で、一息ついているとJ・D・・・いや、ゴーグルを外した冬真が姿を見せた。
「隆一さん、事情を話してくれますよね?」
「さて、何処から話すべきかな・・・」
「話しずらいなら、要点だけ纏めてくれれば結構ですけど?」
「そうか、ならそうさせて貰う」
そう言って、隆一は一枚のMOディスクを取り出し、冬真に手渡した。
訝しげな顔をして、それを受け取ると隆一の顔を見る。
よくよく見れば隆一の額に、汗が少しだけ浮かんでいた。
「よく聞け、俺はアルティナに命を狙われる事になるだろう、だがそう仕組んだのは俺だ」
「そこは詳しく説明して下さい」
「分かった。
俺はある組織の奴等に追われているところをアルティナと姉のクシュリナに救われ、そのままレイドナー家の雇われボディガードとして働き始めたんだが・・・
奴等に嗅ぎつかれてな、俺を殺そうと特務部隊を送り込んできた・・・後は、知っての通りだ」
「成る程、このMOディスクには重要な情報がある、と?」
「そう言うことだ。 俺は暫く<アナハイラス>に身を隠すことにする、その際はお前へ連絡を入れるから、おまえが俺を捕縛しろ、良いな?」
「分かりました。 牢獄にいる間、何度か情報を与えますので」
「分かった。 それと、春菜には謝って置いてくれ」
「自分で謝った方が良いと思いますよ、僕が謝ったら抱きつかれるのがオチですし」
「なんだ、そのクセ治ってないのか?」
「えぇ・・・かなり迷惑です」
そう言いながら、J・Dはゴーグルをつけ直し、病院を後にした。
自宅に戻り、隆一から預かったMOディスクに記されている、重要な情報を見始めた。
ナノマシン工学や、遺伝子工学等の情報が書かれており、一つづつファイルを開いてそれに目を通していくと、上司であったアルフェスと杏子の名が出てきて、それを詳しく読んでいく。
「えっと何々・・・? 生物兵器(バイオノイドウェポン)の実験結果について、か・・・
え〜〜っと新しく創りだした生物兵器の実験として、スティアフォード戦役、バニシングブリット、エルンソシエ大戦の三大戦役をくぐり抜けた傭兵である
アルフェス=シルヴィード、杏子=D=ラインハルト、スフィード=アルバート、エリシア=アズフェルトを使い、生物兵器の実用性を見極め・・・」
J・Dはそのまま、それに魅入っていた。
簡単に纏めればこう言う事だ。
アルフェス、杏子、スフィード、エリシアの四人の傭兵を使い、組織が開発した生物兵器の成果を試す、という事になる。
この四名は先の大戦、スティアフォード戦役やバニシングブリット等の世界大戦クラスの戦争を生き延びた歴戦の勇士であり、その実力はトップクラスの実力を持っており、そこいらの傭兵では足元にも及ばないほどだ。
そんな四人を使い、どのような実験をするのかは想像できず、J・DはPCの電源を落とすと席を立った。
彼の額には、うっすらと汗が浮かんでおり、先ほどの実験内容の後半をみて、寒気を覚えたのだ。
(あのアルフェスさんが・・・一時的にとはいえ、捕獲されたなんて信じられないな。 どれほどの、力を持ってるっていうんだ、“ゼウス”という組織は?)
少しだが、恐怖を覚え身を震わす。
電源を落とした後、ゴーグルを外すとテラスへと出て、大きく息を吸う。
気分を落ち着かせるために、テラスへと出たがやはり落ち着かない。
暫くの間、そこに佇みながら町の明かりを、眺めていた。
その日から一週間後、、病院に運び込まれた少女・アルティナが目を覚ました。
目を覚ますと、まず目に入ったのは蛍光灯の光と、白い天井だった。
「・・・ここは?」
一人呟き、アルティナは体を起こそうとしたが
しかし、全身が痛みを発して、顔を苦痛にゆがめる。
そして頬を、涙が伝う。
痛いのだろう、身体ではなく心が。
一方的な虐殺だった、母を目の前で殺され、姉が蹂躙されながら痛みつけられた。
恐怖で足が動かず、左目を抉り取られた所で記憶がない。
「なぜ、たすかったの・・・あそこでしんでいればよかったのに」
心が死に掛けていた。
肉親を殺され、左目を奪われた彼女には、もう生きていく気力は無かった。
一週間の時が過ぎ、アルティナは別人の様にやせ細り、もはや生きる屍同然だった。
一応は栄養剤などの点滴で生を保っているが、瞳には光は無い。
その夜、隆一がアルティナの病室に、姿を見せた。
包帯に巻かれた彼女の姿を見て、悲しそうな顔をした後、決意を込めた瞳がアルティナを見つめた。
紙にペンを走らせて、文字をつづっていく。
(これで、俺はお前にとって殺すべき・・・標的だ。 だが、それでもいい、お前には生きて欲しい・・・)
それを目に付く場所におくと、隆一は病院から去っていった。
メモに書かれた言葉、それは・・・
「復讐を果たせ、そしてお前の家族を殺した俺を殺してみろ」
とだけ書かれていた。
翌朝、目を覚ましたアルティナの目に、その文字が飛び込んでくる。
「りゅういち・・・のじ」
隆一の書き残したメモが目に入り、アルティナの意識が覚醒していく。
涙、そして痛み。
沸々と燃え始めた復讐と言う名の炎。
アルティナが復讐者となった瞬間であった。
1年と言う時が過ぎ、アルティナは紅い義眼『真紅の救世者(クリムゾン・メサイア)』を移植して戦場にいた。
遺跡を暴き、リヴァイダーを手にして生と死の死線を潜り抜け、名だたる傭兵へと成り上がった。
『虐殺の堕天使(ジェノサイド・エンジェル)』誕生の瞬間である。
瞬く間に時が過ぎ、アルティナが19になった時にJ.Dと名乗る少年が、彼女の前に現れた。
「あなたが、アルティナ=レイドナーさんですね?」
「・・・世界政府の飼い犬が私に何の用かしら?」
「なかなか言いにくいことをキッパリと言いますねぇ・・・」
苦笑しながらそう言い、J・Dはアルティナの顔を見る。
見覚えのある顔、そしてあの時の少女が『虐殺の堕天使』と呼ばれるのには、分けがあった。
彼女の使うリヴァイダー“エンジェルウィング”もあるが、もっとも大きな理由は彼女の能力にあるのだ。
光凰翼(シャイン・フェザー)と呼ばれる能力は、光を翼と化して攻撃を行うものであり、その能力を使いATの一個小隊を壊滅した、という噂もある。
そんな噂を恐れてか、雑兵達は銃を構えたまま動こうとはしない。
J・Dは銃口をアルティナへと向けて、口を開いた。
「まぁ、そんなわけですので、大人しく捕まってはくれませんか? 僕としては、争いはしたくないので」
「J・Dか・・・お前の噂は、何度も聞いた。 一つ言っておくが、私は捕まる気は毛頭ない」
「そうでしょうねぇ・・・でもまぁ、『あの人』からの伝言です」
そういい、J・Dはアルティナに近づいていく。
無論、アルティナは銃口をJ・Dの眉間に狙いを定めていた。
ゆっくりと、二人の距離が近づいていき、J・Dは彼女のすぐそばまで行き耳元で何か呟いた。
驚きの顔、そしてすぐに哀しみの顔が一瞬だけ見え、アルティナはトリガーを引いた。
大きな銃声と共に、J・Dの頬を掠める。
「いいだろう、お前の言うとおりアヴェンジャーの牢獄へと入ってやる!」
「ありがとうございます。 素直だったので、あなたの待遇を少し良くしてみようと思います」
「そんな必要は無い」
「ま、僕なりの気遣い、ってやつですから気にしないで下さい」
そういって、J・Dはアルティナの銃を受け取ると、彼女に笑みを見せた。
J・Dが彼女を連行して、アナハイラスへと赴くと殺気だったものたちの視線が、二人へと注がれる。
二人、と言うよりもJ・Dにと言った方がいいだろうか。
アヴェンジャーの幹部で、アルフェスと杏子が一目を置く存在。
そして現在のアヴェンジャー副指令であり、その実力は司令官のルーシェンを凌ぐと真しなやかに囁かれている。
アルフェスが抜けてから、ここに居るアナハイラスの囚人の大半は、J・Dが捕縛したと言っていい。
拘束具を身に付けたアルティナを見て、卑下な声が飛んでくる。
そんな声を物ともせずに、アルティナはJ・Dの後を歩いており、J・Dが銃を天井にむけて撃った。
「あなたたち、少し黙ってくれませんか?」
殺気を込めて、呟いた。
小さな呟きの様だが、その威圧感はすさまじく、たった一言でアナハイラスの囚人達を黙らせた。
銃をホルスターに収めると、ある場所へと足を向けて、アルティナを連れて行く。
そのある場所と言うのが、隆一の幽閉されている牢獄である。
厳重なセキュリティが施されており、厚さ数十cmもある鉄の扉の中に、隆一がいた。
伸びに伸ばされた髪の毛と髭、髪の毛の隙間から隆一の瞳がこちらを見つめた。
真紅の瞳を見て、アルティナは背筋が寒くなった。
なぜかは分からないが、アレは自分の知っている隆一ではない、そう感じていた。
J・Dが扉のロックを解除して、中へと入っていく。
「と・・・J・Dか」
「えぇ、久しぶりですね隆一さん」
「・・・隣に居るのは、アルティナか?」
「はい。 アナタを憎んでいる、と聞きましてね・・・どうですアルティナさん?」
「・・・隆一、貴様は私の手で必ず殺してやるッ!」
今にも飛び掛らんとするアルティナを諌め、J・Dは彼女を連れて牢獄を出た。
隆一は扉のロック音を聞いて、自嘲的な笑みを浮かべた。
「すまない・・・俺は、まだ死ぬわけには行かないんだ。 贖罪の時が、もうすぐ訪れる・・・」
隆一は、一筋の涙を流して呟いた。
そして・・・時は流れる。
ルーシェンの反乱により、アヴェンジャーはアルフェス、杏子、J・D、アルティナのたった四名の手によって壊滅し、数ヶ月が過ぎた。
アルフェスと杏子は、改修が終わったATに乗って、遙西方の地の禁断の土地にある遺跡に向かっていた。
遺跡の真横にアルフェスの黒霊騎士・改(アドバンスド・ブラック・ファントム)と、杏子の白銀騎士(アルジャンテ・シュヴァリエ)が降り立ち、アルフェスと杏子はアヴェンジャー創設以前に来たことがあるので、迷う事無く目的の場所へと歩いていく。
コツコツとブーツの音が響き、アルフェスと杏子は歩いてた。
何もしゃべる事無く二人は歩き、目的の場所へとたどり着くと、中央にあるカプセルを見つめた。
不可思議な液体の中に、一人の女性が眠っている。
金色の髪の毛がゆらゆらと揺れて、生きているのだが眠っていると言う感じが強い。
そのカプセルを前にして、杏子が呟いた。
「久しぶりね・・・此処に来るのも」
「あぁ、そうだな。 確か、5年ぶりだな・・・此処でスフィードと会って、姿を消したんだったな・・・」
辺りを見回しながら、アルフェスは呟いた。
不可思議な液体は、柔らかな光を放っているようにも思え、二人の姿を照らしている。
彼が、生涯を通して護ろうとしている場所、そして救おうとしている女性が、この場所で眠りについていた。
その女性は、アルフェスの戦友であり、ライバルでもある男・スフィード=アルバートが愛する女性・・・エリシア=アズフェルトと言う。
彼女もまた、アルフェスの戦友でもある。
無言のまま二人は、彼女の眠りを見つめていた。
そして、彼女が眠りに付いた時の事を思い出し始めた。
今から八年前、アルフェスがまだ傭兵として生きている時までにさかのぼる。
当時『バニシングブリット』と呼ばれている戦争が終わり、政府はその事後処理に追われていた。
流石に、小さいとは言え大陸を一つ消し飛ばした兵器は危険と判断し、その兵器の製造を国際条約で禁止されるに至った。
『アルスティリア条約』と呼ばれる条約で、蒼光弾(エクスティンクション・ブリット)と呼ばれる兵器の製造を禁止となった。
『蒼光弾』は、大人の拳大の大きさの爆発で、フィルティーズ大陸一つを消滅させた程の威力を持っており、開発した人物は謎とされている。
蒼光弾となる原料は、一握りの『フラクヴェスト』と呼ばれる物質に特殊な加工を施し、ATの光砲の弾頭にこめた弾丸一発で、200万平方フィースもあるフィルティーズ大陸は消滅した。
そんな大戦を生き残り、アルフェスたちはこうして傭兵家業とは名ばかりで、最近では何でも屋をつづけている。
人気のない通り、アルフェス達の乗る車はその場所に停まり、二人は車から降りた。
「杏子、ここなのか?」
「えぇ・・・間違いないわ」
杏子が短く答える。
その答えを聞き、アルフェスは辺りを見回した。
家も殆ど無く、人も全くと言っていいほど居ない通り。
ため息をつくとアルフェスは、近くに腰を下ろして音楽を聴き始めた。
静まり返ったその場所に、バイオリン等の弦楽器と管楽器の演奏がきこえる。
一時間近くが経過してからある人物が現われた。
黒いコートを着た黒尽くめの男。
黒尽くめの男は、アルフェスと杏子を見て、二人に近づいていく。
「アルフェス=シルヴィードさんと杏子=D=ラインハルトさんですね?」
「・・・あぁ、アンタは?」
「失礼、あなた方の依頼人です」
「すみません、あなたのお名前は?」
「フィリッド・・・フィリッド=アーティアと申します」
フィリッドと名乗った男をアルフェスはまじまじと見る。
黒いロングコート、恐らくはアルフェスの着ているアーマージャケットと同じなのだろう。
腰のホルスターには、自己流のカスタマイズを施したフィングGK−TYPE・Sが射し込まれており、もう一つのホルスターには黒い古びた銃が射し込まれており、恐らくはリヴァイダーの類であろう。
下は黒い革のズボンの脛あてを付けたブーツ、金属製の胸当てを付けている。
顔は端正な顔をしており、彼が浮かべている笑みは何処か信用できない、そんな笑みだ。
アルフェスは、杏子に目配せする。
杏子は頷き、アルフェスは口を開いた。
「アンタが、依頼人か?」
「えぇ、ですが私はアナタ達を迎えに来ただけですので」
優しい笑みを浮かべ、フィリッドはそういうと乗ってきた車の後部座席を開けた。
杏子が先に乗り込むと、アルフェスが思い出したかのように口を開き、フィリッドへと問いを放つ。
「そういえば、俺達が乗ってきた車はどうすればいい?」
「私が保管しておきましょう。 あなたたちが帰るときに、ちゃんと返却いたしますので」
「そうか・・・あの車は結構、年代物だからな扱いには気をつけて置いてくれ」
「えぇ、分かっております。 あのシルヴェリック社のFz−1928、しかも当時の最新型の車種。 それにそのスジの人物にはよだれものの機種ですからね」
「へぇ、見ただけで分かるか?」
「えぇ・・・私も、あの後継機に乗っているのでね。 おっと、この話はまた後にしましょうか、君とは気が合いそうです」
「俺もだ」
そういい、アルフェスは車に乗り込んだ。
フィリッドは運転席に乗り込み、車を出した。
二人は後部座席に座り、窓か外を見ようとするが、外を見れないように細工してあった。
アルフェスは少しため息をつき、杏子に目を向けた。
先程、車に乗った所なのだが、既に熟睡している。
仕方なく目を閉じて、眠りに入ろうとするが、何故か眠りに付けなかった。
一時間程走り、車が止まった。
エンジンはかかったままで、急に浮遊感が感じる。
(地下・・・か。 となると、かなり大掛かりだな。 それに、地下に作ると言うことは、危ない橋を渡りそうだな)
そう考え、アルフェスは再び目を閉じた。
時間にして一分程度、エレベーターの様なものが止まり、車が動き出す。
車を止めて、フィリッドが車から降りると、後部座席のドアが開いた。
アルフェスは杏子を起こし、車から降りる。
広い空間に二人の見知った人間がいた。
金髪の少年と少女だ。
アルフェスは二人を見て、少しため息を付いた後、口を開いた。
「スフィードにエリシア?」
「ん、よぅ。 久しぶりだな、アルフェス」
「あら、アルフェスさんに杏子さんじゃないですか、二人ともこの方達に?」
「まぁな」
「お話はそこら辺にして、私についてきてください」
眠気眼を擦りながら、杏子はアルフェスの後ろを歩き、その後ろをエリシア、スフィードの順に歩いていく。
フィリッドは、少し後ろを振り返り、隊列を見て笑みを浮かべる。
少し歩みを速めて、フィリッドは目的の場所に向かう。
彼から少し遅れ、アルフェス達が歩いていく。
2〜30十分程歩き、長い回廊を歩いていると、エリシアが口を開いた。
「あのぅ・・・フィリッドさん、でしたよねぇ?」
「えぇ、そうですが。 私に何か?」
「私と何処かで、逢った事がありますか?」
エリシアの問い。
フィリッドは少しためらった後、歩みを止めて後ろへと振り向き、口を開いた。
「いいえ、私は貴女とは今日初めてお逢いいたしましたが?」
「そう・・・ですか、なんだかそんな予感がしたものですから」
「かまいませんよ。 エリシアさん」
フィリッドは笑みを浮かべ、そういうと振り返り、再び歩き出した。
それからまた時間が過ぎてようやく目的の場所に着いた。
部屋の中に招き入れられ、中にいたのは初老に入るか入らない位の年齢の男だ。
その男を見て、フィリッドは眉をしかめる。
そして、フィリッドはその男の傍らに立つ銀髪の男へと、視線を移した。
銀髪の男は、表情を変えずにフィリッドを睨み返した。
数秒、そうしてフィリッドは少しため息をつき、アルフェス達はソファへと座るように促した。
アルフェスとスフィードはたったまま、杏子とエリシアがソファに腰を下ろし、その右にアルフェスが、左にスフィードが立った。
「どうしました、座らないのですか?」
「いや、俺はこのままでいい」
「俺もアルフェスと同じだ」
「そうですか」
フィリッドは納得したような顔をして、口を摘むいだ。
初老の男が口を開く。
存外、声が高めだった。
「儂がゼウスの長・レオン=シュレイムだ」
(レオン=シュレイム・・・ね、何処かで見た事のある顔だぜ)
アルフェスはレオンを見て、表情を変える事無く考え込む。
話を聞いていたことは聞いていたのだが、その大半が通り抜けており、辛うじて聞いていたのは自分達に組織が作り上げた生体兵器(バイオノイド・ウェポン)と戦い、性能を確かめると言うことだけだ。
無論、その答えを即答する。
「断る。 俺達に死ねと言ってるようなもんじゃねぇか、そんな依頼なんざこっちから願い下げだ」
「なら、前払いの依頼料はどうするつもりだ?」
「後でアンタに叩き返してやる。 行くぞ、杏子」
アルフェスはそう言うと背を向け、部屋を出て行き、それに続いて杏子達も出て行った。
軽くため息をつき、レオン達はそれを見送ったが、フィリッドが動き部屋から出て行った。
彼らの後を追い、足早に歩いていく。
入り口が分からないためか、彼らが最初に来た場所に立っていた。
「地上までお送りします、後・・・アルフェスくん、キミの車を返却しますよ」
「そういえば、アンタに預けてたんだったな」
「さて、取りに行きましょうか。 こちらです」
フィリッドが背を向けて、歩き出した。
彼について歩くようにアルフェス達は歩き始める。
ふとした疑問があり、アルフェスはフィリッドに対して問いを放つ。
「なぁ・・・誰が俺の車をここに運んだんだ?」
「あぁ、私の部下が運びました」
「・・・車のキーは俺が持っているのにか?」
「その手の事が得意な部下が居ましてね」
「そうか」
それ以後、アルフェス達は言葉一つ発する事無く、フィリッドの後ろを歩いていく。
5分ほどして、ようやく車を止めてある場所につき、アルフェスは車に乗るとエンジンをかけた。
V8型の連気筒からの排気音は迫力と、大音量を発していた。
杏子が助手席に乗り、スフィードはバイクに乗り、エリシアはそのバイクについているサイドカーに乗り込み、バイクのエンジンをかける。
やはり、排気音は大きく、耳を劈くような音が轟く。
ライダーゴーグルをつけると、スロットルを回してエンジンを吹かす。
二人はアルフェスへと合図を送り、一足先にその場所から去って行った。
ギアチェンジを行い、アルフェスはアクセルを踏み、車を出した。
フィリッドはそれを見送った後、先程の部屋へともどって行った。
廊下を歩き、フィリッドの履くブーツの靴音が辺りに響く。
一人長い廊下を歩きながら、少し仏頂面を浮かべており、先程の部屋の中に入るとレオンではなくその隣にいる銀髪の男へと向けて、口を開いた。
「どういうつもりです、彼らで試作型(プロトタイプ)の生体兵器の機動実験を行うなど・・・私は聞いていません」
「お前が知る必要は無い」
「ですが、私とて五傑神衆の一人です!」
「成り立てのお前が、俺と同格と思っているのか?」
「五傑神衆とはお互いを監視し、抑止するという掟があるはずではないのですか!?」
「だまれ、クソガキ」
銀髪の男はそういうと、レオンへと銃口を向ける。
レオンは銃口を向けられても微動だにせずにおり、銀髪の男は目を細めて、トリガーを引いた。
一発の銃声、硝煙が銃口から立ち昇り、辺りに硝煙の匂いが辺りに漂い始める。
それを見てフィリッドは強く歯を食いしばり、拳を握りこんだ。
怒りに身を任せ部屋から出て行った。
銀髪の男はそれを見て、細く笑みを浮かべて銃をホルスターにしまい、もう一つの扉から出ていった。
長い一本の廊下を歩いていき、一つの部屋にたどり着くとパスワードを入力し、部屋の中へと入って行った。
それから数日後、アルフェスは自分のATの解体整備に立ち会っており、作業着を着ながら、アルフェスもスパナを握っている。
駆動機(リアクター)から伸びるエネルギーを騎体の各部位に導くエネルギーパイプに破損は無いか点検していき、火気厳禁なので作業員達は何か銜えながら作業を行っており、数名の技師が腕を解体して半生体筋肉の点検を行っている。
「おい、坊主!」
「なんだ?」
「この腕も足も、だいぶ使い込んでんだろ? 殆ど新品ととっかえんと行かんぞ」
「チッ・・・バニシングブリットん時に、過負荷を掛けすぎたか・・・」
「こりゃ、相当骨だぞ」
「おっさん、黒霊騎士は一般的な聖霊呪駆動機(エレメンタル・リアクター)じゃねぇんだ、駆動機周りは俺がメインにさせてもらうぜ」
「あぁ? すると、コイツの駆動機は失われた技術・・・喪失技術(バニシング・テック)か?」
「まぁな。 俺の先祖が作った騎体だ、確か超流体動力機関(エーテル・エンジン)を搭載してる、駆動機周りは俺しか整備できない」
「わぁったわぁった、駆動機の周りはおめぇに任せる。 お〜〜い、お前らそっちの騎体はどうだ!!」
整備の班長が叫ぶと、銀色の騎体を整備している整備半の整備員が口を開いた。
「こっちは殆ど終わってますけど、駆動機の周りは複雑なんで」
「やれやれ、二騎とも喪失技術を使ってる騎体なのかよ」
「アイツの騎体は元々翔已が使ってた騎体だからな、アイツの騎体は超重力動力炉(ブラックホール・デヴァイス)だからな」
「整備も命がけか、聖霊呪駆動機ならかんたんなんだがなぁ」
整備班の班長がそういい、二人は整備を再開した。
翌朝、オイルで顔の汚れたアルフェスは、駆動機周りの整備を終えるとそのまま眠ってしまったのか、アルフェスは汚れた整備服のまま眠っている。
超流体動力機関はちゃんと整備し終えており、違う場所で寝ていた杏子は目を覚ますと、騎体の足に寄り掛かって寝ているアルフェスを見て、微笑を浮かべた。
少し時間が経過して、アルフェスは目を覚まして大きなあくびを一つすると、杏子の姿を見つけて立ち上がる。
杏子は他の整備員と一緒に、自分のATの駆動機の整備を行っており、アルフェスはその場所から少し離れた場所に腰を下ろし、その様子を見ていた。
おもむろに立ち上がり、自分の騎体へと向かって歩いていく。
操術室を明けると、中に置いてあったヴァイオリンを掴むと、それを構えて演奏を開始した。
整備場に流れる優雅なヴァイオリンのメロディ。
交響曲第十一番『運命の回帰』を演奏しており、その腕はそこいらのプロとは比べ物にならない程に巧い。
三十分弱の演奏、滞る事無く演奏を終えたところを見ると、楽譜自体を暗記しているようだ。
「アルフェス、こっちも整備終わったわ」
「ん、分かった。 着替えてくるから、少し待ってろ」
「はいはい、早くしてね」
アルフェスは作業着から私服に着替え、格納庫へと戻った。
黒霊騎士と白銀凰整備を終え、操術室に入ると駆動機を作動させる。
低い駆動音と共に、騎体にエネルギーが供給され、全周囲型のディスプレイに周囲の空間が映し出された。
操術球に触れ、意識を流し込む。
腕を動かし拳を握り込むとすぐに手を開け、何度か同じ動作をした後、ディスプレイを開けて打ち込んでく。
騎体の反応速度、反射速度、思念伝達速度の設定をいじった後、それを閉じると同じ動作を確認する。
先程よりも早く動き、アルフェスは軽く頷くと、操術室から顔を出した。
「おっさん、金はどうする!」
「後で何時もの口座に振り込んどけ!!」
「分かった、世話になったな!!」
短い会話の後、アルフェスは再び操術室に潜り込む。
すると、全方位型のディスプレイに、杏子の顔が映し出される。
「どうするの?」
「そうだな、慣らし運転でスフィード達の家にでも行くか」
「はいはい、それじゃあベルフィークに向いましょうか」
杏子の答え、二人は重力制御機能(グラビティ・コントロール・デヴァイス)を起動させ、騎体が中に舞い上がる。
ベルフィークは君主制の帝国であり、数多くの遺跡があるためリヴァイダーや剣銃(ガン・ブレイド)などが発掘された。
しかし、5年後にある事件が発生し、国王は死亡、民主制とななる。
その事件と言うのが、剣銃やリヴァイダー等の喪失武器(ミッシング・アームズ)が世に出回った『ベルフィーク動乱』である。
ベルフィーク動乱において多大な戦績を残したのが、『閃光剣銃士(ライトニング・ブレードガンナー)』と呼ばれる英雄・グリッド=G=ヴェイザーと呼ばれる男だ。
元々、ベルフィーク帝国の保安部の人間で、最終的な階級は第三閃尉・・・普通の国で言えば軍の大尉に当たる階級である・・・で、彼はある女性と共にベルフィーク動乱の沈静を図った。
その女性は、元保安部の人間であり、『剣銃闘術士(ガンブレイド・マスター)』とも呼ばれる英雄・エルザ=S=セルフィム第一空佐であり、彼女は喪失武器である剣銃・散弾式剣銃(ショット・ブレード)と呼ばれる全長で2m近くもある剣を振るっていた。
そしてベルフィーク動乱が収束し始めた頃に、彼女は行方不明となった。
彼女の持つ散弾剣は『戦女神の剣(ヴァルキリー・ブレード)』とも『剣の暴君(アッシュ・セイバー)』とも呼ばれている。
話は大きくそれたが、黒霊騎士(ブラック・ファントム)と白銀凰(アルジャンテ・ロワイヤル)は、西方大陸にあるベルフィークへと向けて飛んだ。
数時間でベルフィーク連邦領内に入り、アルフェスはため息を付いた。
「どうしたの、ため息なんかついちゃって」
「いや、整備費にかなり持っていかれるな、と思ってな」
「仕方ないわよ。 ATなんか自分で整備したら、時間かかりすぎるし」
「確かにな、格納庫のハンガーから人件費その他、しかも喪失技術(バニシング・テック)を使ってるから割高で4万ルツも払わないといかん」
「きついわね、それは・・・」
杏子がそう答え、二人は同時にため息をつくと、ベルフィークへと向けて、騎体を加速させる。
ベルフィークの首都から離れた場所に、スフィードの住む家がある。
家といっても、価格の安い場末のアパートに近いモノがあるが。
ATの電磁迷彩機能を使い、ATを周囲の景色と同化させ、開けた場所に置いてスフィードの部屋のドアを叩く。
少し遅れて、エリシアが顔を出した。
「あら? アルフェスさんと杏子さんじゃないですか、どうしたんですかぁ?」
「いや、黒霊騎士の修理が終わったんでな、試験運転でここまで来ただけだ」
「そうですか、スフィードなら仕事探しに行っちゃいましたよ?」
「そうなの? ん〜〜〜まぁ、今日は顔みせ程度だからね」
「少し街をぶらついてから帰るか」
「ATはどうするのよ?」
「大丈夫だろ?」
アルフェスはそういい、街に出た。
電車とバスを使い、繁華街に向った。
街を歩きながらウィンドウショッピングを楽しむ杏子。アルフェスは小さな笑みを浮かべながら、前を歩く彼女のあとを歩いていく。
年相応の笑顔を浮かべる杏子をみて、アルフェスは思う。
(俺もいつか、アイツの様に笑えるだろうか?)
自問するが、答えは見つかるはずは無かった。
齢7歳の時に、初めて戦場を経験した。
初めて銃を撃ち、人を殺したのも其の時である。
最初は怖かったと言う気持ちが大きい、だがそれ以降はだんだんと薄れていく。
10歳になる事には、殺す事が当たり前になっていた。
当たり前の日々を過して行き、ある日・・・杏子とであった。
純粋で、無垢な少女をみて、アルフェスは苛立ちを覚える。
『傭兵』と言うものに、何か幻想を抱いている彼女を見てのことだ。
スティアフォード戦役で初めて出会い、共に戦ったのも其の戦いの時だった。
『未来詠み(リード・ザ・ホープ)』と言う能力を持っており、能力の過重に精神が耐えられない極限状態まで陥った事があった。
其の時はただ、『自分の血を力を否定するな』と言う言葉をかけただけだ。
ただそれだけ。自分の血を否定する、力を否定すると言うことは、己自身を否定する事。
未来を詠む事が出来る能力者としての力、それはあらゆる事象を見ることが出来、其の力を狙う者は大勢居る。
今までそういう事が何度も起こっている。実際、何度か誘拐されかけたが、アルフェスによってそれは阻止されている。
そんな事を考え、アルフェスは歩いていた。
「どうしたの、アルフェス?」
「いや、なんでもない・・・そろそろ帰るか」
「そうね・・・結構、買ったから荷物持ってね♪」
「おいおい、ただでさえ金が無いのに、何時の間にそんだけ買ったんだ?」
「ん、安かったから服を何着かね。 アンタのスーツも一着買っておいたから」
「何でスーツを?」
「仕事、就くなら面接の時はスーツの方が印象がいいのよ」
「ったく・・・就職するよりも、探偵事務所を開いた方がマシだぜ」
余談はあるが、これより数年後、アルフェスは本当に探偵事務所を開き、依頼の大半は非合法なものが多かった。
大方、アルフェスの裏の顔を知っての事だろう。
ATのある場所へと移動して、駆動機を作動させると低く重厚な音が騎体内にある操術室に響いた。
騎体がゆっくりと動き、空中へと舞い上がっていく。
漆黒と白銀の騎体は、ベルフィークより東方へと向い飛んだ。
其の日から数日後、アルフェスは弾丸の補充のために街に出ていた。
近くの繁華街の中にある、ショットバーでグラスを傾けて、スコッチウィスキーを飲む。
氷が崩れ、カランと言う小さな音を立てる。
カウンター席に座り、またグラスを傾けてウィスキーを飲む。
「アルフェスさん、例の物・・・どうします?」
「今よこせ。 ちゃんと包装しておけよ?」
「わかりました」
バーテンが店の置くに消えて行くと、アルフェスは懐中時計を取り出して時間を見る。
時間は昼を少し過ぎた時間で、当然店には誰も居ない時間帯だが、ちらほらと数人の人間が見えた。
だが、わきの下辺りが不自然に膨らんでおり、銃を収めているホルスターがあるのだろう。
今はまだ傭兵、と名乗れるかもしれないが、最近では探偵まがいのことを行っている。
つい数週間前の事も、それと同じ事だ。
といっても、アルフェスが裏の世界でも名の知れた存在の為、非合法な依頼が多いのが現状だ。
仕事を選び、比較的楽と法に触れないような物だけを選び、依頼をこなしている。
流石に、金欠になれば仕事を選ばない事も多い。
「ふぅ・・・」
「よっ、久しぶりだね、アルフェスのダンナ」
「お前か秋斗」
「いやいや、ダンナがここに居るとは思わなかったぜ」
「あのな、俺の家はこの街に在るんだ、いないほうがおかしい」
「そりゃそうだ。 あ、そこの綺麗なウェイトレスのお姉さんウォッカとステーキ200gを塩コショウだけで焼いて持ってきてくれ」
「はいは〜い♪」
妙に場違い、といえば場違いな女性の軽い声の返事、女性が厨房の奥へと消えていく。
アルフェスはまたグラスを傾けると、ウィスキーを口に含みそれを飲み込んだ。
無言のまま、時間は過ぎていく。
カウンターの向こうから、先程のバーテンが戻ってきて、アルフェスに紙で包装された大き目の四角いモノを手渡した。
アルフェスは重さを確認した後、金を渡す。
「毎度どうも、アルフェスさん」
「それはそうと、少し多いんじゃないか?」
「分かりましたか。 何時もごひいきにされているのでサービス分で、杏子さんのライールMT−Gの弾丸を2ダース程・・・」
「そうか、助かる」
「いえ、それではまたごひいきに」
「秋斗、俺は帰る」
「ん、そんじゃまた会えれば」
「あぁ。 お前も、何時までも放蕩してんじゃねぇぞ」
「わかってるって」
アルフェスは席を立つと、店を出た。
店の前の道路に止めておいた車に乗ると、エンジンをかけた。
大音量の排気音が、街中に轟く。
ギアを入れて車を出すと、アクセルを踏み込み、ギアチェンジを行い5速に変えると、時速100フォンスを超えるスピードで走る。
信号に引っかかり、ブレーキを踏み1速まで落とすとブレーキをかけ、車を停車させた。
信号待ちをしていると、携帯がなり始めた。
杏子からの連絡でそれに出るが、無言のままだった。
「・・・おい、杏子はどうしてる?」
『無事だ』
「チッ・・・」
『アルフェス=シルヴィード・・・スフォルツェイドで待つ。 恋人を帰して欲しければ、来る事だ』
「まて、アイツは無事だろうな?」
『無事だ、お前が来なければ・・・どうなるか分かるな?』
そこで電話が切れた。
アルフェスは携帯を助手席に叩きつけると、アクセルを踏み込んだ。
『クソッ!』と心の中で叫び、信号が変わるのを待たずに走り出した。
車を走らせると、自宅に戻る。
エンジンをかけたまま部屋に戻ると、ありったけのデリンジャーを紅いロングコートの中に仕込み、それを着た。
重さは有に100kg近くあり、歩くだけで大変だが平然と歩いている。
更に、愛用のズフィドST−1を二丁、リヴァイダー『シュヴァルツシャイン』を持ち、外に出ると車に乗り込み、アクセルを踏んだ。
車が加速する、アルフェスはスフォルツェイドへと向けて、車を走らせる。
スフォルツェイドはアルフェスの住まうパラクラフト共和国の西に位置する平原である。
最も、平原と言うよりも荒れ果てた荒野と言う言葉が合うかもしれないが。
少し思案しながら、車を一般常識では考えられない速度で走らせており、夕暮れ時には目的地に着くだろう。
杏子をさらった者達の目的・・・恐らくは、ゼウスの人間だろう。
杏子をえさにアルフェスをおびき出し、目的の生体兵器の稼動実験を行うのだろうと、推測した。
怒りが、少しづつアルフェスを支配し始めた。
一方・・・杏子はと言うと、猿轡をされた上に手を動かせないようにされ、一人の男を見上げていた。
銀髪に碧眼の男だ。瞳には何も感情が表れておらず、其の瞳を見ているだけで、背筋が寒くなる。
「アルフェスは来ると思うか、フィリッド」
「・・・えぇ、多分来るでしょうね」
「どうした、不機嫌じゃないか」
「このような作戦、私の性に合いません」
「フッ、まだまだガキだな、お前も」
そういい、銀髪の男は煙草を銜えて火をつけた。
紫煙が立ち昇り、息を吐く。
肺に溜め込んだ煙を吐き出して、男はフィリッドに吹きかけた。
軽く咳き込んだ後、フィリッドは男に背を向けてその場を後にした。
小さく笑みを浮かべると、銀髪の男・ルヴァイス=シャルグリーンは天を仰ぐ。
夕暮れが近づき、紅い太陽が西の空に沈んでいく。
夜になり、スフォルツェイド平原は闇に包まれていた。
静寂の中に、車の排気音が聞こえてくる。
車が止まりエンジンをかけたまま、アルフェスが姿を見せた。
真っ暗な闇の中に、まばゆい光がアルフェスに注がれた。
一瞬目がくらみ、アルフェスは手で影を作り、光を遮った。
「くっ・・・」
「ようこそ、アルフェス=シルヴィード。
貴様の武勇伝は聞いているぞ、『スティアフォード戦役』にてスティアフォード市の最大戦力『騎士の大鎌(ナイツ・オブ・ハーケン)』を立った一騎で壊滅。
バニシングブリットにおいては蒼光弾によるフィルティーズ大陸事消滅するのを免れた十数名の一人で腕利きらしいな」
「フン、そんな御託はいい。 杏子はどこだ?」
「慌てるな、話しは最後まで聞くものだ」
「御託は言い、といったはずだ」
「そうか、貴様の相手はこいつらだ」
ルヴァイスはそういい、指を鳴らした。
ズシン、軽い振動がしてそちらを振り向くと、数体の・・・恐らくはあの時レオンが言っていた生体兵器だろう・・・が、そこにいた。
人にして人ではないその姿、アルフェスは顔を顰めるとルヴァイスのほうへと振り向いた。
笑みを浮かべ、ルヴァイスは背を向ける。
アルフェスはコートを脱ぎ捨て、車の中に放り投げた。
引き締まった体躯、アルフェスは銃を抜きルヴァイスへと向けた。
「コレはどういうことだ? 杏子を人質にとり俺とこいつらを戦わせる、ということか?」
「そういうことだ、そいつらを倒せば人質を返してやる」
「・・・チッ、どこまでも回りくどい野郎だ」
「このコインが地面に落ちれば開始だ」
そういい、ルヴァイスは親指でコインを弾く。
クルクルと回転しながら、放物線を画き・・・地面へと落ちた。
小さな金属音が響き、アルフェスはホルスターの銃を引き抜き、照準を定めずにトリガーを引いた。
数発の銃声が響く中、アルフェスはルヴァイスの元へと走った。
だが、それを遮るのは生体兵器、腕を薙ぎアルフェスの身体を吹き飛ばす。
まともに受けた為、アーマージャケットと衝撃を吸収するアンダースーツを着ていても、かなりの衝撃があった。
だが、打撲程度に抑えられたのはこの二つのおかげだろう、片方でも無ければ恐らくは肋骨が数本イッていただろう。
空中で体勢を整え、着地すると目の前まで迫っている生体兵器の豪腕。
それを横っ飛びで回避し、銃を連射する。
弾丸が生体兵器の身体にめり込む、それをものともせずに生体兵器がアルフェスに迫り、再び豪腕を振るった。
「くッ!!」
スウェーバックで威力を半減し、着地するとリヴァイダーを抜いた。
漆黒の光が銃口に集約。
そして、光が開放されて、生体兵器へと飛んだ。
一直線にそれは飛び、その方向に存在する全てを消滅させながら、一直線に飛んで行く。
数体居た生体兵器の半分を消滅させると、手に淡い光を発生させてそれを上空に放ち、まばゆい閃光が発生した。
それに気を取られ、ルヴァイスは一瞬だけ体が硬直する。
ほんの僅かな隙を見抜き、アルフェスはルヴァイスへと銃口を向けて、トリガーを引いた。
一瞬だけ遅れ、ルヴァイスはそれをライトシールドで防ぐ。
アルフェスはそのまま身体を捻り、リヴァイダーを連射した。
威力は弱いが、数個の漆黒の光弾が生体兵器を直撃する。
そのままルヴァイスの元へ走り、アルフェスは拳を叩きつける。
だが、それを受け止めて、ルヴァイスが蹴りをアルフェスの側頭部に叩き込んだ。
「くぁっ・・・」
「甘いな、小僧!」
側頭部へと叩き込んだ足を器用に操り、アルフェスの腹部へとけりを叩き込む。
アルフェスの身体がくの字に折れ、膝を付いた。
ゆっくりと、ルヴァイスが近づいていく。
視線を上げて近づいてくるルヴァイスの顔を見た。
冷徹な視線、アルフェスは舌を鳴らすと立ち上がり銃を撃つ。
ライトシールドでそれを防ぎ、その隙をつき、杏子の元へと走った。
丁度、それと同時に一台のサイドカーつきのバイクが走ってきた。
サイドカーに乗っていた人物が、ライフルを構えており、そのまま狙撃を行った。
銃声が響き、ルヴァイスの元へと弾丸は飛ぶ。
「チッ! 何故、あの二人がここに?!」
ルヴァイスはそう呟きながら、銃を抜いた。
大きな銃身と銃口、アルフェスの持つズフィドST−1の改良発展型であるズフィドSV−Gだ。
銃声が二発。
バイクを運転していた男が、銃を抜いてトリガーを引く。
アルフェスに襲い掛かろうとしていた生体兵器を貫く、だが、その攻撃をものともせずにアルフェスを殴り飛ばす。
杏子をかばうようにして、アルフェスと杏子の二人は吹き飛んだ。
ごろごろと荒れ果てた荒野を転がり、二人は砂埃に塗れる。
「アルフェス、無事か!?」
「くっ・・・一応無事だ、スフィード!」
「エリシア、さっさと撃て!」
「はいはい、相変わらず人使い荒いんだから・・・」
ぶつぶつと文句を言いながら、ルヴァイスへに照準を合わせてトリガーを引く。
一回、二回、三回と銃声が続く。
ライトシールドで防ぎながら、回避して行く。
アルフェスは杏子を自由にさせると立ち上がり、ルヴァイスへと疾駆する。
不意をつかれ、アルフェスの接近に気付かず、拳を振るう。
右のわき腹辺りに拳が叩き込まれた。スピードを加えた一撃を叩き込んだ。
「くぁっ!」
小さな呻き声、アルフェスは銀色の髪の毛を掴むと、顔面に膝蹴りを放つ。
膝蹴りを受けて血が飛び散る。
鼻を押さえて、ルヴァイスがアルフェスの顔面を掴む。
メキメキと骨格が軋むが、アルフェスが身を捻り側頭部にけりを叩き込み、腕を握り渾身の力を込める。
華奢な体躯に似合わず、強靭な握力を発揮して、アルフェスはそれを脱出すると、拳を握りこんでルヴァイスの鳩尾へと叩き込んだ。
息が詰まり、アルフェスがルヴァイスの目の前にたった。
それとほぼ同時、アルフェスの腹部を弾丸が貫いた。
飛び散った鮮血が、杏子の頬をぬらした。
ゆっくりと倒れるアルフェスは、口から血を吐き出して、乾いた荒野に倒れた。
血は、止まらない。
杏子は一瞬、何が起こったかわからず、血に触れてそれを悟る。
「アルフェス!!」
彼女らしからぬ行動、アルフェスの身体をゆすった。
血が彼女の手をぬらす。
アルフェスに気を取られており、背後の存在に気付かず彼女は、気を失った。
それを見ていたスフィードは舌打ちをすると、バイクをアルフェスの車へと向けて走らせる。
「エリシア、お前はアルフェスの車に乗って先に行け、俺はこいつらの相手をする」
「ん、頑張ってね」
「・・・もう少し気の聞いた台詞が欲しいもんだ」
エリシアは車に乗り込み、サイドブレーキを下ろすと、アクセルを踏み込んだ。
ギアチェンジして、車は砂埃を巻き上げながら、走り去っていく。
車が遠ざかるのを確認すると、スフィードはバイクを走らせ、杏子達の元へと走る。
だが、遠方からの狙撃で遮られ、遠めで杏子とアルフェスが捕らえられたのを見た。
舌打ちをすると、サイドカーを切り離してスロットルを回す。
激しい土煙を残して、スフィードの乗るバイクが走り去っていった。
(不意を撃たれたとは言え、新開発のアレ・・・生体兵器を殆どが破壊された)
小さく息をつき、笑みを浮かべる。
「さすがは歴戦の傭兵、と言うべきでしょうか」
小さい声、だが、その存在をはっきりと表した様な、凛とした声。
黒いコートを羽織り、スナイパーライフルを手にしたフィリッドが、姿を見せた。
ルヴァイスの目の前に立つと、見下したような目で見る。
「・・・くっ」
「無様ですね、ルヴァイス。」
「黙れ、クソガキ」
「事実を言ったまでですが? そこの貴方、アルフェス君の手当てを頼みます、処置が終えたなら杏子嬢と一緒に護送してください。
杏子嬢はかなり気が動転しているようですから」
「ハッ!」
「さて、五傑神衆である貴方が、たかがあれしきの事でこのように無様に倒れている・・・本当に無様だ」
フィリッドはそういい、ルヴァイスに蹴りを叩き込んだ。
強烈の一撃だったらしく、そのまま身体が荒野を転がった。
撤収を開始し、生体兵器を爆破して隠滅した後、その場を後にした。
一方、エリシアはアルフェスの愛車・Fz−1928を走らせ、アルフェスの家に向っている。
十分程度走ると、数台にバイクが後をつけているのに気付いた。
いや、最初から気付いて居たが、対処が出来なかったのだ。
車の中をあさりながら走るが、めぼしい物は何も無い。
あるといえば、クラシック音楽の入ったMC(メモリー・カード)と、杏子の音楽CD等で、武器になりそうなのはない。
アクセルを踏み込み、目一杯のスピードで走る。
ハンドルをきり、ドリフトでカーブを曲がりきると、直線の道路に入り、再びアクセルを踏み込んだ。
(まだ追ってきてる・・・当然と言えば当然だけど、スフィードったらなにしてんのよぉ〜〜)
それから少し遅れて、スフィードはバイクを走らせていた。
かなりのスピードを出して走っているが、エリシアの乗るFz−1928はまだ見えない。
舌打ちをしながら、更にスピードを上げた。
それから少しして、ようやくFz−1928を捕らえた。
数台のバイクが追っており、バイクを走らせながら銃を構えて、トリガーを引いた。
前方を走るバイクの後輪が破裂、少し蛇行した後転倒した。
その脇を通り抜け、再びトリガーを引いた。
銃声がすぐに後方へと流れていく。
銃をホルスターに収めると、スピードを上げる。
バイクの横をすり抜け、Fz−1928の横を走ると、窓を叩く。
それに気付いたエリシアが窓を開け、何かしゃべり始めた。
「後はよろしくね」
声は聞こえなかったが、唇の動きを読んでスフィードは嫌な顔をしたが、バイクを180度反転させて停まった。
銃抜き、薬莢を地面に落とすと新しい弾薬を入れていく。
シリンダーを回して、撃鉄をお越し銃を構え照準を合わせた。
トリガーを引く、そしてすぐに撃鉄を起こして、またトリガーを引いた。
銃声が三回響きわたり、バイクが転倒していく。
バイクに乗っていた者たちが立ち上がり、銃を抜きスフィードに向けた。
一瞬、笑みを浮かべてスフィードは銃を収め、違う銃を抜いた。
古ぼけた銃で、白い銃身をしている。
銃口から白いエネルギーが伸び、硬質化していく。
彼の持つリヴァイダー『ディユ・グレーヴ(神皇の光剣)』だ。
バイクを降りると、スタンドで立てずにバイクを放置して、走った。
体勢を低くしての疾駆、大地を削りながらディユ・グレーヴを振り上げる。
敵が纏っている防弾線維を斬り裂き、身体を切り裂く。
血が噴出すと同時、身体を捻り再びディユ・グレーヴを振るった。
再び鮮血が飛び散る。
銃声が響き、スフィードの左肩に命中するが、纏っているアーマージャケットにより、強い衝撃に変わった。
小さく呻き、開いている片手で銃を抜くとすぐさま撃鉄を起こし、トリガーを引く。
一回、二回と連射し、スフィードは体勢を建て直して、走る。
グラハムSG−Xの反動を無視、そして接近するとディユ・グレーヴで、一閃した。
全て一刀の元に斬り伏せると、スフィードはリヴァイダーを収める。
辺りを一瞥し、索敵をした後その場所を後にした。
エリシアはと言うと、そこから1フィースほど離れた場所で、ゼウスの人間に囲まれていた。
(ん〜〜〜どうしよう? 残弾は10発、換えのマガジンは二つ・・・何とかいけるかな? リヴァイダーの使い方も覚えた所だし、慣れたいし)
エリシアは車から降り、銃を抜いた。
スライドし、銃を撃てる状態にして、ゆっくりと歩みを進める。
柔和な笑みを浮かべているエリシアだが、その反面にじみ出る殺気は本物だ。
ラーヴィッシュを抜き、構えた。
乾いた銃声と共に、走る。
笑みを浮かべたままの動作は、どこか恐ろしくも感じる。
銃声が絶え間なく続き、身体を動かしてトリガーを引き続けた
。
マガジンを換え、エリシアが銃から手を離すとライトシールドで敵
の弾を防ぎ、銃を握るとトリガーを引く。
アーマージャケットにより、衝撃に転換され肩が弾かれる。
(むぅ・・・やっぱ、リヴァイダーつかったほうが良いかしら?)
一瞬考え込み、リヴァイダー『シャイニング・ブレイズ(陽光の煌き)』に触れた。
だが、触れただけ、それだけで使う事は無かった。
銃を撃ち続け、弾薬が切れた頃にスフィードが到着し、ディユ・グレーヴを持ったままバイクで特攻、殆どの敵を斬り伏せるとバイクを停止させる。
エリシアのほうを振り向くと、手だけで合図して走り出した。
少しため息をつくと、車に乗り込みエンジンをかけてアクセルを踏む。
エンジン音を轟かせて車は走り去っていく。
一旦、アルフェス達の家の中に入り、装備品を確認する。
なくなって居たのは100近いデリンジャーだけで、恐らくは車の中にあったコートに仕込んで居たのだろう。
「ったく、デリンジャーを大量に仕込んでどうするつもりだったんだ、あの馬鹿は!!」
「ま、まぁまぁ・・・それに、あの怪我じゃ暫くは動けなさそうですけど?」
「・・・だといいがな」
スフィードはそう呟くと、自分の銃の弾薬を確認する。
後、10回は再装填(リロード)できる。
リヴァイダーを使うにも、今日はすこぶる体調が良い。
ゆっくりと息を吐き出して、スフィードはエリシアに目を向けた。
視線に気付き、頷きで答えるとエリシアはアルフェスの所有するバイク・・・GX−V18(シルフィード)のエンジンをかけようとしたが、スフィードの乗るバイクとは違い、かなり改造が施されており、結局エンジンをかけることが出来ずに、スフィードがGX−V18に乗ることになった。
スロットルを回し、エンジンを吹かす。
大音量の排気音が夜の街に響く。
一方、荒野で負傷したアルフェスは、杏子と共に輸送されていた。
グラグラとゆれ、恐らくは舗装された道路ではなく、獣道のような道を走っているのだろう。
激しい揺れが二人を襲う。
アルフェスは気を失っており、処置が早かった為大事には至っていない。
どれだけの時間がたったのだろうか、乗せられている車が止まった。
闇の中に、一筋の光が差し込む。
人工的な光ではない、太陽の光だ。
数人の人間が入ってきて、アルフェスを運んでいくと、杏子に銃口を向けて出るように合図を送る。
それに従い、降りると後ろから目隠しを付けられ、歩かされた。
目的の場所にたどり着き、目隠しを取ると目の前に広がっているのが、豪勢な部屋だった。
客人に対する客間、と言えるような物に近い。
杏子は部屋の中を見渡し、備え付けのソファに座った。
「凄い豪華ね・・・」
小さな呟き、そのときだ部屋の扉がノックされた。
扉が開き入ってきたのは、黒衣を纏った黒髪の男だ。
確か、フィリッドと言ったか、が杏子に近づいていく。
「そう警戒しなくても結構です、私は貴方に危害を加えるつもりはありませんので」
「どうだか・・・ね」
「信用できないなら、コレを渡しておきましょう。 アナタの銃・ライールMT−Gです」
「どう言うこと? 私に銃を渡していいの?」
「フッ・・・私はあの男が立案している計画には反対ですのでね。 あなた達ならばある程度妨害は出来るはずでしょう」
「捨て駒にする、という事?」
「いえ、あなた達に協力してもらいたい、と言うだけですよ、杏子=D=ラインハルト嬢」
「良く言うわね、アナタたちの組織の内紛に私達は巻き込まれた、という事?」
「そういっても過言ではないですね」
「・・・良いわ、その代わり、アルフェスをこの部屋に連れてきてくれないかしら?」
「わかりました、私の権限で手配しておきましょう。 それでは」
礼をすると、フィリッドは部屋から出て行った。
杏子は一息つくと、再びソファに座り、フィリッドから手渡された愛用の銃を見つめた。
翔已に教えを請い、初めて手にした銃がコレだった。
両親の事は大して覚えていない、兄・翔已の話では杏子が生まれて数年後に、失踪したらしい。
翔已は杏子を育てる為に、まだ幼い頃から働いたし、かっぱらいもした。
翔已は、その頃から傭兵として戦場に赴いた。
生まれて間もない杏子を孤児院に預け、銃を持ち戦った。
小さな国の内戦などを主にして、翔已は戦場を駆け抜けた。
そして、実力を見る見るとつけていき、『光速の銃士(ライトニング・ガンナー)』、『碧眼の死神』と言う字を得た。
だが、19の頃・・・バニシングブリットにて、命を落とした。
嫌な事を思い出し、杏子は頭を振る。
そのまま時間は過ぎていく。
暫くの間、ボーっと天井を見つめていると、ドアがノックされて再びフィリッドが入ってきた。
「アルフェス君を連れてきました。 そこのベッドに寝かしておきますので」
「ありがとう」
「いえ、お構いなく。 アルフェス君は手当てをしておりますが、暫くは動かさないほうが良いでしょう、では私はコレで」
再び、フィリッドは丁寧にお辞儀をしてから、部屋から出て行った。
杏子はアルフェスの寝ているベッドに座り、アルフェスの頬に触れる。
血色のいい顔、どうやら心配は要らないようだ。
杏子は安堵の息を吐くと、少し考え込む。
フィリッドの言っていた言葉・・・『あの計画』と言う言葉を思い出した。
(あの計画・・・ね、何のことなのかしら? 今回の依頼であった生体兵器と戦う、という事に関係がありそうだけど・・・)
考え込むが、やはり何も分からないとしか言いようがない。
少し息をつくと、杏子はアルフェスの隣に潜り込み、小さく息を吐くと襲い掛かってきた眠気に身を任せ、眠りに付いた。
スフィードとエリシアはと言うと、昨夜の場所に訪れていた。
夜が明けてから、数時間と言ったところか。
エリシアの持つ能力『遠見の魔眼(リモート・サーベイ)』を使い、アルフェス達の居場所を探る。
意識を拡大し、この惑星に存在する全てを見通す能力だ。
それゆえ、彼女はこの時代に置いては重要な存在だった。
過去、『読心の魔眼(リード・ザ・ハーツ)』と呼ばれる能力を持っている女性がいた。
名の通り、心を読むことが出来る能力で、『ルイナ=ヴォルムス』と言う女性がその能力を持っていた。
スティアフォードにて彼女は18年と言う短い人生を終えた。
そして、彼女の死がアルフェスともう一人、隆一と言う男の心に大きな傷を残した。
目の前に居て、救えなかった。
ただそれだけだ。当時の事をアルフェスは詳しく騙ろうとしない。
エリシアは意識を世界中に向ける。
たった数秒で世界中に居る人の位置を把握し、アルフェスと杏子を見つけ出した。
目を開けて、エリシアは地図のある場所をさした。
「・・・ここに、アルフェスさんと杏子さんが居ます」
「そうか、そんじゃ早速いくか」
ジャケットを羽織り、その中にあるホルスターに銃とリヴァイダーを差込み、アルフェスの家を出た。
装備はグラハムSGXが一丁に替えの弾丸を10ダース、スタングレネードを数個、防弾のインナースーツはエリシアに着させている。
後は、自家製の小型の電磁誘導銃・・・一般的にATのレールガンを最小限の威力を持たせて、小型化したものだ。
試作品なのでその威力は試した事は無いため、どれほどの威力を持っているかは分からない。
それと、リヴァイダー『ディユ・グレーヴ』だ。
エリシアの武器はラーヴィッシュM−15カスタムと替えのマガジンを10ダース、手榴弾を数個、スフィード製のトラップボムを5個。
リヴァイダー『シャイニング・ブレイズ』と少なめだ。
だが、それだけでも十分なのだろう、目的はアルフェスと杏子の救出のみなのだ。
アルフェスのシルフィードにスフィードが乗り、スフィードのGX−R−209(アンフェール)に乗り、目的の場所へと走る。
一方、アルフェス達の捕まっている場所に、一人の少年が入って行った。
年齢は15〜6歳、と言った所か。
少し長めの髪の毛をうなじ辺りで束ねており、10cm程の長さだ。
サングラスをかけており、瞳の色は分からない。
少年は長い廊下を歩いていく。
途中、黒いコートを纏った人物が立っており、少年は其の人物の前まで歩くと立ち止まった。
「ふぅ・・・フィリッドさん、俺に何か用なのですか?」
「隆一くんか、キミの言っていたアルフェスくんが今、この場所に居ますよ」
「アイツが・・・ここに?」
「えぇ、旧知の仲なのでしょう? 久しぶりに、会ってみてはどうです」
「アルフェスは今どこに?」
「第三貴賓室に恋人と一緒にいますよ」
「ありがとうございます。 では、私はコレで」
「相変わらす生真面目ですね、君は」
フィリッドの隣を歩いていく隆一と呼ばれた少年。
彼の背中を見つめながらの小さな呟き。
隆一は、第三貴賓室へと足を向けて歩いている。
自然と笑みを浮かべていた。
あの時・・・スティアフォード戦役では、共に戦った間柄だ。
その時は、『あの男』と戦い、完膚なきまでに叩きのめされた。
護ると誓った女性を護れなかった。
自嘲的な笑みを浮かべ、歩いていく。
十分ほど歩き、第三貴賓室につき、部屋の扉をノックして中に入った。
「誰ッ!?」
「久しぶりだな、杏子=D=ラインハルト」
「隆一・・・? 何で、アンタがここに」
「アルフェスはどうしてる?」
「あたしの質問に答えなさいよ!!」
「俺は一応この組織の人間なんでな・・・アルフェス、おい、アルフェス」
「う・・・」
小さく声を上げて、アルフェスがゆっくりと目を開けた。
隆一の顔を確認して、顔を振る。
まだ、傷が痛むのか顔を顰めて、腹部を押さえた。
小さくため息をつき、隆一はアルフェスに声をかけた。
「大丈夫か? まさか、アーマージャケットを貫くライフルがあったとはな」
「そいつは、俺も驚きだったぜ。 まぁ、ジャケットを過信しすぎてたかもしれないがな」
「・・・所で、お前は何故、俺の組織と?」
「組織の主と名乗った人間に、生体兵器と戦り合えって言われてな。 それを突っぱねたら、今の状況だよ」
「やれやれ、ルヴァイスにはめられたか。 アイツは、この組織の長の側近で、五傑神衆を統率している」
「なるほどな・・・そんなお偉いさんが、俺を特別視している、と言うわけか?」
「恐らくは・・・な。 それに、お前の『シルヴィード』と言う名が、因縁らしい」
「・・・それ以上は言うな、わかってるだろう?」
アルフェスがそういい、隆一をにらみつけた。
殺気が、隆一を包み込む。
それを見て、杏子が思わず息を呑む。
一瞬だけ、笑みを浮かべて隆一はアルフェスに背を向けた。
何も言う事無く、隆一は部屋を出て行った。
隆一は、部屋を出てドアにもたれかかり、天井を見つめて小さく呟く。
「杞憂だったか・・・」
そう小さく呟きながら、自分の掌を見つめた。
先程のアルフェスの殺気で、うっすらと掌に汗をかいていた。
小さく笑みを浮かべて、すぐに表情を引き締めると、隆一は歩き出す。
長い廊下、この先にはATの格納庫があり、彼の乗るAT罪騎士(ナイト・オブ・ギルティ)がそこにあった。
誰も居ない格納庫。
ATがずらりと並んでおり、多くのATがある。
最新型から、何度もカスタマイズを繰り返した改良騎もあり、隆一は自分のATの下へと歩んでいく。
小さく息をついて、辺りを確認してから、ATへと乗り込んだ。
駆動機の低く重い駆動音がして、ATが起動した。
無言のまま、罪騎士の操術室(マインダールーム)で、目を閉じていたが目を開くと、操術球に触れて騎体を動かした。
騎体が歩き出し、重力カタパルトにたどり着き、騎体からの遠隔操作でカタパルトを作動させた。
と、同時。
警報音が鳴り響いた。
「スフィードたちか? まぁいい、このドサクサに・・・」
扉が閉じ、カタパルト内の重力が遮断されて、騎体が空中に浮く。
一瞬で騎体が空へと射出された。
空は星が輝く空。
深遠の闇の空が広がっていた。
騎体が加速し、その場所から離れていく。
「ん? 通信だと・・・?」
不信感を表したが、それに出る。
『やぁ、隆一』
「フィリッド・・・さん」
『何時も通りで良い。 お前は、ゼウスから抜けるのか?』
「あぁ・・・」
『そうか。 私は何も言わないが、暫くは表立って活動しない方が良い。 ハイエナに嗅ぎ付けられれば、終わりだからな』
「その忠告、感謝しておくよフィリッド」
『しっかりやれ、隆一』
フィリッドの最後の言葉が、それであった。
小さく笑みを浮かべて、隆一は罪騎士を加速させる。
飛ぶのはグリシュテッド公国、2〜3年前にであった少女・・・春菜=A=ドラッケンの住む国だ。
更には、世界最大の都市である『ユナイテッド・アーツ』があり、その都市の中央に彼女の家があり、そこへと向っている。
一方、スフィードとエリシアの二人は、施設内をバイクで走っていた。
スフィードが劣りになり、エリシアが一人でアルフェスと杏子のいる場所へと向っており、地下6階まで来て、エリシアは一旦バイクを止めて瞳を閉じた。
遠見の魔眼の力を使い、二人の位置を把握しようとしているようだ。
二人を見つけて、エリシアはバイクを走らせる。
アルフェス達はと言うと杏子が隠し持っていた爆薬と信管を使い、ドアを破壊して廊下に出ていた。
探すのは、自分達の武器だ。
「さて、俺のリヴァイダーと銃はどこにあるのやら」
「とりあえずは移動しましょ。 スフィードとエリシアが来てる筈だから」
「道理で大人しかったわけだ」
アルフェスはそういいながら辺りを見回した。
静寂・・・とは程遠い状態で、辺りから銃声が響いている。
小さくため息を付いた後、アルフェスは杏子のほうへと振り向いた。
「で、後どれくらいだ?」
「ん・・・後、5〜6分位かしら・・・」
「そうか」
杏子の答えを聞き、短い言葉を発するとアルフェスは目を閉じた。
小さく、淡い光。
直後、目を見開くと走った。
銃弾が先程まで立っていた場所を通り過ぎ、壁に着弾した。
杏子は慌てた様子もなく、アルフェスの動向を見守っている。
銃声の方へと走り、アルフェスは拳を握りこんだ。
銃弾が再びアルフェスへと飛ぶが、それを知っていたのか弾丸を回避し、跳躍した。
天井をギリギリ掠め、空中で体勢を変えて回し蹴りを叩き込み、着地すると再び走った。
杏子は銃口を向けてトリガーをひいた。
三発の銃声は、正確にマシンガンを弾き落とし、アルフェスの拳が殴り飛ばす。
たった十分で十数人程の兵士が倒れ、アルフェスはお腹を押さえて、廊下を歩き出した
。
やはり、傷が完全に完治してないので、歩くのもつらいのだろう。
杏子が寄添うように歩き、廊下を歩いていく。
階段を上り、上の階へと上がり廊下を歩き出した。
バイクのエンジン音と、数回の爆発音と振動があり、アルフェスは少しため息をつく。
「杏子、ここで別れるぞ。 俺は銃とリヴァイダーを探しに行く」
「ちょ、冗談でしょ? その傷で戦えるの?」
「大丈夫だ。 お前は、先にあいつらと脱出しろ」
「アンタね、自分の身体の状態わかってんの?」
「分っている。 だがな、俺はあの銃とリヴァイダー以外使うつもりはないからな」
アルフェスがそう言い、杏子から離れて背を向けた。
それ以降は何も言わずに、杏子はアルフェスと正反対の方向へと歩き出した。
階段を降り、先程と同じ階に下りると、アルフェスは瞳を閉じる。
オリジナルより遥かに劣るが、一瞬だけならばオリジナルと同等の力を使う事が出来るのだ。
なぜかは分からない、昔からそうだった。
目で見たことのある能力、実際にその身に受けた能力ならば、それをすぐに行使できる。
スフィードの新星なる炎(フレイム・オブ・ノヴァ)、杏子の未来詠み(リード・ザ・ホープ)、エリシアの遠見の魔眼(リモート・サーベイ)、今は亡き杏子の兄である翔已の能力・陽炎の刃(ミラージュ・セイバー)を始めとして、その総数は50を超えている。
そして現在、彼が使っているのは特定のモノを探知する能力で、エリシアの遠見の魔眼と似た能力だ。
能力名は『探索の神眼(ファンブル・アイ)』と言う。
目を開けて、自分が使っている武器・・・ズフィドSt−1とリヴァイダー『シュヴァルツ・シャイン』のある場所へと、ゆっくりと歩き出した。
手を傷口に当てて、『癒しの極光(ブレイジング・ヒール)』を使っているが、余り効果は無いようにも思える。
だが、少しずつではあるが、傷口はふさがり始めており、足取りもしっかりとし始めてきた。
小さく息を吐き、アルフェスは廊下にもたれて座り込んだ。
目を閉じて天井を見上げた。
(まずいな・・・すこし力を使いすぎたか。 くっ・・・意識が・・・とお・・の・・・く)
アルフェスはそこで意識を失った。
次に目を覚ましたのは、大体十分後で頭がくらくらとするものの、さして異常は無い。
手を何度か握り、立ち上がると辺りを見回した後、時間を確認してから歩き出した。
小さく息をつくと、銃声がすこし離れた場所から聞こえてきて、歩みを速めた。
広い廊下を歩いて行き、角を曲がろうとした途端に、銃弾が壁を破壊する。
壁にもたれて、また小さく息をついて、再び能力を行使した。
風が、アルフェスを包み込んだ。
直後に聞きなれたバイクのエンジン音が聞こえ、アルフェスは風を消してそちらへと顔を向ける。
エリシアがスフィードの愛車・GX−R−209(アンフェール)に乗って、アルフェスの前まで走ってきた。
車体を傾けるとブレーキをかけ、アルフェスの目の前で泊まる。
「ようやく見つけましたよ、アルフェスさん」
「早かったな。 俺が運転しよう」
「はい。 あ、それとコレ」
エリシアが言い、アルフェスの銃が二丁とリヴァイダーが一丁。
それを受け取ると、ホルスターへと差込み、ベルトを巻く。
エリシアは後部座席に移り、アルフェスがハンドルを握りエンジンを吹かした。
重い重厚な音が響く。
前輪を軸にして、180度回転し、アルフェスとエリシアの乗るアンフェールが走り去った。
階段を器用に上っていき、アルフェスはバイクを操作しながら、後ろのエリシアへと問いを放つ。
「エリシア、スフィード達の居場所はわかるか!?」
「ちょっと待ってください・・・今、確認します」
エリシアは目を閉じて、スフィードと杏子の位置を把握すると、目を開けた。
「ここより、三階上で往生してます」
「そうか・・・すこし急いだ方がよさそうだな」
アルフェスは冷静にそういい、バイクを操作する。
無言で、エリシアは彼の操作するバイクに揺られていた。
スフィードもそうであるが、アルフェスもオールマイティーな腕を持っている。
普通ならば、自分が乗っているバイクと違えば、ある程度は戸惑うはずなのだがそれが無い。
何台ものバイクを乗りこなす二人だ、当たり前といえば当たり前かもしれないが。
一方、フィリッドは、施設内のドサクサに紛れ、メインコンピューターにハッキングを仕掛けていた。
恐らくは、彼も組織のあり方に疑問を抱いているのだろう、特に今回の作戦に関しては。
キーボードを叩き、次々とプログラムを突破していき、データをみる。
(なるほど・・・これが、今回の作戦の全貌と言うわけか。 だが、あの二人が来る事もあの方のシナリオ通り、と言うわけか・・・恐ろしいお人だ)
フィリッドは更にキーボードを叩く。
膨大なデータに目を通して行き、頃合を見てネットワークから切断して、席を立った。
部屋を出ると、騒々しい施設内を歩いて行き、姿をくらました。
スフィードはと言うと、杏子を拾うと一路出口へと向けて、バイクを走らせており、未来詠みを持つ杏子の射撃で行く手を遮る敵を撃つ。
正確な射撃と速さ、『音速の銃士(ソニック・ガンナー)』と言う二つ名は、伊達では無いようだ。
「スフィード、止めて!!」
急な杏子の指示に、ブレーキをかける。
無言のまま、スフィードは辺りの様子を見る。
何も無いのだが、杏子はただ一点を見つめて、カウントを始めていた。
「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・ゼロ」
カウントが終了した直後、爆発が発生した。
恐らくは、未来詠みで爆発を見たのだろう、杏子へと視線を向けると、杏子はウィンクで答えて見せた。
スフィードはすこし肩をすくめ、バイクを走らせた。
マガジンを交換して、杏子は照準を定めてトリガーを引いていく。
銃声が轟く度に、敵の銃を弾く。
「スフィード、このまま突っ切って!」
「了解!」
スロットルを回して、更にスピードを上げた。
杏子はふと後ろを振り向いた。
何時の間にか、アルフェスとエリシアがすぐ近くまで来ており、二台が並ぶ。
そのまま施設を出ると、二台はそのまま直線の道路を走る。
暫く走り、ブレーキをしてバイクを止めると、アルフェスとスフィードがバイクから降りた。
手には紅いコートがあり、アルフェスにそれを渡す。
ずっしりと重いコートで、アルフェスはスフィードに目配りをして、あたりを見渡した。
「これは・・・予想範囲内か?」
「さぁな」
「範囲内よ、早く逃げないとね」
杏子はさして愕いた様子は無い。
未来を見る力を持っているのだ、愕く様子が無いのは当たり前か。
エリシアと杏子もバイクから降りて、アルフェスの隣に立つ。
周りは既に囲まれており、アルフェスは小さく笑みを浮かべると、赤いロングコートを空へと向けて投げた。
更に、杏子がコートへと向けて銃を撃った。
その衝撃で、コート内に仕込んでいたデリンジャーが散らばり、落ちてくる。
アルフェスと杏子が、落ちてきたデリンジャーを掴み、撃つ。
銃声が、轟く。
百近いデリンジャーを次々と掴み、標準を一瞬であわせると、トリガーをひく。
笑みを浮かべて、落ちてくるデリンジャーを空中で掴み、無造作に銃口を向けて撃つ。
スフィードとエリシアは、ただそれを見ているだけ。
アルフェスと杏子は、何時の間にか背中合わせに立ち、落ちてくるデリンジャーを掴み、撃ち、手放すとまた掴む。
次第に、周囲にデリンジャーが転がり始め、周囲を取り囲んでいた敵を全て片付け、最後の二つをアルフェスがキャッチして、あらぬ方向へと銃口を向ける。
「どうだ、まだやるか?」
アルフェスがそういい、一人の男が姿を現した。
黒いコートを纏った男が姿を見せ、すこしだけ笑みを浮かべた後、口を開いた。
「今はやりませんよ、ですが・・・いずれやりあう事になるでしょう」
「どうだか・・・な」
「信じなくても結構、それでは私はこれにて・・・」
男・・・フィリッドが背を向けて、歩き出す。
フィリッドの背中を見送り、アルフェスは二つのデリンジャーの銃口を空へと向けて、トリガーをひいた。
乾いた銃声が同時に響き、アルフェスはデリンジャーを捨てて、シルフィード乗るとエンジンを吹かす。
杏子がそのバックシートに座り、エリシアとスフィードに一旦視線を向けると、アルフェスはバイクを走らせた。
その日から一週間後、アルフェスは腹部の傷は完全にふさがっており、銃創が残っているだけだ。
ベッドの上に寝転がって、薄暗い部屋の天井を見つめる。
次第に眠気が訪れ、アルフェスの意識は混濁した闇へと落ちて行った。
当時の事を思い出し、アルフェスは拳を握る。
近くにあった瓦礫を殴り、破壊して杏子へと振り返った。
カプセルの中で眠りについているエリシアの姿は、あの時と変わっていなかった。
最後にあったあの時と。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない・・・ただ」
「ただ、なに?」
「ただ・・・アイツと同じ立場になったなら、同じ道を選んでいたんだろうなと思ってな」
アルフェスの言葉を聞いて、杏子がニンマリと笑みを浮かべて、抱き付いた。
柔らかな感触が背中にある。
少しだけ頬を赤らめて、冷静にアルフェスが口を開く。
「帰るぞ・・・」
「はいはい」
「また来るよ、エリシア」
アルフェスはそういい、背中を向けて出て行った。
遺跡を出て、アルフェスは黒霊騎士・改に、杏子は白銀騎士に乗り込む。
動力炉の重厚な起動音が、操術室内に響く。
騎体が空中に浮かび、空に舞い上がっていくと、東方へと向けて騎体が加速した。
数時間が経過して、一騎のATがそこへとやってきた。
白と黒のカラーの騎体、ところどころ改修された個所があり、随分と古い騎体だった。
その騎体は着地し、一人の男がATから降りた。
金髪に薄い紅と蒼い瞳の男が、大地に降り立つと遺跡の中に入っていく。
黒いジャケットに履き古したジーンズ、男の名はスフィード=アルバート・・・『戦場の聖騎士(マルス・パラディン)』と呼ばれた男だ。
歩きなれた道を行くように、彼は歩いていく。
そして、彼がたどり着いた場所も、エリシアの眠る場所であった。
液体の満たされたカプセルの中で眠り続けるエリシア。
カプセルに触れて、スフィードは瞳を閉じた。
(すまない・・・エリシア、あの時もっと早く俺がお前の元にたどり着いていれば、こういう事にはならなかった・・・)
手に力がこもる。
無意識のうちに能力を使っていたのか、足元から炎が発生して荒れ狂った。
それに気付き、スフィードは炎を消すとエリシアの顔を見た。
17歳の頃のエリシアの顔だ。
それが、無性に自分への怒りを増幅させている。
スフィードは思い出す、非力な自分を・・・
再び時はさかのぼり、8年前・・・アルフェス達を救出してから一ヶ月が経過し、スフィードは焦っていた。
少し家を出ていた間に部屋が荒らされていたのだ。
そこにいた筈にエリシアの姿も無い。
壁に、紅い血で『騎士に告ぐ。 姫を返して欲しくば今宵、グレイフィードまで来たれり』と書かれていたのを見て、バイクを走らせていた。
グレイフィードは目と鼻の先、バイクで1時間もかからずにいける場所で、既に30分以上は経過しており、後10フィース程だ。
装備はグラハムSG−Xとリヴァイダー『ディユ・グレーヴ』のみ。
(久々にぶちギレしそうだぜ・・・)
心の中で呟き、更にスピードを上げた。
一方、グレイフィードでは、三人の男がそこにいた。
五傑神衆の一人、エファル=C=ラグヴィスは、煙草を吸いながらPCに表示されているデータを見つめていた。
そこに一人の男が入ってきた。
銀髪の男・・・ルヴァイスである。
それに気付き、視線をそちらへ移した後、再びPCへと視線を戻した。
もう一人、白髪に近い銀髪の男は椅子に腰掛けて、読書を行っている。
題名は『咎人の罪と断罪の刃』と書いてある。
最後の一人は、腕を組んで眠っていた。
「・・・フィリッドはどうした?」
「さぁ、またどこかに出かけてるんじゃないのか?」
「良いんじゃないですか? あの人、何を考えてるか分かりませんし」
最年少で五傑神衆となった少年・・・リヴァルクト=アデンが呟く。
彼の言葉を聞き、ルヴァイスは何も答えない。
目の前にウィンドウが開き、ある光景が映し出された。
少女が眠っている光景だ。
その少女は、一ヶ月前にアルフェスと杏子を支部から助け出した。
実力を評価されてか、ゼウスは目をつけたのだ。
遠見の魔眼の能力を持つ少女で、スフィード=アルバート、アルフェス=シルヴィードと共に、激戦と呼ばれた戦場を生き抜いた傭兵である。
その彼女が、何の抵抗も無く捕まえられた、と言うのならばウソになるだろう。
「で、ルヴァイス。 コイツをどうするんだ?」
本を読んでいた男・・・ティオンが口を開く。
そちらへと一度顔を向けて、また正面を向いた。
一瞬の静寂の後、ルヴァイスが口を開いた。
「例のプロジェクトの素体だ。 クローン体を幾つか創り、それを使うのだがな」
「クローン体を創ってどうするんだ?」
「今まで手に入れたサンプルを合成させ、究極の生命体を作り出す、それが今回のプロジェクトの全貌だ」
「それは、あの方の発案ですか?」
「当然だ。 とっとと動け」
ルヴァイスは背を向けると、部屋を後にした。
その一方で、スフィードはグレイフィードに入り、バイクを止めて周囲を見回した。
誰も居ない。
そう、街の住人でさえも姿は無い。
まだ深夜ではない、夜であっても人の姿はあるはずだ。
それなのに、誰も居ない。
「どういうこった・・・こりゃ」
「答えてあげましょうか、スフィード君?」
声がした方へと、視線と銃口を向けた。
そこに立っていたのは、黒髪の男・・・フィリッドであった。
「テメェ、何でこんな所に居やがる?」
「そういきり立たずに、冷静にならなければ見えるモノも見えなくなりますよ?」
そういって、フィリッドは銃を抜いて、撃つ。
自分の左へと撃たれた銃弾は、闇にまぎれていたゼウスの暗殺部隊の人間を貫いた。
血が流れ出る。
それを合図に一斉に襲い掛かってきた。
とっさの判断でバイクを走らせ、暗殺部隊の間をすり抜けると、フィリッドの隣へとバイクを止めた。
グラハムを抜き、銃口を向ける。
「アンタの目的が何かは知らねぇが、説明はしてくれんだろ?」
「えぇ。 ですが、この者達にはご退場願いましょうか」
フィリッドはそういうと同時、炎をその身に纏う。
紅い炎ではなく、青白い炎だ。
膨大な熱量はスフィードのバイクにも影響を及ぼそうとしており、それを配慮してか、フィリッドが走る。
腕を振るい、炎が走る。
敵を包み込み、青白い炎が燃え上がる。
バイクを走らせ、スフィードはリヴァイダー『ディユ・グレーヴ』を抜き放つと、銃口から硬質化したディユ・グレーヴのエネルギーが伸びる。
膨大なエネルギーを硬質化したもので、決して折れる事は無い。
バイクでその炎の中を突っ切り、ディユ・グレーヴを振るう。
銃を、プロテクタージャケットを、フィリッドが生み出した炎さえも斬り裂いた。
「これが、ディユ・グレーヴ(神皇の光剣)だ」
そういい、ディユ・グレーヴの切っ先を敵に向ける。
同時、エネルギーが拡散し、飛び散った。
霧のように霧散していったにも拘らず、それは周囲にあるものを破壊した。
全てを切り伏せた後、エネルギーは消えていく。
ホルスターにディユ・グレーヴを収めると、フィリッドへと振り返って口を開いた。
「で、お前の目的は何だ?」
「この実験施設で行われている実験には反対なんですよ」
「実験・・・だと?」
「えぇ、詳しくは知りませんがね。 後ろに乗せてくれますか、場所を案内しますので」
「・・・アンタの言葉は完全に信用できねぇ」
「やれやれ、なら・・・この言葉は信用できますか?」
そういい、フィリッドはスフィードへと近づいていく。
グラハムSGXを抜き、銃口を彼へと向ける。
臆する事無くフィリッドは彼の目の目に立つと、身体を傾けるとスフィードの耳元で何かを囁いた。
眼を見開き、フィリッドの顔を見ると、不敵な笑みを浮かべていた。
銃を収め、頭をかくと、スフィードは口を開く。
「それが、アンタが計画に反対する理由、ってワケか?」
「えぇ」
「・・・その信憑性はどうなんだ?」
「そうですね・・・言葉だけ、と取るなら皆無。 ですが、私の記憶は確かですよ、スフィード君?」
「チッ・・・」
スフィードは舌打ちをして、目の前に立つ男を見る。
撃ちたければどうぞご随意に、そんな顔をして立っているだけだ。
「今だけ信用してやる、乗れ」
「ありがとうございます」
「で、場所は?」
「この街の中央・・・『フェイリス・タワー』の地下に、その研究施設があります」
「確か、ありゃ政府の奴らが建てたもんじゃなかったか?」
「表向きは、ね。 ですが、あれはゼウスの人間が建てたものですよ」
「わかった・・・ひとまずはそこに行こうか」
短くそう答え、スフィードはギアチェンジして、スロットルを回してバイクを走らせる。
街の中央へと延びる道路を走らせていると、フィリッドは銃を抜いた。
身体が反応する。
だが、トリガーが引かれ、夜の誰も居ない街に銃声が響き、マルズフラッシュが街に煌いた。
何かが落ちる音が聞こえたが、バイクを止めること無く走らせる。
その後もトリガーを引き、銃声が響く。
硝煙の匂いは、すぐに風に流され消えていく。
「待ち伏せか?」
「でしょうね、エリシアだけではなく、スフィード君も狙っているようです」
「チッ・・・スピード上げるぞ!」
「えぇ、どうぞ」
スロットルをフルに回して、最高速で道路を走っていく。
フィリッドがトリガーを引き、銃を撃つ。
そのたびに、微かに匂う硝煙の匂いが、鼻に付いた。
街中を走り回り、追ってを振り切るとフェイリス・タワーへと辿り着き、ビルを見上げる。
高く聳え立つビルはまるで、神聖創世記(セイクリッド・フェイバル)・第一章第五節『星空への階段』にあるはるか天空を貫き、星々の大海へと届く塔・『星空の塔』を連想させる。
小さく息を吐くと、バイクを近くのビルの中に止めて、二人はビルのフェイリス・タワーの前に立った。
「さて、此処からは別行動です」
「わかってる」
「ご無事を祈っておきますよ」
フィリッドはそう言うと、フェイリス・タワーの中へと入っていく。
小さくため息をつくと、スフィードも中へと入って行った。
シンと静まり返り、不気味な位だ。
サングラスをかけて赤外線のセンサーが無いかを確認した後、一歩踏み出す。
目指す場所は地下の研究施設。
スフィードはディユ・グレーヴを抜き、刃を形成する。
グラハムSGXを右手に、ディユ・グレーヴを左手に持ち、歩いていく。
恐らく、フィリッドが行ったのか、死体がそこら中に転がっており、息を吐いた。
気を引き締めなおして、スフィードは地下へと降りていった。
一階事に階段の位置が変わっている為、時間はかかった物の漸く地下の実験施設へと辿り着いたが、ひっそりと静まり返っていた。
周囲に気を配りながら歩いていると、背筋が寒くなるほどの殺気を感じて、身を捻った。
直後、マズルフラッシュが闇の中に煌き、銃声が後から聞こえてきた。
(チッ、うざってぇな・・・)
リヴァイダーではなく、グラハムSGXを構えると目を閉じた。
撃鉄を起こす微かな音で場所を判断し、トリガーを引く。
闇の中に自分の撃った銃のマズルフラッシュと、相手のマズルフラッシュが煌いた。
銃声、そして銃弾同士がかち合う音が発生、スフィードはさらに撃鉄を起こしながら一直線に走る。
更なる銃撃とマズルフラッシュ。
そして、スフィードはリヴァイダーを引き抜き、エネルギーを硬質化させて更に疾駆。
床を、壁を斬り裂く一閃をくりだした。
闇を斬り裂く光の刃は空を切る。
それを予測していたのか、スフィードは回転を加えて更にもう一閃。
今度はスフィードのリヴァイダーは相手を切り裂いた。
だがその感触に違和感を覚え、スフィードは動きを止めた。
闇の中から一人の男が顔を見せる。
先ほど分かれたフィリッドだった。
「くっ・・・少しは、確認してから振るってはどうです?」
「すまん・・・」
ズキズキと痛む右腕。
血がボタボタと流れ落ち、フィリッドは腰に巻いているベルトを右腕に巻き、圧迫してスフィードを先に進ませた。
ふぅ、と息を吐き出すと脂汗を拭う。
先ほどからズキズキと痛み、すぐに応急処置を施したあと、フィリッドは歩き出す。
自分よりも年下でありながら、超高出力のリヴァイダー『ディユ・グレーヴ』を片手で扱う握力。
それはアルシオン連邦の兵士では敵わない程の物だ。
それこそ、現在での最高戦力である『神聖・竜騎士団(セイクリッド・ドラゴン・ナイツ)』の一人に匹敵するほどだ。
二人は進んで行き、虱潰しに探していく。
(クソッ、こうしてる間にもエリシアは・・・)
「落ち着きなさい、スフィード君。 恐らくはここに・・・」
二人の目の前にある部屋から、かすかに光がこぼれている。
スフィードはディユ・グレーヴを振るい、扉を寸断した。
光が溢れ、闇に慣れた目がその光をより一層と眩いものにしている。
手を翳して影を作り、光に目が慣れると部屋の中を見渡した。
そこには何もなかった。
恐らく、実験は既に終了したのか、研究員が一人、そこにいるだけだ。
「テメェ、エリシアはどこだ!?」
歩数にして約30弱。
そのあいた距離をたった一歩でつめると、胸倉を掴み持ち上げた。
そのまま壁に背中を叩きつける。
大きな音、と呼べるものが耳につく。
フィリッドは冷静に、其れを見て眉をしかめた。
彼らしからぬ行動。
何も言わずに、スフィードは胸倉を掴む手を相手の胸へと押し付けた。
「し、知らな・・・い」
「あんだと!?」
「ほ、ほんとに・・・知らないんだ! わ、私は、ここの後始末を任されただけで・・・」
「そこまでにしておきなさい。 死んでしまいますよ?」
いつの間にか、フィリッドがスフィードの手首を掴んでいた。
無言のままにらみ合い、スフィードが手を離す。
気を緩めた瞬間、左手でリヴァイダーを抜き、一閃した。
だが、刃はなく空を切る。
リヴァイダーを収めると口を開く。
「じゃあな」
それだけ言うと、スフィードは部屋から出て行った。
ふぅ、と言う小さなため息の後、視線をその男に向けた。
どこにでも居るような研究員だ。
フィリッドは目を伏せると、ホルスターから銃を抜き、その銃口を突きつけた。
目を細め、その研究員を見つめる。
鋭い視線と眼光。
恐怖を滲ませ、研究員は冷や汗を流しながら口を開こうとする。
だが、恐怖により言葉を発する事ができず、ただ、あ、と言う言葉だけが出てきた。
口の端を持ち上げ、笑みを作り出すとトリガーを引いた。
大きな銃声。
弾丸は壁に穴を穿ち、銃口から白い煙が立ち昇る。
「本当のことを言った方が身のためですよ?」
フィリッドがそういい、銃を収める。
研究員が口を開き全てを語る。
研究内容は元から知っているが、未完成の生体制御のナノマシンを注入し、人体への影響を見る事が当初の目的だ。
だが、当初の予測を超えて、人体を急速に侵食していき、ナノマシンを抑制する特殊な液体に満たされたカプセルに入れられ、運び出されたと言う事だ。
それをとめられなかった自分に対する憤りがこみ上げてくると、フィリッドは左の拳で壁を殴りつけた。
亀裂が走り、フィリッドはふぅ、吐息を吐き出すと研究員へと目を向けずに、背を向けた。
無言のままその場を去り、フィリッドは研究施設を出ると、空を見上げる。
星が輝く夜空。
フィリッドはタバコを取り出し、銜えると火をつける。
指先に炎が発生し、その炎にタバコを近づけた。
紫煙を肺に溜め込むと、それを吐き出した。
ふぅ、と息を吐くと同時、肺に溜めた紫煙を吐き出した。
遠くのほうで、破砕音が聞こえてきた。
ビルが一つ倒壊し、フィリッドはそちらへと足を向ける。
そこにたどり着くと白い炎を纏ったスフィードが、拳を握りこみ泣いていた。
彼のその姿は、悲しみが支配しており、フィリッドは一歩、彼に近づいた。
なにかをつぶやいており、スフィードの纏う炎がさらに強くなる。
炎系能力の頂点にたつ『新星なる炎』の力に対し、フィリッドの能力『日輪の炎』は彼の能力に比べれば劣るが、高位に位置する能力だ。
「ちきしょう・・・」
小さなつぶやき。
フィリッドは近づいていき、声をかける。
「スフィードくん」
「・・・なんだよ」
「貴方に情報を与えましょう。 あの実験を取り仕切っていたのは五傑神衆の筆頭、ルヴァイス=シャルグリーンです」
「あの男が・・・か?」
「えぇ」
「・・・」
無言。
纏っていた炎を消し、スフィードは振り返りフィリッドの横を通り過ぎて行く。
その際に、小さく何かをつぶやき、その言葉を聞いてフィリッドは小さく笑みを浮かべた。
その日を境にスフィードは失踪する。
アルフェスと杏子に
『何年かかってもエリシアを救う』
というメモを残し、彼は姿を消した。
目を開けて、過去の回想を終えたスフィードは、目の前にある愛しき女性を見る。
あれから7年もの月日が流れた。
まだ救うための方法は見つからない。
ルヴァイスの行方も様として知れない状況だ。
だが、それでもスフィードは世界を飛び回り、憎悪の対象を探し出し、殺すだろう。
「エリシア・・・必ず、お前を救ってみせる。 必ずだ!」
そう呟き、スフィードは背を向ける。
鋭い眼光が前を見据え、歩き出した。
引き返す事は無い歩み。
いや、引き返す事ができない道を歩いている、といった方が正しいか。
遺跡を出ると、AT・聖皇騎士に乗り込み、騎体を起動させる。
低い駆動音が響き、騎体がゆっくりと空中へと浮き上がり、東の空へと飛び去った。
彼はまだ知らない。
ゼウスとの、憎悪を向けるルヴァイスとの決着をつける時が、近づいてる事を。