GUN BRAVE EX
Intermission:03
ゼウスと言う組織との激闘から、1ヶ月。
あの闘いの後、隆一は春菜と共に姿を消して、冬真とアルティナは新しい住居に移り生活を始めている。
スフィードはあの後、自宅へ戻りエリシアを救うためのプログラムを構築し始め、2人ともある程度はそう言った知識があるので手伝っているのだが、アルフェスは何処か上の空でボーっとしていた。
あの時、フィリッドから聞かされた真実。
「貴方の・・・両親が創りあげた・・・組織から生まれた・・・12の組織の内の一つ・・・」
と言う言葉が、彼の耳に焼き付き離れない。
スフィード達は、部屋に籠もりプログラムを構築しているため、今この場所にはアルフェス一人。
立ち上がると、フラフラと玄関へ向かい外へ出た。
土砂降りの中を、傘もささず行く宛も定めず、フラフラと町中を彷徨い歩いた。
身体全身が雨にうたれ、着ている服は既にずぶ濡れになっている。
彼の瞳には、生気を感じられず人混みの中を歩いていく。
時折、誰かにぶつかりたまに因縁を付けられるが、その生気のない瞳を見て気が殺がれるのか、何もせずに歩き去っていく。
アルフェスはフラフラと路地裏へと入って行った。
「俺は・・・どうすればいい?」
誰かに語りかけるように、アルフェスは呟いた。
だが、その呟きは誰かに聞かれることもなく、雨音にかき消される。
濡れた髪から雫が地面へと落ち、雨足も一層と早くなり、雨も強くなっていた。
その日を境にして、彼の姿を見た者は、誰もいない。
遠く離れた遺跡・・・過去、そこで起こった戦いはいまは、誰もが知っている闘いである。
神霧の森、と近隣の国であるエルシェント帝国の者にはそう呼ばれている場所に、エリシアが眠っているカプセルが放置されていた。
カプセルが蒼白い光を放ちながら、静かに佇んでいる場所に、アルフェスは来ていた。
哀しい瞳で、エリシアを見つめながら、アルフェスは呟いた。
「許してくれとは言わない・・・俺は、お前が眠るきっかけとなったことを作った者達の子なんだ。
俺は、俺の戦いに出る・・・さよならだ、もう会う事は無いだろう・・・意識があるなら、杏子に幸せになれと伝えてくれ」
アルフェスは昔の表情に戻った。
誰も信じていない目で、彼女を見つめていたが、サングラスを掛けるとその場から去っていった。
それから数日後、プログラムの構築が終わったスフィードと杏子が、その場所を訪れた。
持参のノートパソコンを、カプセルを制御している機械へと接続して、今まで構築していたプログラムをその機械へと流し込んだ。
途端、駆動音と共に、エリシアの入っているカプセルから、液体が引いていった。
エリシアが膝をつき、目を覚ます。
濡れた髪とその肢体、スフィードはカプセルを開けると、エリシアの顔を両手で掴み、エリシアの顔を見つめる。
「スフィード・・・ありがと」
「何とかなったか・・・だが、恐らくお前の体内に投与されたナノマシンは、完全に全身へ散らばったから除去は不可能だ」
「それ位は分かってる。 それに、軽い怪我だったらすぐに治るから良いんじゃないかな?」
「お前らしい考え方だ」
スフィードは、持ってきた衣服を彼女に渡すと、そっぽ向いた。
エリシアはゆっくりと立ち上がり、服に着替え始める。
服を着終えると、数歩離れて暗い顔をしている杏子の元へ、歩いていく。
「杏子さん・・・アルフェスさんを探してるんでしょう?」
「・・・何で知ってるの?」
「カプセルの中で眠っていた時も、意識はありましたから・・・数日前に、アルフェスさんがここに来て、こう言ってました。
『許してくれとは言わない、俺はお前が眠るきっかけとなったことを作った者達の子なんだ。 俺は俺の戦いに出る・・・さよならだ、もう会う事は無いだろう』・・・と」
「あの馬鹿・・・私の幸せはアンタがいなけりゃ、何の意味ないじゃない!」
「だから、私の能力を使います・・・
遠見の魔眼 の能力を」
エリシアは眼を瞑り、祈るようにして佇んでいる。
彼女の意識が、肉体から切り離されアルフェスの姿を探し、世界を見る。
だが、何処にもアルフェスの姿は無い。
彼の意志が希薄なのか、生きるという事自体を否定しているのか分からないが、彼の姿はエリシアの能力で見つける事が出来なかった。
大きく息を付き、エリシアは目を開けた。
「見つからない・・・何故? アルフェスさん、生きることを拒んでいるんですか?」
「見つからなかったの?」
「すみません、力が至らないばかりに・・・」
「良いわよ。 自分で探し出すから」
杏子はそう言うと、笑みを浮かべる。
やはり、何処かで無理をしているようだが、エリシアとスフィードは何も言わずにいた。
スフィードはエリシアと共に、自宅へと帰るが杏子はある場所へと足を向け、
白銀騎士 に乗り込むと、動力炉を起動させて宙へと舞い、何処かへと姿を消した。
そして・・・1ヶ月後。
スフィードは、エリシアの身体のリハビリの一環として、山の中に入っていた。
なぜ、山なのかは分からないが、彼女の体は順調に元に戻っていった。
体内にナノマシン散らばっているので、比較的に歩けるようになるのは早かった。
アルフェスの行方は、未だに要として知れず、杏子は今この空の下をアルフェスを探して、自分のATで飛び回っているだろう。
「そう言えば、アルフェスさんどうしてるんでしょうねぇ・・・」
「さぁな。 アイツのことだ、死んではいないと思うが?」
山奥の温泉に入りながら、2人は話していた。
昔からの友人であり、戦友でもある彼等は、余り心配していないようだ。
因みに、2人は湯治に来ており、昔からスフィードが使っている場所で、珍しく野生動物がいる。
猿や熊等、現在では天然記念物に指定されている動物が、2人と一緒に入っていた。
怖がる様子を見せずに、エリシアは熊の身体に触れた。
フサフサとした体毛、鋭利な爪だが牙を剥くことなく、エリシアのされるがままにされていた。
それから数日後、冬真とアルティナはある家の前にいた。
冬真は、クラクションを何度かならすと、其の家の門が開き中へと入っていく。
「どうしたんですか? 何か、改まっちゃって」
「いえ、ここまで家が大きいと思わなかったから・・・」
そう言って、アルティナは家の敷地を見る。
かつて自分が住んでいた家より、遙かに大きい。
それに、この土地が大都市の一角とは思えないほどに、自然が多かった。
ゆうに400mはある道を進んでいき、大きな屋敷の前に車を止めると、冬真は車から降りた。
アルティナも車から降りると、冬真の隣へと早足で歩いていく。
何か、怯えているようにも見え、ゴーグルに隠された瞳が細められ、口の端を持ち上げて失笑する。
まるで子どもみたいだ、と冬真は心の中で呟き、屋敷の都へと手を掛けて開けた。
つい数ヶ月前までは、こんな仕草を見せることがなかった彼女だが、恐らくこれが彼女の本来の姿なのだろう、と考えて冬真は扉を開けた。
控えていたのは数十人のメイドと執事で、頭を下げて冬真達を迎えた。
「うん、みんな変わってないみたいだね、安心したよ」
それを見た冬真の第一声が、これだった。
アルティナの実家も、大きい方であったがここに比べれば、小さく思える。
そこに、老いた執事が前に出て、冬真の目の前に立ち、優しい笑みを浮かべながら、口を開いた。
「冬真様、ご無事で何よりで御座います」
「アハハッ、ラグ爺も変わってないね、昔のままだよ」
「いえ、私はもう年故、昔のようにはいきませぬ」
「無理するなよ、ラグ爺。 そう言えば、姉さん達は家にいるの?」
「はい、春菜様と隆一様、秋斗様、夏美様は各々の部屋に居られるかと存じます」
「そうか。 じゃあ、行こうかアルティナさん、僕の兄姉を紹介しますよ」
そう言って、冬真はアルティナの前に立つと、彼女へと向けて手を差し伸べる。
おずおずとその手に、自分の手を差し出した。
その手を握りしめると、アルティナを引っ張り回すように、家の中を歩き回った。
食堂を始め、自分や兄姉が扱かれた訓練施設、ATの整備施設などを案内して、各部屋の用途を説明していく。
このだだっ広い部屋には、住み込みのメイドと執事達が住んでいる。
住み込み、と言っているが身よりのない子ども達を引き取り、親が育てているという話だ。
そう言った意味では、ここは孤児院と言えるかも知れないし、メイド達とは兄姉同然と言えるだろう。
キョロキョロと見回しながら、アルティナは冬真に手を引かれながら、屋敷の中を歩き回っている。
もう、一時間近く歩き回っており、既に足はつかれ始めていた。
無意味なほど広い屋敷に、少しうんざりしていたが、文句も言わずに歩いていた。
「さて、ご苦労様です。 ここが最後ですよ」
そう言って、冬真は立ち止まり扉を開けようと、手を掛けた。
ふと、その手を止めて、アルティナへと振り返る。
現在着ている服は、いつもの服装では無く、腰元まで背中が大きく開いたドレスを着ており、色は濃厚なワインレッド。
手には薄い紅の手袋をしており、ここ数ヶ月で伸びた髪を束ね、簪(かんざし)で止めておりいつもと違う高貴な雰囲気が、今のアルティナにはあった。
「それはそうと・・・其のドレス、もうちょっと露出があった方が良かったかな?」
「と、冬真!!」
「あはは、冗談ですよ。 其のドレス、凄く似合ってますよ、アルティナさん♪」
「もぅ・・・」
「さて、ようこそ。 ドラッケン家へ」
冬真はゴーグルを外して、扉を開けた。
荘厳な雰囲気が、アルティナを圧倒する。
豪華なシャンデリアや、絵画などが在り縦長の机に座っている人物達が、こちらを見た。
その中に、春菜と隆一の姿もあり、アルティナは僅かばかり息を呑んだ。
冬真はアルティナの前に立つと、手を差し伸べる。
その瞳と宝玉には、ドレス姿のアルティナが写っていた。
「アルティナさん、参りましょうか」
「え、えぇ・・・」
アルティナが、冬真の手を取るとゆっくりと、歩いていく。
自分が今この場にいるのが、場違いと思える程にこの部屋には、普通の部屋とは違う空気が流れていた。
冬真がアルティナを席に着かせると、その隣に腰を下ろした。
隆一はサングラスを外しており、藍色の両目が真っ直ぐに虚空を見つめていた。
一人の少女の姿が、目に入った。
年は17〜8と言った所か、冬真と同じ銀髪の少女で、整った美しい顔立ちをしている。
アルティナの視線に気付いたのか、彼女へと視線を向けると、ニッコリと笑みを浮かべた。
「さて、今日集まって貰ったのは言うまでもありません。 僕の彼女・・・って言うか、嫁を紹介に着ました♪」
「と、冬真?」
「なんですか?」
「い、いえ・・・ちょっと、驚いただけだから」
「姉さんと隆一さんはアルティナさんの事は知ってますから・・・秋斗兄さんと夏美に紹介しておこうかな?
えっと、元アナハイラスの囚人で、
虐殺の堕天使 の異名を持つアルティナ=レイドナーさんです」
冬真が、そう言うとアルティナの顔に少しだけ、陰りが生まれた。
それを聞いた、2人の男と少女の顔に、驚きの表情が生まれる。
少し間を置いてから、少女が口を開く。
「冬兄ちゃん、それホント? この人が、虐殺の堕天使なの?」
「えぇ、間違いありませんよ。 捕縛するときに・・・って言うか、僕が捕まえましたから」
「あの虐殺の堕天使を嫁にするとはなぁ・・・っと、それは兎も角、俺より早く結婚するのはゆるさん!!」
「・・・アルティナ、何故そんな顔をする?」
黙っていた隆一が、口を開いた。
右腕を失った彼ではあるが、現在はスフィードに依頼して義腕を作って貰っている。
自分の血と肉を含めたモノで、ATの操術機構が応用されているため、自分の意志通りに動く代物だ。
話は戻り、顔を上げたアルティナは隆一へと、視線を移す。
「お前は、確かに傭兵だった。 それは、この場にいる全員に言える事だぞ・・・春菜、そこにいる秋斗に夏美も、俺達と同じ傭兵だ」
「分かっている・・・分かっているけど」
「アルティナさん、良いんですよもう仮面を被らなくてもね」
「冬真ぁ・・・」
「ちょ、アルティナさん? 泣かないで下さいよ、ね?」
泣き出してしまったアルティナに驚き、冬真は慌ててアルティナを宥め始めた。
隆一は、そんな2人を見て少し笑みを浮かべると、隣に座っている春菜に視線を移した。
やや切れ長の目、長く美しい黒髪、その全てが愛おしいと思える。
昔は、ただ鬱陶しいだけであったのだが、彼女が唯一心の底から愛せている女性だろう。
隆一の方を向いた春菜と、視線が合う。
複雑に絡んでいる視線、見つめ合っている様に思えたが、たった数秒の事だ。
「そう言えば、みんなに少し聞きたいんですが・・・アルフェスさんがどこに行ったか知りませんよね?」
「アルフェスがどうかしたのか?」
「えぇ、ついこの間、杏子さんから連絡が入って来て、アルフェスさんが行方不明になったらしいんですよ」
「・・・この間のゼウスの一件以後か」
「はい、杏子さんとスフィードさんが、プログラムの構築中に姿を消したみたいです。
目覚めたエリシアさんの遠見の魔眼 の力でも、何処にいるか分からなかったらしいです」
冬真は、アルティナを抱いて頭を撫でながら、隆一に答えた。
アルティナは冬真の胸の中で、未だ泣いている。
少し困った顔をしながらも、優しくアルティナの頭を撫でていた。
それから、少し時間が経過して、冬真はアルティナを部屋へと連れていき、そこでアルティナの頬を両手で持つと2人は見つめ合う。
黒いタキシードを着た冬真なのだが、いまいち似合っていないようにも思える。
アルティナは、未だにしゃくり上げており、冬真は少し苦笑いを浮かべながらアルティナを見つめていた。
ゆうに十分近くが経過し、落ち着いたアルティナは着ていたドレスを脱いで、シャワーを浴びていた。
彼女の柔らかな肌を水が滴り、流れ落ちていく。
肌に刻まれた傷跡、銃弾による銃創、ナイフによる切り傷など、様々な傷の痕があった。
シャワーを浴び終えて、大きな鏡に気付き自分の身体を見た。
体を拭いていないので水滴が、電気の灯りを反射してキラキラと、光を反射しており傷の消えない肌ではあるが、それすらも美しく思える程に、彼女は気高く美しかった。
(もう終わりね、私の復讐も・・・お父様、お母様、お姉様、安らかに眠って下さい。
今度の命日の日に冬真とお墓参りに行きます、その時に私の未来の夫を紹介しますね)
心の中で呟き、身体を服と真新しいシルクの下着に身を包み、服を着た。
先程のドレスとは違い、浅葱色のタイトスカートに同色のジャケットを着て、脱衣所を出ると服を脱いで楽な格好をしている冬真がソファに座り、テレビを見ながら水を飲んでいた。
上がってきたアルティナに気付き、冬真は振り返るとニッコリと笑みを浮かべ、口を開いた。
「うん、似合ってますよアルティナさん」
「そう? 自分では、分からないけど・・・」
アルティナが、そう言いテレビの画面が切り替わり、緊急のニュースが報道され始めた。
この場所から差ほど遠くない場所、距離にすると大凡12フィースと言った所にある、アルクベインと言う町でテロ事件が起きたらしい。
すぐに、2人はテレビを食い入るように見る。
黒い一騎のATが、光砲を発射してビルを破壊している映像が、2人の視界に飛び込んできた。
かつて、一度だけ見た事があるその騎体は、僅かばかり騎体の装甲が変わっている。
だが、確かにそれはアルフェスの
黒霊騎士 であった。
冬真の表情が、驚きへと変わっていく。
「これは、アルフェスさんの黒霊騎士?!」
「どういう事? アルフェスが、テロ?」
アルティナの呟きに答えず、冬真は通信機能を開くと、杏子へと連絡を取る。
その頃、杏子は連日酷使した体を休めるために、ベッドの上でまどろんでいた。
アルフェスと共に住んでいる家は、彼女一人では広すぎるのだろうか、部屋中が散らかっていた。
眠りの縁に居て、だんだんと意識が闇の底へと沈んでいく、そんな状態であった杏子の目の前に、突如冬真の顔が映し出された。
暗い部屋に、通信の光が杏子の顔を浮かび上がらせる。
「ん・・・誰ぇ?」
「僕です、J・Dです!」
「何なのよぉ・・・眠たいんだから寝させてよ」
「早くテレビつけて下さい、アルフェスさんが!!」
「ん、分かったわ・・・」
アルフェス、と言うなを聞き、勢いよく起きあがり、彼女の現在の姿が冬真と横から覗き込んでいるアルティナの視界に入った。
黒い下着、上は短いタンクトップと言う姿で、杏子はリビングに足を運びテレビをつけるとニュースが報道されており、それを見ていた。
よくよく見てみると、確かに自分の知っている騎体だ。
若干、騎体のフレームや基本構造などが変更されているモノの、アルフェスの駆る黒霊騎士であった。
睡眠を求めていた脳が一瞬で覚醒し、ドタバタと自室へと走っていくと、いつもの服を着て開きっぱなしの冬真との回線を思い出した。
が、空中に浮かんでいる冬真の顔の映像は、既に消えていた。
家を出ると、玄関の鍵を閉めて廊下を走っていき、ATを隠している場所へ走ると白銀騎士に乗り込み、動力炉を作動させると騎体を浮上させ、事件の起こっている街へと騎体を向けて、加速させた。
その時より、一時間ほど時は遡る。
紺色の髪の男が、黒い騎体の目の前に座っている。
瞳には光は無い状態で、ユラユラと揺らめきながら燃えている炎を見つめていた。
名はアルフェス=シルヴィード、世界最強と名高い傭兵で『紺髪の戦鬼』とも『真紅の戦神』と恐れられていた。
しかし、彼はゼウスと言う組織との壮絶な死闘の果てに組織を壊滅、その1ヶ月後に失踪していた。
彼を知る者達は、俄に信じられ無い様でもあったが、自然とそれを受け入れていた。
何故、姿を眩ましたのか、と聞かれれば彼は、どの様に答えるのだろうか?
アルフェスは、立ち上がると改装を終えた黒霊騎士に乗り込み、動力炉を作動させた。
ヴォンと言う低い音と共に、作動した動力炉からのエネルギーを、騎体に供給していく。
すると、アルフェスは鼻歌で音楽を紡ぎ始める。
ダヴラスが作曲した交響曲十番第九楽章『久遠の時』と呼ばれる、クラシックの音楽だ。
無言のまま、黒霊騎士を操ると、騎体は空へと舞い上がり、月を背にしてその場に浮かんでいた。
操術室で、目を瞑ったまま鼻歌を歌っている。
バーニアが蒼白い炎を噴出し、黒霊騎はそこから姿を消した。
一時間後、アルクベインでは無い街の上空に、黒霊騎士改の姿がそこにあった。
「・・・綺麗な星空だ。 血に染める惨劇には、相応しくないが・・・」
その呟きと共に、アルフェスは騎体を操作して光砲を発射した。
一筋の光と、弾丸が街の一角にあるビルを崩壊し、瓦礫の山へと変えていた。
黒霊騎士が瓦礫の上へと、着地するとアルフェスは操術室から出ると、飛び降りる。
冷たい瞳、人を殺すことがさも当然の様な平然とした顔で、瓦礫を押しのけていく。
大体、30分ほどで地下へと通じる道が、顔を見せた。
ニヤリ、と笑みを浮かべるとアルフェスは騎体に乗り込むと、自動操縦システムを操作して目的地をアルクベインへと設定し、騎体から降りると地下へと通じる道へと、身体を踊らせた。
それから少し送れて、黒霊騎士が空へと上昇していきアルクベインへと、進路を取り飛び去った。
アルクベイン上空に黒霊騎士が辿り着くと、一発の光砲を空へと向けて発射した。
眩い閃光が、辺りを真っ白に染め上げる。
それから10分ほどで、街のAT部隊が出動し、報道陣が黒霊騎士改を取り囲んだ。
明々と夜の空に照らし上げられる、アルフェスの黒霊騎士。
誰も操縦していない黒霊騎士を、AT・
白霊闘士 が取り囲む。
「そこのATの操術師に告ぐ! 貴様の騎体は完全に包囲されている、無駄な抵抗はやめて降伏しろ!」
隊長騎が、外部スピーカーを使い黒霊騎士改へと向けて、言葉を発する。
当然の如く、黒霊騎士は反応を示さない。
大体、1時間程度膠着状態が続いていた所に、一騎のATが姿を現した。
白銀の騎体が、暗闇の夜空の中に際だっており、凄まじい速度で黒霊騎士へと近付いていた。
その騎体の操術師は無論、杏子である。
(アルフェス!!)
白銀の騎体・・・白銀騎士は、黒霊騎士の目の前まで来ると、その場で停止する。
無論、動力炉は切られており、重力制御装置だけでそこに浮いていた。
杏子は、操術室からでる。
ビルの谷間からの風が、杏子の長い髪を吹き上げる。
躊躇うことなく、黒霊騎士へと飛び移り、操術室へと素早く潜り込んだ。
が、彼女が観た物は蛻の殻の、操術室であった。
「そんな・・・自動操縦?」
「杏子=D=ラインハルトの音声を認識、操術師からのメッセージを再生いたします」
不意に、呟いた言葉を鍵として、アルフェスからのメッセージが、再生された。
杏子の目の前に、アルフェスの顔が浮かび上がる。
立体型通信機能(ホログラム・コレスポンス・システム)が作動したのだ。
立体映像のアルフェスの口が動くと同時、彼の声が操術室内に響く。
『杏子、すまない、今はお前の元へ帰る事は出来ない・・・だが、必ずお前の元へと帰るお前が、俺の帰るべき場所だからな。
だから心配するな、全てが終われば、又一緒に暮らそう・・・子どもを作って家族としてな。
愛してる、お前が居たからこそ俺は生きているんだ、それを忘れないでくれ・・・あの日お前と出会った事を幸運に思う・・・じゃあな』
そこで、アルフェスのホログラムが消えた。
音が途絶えた操術室の中には、杏子の呻き声が響いていた。
涙を流し杏子は泣いている、美しい顔をぐしゃぐしゃにして、涙で前が見えないほど涙を流し、ただ泣いていた。
愛おしいと言う感情が、彼女を狂わせているのだ。
狂おしいまでの彼への愛情と情欲。
何度と無く肌を重ね、愛を確かめあっていた。
だが、もう二度と彼の身体の温もりを感じられないと考えるだけで、身が引き裂かれる・・・そんな気がしていた。
「アルフェスの馬鹿ぁ・・・貴方が居ないと・・・私の幸せはないのに、何でそんな酷い事言えるのよ・・・
何で、何で私も連れて行ってくれなかったのよぉぉぉぉッ!!」
杏子の絶叫。
だが、その声は誰にも届かない・・・無論、彼女の想い人であるアルフェスにも。
アルフェスは愛する者の元へ、己の心を置いて、再び戦場を駆ける修羅となる。
再び、場面はアルフェスの元へと移る。
地下道を歩いており、コツコツと足音が地下道に響き渡っていた。
無言のまま、静寂な地下道を歩いていくと、一つの大きな扉があった。
厳重に封印がなされた扉、アルフェスは銃を抜きそれへと、銃口を向ける。
そして、銃声が地下道に響き渡った。
だがその銃弾は、扉の直前で停止してそのまま、地面へと落ちた。
「・・・時空間を操っている、というわけか?」
それでも、アルフェスは銃口を向けてトリガーを引いた。
十発の弾丸が発射されるが、その全てが先程と同じ様に空中で静止して、床へと落ちた。
銃をホルスターにおさめるとその扉に手を触れた。
電気が走る。
そして、頭の中に何かが流れ込んできた。
遙遠くの記憶、と言えば良いだろうか。
自分と瓜二つの者達の戦いの記憶、剣と魔法の世界、今では御伽噺的な事だ。
しかしそれは、全て揺るぎ無き事実。
自然と、ソレが全て過去にあったことだと理解し、アルフェスは手を離した。
涙がこぼれた。
「・・・セシリア」
小さな呟き。
そして、扉が重苦しい音を立てて開かれた。
中にあったのは、漆黒の古ぼけた銃だ。
数百種類あるリヴァイダーの中でも最強とも言われるリヴァイダー『カイザー・シュベールト』と呼ばれている物だ。
過去、『紺髪の戦女神』と呼ばれる伝説的な傭兵が使った物である。
リヴァイダーを握ると、今来た道を戻り地上に出た。
夜空が広がり、満天の星空だった。
アルフェスは空を見上げ、笑みを浮かべる。
何度も、あの時に戻りたいと願った、母親と共に暮らしていた時に、何も知らない無垢な子どもの頃に。
だが、戻る事は出来ない。アルフェスは自嘲的な笑みを浮かべ、その場を立ち去った。
TO BE CONTINUED
FOR GREEDINESS ALIVE
BEYOND THE WILL
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