GUN BRAVE RELOAD


GUN BRAVE RELOAD
Tne Originate Of Eternal Nightmare For Avenger War



今の時代より、遙か未来のことだ。
世界は、とある組織により法は無意味な物となっていた。
その原因となった組織の名は“アヴェンジャー”と呼ばれている。

その組織が、世界各国の警察機構や軍事機関などを襲撃し、次々と法的機関を麻痺させていった。
その組織の真の姿は、裏の世界の住人・・・即ち殺し屋などの組織を抑圧するために作られた。
しかし、ある時を境にアヴェンジャーは変貌してしまった。



真・聖暦2026年 双竜の月

世界の中心都市である“ユナイテッドアーツ”
深夜近いのにもかかわらず、人々が歩き車が道路を行き交い賑わっていた。
そして、静寂とは言えない街の一角で、爆発が起こった。
摩天楼の一角が突如として爆発したのである。
凄まじい爆音と爆炎そして、砕けたコンクリートがあたりに飛び散る。
その爆発から数時間もしない内に、犯行声明が上げられた。
爆発が起こったビルは、見るも無惨な形になっており、幸いそのビルには人はいなかったらしいが、付近を歩いていた通行人に多数の死者が出た。
すぐに、ビルに取り付けられた巨大な液晶ビジョンや、各家庭にあるテレビなどに男の姿が映し出された。
しかも、それは全世界で同時に放送されている。
画面に映し出された男は、端正な顔をしており両方の瞳の色は深い蒼、髪が肩ら編まで伸びているが、髪を結っておりそれ程だらしないと言う印象はない。

「我らはアヴェンジャー・・・聞いたことが無い者はいないだろう。 先程の爆発は世界政府への宣戦布告だ、そして我々は一つのことを要求する。 この要求が受け入れられなければ・・・蒼光弾を使いユナイテッドアーツを消滅させる!!!」

ビジョンに映し出された男が宣戦布告を行った。
それを見ていたユナイテッドアーツの住人は我先にと一斉に逃げ始める。

「私の名はルーシェン=G=クレイマー、世界政府にたった一つだけ要求する。 その要求とは・・・アナハイラスを我らに明け渡すこと、それだけだ。 不可能な要求ではあるまい? アナハイラスを我らに明け渡せばユナイテッドアーツの住人は救われるのだぞ? 返答は今から4時間以内に返せ、それを過ぎれば・・・ユナイテッドアーツは地図から消えることになる」

そう言い残し、ルーシェンと名乗った男の姿が消え街の混乱が虚しく響いている。
ルーシェンは、世界政府に対して選択の余地のない要求を求めた。

一方、この事件により緊急召集がかけられた世界政府の要人達が会議を開いていた。

「馬鹿な・・・世界を再び混乱に導くつもりか!?」

若い男が机を叩き叫ぶ。
その周りには、10人程の人間が大きな机を取り囲んでいる。

「アヴェンジャーと言うのは、元々裏の世界の人間を抑圧するために発足されたのではないのか!?」

「わからん・・・先代の指揮官が抜けてからアヴェンジャーは歯車が狂ったように動き始めていた、それも少しずつな・・・」
「しかし、彼等にアナハイラスを明け渡すというのは無謀なのでは?」

「確かにな、そうなればSS級犯罪者や危険視されている傭兵が世界に解き放たれる」

「ならば、ユナイテッドアーツに住む数十万の人間を見殺しにするのか!!」

政府の人間は答えが決まっている問題を話し合っていた。
その時だ、一人の初老の老人が口を開いた。

「答えは決まっておる。 儂らには、この答えしかあるまい? ・・・アナハイラスを彼等に明け渡す」

その老人がそう言うと、他の者は黙った。
いや、黙らざるを得ないと言う方が適切かもしれない。
そして、アナハイラスの囚人達は解き放たれた。
それから・・・・・数週間が経過した。
アナハイラスの囚人は、ほぼ全て解き放たれ軍事機関や警察機構を襲撃し次々と法的機関を沈黙させていった。
しかし、中には外に出ずそのままアナハイラスに残る者もいた。
ユナイテッドアーツと同じワーグライト大陸にある都市ルヴェルから南西20km地点にある、陸軍基地“ルヴァーツ”が、アナハイラスの囚人である二人に襲撃された。
ルヴァーツの基地の兵士が、見回りをしている。
次々とアナハイラスの囚人に襲撃され、壊滅させられてる基地の話を聞いて不安になっていないものはいなかった。
二人の兵士が、監視塔で双眼鏡を手にし辺りを見ている。

「なぁ・・・この基地はホントに大丈夫かねぇ?」

「さぁな・・・ん? 何だ、あの光・・・」

それが、その二人の最後の言葉だった。
突如、その二人のいた監視塔が爆発したのだ、二人には何が起こったのか解らず死亡した。

「て、敵襲ーーーーーーーーー!!!」

それを見た兵士が叫ぶ、すぐに兵士達が銃器を持ち外に飛び出してくる。
その直後、ゲートが破壊されその煙の中から二人の男が現れる。
兵士達はマシンガンを構え、その二人に向かって発砲する。
だが、それより先に二人の内の一人が兵士達に向かって丸い物を投げ走った。
直後、閃光が発生し兵士達の視力を奪う。
その隙に、走った男はナイフで兵士の左胸を刺した。
心臓を刺され即死状態だ、ナイフを伝い真紅の血が手に着く。
ナイフを引き抜き、マシンガンを空いている手で握り構え、トリガーを引いた。
次々と、兵士達の身体に穴があき血飛沫を上げ倒れる。

「ヒャッヒャッヒャッ・・・・・・脆いなぁ!!」

更にマシンガンを乱射する。
不意に後ろを向き、手にしたナイフを投げる。
くぐもった悲鳴。
兵士の眉間にナイフが突き刺さり倒れた。
男は倒れた兵士に近づき、眉間に刺さったナイフを引き抜き血塗れになったナイフを舐めた

「クラートゥ・・・・・それぐらいにしておけ」

もう片方の男が、ナイフについた血を舐めている男をクラートゥと呼んだ。
“クラートゥ=オシリス”
殺人狂でナイフを主とした武器にしているが、銃器にも精通しており百を越える人間を殺してきたSSクラスの犯罪者であり、アナハイラスの囚人であった男だ。
更に、人を殺すときのみ快楽を得る狂気の男でもある。

「なんだぁ? ルディアスおめぇは殺さねぇのか? 楽しいぜぇ・・・・」

後ろを振り向かずに、銃を撃つ。
その弾丸は正確に兵士の眉間を貫いている。

「フン・・・・・勝手にしろ(能力者と言えど、あの程度か)」

ルディアスと呼ばれた男は、彼を背にして近くにあるコンクリートの塊の上に腰を下ろした。
ルディアス=J=クレイフェル
傭兵として戦場で名を馳せており、古強者の男である。
更に獅子のような男で、一度戦うと相手を殺すまで止まらない。

「なら、そこでみときな・・・・・全部俺が殺してやる」

クラートゥはそう言うと、死んだ兵士達のマシンガンを手に取る。
トリガーを引き乱射し始めた。
その銃声と共に兵士達が血飛沫を上げ倒れ絶命する。

「逃げろ! 逃げろ!! 俺が全部狩ってやるぜぇ〜!!」

更に、マシンガンを乱射する。
ルディアスは口に煙草をくわえ、冷静にそれを見ていた。
止めようともせず、ただ見ているだけだった。
その時だ、一人の兵士がルディアスに銃を向けた。

「う、動くな!!」

だが、ルディアスは立ち上がり兵士へと向かって歩く。

「動くなと言ってるだろう!!」

「・・・・・・・・・・・」

銃を向けている兵士が叫ぶ。だが、ルディアスは無言のまま近寄っていく。
兵士は恐怖心にかられ、トリガーを引く。
銃声がこだまする。だが、ルディアスは無傷だった。
そのかわり、兵士が倒れていた。
胸には、ナイフが刺さっており、そこから血が流れ出している

「雑魚が・・・・・・」

そう言うとナイフを引き抜き、腕を振るいナイフに付いた血を払う。
その後再び、腰を下ろし煙草を吸い始めた。
クラートゥはまるで、遊びのように虐殺している。
たった一時間ほどでこの基地は使い物にならないほどになっていた。

「クラートゥ、そこら辺にしておけ」

「あんだぁ? 俺に指図するのか?」

「フン・・・・・・ヤツからの命令だ、本部へ戻るぞ」

ルディアスがボスと言うとクラートゥの顔に少しだが動揺が浮かぶ。
だが、すぐにそれは消える。

「分かったよ・・・・・」

クラートゥがそう言うと二人は燃えさかる炎を背にし、その場を去っていった。
アナハイラスがアヴェンジャーの手に渡り、SS級犯罪者や傭兵達の手によって世界各国にある警察機構と軍事機関が襲撃され、法と言う物は意味を成さなくなっていた。






















そして、更に数週間が過ぎた・・・・・・・・

真夜中に二つの影が、路地裏を走っていた。

「ハァハァハァ・・・・・・」

二人は追われているのか、後ろの方から声がする。

「いたぞ!! あそこだ!!」

二人を追いかけている数人の男が、銃を抜き二人に向かって撃つ。
銃声が、真夜中の路地裏に響く。
その弾丸は、壁に当たり跳弾となって跳ね回った。

「いつっ!」

二人の内一人の声が出る。どうやら、男ではなく女性のようだった。
その女性は、左肩を抑えている。
先程の跳弾が、女性の肩を掠めたらしく血が流れていた。
そこからしばらく走り、二人は身を隠し息を潜めた。

「杏子(きょうこ)大丈夫か?」

「え、ええ・・・・・少しかすった程度よ」

杏子と呼ばれた女性は、肩を押さえながら男に答える。
男は、安心したのかほっと一息ついた。

「それよりアルフェス、追っ手は?」

アルフェスと呼ばれた青年が、少しだけ顔を出し様子を見る。
先程まで、追ってきていた男達の姿はなかった。

「どうやら、撒いたみたいだな・・・・・・」

アルフェスは顔を引っ込めて、杏子に言う。

「アヴェンジャー・・・・・か」

「責任を感じてるの?」

「そうかもしれないな、俺達があのまま指揮していれば、こう言う事にはならなかっただろうからな」

「確かに・・・ね。 私達が指揮していたときはまともだった、でもルーシェンに継がせて私達が去った後可笑しくなってしまった」

「手は一つだ・・・俺達の手でアヴェンジャーをぶっ潰す。それだけだ」

「そうね・・・とりあえず、早く家に帰りましょ」

「ん? あぁ、そうだな」

二人は、その場所から出ると走り去っていった。
アルフェス=シルヴィード、杏子=D=ラインハルト
この二名が、世界規模にまで膨れ上がり、ただの犯罪者の集まりと化したアヴェンジャーを創りあげたのであった。
もっとも、最初は組織には名前など無くアルフェスと杏子の二人が活動していたのだ。
この二人が、とある組織に関連していそうな組織や、傭兵や犯罪者と言った者達を捉えていった
しかもその大半が、何らかの特異能力者であり、彼等もその特異能力者の一人である。
そして、いつの間にか肥大化した上に政府の監視下におかれる組織となったのであった。
壊滅寸前に追い込まれた組織や、壊滅させられた組織が幾つかある。
彼等の目的は、とある組織についての情報を手に入れることだけであり、すぐに開放するハズであった。
しかし、世界政府の介入により捕まった者達はとある場所に入れられた。
それが、アナハイラスと呼ばれるようになったのは、世界政府が介入したこの時からである。
そして、約一ヶ月半前に発生した“ユナイテッドアーツ事件”で犯罪者の集まりの組織となった。
二人は追っ手に見つかることなく、家へ辿り着いた。

「ふぅ・・・・・・」

杏子の肩の傷の手当が終わり、包帯を巻き終え多アルフェスが一息ついた

「ありがと」

「とりあえず、今日は寝るか?」

「そうね・・・・・・それじゃ、寝ましょう」

二人は、電気を消し大きめのダブルベットの上に寝転がった。
数分もしない内に二人の静かな寝息が聞こえ始めた。








一方、アヴェンジャー本部にて

大きな部屋だ、その大きな部屋に一人の男が佇んでいる。
その男はルーシェン=G=クレイマーである。
扉をノックした後、一人の女性が部屋に入ってきた。

「申し上げます、クラートゥ、ルディアスの両名がルヴァーツより帰還しました」

「ここへ来るように言え」

「かしこまりました」

そう言うと、女性が部屋から出て行った。
ルーシェンは、煙草を取りだしそれをくわえ、火を付ける。
一息し、煙を吐く。
煙草からは紫煙がたち上っている。
そこへ、クラートゥとルディアスが入って来た.

「何のようだ?」

「もっと人を殺すことが出来るのか?」

「ああ」

ただ簡潔に答える。
ルーシェンは一枚の紙を盗りだしルディアスに渡す。

「ほぅ・・・イナセウスか。 懐かしい名だ」

「感傷に浸っている暇はあるまい、明日すぐに行動を起こせ良いな」

「了解。 で、俺達の他に誰が赴くんだ?」

「お前達二人に、アルファ=ラーウィン、セイドラック=アルフォンそして、アルティナ=レイドナーだ」

ルーシェンがそう言うと、二人は眉をひそめた。

「アルティナ=レイドナー・・・か」

「ほぅ、やはり知っているか」

「あぁ・・・戦場で“ジェノサイドエンジェル”にはさんざん煮え湯を飲まされたからな」

「殺戮の堕天使か・・・・・」

「戦場ではそう呼ばれている」

「そんなことはどうでも良い、イナセウスにある基地を壊滅させてこい良いな」

「了解。 行くぞ、クラートゥ」

「ヒャッヒャッヒャッ・・・・・こんなトコロで、“ジェノサイドエンジェル”に会えるとはなぁ・・・・切り刻みたくなってきたぜ」

そう言うとクラートゥはさっさと部屋を出ていった。
その後、ルディアスが一礼し部屋から去っていった。
二人が部屋を出て、沈黙が続く。ルーシェンはガラス張りになっている壁から摩天楼を見下ろした。
車が行き交い、雑踏の中人々が歩いている。

「もうすぐだ・・・・・もうすぐ貴方の作り出した組織が、全てを黒く塗りつぶす。法は意味を成さなくなり、力のみが頼りになるそう言う世界が創りあげられる・・・・・・・・・クックックッ・・・・・ハッハッハッ!!」

ルーシェンの笑いが広い部屋にこだまする。
彼が先のユナイテッドアーツ事件とアナハイラスの囚人を開放し、アルフェスと杏子両名を失ったアヴェンジャーを指揮している男であり、アヴェンジャー暴走の原因となった張本人である。
そして、夜が明けた。
朝日がカーテンの隙間から射し込み杏子の顔を照らす。

「ん・・・・・・・」

目を覚ましたのか、体を起こす。
眠気眼を擦りながら、辺りを見る。
アルフェスの姿はない、恐らくもう起きてるのだろうと考える。

「あれぇ? あるふぇすぅ?」

間の抜けた声でアルフェスを呼ぶと、隣のリビングから返事が返ってきた。
既に、朝食を済ましており、コーヒーを啜りながら新聞を読んでいた。

「お、ようやく目が覚めた」

そう言うと、テーブルの上に置いてあったマグカップを手に取り口へ運ぶ。
コーヒーを飲み一息つく。

(シャワー浴びよう・・・・・)

杏子はベットから降りると、タンスを漁り自分の下着を手にして、風呂場に向かった。
脱衣所で服を脱ぎ裸になり風呂場へはいる。
蛇口を捻りお湯の温度を調節し、シャワーを頭から浴びた。
肩の傷が少し疼くが、我慢できない痛みではないので、そのままシャワーを浴びた。
しばらくし、シャワーを浴び終えた杏子がリビングへでてくる。
バスタオルを身体に撒いているせいか、よけい艶やかに見えた。

「ふぅ・・・・・・さっぱりした♪」

タオルで髪を拭きながら、椅子に腰を下ろした。
窓から差し込む朝日の光が濡れた髪に反射し、美しく思える。

「おい、杏子・・・・・」

「え? 何?」
名前を呼ばれた杏子がアルフェスの方を振り向く。
少しだが、頬が紅い気もするが、アルフェスはさして気にしなかった。

「ブラぐらい着けろ・・・」

「いいじゃない、私の裸なんて見慣れてるでしょ? それに、ブラって締め付けられる感じがするから嫌いなのよ」

杏子はそう言うと、既に用意されている朝食を食べ始めた。
アルフェスはヤレヤレといった感じで、杏子を眺めながらコーヒーを啜った。

「そういえば・・・・何か情報はあったの?」

朝食を口の中に放り込みつつ、アルフェスに聞く。
コーヒーを飲み終えたアルフェスは、マグカップをテーブルの上に置き答える。

「ああ、イナセウスに誰かは分からないが五人向かっている」

「イナセウスって言うと・・・・・・デュラクセル基地かぁ・・・・・」

「流石だな・・・・・こういう事はお前には敵わないな」

「まぁね♪」

それから数分ほどで杏子が朝食を食べ終え、後片づけをし後服を着る。
アルフェスは紺色のジーンズにタンクトップのシャツ、その上にトレードマークである真紅のジャケットを羽織り、サングラスをかけた。
左右のホルスターには、アルフェス愛用の銃ズフィドST−1がささっている。
更に、ジャケットの内側にはホルスターが付いており、そこには黒い古ぼけた銃が挿し込まれている。
杏子は黒いスラックスに白のTシャツ、その上に黒いジャケットを羽織り、自慢の金髪を後ろで結わえる、前髪は額当たりまで上げたサングラスで抑えている。
そして、ホルスターには杏子愛用の銃ライールMT−Gがささっている

「さて・・・・行くか!」

「りょーかい」

車に乗りキーを差し込み、エンジンをかける。
車が少し揺れる、心地の良い振動だ。アルフェスはギアチェンジしアクセルを踏む。
そして、二人の乗る旧式の車が市街地を駆けていった。
















一方、ルディアスとクラートゥは、自分たちを除く三人を待っていた。
その内の一人、アルティナ=レイドナーはすぐに顔を出した。

「よぉ・・・・・久しぶりだな」

「何か用か? 用がなければ話しかけるな」

「つれないな、ジェノサイドエンジェル・・・・・・・」

ルディアスが、そう言うとアルティナは素早く銃を抜き、ルディアスの眉間に突きつける。
クラートゥが目を見開く。
たった一ヶ月ほどだが、ルディアスと行動を共にしており、彼が銃を突きつけられると言う光景を初めてみたからだ。

「私をその名で呼ぶな・・・・・反吐が出る。 今度そう呼んだ時は、わかっているな?」

「分かった、銃をおろせ」

ルディアスがそう言うと、アルティナは突きつけていた銃をホルスターにしまい、近くにある椅子に腰を下ろし本を開いた。
それから数分後、バンダナを巻いた一人の男が、顔を出した。

「アンタか? ルディアスって言うヤツは」

「誰だ? 貴様は」

突如現れた男に、ルディアスは名前を聞く。

「俺か? 俺はアルファ・・・・・アルファ=ラーウィンだ」

アルファと名乗った男は、中に入る。
少し離れた場所で本を読んでいるアルティナを見て口笛を吹く。

「へぇ・・・いい女が居るねぇか」

そう言うとアルファは、アルティナの目の前まで行き見下ろす。
マジマジと、身体を見ながらアルティナに声をかける。

「よぉ・・・・俺と一晩どうだ?」

アルファが、声をかける。
しかし、アルティナは無視し本を詠む事に集中する。

「何とか言ったらどうだ?」

アルファがアルティナの手首を掴む。
だが、それより早くアルティナはナイフを抜き、首筋にあてる。
ナイフの刃が少し、肉に食い込み血がにじみ出る。

「失せろ・・・・・次は殺すぞ」

「んだとぉ・・・・・・・」

アルファは軽くバックステップで後ろに下がり、銃を抜こうとする。
しかし、アルティナはナイフを投げた。
それに反応し、ナイフのグリップを掴みやり過ごす。
その隙に、アルティナは銃を抜きアルファに照準を合わせトリガーを引こうと指をかける。

「そこまでにしておけ」

ルディアスが、アルティナの銃を握っている。
指がハンマーの間に入っており、トリガーを引くことが出来ない。

「その銃は・・・・・お前がジェノサイドエンジェルか?」

「そうだとしたらどうする?」

「どうもしねぇよ、ボロボロにした後お前の身体を楽しむさ」

「そこらへんにし時な。 俺ぁ殺したくてうずうずしてるんだ・・・・・・テメェらは死にてぇのか? あぁ?」

クラートゥが口を挟み、その場は納まった。
しかし、未だに一触即発の状態が続いているのには、変わりなかった。

「こんな所で、油を売っている場合では無かろう・・・・・早く行くぞ」

いつの間にか、最後の一人がセイドラック=アルフォン姿を現していた。
その言葉で、収集が付き一行はイナセウスへと向かった。
そして、数日が過ぎ、アルフェスと杏子の二人は、イナセウスへ向かう船の上であった。
二人が部屋にいると、ドアがノックされる。

「アルフェスお願い」

「ったく・・・・何で俺が・・・・・・・」

ドアノブがまわるのを確認し、ドアの目の前にいる人間が発砲する。
銃声が船内に響く。しかし、その音に反応し外に出てくる者は居なかった、恐らく睡眠薬の類で眠らされているのであろう。
銃弾は、ドアを貫通していた。
何者かが走っていく足音が、確認できた。

「中身を、確認しないと言うことは脅しととればいいのかしらねぇ・・・・・・・」

「さぁな・・・・・そう考えた法が妥当だな」

穴だらけになったドアを後目に、二人は雑談をしていた。
ドアノブは奇跡的に無事だったので、鍵を閉めてベットに入り早々と寝てしまった。
それから、更に数日が過ぎた。
アルフェスと杏子の両名は、あれから何事もなく船旅を満喫しイナセウスへと到着した。
二人は、宿を取った後すぐにデュラクセル基地へと向かい車を走らせた。
小一時間走ったところに、かなり大きめな基地が目に入った。
アルフェスは、近くの小高い丘の木の下に車を止め、丁度木の陰に入り、ほんの少しだが涼しく感じる。

「ねぇ・・・・ほんとに来ると思う?」

「さぁな・・・この国は、大概の基地は壊滅に追いやられてるからな。 それに、あの基地が最後らしいから、多分来るんじゃないか?」

「だと良いけどね・・・」

双眼鏡を取り出し、辺りをくまなく眺めている杏子。
車から降り、木の陰で銃をいじくっているアルフェス。
空には、鳶らしき物が飛んでおり、杏子はキャーキャー言いながらそれを双眼鏡で見ていた。
それから更に時間が過ぎ、夕暮れが近くなった。
と、その時だ。近くにある基地で、爆発が起こる。
その爆発に応戦して、マシンガンの連続した銃声が聞こえてきた。

「アルフェス!! 早く起きなさい、ヤツらが来たわよ!!!!!」

「チッ、急ぐぞ! 早く車に乗れ!!」

エンジンをかけ、すぐにその場から移動する。
距離にして600m程だった。
一方、襲撃を受けた基地は既に、死人の山が築かれていた。
その殆どが、この男・・・・・・クラートゥ=オシリスによって殺された者達だった。

「ヒャーハッハッハッ!! 死ね、死ね、死ねぇ! 死にやがれぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

クラートゥが両手に持ったマシンガンを連射している。
それにより、次々と基地の兵士達の身体から血飛沫が舞い、地面に倒れていく。
そこに、銃声が響きクラートゥがマシンガンを落とす。

「クラートゥ!!」

クラートゥは声をした方を向く。
そこには、数年前自分をあの暗く狭い牢獄へ入れた男の顔があった。
忘れるはずもない、あの紺色の髪と真紅のジャケットを!

「てめぇは、アルフェス!!!」

「よぉ・・・久しぶりだな。 どうだ? 久しぶりの娑婆(しゃば)は」

「あぁ・・・最高だ!!!」

クラートゥがマシンガンを向けトリガーを引く。
銃声が発生する。しかし、アルフェスは既にそこには居なかった。
気がつくと、世界がまわっていた、と言うよりクラートゥの体が、上下逆を向いていたのだ。
アルフェスは、銃口を向けられる前に既に走っていたのだ。
クラートゥがトリガーを引く。
既に、体勢をかがめており、弾丸は少し髪をかすった程度だった。
そして、上体を起こすのと同時に、渾身のアッパーをクラートゥの顎に見舞っていたのである。

「くはっ・・・・・・・・」

「まだまだだな、クラートゥ」

親指を立てて、首を掻っ切るポーズをした後、指を下に向けた。
そこへアルフェスの地面に一発弾丸が着弾する。
弾丸が飛んできた方向を向き直り、一言。

「何だ・・・・お前も居たのか、ルディアス」

「アルフェス=シルヴィードか・・・予想範囲内だな」

銃口をアルフェスに向けたまま、ルディアスが一歩一歩近づいていく。
アルフェスはジッと、ルヴァイスを睨み付けている。
トリガーにかけた指に力が入る。直後、一発の銃声が響く。
ルディアスの持つ銃が、弾かれ地面を転がる。

「私が居るって事を、忘れて貰っちゃ困るわね」

ほぼ瓦礫の上、と言える場所から銃を構えた杏子が、姿を現す。
手には未だに硝煙が上がる銃が握られていた。
更にもう1人、セイドラック=アルフォンが姿を現した。
その手には、銃が握られている。

「相変わらず、二人で一緒ってワケか?」

薄ら笑いを浮かべながら、トリガーを引く。
銃声。
そして、二人の内どちらかに被弾する・・・・・・・ハズであった。
それが、アルフェスの手のひらの前で止まっているのだ。
よく見ると、うっすらと光がありその光の手前で、弾丸は止まっていた。

「チッ・・・・・ライトシールドか」

「銃が通ねぇなら、これならどうだ?!」

アルフェスの真後ろから、バンダナを巻いた男・・・アルファが飛び出す。
その声に反応し、杏子がそれに応じる。
ライトシールドを展開したまま握り拳を造と、青白い光が杏子の拳を包み込む。

「はぁっ!!」

杏子の拳と、アルファの持つナイフがぶつかり放電する。

「ちっ、そんな使い方も知ってやがるか!!」

アルファはすぐにバックステップで間合いを取る。
杏子は手を開き、ライトシールドを解除し、銃を抜きアルファに向けた。

「アルフェスと杏子の二人が相手か、殺りがいがありそうね・・・あなたたち」

少し離れた場所で、その様子を見ていたアルティナがぽつりと呟き、そちらへ歩みを向けた。
その顔には、少しだが笑みが浮かんでいた。

「これで終いだ!!」

アルファとクラートゥの二人によるナイフの攻撃。
アルフェスが、その攻撃を避けている。二人のナイフ使いを相手に、アルフェスの顔には少し疲労が見え始めている。
杏子はセイドラックとルディアスの二人による遠距離の加重攻撃。
息をつく暇もなく、銃弾が杏子を襲う。
瓦礫を背にして、応戦するがいかせん分が悪い。
と、その時だ。
白い光とも取れる何かが、アルフェスと杏子に向かって飛んだ。
直後、爆音が響く。

「何だってんだ、いきなり!!」

「死んだか? 俺が殺りたかったんだがなぁ?」

「アルティナのエンゼルウィング(光翼の堕天使)か・・・」

咄嗟に、距離を取っていたのが災いしたのか、アルフェスだけに白い何かが被弾した。
杏子に至っては、盾にしていた瓦礫ごと吹き飛ばされていた。

「早く出てきたらどう・・・・・・生きてるんでしょう?」

女性の声が、耳に付く。
高く澄んだ声だ。それと対照的に、凍り付くような鋭い目つき。
左右違う瞳の色で、右の真紅の瞳が輝いている。
瓦礫を押しのけて、杏子が立ち上がる。
それから数秒遅れ、アルフェスも立ち上がった。

「ちっ・・・・・リヴァイダーか!」

アルフェスは、頬に付いた傷から流れる血を拭いながら、白い古びた銃を一別した。
リヴァイダーと呼ばれる物が世に出たのは、真・聖暦2000年の初等に、とある超古代文明の遺跡からそれは発見された。
これは、現代の科学力では到底造りようのない武器である。
発射される物は様々で、硬質化させ剣として使える物、十数個にも分裂させ発射する物と様々だった。
それから、世界各地に現存する超古代文明の遺跡から、次々と発見された。

「おもしれぇ・・・・・俺も本気で行くぜ?」

注意深く観察すれば分かる事だ、アルフェスの瞳がうっすらと紅みを帯び始めている。
極度な興奮状態になると、瞳の色が変わるという特異体質らしい。
と言う物の、それだけで本質的な物は変わらならしい。<

「杏子、お前は下がってろ」

「はいはい・・・・・」

杏子は、少し離れた場所の瓦礫の上に腰を下ろした。
それを見て、ルディアス達四人もその場を離れた。
アルティナが構えているエンゼルウィングのトリガーを引く。
白い光、そして膨大なエネルギーが集約され・・・・・・開放される。
圧倒的な力。
全てを貫く力となり、アルフェスに向かい飛ぶ。
ほぼ無意識と言っていいほど、自然とアルフェスは横へ飛んでいた。
それと同時に、ホルスターから銃を抜き撃つ。
流れるような動き、無駄な動きはほぼ無い。
しかし、エンゼルウィングの力の前では、無力に等しかった。
その圧倒的な力により、銃弾が消滅した。
爆音が轟き、土煙が立ちこめ視界がほぼ見えなくなる。
黒い光が、その土煙の中で発生する。
その刹那その光が塊となり、アルティナを襲う。
だが、その光はアルティナを外れた。

「ちっ・・・・外したか・・・・・」

土煙が晴れ始めた。アルフェスの右手には黒い古びた銃が握られていた。
アルティナのリヴァイダーと少し形は違うが、似たような構造だった。

「そう言えば、貴方も持っているのを忘れてたわね・・・・・」

アルティナは、アルフェスの持つリヴァイダー・・・・シュヴァルツシャインに目をやる。

「さぁ・・・・・楽しもうぜ」

その言葉を発するとほぼ同時に、殺気が放たれる。
凄まじい圧迫感が、その場にいる全員を包み込む。
無論離れて見ているだけの、ルディアス達をも包み込む。
だが・・・・・アルティナは、平然としている。
どこか、楽しそうに笑みを浮かべていた。

「さぁ、踊りましょう? 銃声の音色と共に!」

うっすらと笑みを浮かべ、エンゼルウィングのトリガーを引く。
少し遅れ、アルフェスがシュヴァルツシャインのトリガーを引いた。
白と黒の光が、二人のリヴァイダーに集約し始める。

「世界最強と言われた実力・・・・ためさせて貰うわ!!」

直後、アルティナのリヴァイダーから、白いエネルギーの塊が放出される。
一寸遅れ、アルフェスのリヴァイダーからも、黒いエネルギーの塊が飛んだ。
白と黒の超エネルギーの塊が、ぶつかる。
直後に、凄まじいエネルギーの流れと衝撃波が発生する。
その衝撃波を耐え、第二射を行う。
シュヴァルツシャインから、二つの光弾が発射される。
それに対し、エンゼルウィングからは幾つもの光弾が発射された。
二つの漆黒の光弾が無数の白い光弾とぶつかり相殺される。
再びエネルギーの流れと衝撃波が発生した。
二人はそれを物ともせず、銃を抜きトリガーを引く。
銃声がリヴァイダーのエネルギーの激突による爆音によってかき消される。
その弾は、アルティナとアルフェスの両名の右肩を掠めただけだった。

「あのなぁ・・・・・俺は、お前を殺す気はないぜ?そこにいるお前らだってそうだ」

アルフェスは、頭を掻きながらアルティナ達を一別する。
アルティナの顔には、少し戸惑いの顔がうまれる。
しかし、すぐに表情を引き締める。

「ならば・・・・何故、アヴェンジャーと言う組織を作ったの?」

「ある目的があったからさ」

「それが、私達傭兵や、SS級犯罪者を捉えること?」
「違うな・・・・・・もっと別の目的だ」

その時だ、銃声がこだまする。
アルティナの腹部から鮮血が舞い、その場に倒れる。
杏子がアルティナの元へ走り、抱きかかえる。
そこへ、クラートゥ達とは違う男が姿を現した。
手には、硝煙が立ち上る銃が握られていた。

「無用な問答はそこまでだ」

「てめぇは・・・・ディーヴァル!!」

「久しぶりだな・・・・アルフェス」

「何故、仲間であるアルティナを撃った?!」

「仲間・・・・・?  仲間など、単なる道具にすぎん・・・・・目的を果たすための駒だ」

「杏子・・・・・アルティナを頼む」

「気をつけてよ、捕まえた時とは違うわ」

「ああ、分かってるさ・・・・・久々にブチきれそうだ」

アルフェスの瞳が、更に紅くなる。
相対するディーヴァルは、アルフェスを見下したような目で見ている。
アルフェスが一直線に走った、ディーヴァルがトリガーを引き、銃声がこだまする。
右手のライトシールドでそれを防ぎ、そのまま握り拳を造る。
拳を、ディーヴァルの鳩尾へ叩き込む・・・・・・・はずであった。
その前にディーヴァルの鋭い蹴りが、アルフェスの側頭部へと決まっていた。
体勢を崩すが右手を地面つき持ちこたえた。
ディーヴァルが再び、トリガーを引く。
銃声と同時に、アルフェスの右肩のアーマーに弾丸がめり込んだ。
ハンマーで殴られた感じが右肩を襲うが、それを無視し、左の拳でディーヴァルの顔面を狙う。
ディーヴァルも、左拳でアルフェスの顔面を狙った。
二人の拳が交差する。
顔の目の前で、ディーヴァルの拳が止まっていた。
アルフェスの拳が、ディーヴァルの顔面に決まっていた。
ほんの少しよろけただけで、さほど効いていない。

「いいねぇ・・・・・もっと俺を楽しませてくれ!!」

腰のホルスターから銃を抜き、アルフェスに向けトリガーを引く。
とその時、爆音が響いた。
離れた場所にあるコンクリートの建物が、爆炎と爆音を発した。
其の爆音に銃声がかき消される。
無意識と言っていいほど、アルフェスの体は動いていた。
右手を掲げ、掌には白い光が輝いている。
その白い光が、銃弾を弾く。
更に、空いた左で銃を抜き撃ち返す。
発射された数は五発。その全てが虚しく空を切る。

「どうした!! 腕が鈍ったのか!!」

「ざけんなぁ!!」

両手に銃を握る。
昔と変わらない、二丁拳銃で撃つ。
だが、それもライトシールドで防御する。
ディーヴァルの攻撃は、最初の一発だけで撃ち返してこない。
二人は走りながら、戦闘をしている。
走りながら、弾丸が相手を捉えている辺りは、流石と言うべきであろうか。
しかし、すぐに弾数が尽きマガジンを交換する。
それを見逃さず、古びた銃を抜き銃口をアルフェスに向ける。
トリガーを引くと、銃口に蒼い光が集約し始める。

「これで終いにしてやる!!」

「何?!」

驚くよりも早く、蒼い光がアルフェスに向かい飛んでいた。
直後、爆音が轟いた。
土煙が舞い上がる。
その土煙の中、アルフェスのシルエットが浮かんでいる。

「ちっ・・・・・リヴァイダーか!」

「そうだ、これが俺のリヴァイダー“ブルーブラッド(蒼き血流)”だ」

「チッ・・・(こいつは、かんばしくねぇかもな)」

「楽しいなぁ?」

「俺は、楽しくねぇ・・・・・」

「そんなことは関係ない・・・・俺が楽しめればいいのさ!!」

薄ら笑いを浮かべながら、ブルーブラッドをアルフェスに向けトリガーを引いた。
蒼い光が銃口に集約し、発射される。
数秒遅れ、アルフェスはシュヴァルツシャインを向け、トリガーを引いた。
銃口に漆黒の光が集約し始める。
しかし、それより先に蒼い光が開放され、アルフェスに向かい飛ぶ。
バックステップで少し距離を取る、それとほど同時に漆黒のエネルギーの塊が開放され、蒼い光と衝突する。
閃光が発生し、何も見えなくなるが、二人はそれを耐え第二射を行う。
同時に、漆黒の光と蒼い光が集約される。
先にディーヴァルの持つリヴァイダーから、蒼い光が開放されアルフェスに向かい飛ぶ。
アルフェスはそれを回避し、シュヴァルツシャインから漆黒の光が開放され、飛んだ。

「ちぃっ!!」

ディーヴァルが、再びトリガーを引く。
ほんの一瞬で、三発の蒼い光が発射され、黒い光と衝突する。
直後、閃光と衝撃波。
そして、エネルギーの濁流が荒れ狂う。
無意識の内に身体が反応し、杏子はある物を取りだし、ソレを展開した。
それはリフレクターシールドと呼ばれる物で、ライトシールドを応用し作り出された物である。
ライトシールドとは違い、広範囲の防御が可能になっている。
そのリフレクターシールドを展開する。
ソレが展開されると、二人を中心に特殊なフィールドを形成した。

「き、杏子・・・・・早く逃げなさい・・・・・」

腹部を撃たれ、血を流しているアルティナが口を開く。
応急処置をしている物の完璧ではないため、血が流れ出ている。
喋ることすら辛いはずだ。苦悶の表情を浮かべつつも、言葉を紡ぐ。

「リヴァイダーのエネルギー同士の激突は・・・はぁはぁ・・・フォルム効果によって・・・・・増幅される」

「多分、大丈夫よ・・・・・リフレクターシールドをはったから」

「り、リフレクターシールド・・・・・? あなたたち・・・・・どれだけの武装をしてると言うの?! くぅっ・・・・・・」

叫ぶが激痛がはしり、顔を顰(しか)める。
腹部に巻かれている布も、既に血で真紅に染まっている。

「喋らない方が良いわ・・・・・」

「その方が良いようね・・・・・・」

衝撃波とエネルギーの流れが少しはましになったものの、その荒れ狂うエネルギーは凄まじく、リフレクターシールドすら貫きそうなほどであった。 閃光が無くなり、荒れ狂うエネルギーも無くなると同時に、リフレクターシールドが解除された。
二人が居た方向に目をやると二人が立っており、沈黙が辺りを包んでいる。
その二人の服は、既にぼろぼろになっており、所々紅い血が流れていた。

「こいつで最後だ!!」

「貴様をあの世に送ってやる!!」

二人が同時に、リヴァイダーのトリガーを引く。
シュヴァルツシャインには漆黒の光が集約され始める。だが、そのエネルギーは発射されずただ一点に集約し始める。ブルーブラッドには、蒼い光が集約され始めた。そのエネルギーは加圧され、圧縮されていき蒼い弾丸を形成していく。
同時に、それは発射される。
シュヴァルツシャインの細い漆黒の光が、レーザーの様にただ一直線に奔った
ブルーブラッドの圧縮された蒼い光弾が発射され、その二つが激突した。
その力は、二人のほぼ中間で燻っている。
同時に第二射を行おうとしたが、漆黒の光がブルーブラッドの弾丸を貫く。
漆黒の光は奔り、ディーヴァルを貫いた。
直後、ディーヴァルは倒れ動かなくなる。
その周りの身体から流れ出る真紅の血により血溜まりがで来ていた。

「やれやれ・・・・・やっと終わったか」

ディーヴァルに歩み寄り、ブルーブラッドを拾い上げる。
流れ出る血により、銃身からは煙が上がり異様な臭いが辺りを漂い始めた。
その身体は全身に、傷ができており立っているのがやっとと言うところである。

「・・・・・・引くぞ、俺達の当初の目的は果たしたからな」

それを離れた場所で見ていたルディアスが、そう言うと四人は姿を消した。
後には、先程の闘いでほぼ使い物にならなくなったATが、炎を上げていた。
基地と呼べるものは、瓦礫とかし後には兵士の死体だけが残っていた・・・・・・・
杏子が、アルフェスに向かって叫ぶ。
その手の中には、血を流したせいか顔が青いアルティナが苦悶の表情を浮かべている。

「アルフェス!! 早くアルティナを車に乗せて!!」

血が、アルティナと杏子の服を真紅に染めていた。
杏子の迫力に気圧されたアルフェスは、車をすぐに持ってくる。
車に乗せ、走り出す。シートが血に汚れ、どす黒く染まっている。

「あ〜あ・・・・・シート変えねぇとな・・・・・・」

などとぼやきながら、ギアチェンジしアクセルを踏みこんだ。
白い煙を上げながらターンしその場を走り去った。
























一方、そこから1000フィース程離れた所にある高いビルの屋上に二つの影があった。
先程の二人の闘いを観察していたのだろうか、男は二人が戦っていた方向を向いている。

「ヤレヤレ・・・・・私達ガ与えたリヴァイダーモ、宝の持チ腐れダッタようデスネ」

眼鏡をかけ眼を閉じている男が、口を開いた。
一見すると優男に見えるが、身体は鍛えられており、無駄な脂肪は一切無いと言えないが、ほぼ理想的な筋肉の付き方をしている。
背が高く、全身白づくめで地面につきそうな程長いコートを着ており、それが“医者”の様な雰囲気を作っている。
手には、旧世代の防具である鉄甲がつけられていた。

「だが、ヤツのリヴァイダーの力、現在の力量も分かった、それで充分ではないのか?」

もう片方の男が、答えた。
黒く長い髪を結わえ、風に吹かれ揺れている。
先程の男と逆に黒ずくめで、黒いジャケットを羽織っている。
身体は鍛え抜かれており、無駄な脂肪は一切無い。
更に、手には旧世代の武器である刀が鞘に収められ握られている。

「それモそうデスネ・・・・・流石ハ英雄の血ヲ引く一族ト言ったところですカ?」

「フッ・・・・その方がゲームとしては、遊びがいはないか?」

「デスが我ラの組織である“アレス”ハ、彼等ヲ危険視シていルのデショウ? ソレは危険なのデハ?」

「だが、窮地に追い込んでこそヤツの真の力量と英雄の力・・・・この二つの力は発揮される」

「ソレはそうデスけどネ・・・・ソレより、アナタの血族と彼の血族の因縁は、深いそうデスネ」

「貴様は知らなくても良い。 俺の一族とヤツの一族の因縁はな・・・・・・・」

サングラスを少し下げると、真紅の瞳が隣にいる男を睨む。
睨まれた男は背中に寒気が奔る。だが、彼はそれを無視し続けた。

「そうデスカ。 デスが私は、独自にアナタの一族ヲ調べさせてモライしたヨ」

「・・・・・・・・・・」

真紅の瞳を持った男は、押し黙る。更に威圧感が増す。
眼を瞑っている男の背中に、汗が伝う。それ程までに、威圧感が真紅の瞳の男から発せられるのだ。

「ソう脅さないでクダサイ。 正直、私ハ恐怖シマしたヨ・・・・・アナタがアノ一族の末裔だと言うのデスからネ・・・・・・」

「まぁいい・・・・・ヤツ、アルフェス=シルヴィードは俺の手で殺す。 それだけだ・・・・・引くぞ」

「ワカリました」

二人は、姿を消した。
後にこの二人は、アルフェス達の前に“最強の敵”として立ちはだかるのだった。
彼等は今は知らない。その闘いが、世界をも巻き込む闘いとなることを・・・・・・
ディーヴァルとの決着が付き、アルフェスはイナセウスの首都"リファイン"へと向かっている。
決着は、ディーヴァルの死と言う形で決着が付いた。
リヴァイダーのその強大なエネルギー同士がぶつかり合うと、"フォルム効果"と呼ばれる効果によりそのエネルギーは相殺されず、二乗にも三乗のも膨れ上がり、その結果として、最悪な場合リヴァイダーの使い手両者の死もある。
だが、片方のエネルギーが大きい場合、ぶつかり合ったエネルギーをうち消すので、アルフェスは生き残ったのだ。
そして今、一台の車が公道を凄まじいスピードで、走っている。
アルフェス達の乗る車だ。スピードメーターは既に、130kmを越えていた。
普通ならば数時間かかる道のりを、一時間もかからずにリファインへと辿り着いた。
すぐに、宿へと運ぶ。
人気があまりない宿なので、それを見られることはない。
アルフェスは癒しの極光(ブレイジングヒール)を使い、アルティナの腹部を癒していたが、それだけではダメだと判断して杏子に医者を呼ばせた。
医者と言っても、法外な金を取る闇医者で、その分医療技術は群を抜いている。
それでも、アルティナは一命を取り留めた。
ほぼ奇跡的にと言っていい。
アルティナがベッドで眠っているので、アルフェスは一人ソファーで寝ることなった。
少し肌寒いが、毛布一枚で事足ると言うことで、杏子の使うベッドから毛布をとってソファーに寝転がり早々と眠りについた。
杏子は、しばらくアルフェスの寝顔を眺めていた。

「出会った時の無愛想ッぷりが、嘘みたいね・・・・」

彼女は笑みを浮かべ、呟いた。
そして、そのままアルフェスの頬を触り始めた。
杏子は眠っているアルフェスの唇に、自分の唇を重ねた。
数秒、唇を重ね合わせており、唇を離した杏子の頬はほのかに高潮していた。

「相変わらずね・・・この感触は」

アルフェスがううんと唸り、寝返りをうった。
咄嗟に手を離し、杏子は少し残念そうな顔をして、立ち上がる。
着替えなどを持ち、風呂場へと向かった。
脱衣所で身に纏っている服を全て脱ぎ、シャワーを浴び始めた。
腰まで届く長いプラチナブロンドの髪が水に濡れていく。
それに伴い、肌も水に濡れていく。
彼女は、頭からシャワーを浴び続けた。
その時、彼女はふと、昔のことを思い出す。
昔、アルフェスは誰も信用していなかった。
しかし、彼が心を許している者達がいた。
その者の名は『戦場の聖騎士(マルス・パラディン)』と言う異名を持つ『スフィード=アルバート』と言う男で、アルフェスが戦場に出る前からの知り合いらしい。
もう一人は、スフィードの相棒であり杏子の親友の『エリシア=アズフェルト』もそうだ。
今ではこのような性格になっているが、約9年程前までは私すら信用していなかった。
出会った当初は馬が合わずに、顔を合わせれば口喧嘩ばかりしていた。
スフィードが言うには照れ隠しらしいのだが、とてもそう言う風には見えずしょっちゅう彼の頬をひっぱたいていた記憶がある。

私はそんなことを思い出し、笑みを浮かべていた。
今では、彼と私は一緒に暮らしているが、当時の事を思い出すと信じられない。
自分でも彼と一緒に暮らすとは、思っても見なかったから。
でも、私は彼を愛し、彼は私を愛している、それは変わりない現実。
今ここにあるこれが無くなれば、私はどうなるのだろう?
自問するが、当然答えは見つからない。
多分、又泣きじゃくるのだと思う。
兄を殺されたあの時のように・・・・・・・

シャワーを浴び終え、身体を拭き下着を身に付けて、タオルを身体に巻き付ける。
冷蔵庫を開けて、ビールの缶を取り出す。椅子に座り、プルトップを開けて一気に煽った。
暫く、ビールを飲みながらボーっとしていたが、飲み終え酔いが少し回ってきたのか、ゆっくりとベットの中に入り、眠りについた。

私は・・・夢を見た。恐らく、悪夢と呼ばれる物だろう。
兄が、私の目の前で殺された時の夢だ。
そう・・・確か、アレはスティアフォード戦役の時だったと思う。
兄は、傭兵としては有名で『碧眼の死神(ブルーアイ・デス)』や『閃光の銃士(ライトニング・ガンナー)』と、畏怖の念を込められ、そう呼ばれていた。
その時に初めて兄と同じ戦場に行き、私は足手まといでしかなかった。
兄に鍛えられていたとは言え、まだ人を殺したことはなかったのだから、当たり前だと思う。
確か、その時だったと思う。アルフェスに助けられ、それが彼との出会いだった。
私と大して変わらない年齢で、冷静沈着で物事を大局的に見ている。
更に、戦士としても指揮官としての能力も高く、オールラウンドの戦い方がで来た。
リヴァイダーと呼ばれる超古代文明の遺産を扱い、銃器の扱いも手慣れており、更にはATの操術師としての腕も一流だった。
戦闘に関しては非の打ち所がない彼だけど、たった一つだけ弱点があった。
自分と精神面に問題があり、異常なまでに炎を嫌う。
焚き火程度なら大丈夫なのだが、家屋が燃え盛るとふさぎ込んでしまうのだ。
その原因と為った事は、今まで一度たりとも話してはくれなかった。
いずれ、彼から話してくれると思う。
でも・・・話してくれるかどうかは分からない。
いつか・・・いつの日か、話してくれることを願い、私は悪夢を見続ける。
目の前で、私の兄が殺される夢を・・・・


























アルフェスはは夢を見ていた・・・見たことのない男が、彼の目の前にいる。
紺色の髪の毛が、風に揺られていた。
その瞳は、全てを覆い尽くすような漆黒。
その時、瞳の色が黒から鮮やかな紅へと変わる。
真紅のジャケットを突き破り、純白の白い翼が生える。
禍々しいまでの邪悪と、神々しいまでの神聖さを併せ持った剣を、紺髪の少年が振るった。

そこで、ノイズが混じり場面が変わる。

先程とは違う場所だ。例えるなら"城"と言うのがイメージに近い。
同じように見たことのない男が、佇んでいる。
金髪の女性の亡骸を抱え、紅い涙を流して叫ぶ。
すると、光の柱が天へと昇った。
















何故だ・・・・・・

何故こんな夢を見るんだ・・・・・・・

分からない・・・・・ここ最近、何度も見る夢だ。

恐い・・・・・底知れぬ恐怖感に、押しつぶされそうだ。

誰か・・・・誰か、助けてくれ!!

誰か居ないのか!?

だれでも良い、早く・・・・・・・早く俺をここから連れだしてくれ!!!!!!

そして光が差し込み、俺を包み込んだ・・・・・柔らかな光だった。

まるで・・・母に抱かれている様な、そんな錯覚を覚えるものだった。
















そこで、彼は目を覚ました。
部屋の中はまだ暗く、夜が明けていないと言うことが分かる。
着ているTシャツは汗で、びっしょりと濡れていた。
アルフェスは、それを脱ぎ捨て熱いシャワーを浴びた。

「ったく・・・・・・何だってんだ、あの夢は・・・・・・」

二人の見たことのない男の夢。しかし、何故か親近感に近い物を感じる。
その答えは結局は、闇の中だった。
アルフェスは再びソファに寝転がり、瞳を閉じたがのだが、なかなか寝付くことが出来ず、起きていた。
時折、杏子が寝返りをうったり、寝言を言っていたが無視していた。
酒を飲みながら、先程の夢のことを考えていたのだが、なかなか眠気は訪れてこない。

(何故、あんな夢を見たんだ・・・・)

自分に問いかけるが、当然答えは出ない。
しばらく彼は、酒を呑みながらボーっとしていた。
まだ夜は明けていない、だがうっすらと夜が白んできており、だんだんと心臓の鼓動が落ち着いてきた。

「ふぅ・・・・・もう一眠りするか・・・・・」

彼はそう呟くと、再びソファの上に寝転がった。
眼を瞑ると、杏子の規則正しい寝息が耳に入る。もう一つ、寝息がある。
昨日助けたアルティナ=レイドナーと言う女性の寝息だった。
そして、いつの間にか彼の意識は微睡(まどろ)みの中へと、落ちていった・・・・・・・・
再び彼が目を覚ますと、杏子がアルティナの汗を拭っているところだった。
アルティナは意識を取り戻しており、体を起こそうとするが杏子が無理矢理止めている。
彼が、もうこの国には用はないので家に帰ると言ったところ。

「え〜〜〜〜もう帰るのぉ? もう少し観光気分で、ここにいましょうよ」

と言う返事が返ってきた。
恐らく、アルティナのことを心配しているのだろう。
だが、仮にも傭兵だった女だ、すぐに死ぬことはないが、杏子も分かっていることだが、やはり放っておけないのだろう。

「ったく・・・・・俺達には金がないんだぜ? 安宿と言っても結構高いんだぞ、ここは。それに、アルティナの治療費をふんだくられたからな」

頭を掻きながら、その明細書を見る。そこには大きな文字で『4万リクト』と書かれていた。
それを見てアルフェスは、大きな溜息を付く。
このまま滞在すれば、帰る金が無くなるからである。

「仕方ないか・・・じゃ、アルティナはどうするの?」

「連れて帰るしかないだろう?  普通の病院じゃ、ヤツらに襲撃されかねんしな」

「アルティナはまだ眠っているから、今の内に車に運びましょうか」

杏子がそう言うと、既に帰る仕度をしていたアルフェスが、荷物を杏子に渡す。
そしてアルフェスは、アルティナを抱き上げる。

(お? 以外と軽い・・・・・)

やはり女なのだと、アルフェスは自覚する。
彼女の詳しい経緯(いきさつ)は知らないが、両親や姉をテロによって殺されたたらしいのだ。
その当時は、結構大きなニュースとなり取り上げられていた。
その時、杏子が何かアルフェスに耳打ちをする。

「変な下心出しちゃ駄目よ?」

「出すか!!」

アルフェスは、大声を出すと先に行ってしまった。
杏子は少しだけ笑みを浮かべた後、部屋を後にしチェックアウトした。
再び一週間近くの船旅が始まった。
海の上なので、敵は襲ってこないので、平和そのものであった。
一週間毎日12時間以上寝ていたせいか、アルティナの傷は塞がっていた。
とは言うものの、まだ少し痛むらしく激しい運動は無理であった。
話は変わるが、アルフェスにはちょっとした能力を持っている。
微力だが治癒能力も持っているのだ、その力を使い、アルティナの傷の癒えを早めていたのだ。
その後、何事もなく家に帰るものの、アルティナには行く場所どころか、寝るところすらないので、杏子は無理矢理と言っていい程、アルティナを家に住まわせている。
それから数日後、杏子がアヴェンジャー本部にあるコンピューターにハッキングし、色々と情報を引き出した。
そこに、気になる一面が記載されていた。

「なぁ、杏子・・・・この"アレス"って何か分かるか?」

「"アレス"?  確か・・・・古代フィラウス帝国の"十二天神(じゅうにてんじん)"って言う人達の一人だったと思う・・・・・」

「十二天神ねぇ・・・・・・で、その全部を言えるか?」

「残念、私は知らないわ。」

「俺は、全く知らないからな・・・・・・」

2人が腕を組んで考え始める。2人とも学校には行ってなかったので、歴史などは苦手らしい。
と、その時だ。杏子とは違う女性の声が、聞こえてくる。
隣の部屋で寝ていたアルティナの声だった。

「十二天神は単なる字(あざな)よ。 闘将、戦女神、雷帝、拳神、炎帝などの呼び名がそうよ」

「へぇ・・・・・・って、それよりお前、大丈夫か?」

「えぇ、だいぶましになったわ、感謝しておくわ」

「それより、知ってるのか? 十二天神の名前を」

「元々その名前は、その者達の力を現した称号と言われてるわ」

「なるほどね・・・・・・」

「それより・・・・風呂場は何処? シャワーを浴びたいんだけど・・・・・・」

「ああ、お風呂場なら・・・・・・・」

杏子はそう言うと立ち上がり、アルティナを連れていった。
アルフェスは、窓の外に目をやると大きな欠伸をした後、外に出ていった。
そして車に乗ると、アクセルを踏み込み走らせる。
小一時間程走り、車を止めて車から降りる。
そこは静かで小さな町だった。
いや、町というより村とも言える。車を止めた、近くには墓地があった。アルフェスは、墓地の中に入って行く。
そしてその手には、一輪の小さな花があった。
歩みを止め、墓の前で立ち止まり十字を切り、花を墓前に添える。

「母さん・・・・・久しぶり」

墓所の前に立ちサングラスを外して胸ポケットへと入れる。
青い瞳が目の前の墓石を見つめていた。
空のように蒼い瞳に、父と母の眠る墓前が写っている。アルフェスは少し息を付き、口を開いた。

「俺はまだ、復讐したいのかもしれない・・・あの時の光景が、まだ眼に焼き付いて離れないんだ。 笑うなら笑ってくれ、でもな母さんを殺したヤツは、絶対に俺のこの手で殺す・・・・・」

青い瞳が、うっすらと黒く染まり始めた。
心臓の鼓動が跳ね上がり、その時の記憶を鮮明に思い返した。
燃えさかる炎。
その炎の向こうで、母が黒い髪の男に殺される場面が。
何も出来ずにただ怯え、死した父と母の骸を抱きしめながら、血の涙を流す自分を今でも鮮明に思い出す事ができ、まるで極最近と思えるほどだ。
気がつくと、頬を涙が伝っていた。
それを拭うと両親の墓に背を向けた。

「じゃあな、お袋・・・今度は俺の妻になる予定の女を連れてくるから、楽しみにしといてくれ」

そう呟くと、アルフェスはその場を去っていった。
一方、アルティナはシャワーを浴びながら、あることを考えていた。

(やはり、私一人の力で立ち向かうには、敵は強大すぎる・・・・・・・)

裏切りと言えばいいのか、アヴェンジャーはアルティナ達を単なる駒、として扱っているのに近かく、それに対しての怒りと言えばいいのか、抑えられない感情があった。
憎悪。
決して消える事なく激しく燃え続ける憎悪の炎。
幸せだったあの日、一人の男の手によりそれは音を起てて崩壊し、真紅の義眼"真紅の救世主(クリムゾン・メシア)"を移植し。
その後は、傭兵として銃器の扱いやナイフ戦の技術を磨いた。
戦場に出て何度も死にそうな目に合った。
同じ部隊の人間に犯された。
それでも、アルティナは憎悪を抱きながら行き続けてきた。
あの男を殺す為に。

(私はまだ、ここで死ぬわけにはいかない・・・・・家族の仇を取るまでは、アイツを・・・殺すまではッ!)

シャワーを止め、脱衣所に出た。
杏子が既にバスタオルなどの用意をしており、洗濯機の上に置いてあった。
戦場で生きることを決意してから、久しく味わっていない"家庭"と言う物が、ここにはある。

「あら、あがったの? 下着とかは、私のを使って貰えるかしら?」

「わかったわ・・・・・・」

杏子の下着をつけて、ジーンズを履く。
上は、Tシャツを着てジャケットを羽織る。

「ねぇ・・・服買いに行かない?」

「私は、別にこの格好でも良い・・・」

「そんなこと言わずにさぁ、行きましょうよ。 それだけだと、困るじゃない」

杏子がそう言うと、アルティナは少し考える。
流石に、まだ22歳の女性が替えの服を持っていないと言うのだ、少し恥ずかしい気もするだろう。
もっとも、彼女は戦場で5年ほど生活していたので、既に一般の流行の服など知らないワケであり、服などを買わないと言うのが大きな理由である。

「分かったわ・・・・行きましょう」

その返事を聞く前に、杏子は既に出掛ける準備をしていた。
アルティナは、しばし目を丸くしていたが、杏子に無理矢理スカートやらをはかされたのであった。

「へ、変じゃないかしら?」

「うん、似合ってるわよ。 やっぱり、スタイルが良いからかしら?」

「そ、そんなことはないわ・・・・貴女に言われると、説得力は無いけど」

「またまたぁ・・・謙遜しちゃって♪」

「け、謙遜なんかじゃない・・・」

と、その時だ。チャイムが鳴る。
杏子は、腰の後ろに銃を差し込み、玄関の戸を開けた。

「杏子=D=ラインハルトさんですか?」

「ええ、そうですけど・・・・・・」

「そうですか・・・・・じゃ、死んで下さい」

そう言うやいなや、杏子に向けて腰に差している銃を抜き、男は銃口を杏子に向けトリガーを引いた。
それに反応して上半身を捻り、弾丸が通り過ぎ扉を貫く。
動いたと同時に、ズボンの後ろ側の腰の部分に差し込んだ拳銃を抜き、腹部へ数発発砲し身体がくの字に折れた、続けざまに狙う場所を眉間に定めてトリガーを引いた。
銃声が響き、男が後ろに倒れ血が流れ出す。

「あ〜あ・・・・・このマンション結構、高かったのになぁ・・・・・・」

髪をかき上げながらそう言うと、既に事切れている男の服を漁り始める。
血塗れになった一枚の写真があった。その写真には、小さな子どもが写っていた。

「ごめんなさい・・・・でも、私はここで死ぬわけには行かないのよ・・・・」

そう言うと、眼を閉じこの男の冥福を祈る。
アルティナはと言うと、何事もなかったかのように、鏡の前で自分の今着ている服を見定めていた。

「アルティナ、ごめん。 今日はもう買い物に行く気分じゃないわ・・・・また今度にしましょう」

「ええ、分かったわ」

アルティナは膝上15〜20cm程のスリットの入ったスカートの下に、黒いスパッツを履いていた。上は、脇から背中辺りが大きくあいており、ブラをしていると見えてしまうためつけていない。
胸元が少し大きめに広がっており、寄せられた胸が谷間を作っているのが見える。
それから3日もしない内に、彼等が住んでいた家は蛻(もぬけ)の殻となっており、2,3日が過ぎ、彼等は新しい住居を見つけていた。
それから更に大体一週間程が経過し、その間は情報収集に徹し、装備を調えていた。
そして彼等は今、あるビルの前にいる。
アヴェンジャーの支部でであり重要な拠点となっている場所である。
三人は、武装を確認して車を降りた。

「杏子、アルティナ・・・準備は良いか?」

アルフェスがサングラスを外して胸ポケットへといれ、ビルを見つめながら言う。

「準備万端よ」

「問題ない」

「よっしゃ、行くぜ」

彼等は、ある場所を襲撃しようとしていた。
アヴェンジャーの支部で、そこには数十人のアナハイラスの囚人が居る。
それでも彼等は、中に入っていった。
すぐに見張りに向かい、銃を撃った。
その弾丸は、正確に眉間に数発打ち込まれ、見張りは息絶えた。
そして、三人はすぐに散開し、それぞれ違うルートで最上階を目指した。
アルフェスは、奔りながら銃を撃つ。
敵も、それに反応して銃を撃つがアルフェスには当たらない。
マシンガンの連続した銃声と、散弾銃の大きな銃声がほぼ同時に響く。
アルフェスは柱の陰に入りやり過ごすが、すぐに柱自体がダメになりすぐに飛び出す。
銃弾とコンクリートの破片が、身体を掠め彼の身体を痛めつける。

「甘い!!」

すぐに体制を立て直し、銃を撃つ。
二つの銃声。
一つは銃をはじき飛ばし、もう一つは足に弾丸は命中した。
撃った銃弾はたった二発。
だがそれだけで、敵の戦意を削ぐには充分過ぎたようだ。

「さて・・・・道を空けて貰おうか?」

銃口を頭に向け、歩み寄りながら言う。
恐怖に戦き、すぐに足を引きずりその場を離れた。

「良い判断だ・・・お前は、この家業から足を洗うんだな。 戦いには向いていない」

そう言い残し、銃を手にしたまま階段を駆け上がった。
その後には、硝煙の匂いが中たりに漂っていた。

「成る程、無駄な殺しはしない・・・・か。 あの時の方が、手応えがありそうだったな、残念だ」

アルフェスが去った後、一人の男が現れた。
腰まである長く黒い髪を首の後ろで結わえ、サングラスを掛けている。
手の中には、鞘に納められた刀がある。
服装は黒ずくめで皮のズボンに、黒いシャツに黒のロングコートを羽織っている。
邪悪な笑みを浮かべ、男はサングラスを少しずらして階段を見た。
その瞳の色は紅。
血の様に紅い色の瞳が、誰もいない階段を見つめている。
その時、足に怪我を負っているアヴェンジャーの兵士が、その男を見て話しかける。

「だ、誰だ・・・・」

「お前に教える名はない・・・」

刀の柄に手を掛けて答える。
居合い抜きと同じ構えで、不動の姿勢をとっている。
そして、ゆっくりと息を吐く。次第に、その男を中心に殺気が渦巻いていた。

「ま、まさか・・・アンタは!!」

何かに気付き、兵士がそう言って背を向けて逃げようとした。
次の瞬間、その男は動き刀を抜いていた。
たった数歩で兵士との間合い、距離にして約40フォンスに開いた間合いを、詰めた。
その動きと連動させて、刀を抜き剣線が走る。
閃光、とも取れる剣線が幾本も走り兵士を斬る。そして一呼吸置き、通り過ぎた。
瞬きをするほんの一瞬の時間で、兵士はただの肉塊と化し地面に落ちた。
その男は、刀を振るい血を振り払う。
半円を描き血は床に跡を残した。そのまま刀を鞘に収め、サングラスを人差し指で元の状態に戻す。

「アルフェス=シルヴィード・・・お前と再び戦える事を楽しみにしておくぜ」

そう言うと、男は窓をぶち破り飛び降りた。
ガラスの破片と共に落下。コートが風により舞う。男はいたって平然な顔をしている。
12階の高さから飛び降りたのだ、それを見た通行人が悲鳴を上げる。
が、男は何もせずに、舗装された道に降り立ち、何事もなかったように男は歩いていった。
その頃、10階で杏子は、数人の兵に足止めを喰っていた。
柱を背にして、機会を伺っているがいかせん数が多い。
更に様子を伺う為に顔を出せば、マシンガンの一斉掃射。
もう打つ手はない様に思える。
杏子は少し思案した。そして、手に丸い物を握った。

「全く・・・馬鹿みたいにマシンガン乱射して・・・すぐに弾が尽きるわよ」

独り言のように呟き、サングラスを掛けて残弾を確認した。
そして、それを取りだしピンを抜き投げた。
一瞬遅れ、閃光が発生。
杏子はその隙に飛び出し、銃を撃つ。
数発の銃声、そして・・・・悲鳴。

「どう? まだコレでもやるのかしら?」

トリガーに、指をかけたまま問いかける。
銃を放り捨てる気配はなく、逆に殺気立ってきていた。
杏子がトリガーを引き、銃声がこだまし、兵士達の持っている銃を全て打ち落とした。
しかし、兵が多くその全てを打ち落とせなかったと判断すると、ライトシールドを使い拳を握り込んだ。
淡い光が拳を包み込み、杏子は構えた。再びマシンガンの一斉掃射が、杏子に襲いかかる。
平常心。焦りという物を見せず、冷静にそれに対処。そして、疾駆。
兵の懐まで来ると、杏子は拳を顔面に叩きつけた。走った際のスピードをプラスし、十分な威力を持った拳が、兵士の顔面に叩きつけられ仰け反る。
体勢をすぐに立て直す。
そして、間を縫うようにして駆け抜け、階段を駆け上った。
途中、振り返り銃を撃つ。
銃声が響きその場にいる動く者全員の命を刈り取った。

「見違える程、強くなったじゃないか杏子」

男が、姿を現した。
オールバックにした銀髪に、黒い瞳を持つ男がいつの間にか、姿を現していた。
歪んだ笑みを浮かべ、男はその場に佇み杏子が上っていった階段を見つめる。
そして、何かを見て男が再び言葉を発した。

「再び俺の前に姿を現した時は、翔已・・・お前との約束を果たさなければなるまい」

一瞬だが、自嘲的な笑みを浮かべる。
が、すぐに元の表情に戻る。
男は背を向けてその場を去っていった。
硝煙の匂いと、男の去っていく硬質なブーツの音が響いていた。
その頃、アルティナは何も警戒せずに、堂々と歩いていた。
両手には愛用の銃・ゲイルF−19が握られており、周り人間の動きに集中している。
敵に見つかると、マシンガンの掃射が始まる前に、正確に眉間を打ち抜く。
秒殺。
銃を撃ち、階段へと向かってゆっくりと歩く。

「弱い・・・死にたくなければ、道を空けなさい。 そうすれば、命までは取らないわ」

そう言い放ち青い瞳と紅い義眼が、取り囲む兵士達を睨む。
それに押され、取り囲んでいる兵士が道を空けた。
だが、その中で一人だけ道を譲らない男が居た。
金髪の男だ、髪と同じ金色の瞳を持っている。

「へぇ・・・君がアルティナ=レイドナー・・・か。 成る程、どことなくあの人の面影があるな」

笑みを浮かべアルティナを見定めるように、男が彼女を見つめている。
何故か腰に剣を下げており、不思議と敵という雰囲気を持っていなかった。
だが、アルティナは警戒しており、いつでもすぐに銃を撃てる状態だ。
そしてアルティナが、目の前の男に問いを放つ。

「誰だ? お前は・・・」

「ん? あぁ、大丈夫だよ、君の敵じゃないさ」

男はそう答え、両手をピラピラと振った。
敵意はないと言う意識表明だろう。
だが、アルティナは銃を向けて、トリガーを引いた。
その一連の動きは自然で、手を前に突き出した用にしか見えなかった。
だが・・・・

「危ないな・・・俺じゃなかったら死んでたぞ?」

避けた。
至近距離で、不意打ちに近いにも関わらず、目の前にいる男は銃弾を避けた。
しかしよく見ると、頬に大きめな傷がで来ており、血が頬を伝い床に落ちた。
男は血を拭い舐めた。
腰の剣に手をかけるとアルティナを見据えながら、剣を抜いた。
光の様な物が走ったと感じたと同時に、この階を支える柱を数本斬り裂いたのである。
鉄筋コンクリートにも関わらず、まるで豆腐を斬るかの様に軽やかに、自然な動作で剣を振るっていたのだ。
アルティナの目にすら、何が起こったか理解する事が出来ないでいた。
アルティナは何も見えず、ただ単に剣を抜いただけ、と知覚していた。
が、数秒遅れて、アルティナの周りの柱が斬り裂かれており、ズルリとずれた。

「なっ・・・」

短い言葉を発し、アルティナはトリガーを引いていた。
銃声と共に弾丸は金髪の男へと向かい飛ぶ。
銃口から煙が上がる。硝煙の匂いが鼻につくが、それを無視してマガジンを換えて再び速射。
時間にして、僅か4秒も無い時間。
その間に男はアルティナの後ろに回り込み、剣の切っ先を背中にピタリと押しつけた。
刃が肉に僅かに食い込む。
血がうっすらと滲み出て、背中を少し紅く染める。

「あのね、俺は君と戦うつもりは無い。 君がどうしても戦うというのなら、少し相手をしようか?」

金髪の男はそう言うと、彼女に向けて殺気を放つ。
背中に氷水をかけられた様に、寒気が走る。数多の戦場を生き抜いた彼女ですら畏怖するその殺気は、ビル全体を包み込んだ。
ガクガクと足が振るえ、其処から逃げ出そうにも動くことが出来ない。

「何てね」

男は明るい口調でそう言うと、殺気を消し、剣を鞘に納めた。
アルティナは、すぐに振り返ると、銃口を男の眉間に押しつけた。
男は動じずにその場に立っているだけだ。
当然、それに反応し銃を叩き斬ると言う芸当もで来たが、あえてそれをしなかった。
目の前の男は、ただ笑みを浮かべてアルティナを見つめていた。

「・・・貴方は一体何者なの?」

アルティナが目の前の男に問う。
男は小さな声で、アルティナに聞こえるように呟いた。

「敵じゃないさ、まぁ君の出方にもよるけどな」

男が答える。

「行きな、今は先を急ぐのが大事なんだろ?」

「・・・・失礼」

アルティナは一言、礼を言うと階段を上がっていった。
その男はアルティナの姿が消えた後、自分の影の中へと消えていった。
後は、赤く染め上がった床と、ゆっくりと自分が斬られているのを、今思いだしたかのようにコンクリートの柱がズレていった。
その後、アルティナは何の支障もなく最上階へ辿り着いた。

「まだあの2人は、来てないのか・・・・」

そう呟き、アルティナは壁に持たれかけ、汗を拭った。
冷や汗が流れ出る。
未だにあの金髪の男の殺気が、彼女を蝕んでいる。
剣を突き付けられたとき、金縛りにあったかの様に、身動き一つ取れなかった。
自分の手を見る。小刻みに震えており、未だにその恐怖が拭い切れていない。
深く深呼吸をしてから、アルティナは自分で自分を抱きしめるかの様に、腕を廻した。
僅かに、嗚咽の声が聞こえるが、その場所にはアルティナ一人しかいない。
それから数分が経ち、杏子が姿を現した。所々に傷が有り、服を少し赤く染めている。

「あら、私が一番乗りだと思ったのに・・・」

「遅い・・・何を手こずっていた?」

「ちょっとね。 あの馬鹿は、まだ来てないのか」

杏子は額のサングラスを外し、胸ポケットへと入れる。
跡が付いているが、前髪が落ちてそれを隠す。
暫く2人は喋っていて、漸くアルフェスが姿を現した。

「ハァハァハァ・・・・」

「ど、どーしたのよ、息きらして」

「どうしたもこうしたもねぇよ。 アナハイラスの囚人が各階ごとに待ち受けてたんだよ」

「・・・さすが、憎まれ役」

「誰が憎まれ役だ!!」

「お前しか居ないだろ?」

「ぬぐ・・・何か、むかつくぞその言い方」

「はいはい、そんなことで怒らないの。 行きましょ」

杏子はそう言い、後ろの階段を指さした。
アルフェスは頭を掻きながら、手に持っている銃をしまい込み階段を上っていく。
その後に、アルティナは残弾を確認し、階段を上っていった。
杏子は少し肩をすくめた後、2人に続いて階段を上っていった。
階段を上ると、そこには何もなかった。
いや、何もなかったと言うより、この階自体が巨大な部屋と考えられるだろう。
その中央に、一人の男が立っていた。

「来たか・・・アルフェス」

「やっぱおまえか・・・ルディアス」

「一人の傭兵・・・いや、戦士として、お前と一騎打ちがしたいのだが?」

「いいねぇ・・・俺はアンタのそう言うところ、嫌いじゃないぜ?」

「フン・・・」

「杏子、合図を頼むぜ」

「ハイハイ・・・」

杏子は少し間をおき、一枚のコインを取り出した。
アルフェスとルディアスは銃を腰のホルスターにしまい、仁王立ちになる。
杏子がコインを指で弾く。クルクルと回転し、そのコインは床に落ちた。
その僅かな音を合図にして2人は、同時に銃を抜き、トリガーを引いた。
銃声が重なり合い大きな音が辺りに響く。
部屋が広いため、その音が増幅され頭を殴られたような感覚が襲う。
決着は付いた。
二の腕あたりに衝撃が走り、激痛が走った。
鮮血が、流れ出しアルフェスの腕を赤く染めていた。

「クックックッ・・・さすがだな。 腕は鈍っていないようだが、俺の腕が鈍っていたか」

右胸を正確に貫いており、左手で傷口を押さえた

「何故、それを使わなかった?」

「俺は戦士だ・・・卑怯な手は・・・・使わぬ・・・」

「そうか、今・・・楽にしてやる」

アルフェスは銃口をルディアスに向け、照準を定めトリガーを引いた。
銃声が響き、ルディアスの眉間を貫いた。
仰け反って倒れ、紅い液体が流れ出し次第にそれは大きくなっていく。
十字を切った後アルフェスは、二の腕の傷を抑えた。
淡く白い光が手に灯り、傷を少しずつ癒していく。

「アルフェス?」

「ん・・・どうした?」

「コールセントのオグヴィスを奇襲するらしいわよ」

「・・・・・」

「そこに置いてあった紙にそう書いてたわ」

「そうか」

何処か暗い雰囲気のアルフェスは、冴えない返事をしてその場を去っていった。
彼等が去った後、一人の男が屋上へと続く階段から、姿を現した。
透けるような銀髪に、ゴーグルを付けた男だった。
黒い皮の手袋、白い羽毛が付いた茶色のジャケットを着ており、腰のホルスターに二つの銃がある。
一つは近代的な創りの銃、もう一つは古びた銃で、アルフェスの使うシュヴァルツシャインと似ている。

「やっぱ強いですね・・・・それじゃあ、本部に戻りましょうか」

ゴーグルを付けた男は、そう呟くと屋上にでた。
風が強く、彼の髪を吹き上げる。
屋上には二騎のATがあり、片方は膝をついていた銀色のカラーリングで、もう一つは蒼白いカラーリングだった。
ゴーグルを付けた男は銀色ATへと騎乗し、騎体を機動させた。
銀色のATが立ち上がると同時、蒼白いATは宙を舞う。
それに続き、銀色のATが空へと舞い上がっていき、一定の高さまで来ると、蒼白いATはビルへ向けて光砲を構え、トリガーが引かれた。
光の弾がコンクリート製のビルを貫通していき、たった一発でビルを崩壊させた。

「全く、証拠隠滅だからと言って、やり過ぎじゃありませんか・・・ルーシェン」

「かまわん・・・ヤツが得た情報通り、オグヴィスを奇襲するぞ・・・指揮はJ・Dお前に任せた」

「やれやれ、相変わらず僕を目の敵にしてますねぇ」

「フン、気のせいだ」

「そう言うことにしておきますよ、同じ戦場をかけた間柄なんですから・・・でも、僕に牙を剥いた場合は予想できてますよね?」

簡単にそう言い、蒼白い騎体を繰るルーシェンに向け、殺気を放つ。
それを受け流しながら、ルーシェンは口を開く。

「分かっているさ、だが・・・お前はヤツに牙を剥くことが出来るか?」

簡単な質問。
それはJ・Dを沈黙させるのには十分だった。
ルーシェンの繰る蒼白い騎体は、J・Dの操る銀色の騎体に背を向け、その場から飛び去った。
J・Dは蒼白い騎体を見送った後、ルーシェンとは別の方向へ飛んで行き、二騎の騎体はその場所から姿を消した。
数時間後、銀色の騎体はある場所に来ていた。
アヴェンジャーの本部とは違う場所に、J・Dは足を踏み入れていた。
禍々しい程の気、と言えばいいだろうか、それ程までに邪念が渦巻いている。
そこは、過去幾千もの犯罪者や傭兵を収容していた場所、アナハイラスである。
そのアナハイラスの内部を歩き、未だに牢獄から出ようとせず、牢獄の中にいる囚人の前を通り、最奥部へと歩いていく。
最奥部に在ったのも牢獄だ。
だが、先程歩いてきた場所のとは違い、大きく広かった。
J・Dはその牢獄の前に立ち、中にいる囚人に声を掛ける。

「久しぶりですね・・・隆一さん」

「お前か・・・何の用だ?」

牢獄から声がする。低いわけでもないのだが、妙に威圧感を感じる声だ。
J・Dは、牢獄の中に備え付けられている電灯をつけた。
そこに浮かび上がったのは、黒い髪と縦に伸びた瞳孔を持った男であった。
伸びに伸ばされた髪、髭はもみあげと繋がっている。
腕は鎖で雁字搦めにされており、まともに動かすことはで来そうにない。
だが、男は苦もなく立ち上がって、J・Dへと近付いて行く。
威圧感がJ・Dを包み込むが、平然とした顔でその男の目を見ていた。

「何故俺の所へ来た・・・奴等が動き出したわけではあるまい?」

「奴等はまだ動いてませんよ、その時に備えて身体を動かさないといけないんじゃないですか?」

「お前の言うことにも一理あるな」

「どうします? 出ますか?」

「そうさせて貰う、俺の銃とリヴァイダーは?」

「ちゃんと僕が保管していますよ、隆一さん」

「なら、早くここを開けろ・・・冬真(とうま)」

「本名であまり呼ばないで下さいよ、隆一さんが僕の本名を知っていたら、関係があると思われるじゃないですか」

「分かった・・・さっさと開けろ」

隆一と呼ばれた男がそう言うと、J・Dは牢獄の鍵を開放しゆっくりと、扉を開け放った。
足にも拘束具が付けられているが隆一は、全身に力を込めていく。
ボロボロになった、囚人の服だがその下にあったのは、動けないにも関わらず筋骨隆々の鍛え抜かれた身体だった。
腕を縛り付けている鎖が、弾け飛んだ。
腕には鎖の後が走っており、隆一は腕をさすりながら、J・Dの方を見た。

「よく筋力が低下してませんでしたね・・・」

「企業秘密だ」

その短い会話の後、隆一は足に着いている拘束具に手をかける。
掴む手に力を込めていくと、次第に歪み始めていき・・・拘束具を破壊した。
金属音が響き、手に握られた金属音が部屋に響く。
裸足のまま隆一は、牢獄から出た。
久しぶりに吸う外気に、隆一は自然と胸を高鳴らせていた。
J・Dの後を歩いていき、2人は旧所長室へと入って行き、2人はソファに腰を下ろした。

「話をする前に、シャワーでも浴びて下さい、髭とか髪も鬱陶しいでしょうし」

「そうさせて貰う」

「服は、以前来ていたのを模させて作らせますので、少し時間がかかりますよ」

「かまわんさ、髪を切るのに時間がかかりそうなのでな」

隆一はそう言い、立ち上がる。
部屋に備え付けの風呂場へと向かい、姿が見えなくなった。
J・Dは立ち上がり、大きな仕事机に置いてある電話の受話器を取る。

「僕だ。 隆一が昔着ていた服が在るな、それを模して服を作れ、2時間以内だ」

簡潔に言い、J・Dは一方的に電話を切り、受話器を置いた。
ソファに座り、ジャケットを脱いだ。
黒いボディスーツを着込んでいて、身体は鍛えられていて申し分ない体付きである。
ジャケットをソファにかけて、J・Dはゴーグルを外した。
右目は空のように蒼い瞳、左目は黒い宝石のような物が、埋め込まれていた。
J・Dはソファに座ったまま手を掲げ、電灯に照らされ手の形をした影が、J・Dの顔を覆う。
優しい目をした青年で、とても人を殺しているとは思えない程に、少年としてのあどけなさと純粋さが感じられる。
うっすらと、目尻に涙が浮かんでいた。
時が経つのを忘れてJ・Dは、自分の手を見つめていた・・・
彼は元傭兵で、戦場で数え切れないほどの人間を殺してきた。
生きるために人を殺し、泥水を啜り飲んで数々の戦火の中を生き延びた。

「僕には、生きる価値はあるのかな・・・」

まるで自問する様に、J・Dは呟いていた。

「あるさ。人は、生きるために殺さなければ、生きて行けないんだからな。俺にも、お前にも、生きる価値はある」

「隆一さん・・・」

「お前の悪い癖だ、そんな事で悩むな」

「はい・・・」

いつの間にか、バスタオルを下半身に巻き、髭をそり髪を切った隆一が、ソファのすぐ側に立っていた。
先程とはうって変わって、凛々しい顔つきである。
身体に、右肩から左のわき腹辺りまで、何かで斬られたような傷跡があった。
隆一は、少し柔らかな笑みを浮かべてJ・Dを見ており、J・Dは少し目を丸くして、隆一の顔をみた。
昔と変わらない顔が、そこにあった。
姉と一緒にいた時に見せた、優しい笑み。
戦場で出会い、一度だけ彼と一戦交えたが、完敗だった。
圧倒的な強さで叩き伏せられ、井の中の蛙と言うのを教えられ、それ以降日々の精進を怠らなかった。
いつかは隆一やアルフェスを越える、それが彼の目標になっていた。

「そうそう、服はもう少し待って下さいね、今作らせている最中ですから」

「作らせてる?」

「ええ、結構古くなってますし、虫食いもありましたから、新しく作らせてます」

「行き過ぎた親切だな」

「そうですか?」

「まぁな。 そう言えば、俺がここに入ってから、何年経つ?」

「確か、2年か3年程だったかなぁ・・・」

「そうか・・・それだけ入っていれば、虫食いもあるな」

隆一がそう言った直後、部屋の戸がノックされた。
J・Dは慌ててゴーグルを付けた後、入ってくるように指示をする。
ドアを開けて、入って来たのは女性だった。
髪が長く、先端の方を結んだ髪型の女性だ。
手には、隆一の服がある。

「ご苦労様、すまないね無理なことを言って」

「い、いえ・・・構いません!」

「そう。 なら良かった、ありがとう」

(・・・・天然だな)

隆一は女性とJ・Dを交互に見て、感想を心の中で述べた。
女性は、顔を紅くしてすぐの部屋を出ていった。
J・Dの頭の上には、大きなクエスチョンマークが浮かんでいる、そんな風に隆一は見えた。
隆一は、声を押し殺しながら笑っていた。

「何が可笑しいんですか?」

「いや、何でもない。それより、その服を早く渡せ」

「あぁ、すみません」

そう言い、J・Dは先程女性から受け取った服を、隆一に手渡した。
服を着込んでいく。
足にぴったりとしたジーンズを履き、白のタンクトップを着た上に、黒いジャケットを着る。着替えている間に、J・Dが彼の愛用の銃とリヴァイダーを持ってきた。
使用する銃は、ガンフェリッド社製の銃で、ヴィラムM−19Sと言う拳銃である。
彼のリヴァイダーは、"イシュテネスデジェン"と言う物で、雷を操るリヴァイダーである。
隆一は腰のホルスターにヴィラムを、ジャケットの内側のホルスターにリヴァイダーを挿した後、J・Dの向かいにあるソファに座って足を組み、ソファにもたれかかる。

「で、話というのは?」

「はい、率直に言いますが・・・僕はここを抜けます」

「ここというのは、アヴェンジャーの事だな?」

「ええ・・・」

「そうか。で、俺に何をしろと言うんだ?」

「アルティナさんが、アルフェスさん側に付きました。そろそろ隆一さんの誤解も、解かないといけないんじゃないですか?」

「確かにそうだが、まだ時は訪れていない」

「時は訪れていない・・・か、確かにそうかもしれませんね。 僕は、オグヴィスの戦いでアルフェスさんの所へ行きます、その後の僕達の行動は隆一さんのみに、特殊な暗号を送りますから」

「・・・昔、春菜が使ってきたアレか?」

「ええ、アレは僕達の家に伝わる独自の暗号ですから、隆一さんにも分かるはずです」

「ったく、あの時はあの暗号を解くのに四苦八苦したんだぞ?」

「でも今なら、姉さんに教えて貰ってるから、分かるでしょ?」

「ああ、わかるさ。 それと多分・・・いや、確実にアルティナと戦うことになるだろう、その時はアルティナを危機へ追い込む。 その後は、お前と戦う・・・これで手筈は整うはずだ」

「分かりました、話はこれだけです。 後は、自由に行動して下さい、隆一さんが昔所属していた組織に関しての情報も、少し集めておきましたので後で見ておいて下さい。 あ、パスワードがかかってるので、RENERHT(リノース)で解除できます」

「分かった」

隆一は立ち上がると、J・Dに背を向けた。
背を向けたまま、J・Dに向けて言葉を放つ。

「冬真、あまり危険なことはするんじゃないぞ、春菜に何を言われるか分かったもんじゃないからな」

「はいはい、なるべく努力はしますよ」

「それじゃあな。 俺は、行かなければならない所がある」

「姉さんの所・・・じゃ無さそうですね」

「まぁ・・・な」

「気を付けて下さいよ? アレスの人間が動いていますから」

「わかった・・・おっと、俺のASはどうなっている?」

「隆一さんの罪騎士(ナイツ・オブ・ギルティ)は僕の実家にあります」

「そうか・・・」

隆一はそう答え、部屋を出ていった。
J・Dは、付けたゴーグルを直し、立ち上がった。

「まだまだ、先は長そうだな・・・まぁ、隆一さんと姉さんらしいけどね」

そう呟き、J・Dはアナハイラスを出ていった。
ATを鎮座させている場所に出て、アナハイラスを見上げる。
要塞とも古城とも取れるそれは、厚い壁のようにも見えた。
ゴーグルを指で上げて空を見ると、どんよりと曇り空が広がっていた。
少し笑みを浮かべて、J・Dは鎮座させている銀色のATへと騎乗した。
銀色のATが空を舞う。旧型のATだが、未だに機動するその騎体は、とても数十年も前に作られた物とは思えないほど、滑らかな動きだった。

「銀凰(ズイルバー・ケーニッヒ)、まだ動けるな?」

問いかけるように、ATへと話しかける。
ATからの答えはないが、駆動音が操術室内に響きわたった。
J・Dは少し笑みを浮かべた後、操術球に触れる。
それに触れると、一気に駆動音が強まり、背中のバーニアから蒼白い炎が噴出される。
駆動音が、銀凰の咆吼の様にも思え、J・Dは指で操術球をトントンと叩く。

「よしよし、いい子だ。 今度は西へ・・・ギリアムス公国へ行くよ」

J・Dはそう呟くと、銀凰と呼んだATを、西へと飛ばした。
一筋の煌めく光の帯を残し、銀凰は西の空へと、消えていった。
その頃、アヴェンジャーの支部を襲撃した三人は、自宅へと戻っていた。
車を降り、家の中へと入っていく。
越して来たばかりなので、綺麗な空間が広がっていた。
情報収集に必要なPCは、ちゃんとカスタマイズされており、杏子が独自に開発したハッキングのソフトがPCにインストールされている。
アルフェスは、ジャケットを脱ぎ捨て、楽な格好になる。
とてもアヴェンジャーの支部で、アナハイラスの囚人を両手で数えられない程の人数を相手にしたとは、思えない程に綺麗な身体をしている。
しかし、古傷が多い。
元々傭兵として、世界中の戦場を歩き渡っていたアルフェスは、"渡り鳥"とも呼ばていた。
何せ今まで起きた戦争には、ほぼ全てにアルフェスは参入しており、中にはATを駆り戦場を駆け抜けることもあった。
彼は、操術師としても、傭兵としても、超一流の腕を持っている。

「アルフェス、寝るんならベッドで寝なさいよ」

「分かってるよ」

振り返りもせず、アルフェスは杏子に応えると、アルフェスは寝室へと消えていった。
杏子は脱ぎ捨てられたジャケットを拾い上げ、それをハンガーに掛けてクローゼットの中にかけた。
アルティナは、ソファに座り大きく伸びをしている。
少し溜息を付いた後、杏子は財布を手に取った。

「アルティナちょっと、買い物に行ってくるわ」

「わかった」

杏子がそう告げると、アルティナは短く答える。
パンプスを履いて杏子は外へ出た。
扉が閉まる音がして、アルティナはソファに座っていたが、いつの間にか眠っていた。
杏子はもう一台の車に乗り込み、エンジンを噴かした。
ヴォォォン、と、排気音を轟かせ、街の方へと走っていった。
その遙か上空を、一騎のATが空を飛んでいた。
鋭角的な装甲を持つATで、真紅のカラーリングである。
そのATに乗るのは、サングラスをかけた一人の男だった。
切り揃えられた黒髪に、黒い皮のジャケットを着ている男だった。

「・・・映像を拡大しろ」

男がそう言うと、目の前のモニターに、走っている車に乗っている人物の顔が、拡大されて映し出されたそれを見て、男は少し驚いた顔をした。
が、すぐに表情を引き締め、再び画像を見て歪んだ笑みを浮かべ、騎乗しているATを操り、その場から飛び去った。
杏子は車を運転し、市街を走っている。紅い真紅のオープンカーで、金髪を靡かせている。
道行く人々は、そんな杏子を見て少し声を上げる。主に、20代の男がそれだ。
手を繋いで歩いていて、杏子の方に視線を移して彼女に抓られる、そんな者達もいた。
杏子が着いた場所は大きなデパートだった。
駐車場に車を止めて、いざ店内に入ろうとした時、ゴーグルを付けた銀髪の男にそれを遮られた。杏子はその男を見て驚きの声を上げる。

「じぇ、J・D!?」

「やっほぉ〜お久しぶり♪」

「どういうつもり? 何でココに・・・・」

「やだなぁ、杏子さんと同じく買い物ですよ・・・って、そんな恐い顔で睨まないで下さいよ」

「はぁ・・・アンタ、変わってないわね」

「当たり前ですよ、人間そう簡単に変わりませんよ」

そう言って、J・Dはケラケラと笑い出した。
何とも喜怒哀楽の激しい男である。
杏子は少し溜息を付き、J・Dの頭に拳骨を落とした。

「あだっ!」

「ったく・・・こんな所で、立ち話もなんだし喫茶店で話す?」

「あ、良いですね。杏子さんの奢りですか?」

「冗談、自費よ」

「うぅ・・・奢ってくれても良いじゃないですかぁ・・・それに、今月厳しいんですよ」

「奢れるほど金はないわよ!! アンタ達のおかげで世界中飛び回ってるのに、奢れるか!!」

説得力十分な杏子の言葉に、J・Dは黙るしかなかった。
と言うより、黙らざるを得ないのだろう。
過去、杏子を怒らせた時には、ろくな事が起こらなかったので、J・Dはそれを痛感している。
2人は、デパートの8階にある喫茶店に入り、向かい合って座る。
店の奥の方で、店内を見回せる位置で、杏子入り口の方を向いて座っている。
ウェイターが水を持ってきて、テーブルの上に置く。
J・Dは、それを少し飲んで喉を潤した。
杏子が口を開こうとして、J・Dが先に口を開く。

「そうそう、言っておきますけど、ユナイテッドアーツの一件と言いアナハイラスの囚人の開放の一件、僕は絡んでいませんよ。 全てルーシェンの独断で行ったことですから」

「信じると思う?」

「ん〜〜〜多分、信じてくれますよ」

「まぁ、アンタは昔から嘘をつく様な事は無かったから・・・信じて上げるわ」

杏子はそう言い、ウェイターに注文をする。
それに続き、J・Dも注文してウェイターはキッチンの方へと向かっていく。

「で、アンタは何しに来たの? まさか、私に会いに来た、とか言うんじゃないでしょうね」

「あ、わかりま・・・冗談です、ごめんなさい」

「はぁ・・・アンタと話してると、やる気が削げるわ」

「ホントの所は、ちょっと話したい事がありまして」

「話くらいなら聞いて上げるわ」

「驚かないで下さいよ?」

「ハイハイ、それで話しってのは?」

J・Dは、口を開き自分の知っていることを、洗いざらい喋り始めた。
杏子は黙ってそれを聞いていて、ウェイトレスがこちらへ来ているのを見ると、J・Dの話を一度中断させて、注文した物をテーブルに置かせて一息ついた。
杏子は運ばれてきたコーヒーを一口飲んで、大きく息ををついてJ・Dの方を見る。
彼の前に置かれているのは、チョコレートパフェでかなりの大きさの物だ。
甘い物が好きではないアルフェスが見れば、鳥肌物だろうと一瞬考えて、杏子は笑みを浮かべた。

「どーしたんです、急に笑みを浮かべちゃって」

「別に、アンタの甘い物好きも変わってなくて、少し安心したわ」

「僕は大して変わってませんよ。変わったのは、ルーシェンの方です・・・」

J・Dはそう言うと、スプーンで生クリームをすくい取り、口へと運ぶ。
いつになく真面目な顔をしているJ・Dを見て、杏子は少し不安にかられた。
幾度となく、彼がこの様に真面目な顔をした時は、迷っている時が多いからである。
コーヒーカップを置いて、J・Dを見る。
早い勢いで、パフェを食べていて既に半分近くも、胃に収めていた。
とても悩んでいるとは思えないので、杏子は溜息を付いて再びコーヒーを啜った。

「アンタ、何悩んでるの?」

「ほぇ?」

「ほぇ? じゃないでしょ・・・アンタがここに来たって事は、何か判断に迷ってるんでしょ」

「アハハッ、分かりました?」

「わからいでか、アンタのクセは良く知ってるからね」

「それもそうですね、まぁぶっちゃけ・・・アヴェンジャーから抜けようと思うンですよ」

「・・・そう、好きにすればいいわ」

そう言って、少し溜息を付いた。
いつかは・・・こうなると分かっていたのだ。
J・Dが、アヴェンジャーを抜けると言うことを、アヴェンジャーが狂うことも。
それを知っていて、自分は何もできなかった・・・いや、何もしなかった。
自分が持つ能力、"未来詠み(リード・ザ・ホープ)"と呼ばれる能力で、未来を知っていたのだが言わなかった。
言えば未来は変わったのだろう。
だが、それでは人を堕落させ、世界を腐敗させていくだろうと考え、杏子はあえて言わなかった、と言うより言えなかった、と言う方が正しいだろうか。
人が狂っていく、世界が狂っていく、そんな事を誰が言えるだろうか?
プレッシャーに押しつぶされ無い程、彼女の精神(こころ)は強くない。
幾度となくその重圧に押しつぶされかけたが、死んだ兄が、アルフェスがそれから救ってくれたのだ。

「・・・ねぇ、J・D」

「何ですか?」

「もし、私が全て知っていて・・・それを言わなかったら、どうする?」

「どうって・・・どうもしませんよ、杏子さんは杏子さんで考えがあって言わなかった、そうでしょ?」

「・・・・・」

「それに、未来を知れば人は前に進まなくなる。 未来詠みの力を持つ杏子さんも、それと同じ事を考えてそれを実行した、違いますか?」

「そうかもね・・・」

「未来を言ったからって、未来はそう簡単決まりませんよ」

「ありがと」

「へ?」

「何でもないわ。 そう言えば、買い物に行く途中だったわね・・・付き合ってくれない?」

「はぁ・・・奢りですか?」

「全く、仕方ないわね・・・貸しよ?」

「わ〜い♪」

まるで子どものように、J・Dはパフェをがっついた。
杏子は少し笑みを浮かべながら、それを見ている。
おそらく、彼の言動が母性本能というモノを擽るのだろう、なんとなく母親的な気分になっていた。
J・Dがパフェを食べ終えて、2人は喫茶店を出るとエスカレーターで二階へと上がっていき、杏子は日用品雑貨や食料品を見て周り、J・DはCDショップで自分の好きなロックバンドのアルバムを購入し、暫く時間を潰していた。
4階で服を見ていると、何処からか爆発音の様な音が、聞こえてきた。
この建物からでは無く、違う場所からでかなりの爆音と衝撃があり、杏子の居るデパートが激しく揺さぶられ、照明がチカチカと点滅する。
何とか其の振動に耐えて、騒然とする店内を走り、杏子は屋上へと向かっていた。
J・Dも同じく屋上へ向かっており、途中で合流して屋上へと走った。
屋上へ出ると、強い風と共に黒煙が風に流されているのが目に入ったと同時に、一騎のATが宙に浮いているのも目に入る。
真紅の騎体で、炎をイメージさせる装甲を持っている。
真紅の騎体は光砲を向けて、杏子達のいるデパートのすぐ隣のビルへと発射した。
弾丸が一発、二発と、ビルへと打ち込まれ次々と爆発していく。

「まさか・・・アレは赤霊騎士(クリムゾン・ガイスト)!?」

杏子が叫び、赤霊騎士と呼ばれたそれは、2人の居るデパートへと光砲を向ける。
咄嗟に、J・Dは銃を抜いて銃口を赤霊騎士へと向けていた。
それも普通の銃ではなく、紅い銃身の古びた銃、リヴァイダーと呼ばれる超古代文明の遺産である。
トリガーに指をかけると紅い光が、銃口へと集約していき光砲から弾丸が発射されると同時、リヴァイダーから超エネルギーの塊が発射されて、弾丸を破壊して赤霊騎士へと向かっていく。
光盾でそれを受け止めると、赤霊騎士の光盾が破壊されて上昇する。
光砲をこちらへと向けるが、J・Dのリヴァイダーの第二射が赤霊騎士を捕らえた。
足を破壊して、紅い超エネルギーの塊が一直線に飛んでいき、遥か彼方へと消えていった。
J・Dは赤霊騎士を睨み付け、微動だにしない。
杏子は、少しずつ後ろへと下がって行き、屋上へと出る階段の中へと走っていき、中にはいるとほぼ同時に、数回ほど爆発音があり、顔を出してみると、赤霊騎士の姿はなくJ・Dの後ろ姿が目に入った。
ゆっくりと近付いていくと、J・Dは振り返った。
傷一つ無い姿で、彼は立っている。

「さて、帰りましょうか。 荷物持ちましょうか?」

「怪我はない・・・わね」

「ええ、大丈夫です」

「相変わらず無謀なコトするけど、腕上がったわね」

「そうですか? 自分ではそう思いませんけど」

「まぁいいわ、行くわよ」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ」

荷物を持たせ、スタスタと歩いていく杏子を追って、J・Dは走っていった。
すると、姿を消していた赤霊騎士が、姿を現した。
中に乗っているのは、サングラスをかけて黒い皮ジャンを着ている金髪の男だった。
サングラスを外し、その顔の容貌を露わにする。
金と蒼い瞳を持つその青年は、少し笑みを浮かべた後、騎体を操作してそこから西の方角へと飛び去った。
杏子の車に荷物を積み込むとJ・Dは、助手席に座り込んだ。

「・・・あんた、何で乗るわけ?」

「いいじゃないですか、減るモンじゃなし」

「アンタ車で来たの?」

「いえ、ATです」

「取りに行けこのドアホ!!」

「大丈夫ですよ、迷彩システムもオンにしてますし」

「アンタのその楽天的思考も変わらないわね」

「だから言ったでしょ? 人間そう簡単に変わらないって」

「まぁいいわ・・・」

どうやら、何を言っても無駄と判断して、杏子は車を出した。
すぐに自宅につき、家の中へと入る。荷物はJ・Dに持たせ、杏子は手ぶらである。
靴を脱ぎJ・Dに持たせた食材などを、冷蔵庫へと入れていき、ソファに座った。
テレビを付けてみると、ニュースが報道されていてアヴェンジャーの支部が襲撃され、謎のATにより破壊された、と報じていた。
ゴーグルの奥の目を鋭くさせ、そのニュースを見ていた。
偶然、DM(デジタルメモリー)に記録され、報道局に寄せられた映像が映し出されると、そこにはアルフェス、杏子、アルティナの三名がビルから出てきて、車で去るまでの映像が映し出されていた。
そこで画面が切り替わり、J・Dの乗る銀色の騎体・銀凰とルーシェンの乗る蒼白の騎体・蒼白騎士(ホワイテッド・ナイト)が写しだされ、ルーシェンの蒼白騎士が飛び去ると、J・Dの乗っていた銀凰が蒼白騎士とは違う方向へ飛び去っていった所で、映像が終わりニュースキャスターの顔が映し出された。
J・Dはチャンネルを変えて、一息ついた。
すると、向かいのソファで寝ていたアルティナが目を覚ました。
身体を起こし、眠そうな目で辺りを見回し、J・Dを見てその視線が彼へと注がれる。

「・・・・J・D?」

「おはようございます、よく寝てたみたいですね」

「何故アナタがここに?」

「いえ、買い物にきてた杏子さんと会ったんで、一緒についてきました♪」

「・・・・」

「そ、そんな恐い顔で、睨まないで下さいよ」

「まぁいいわ・・・隆一はアナハイラスから出たの?」

「さぁ? 僕が知ってるワケないじゃないですか」

「どうだかね」

「それよりアルティナさん、隆一さんと何か因縁みたいなのがあるんですか? あの時も聞いてきましたし」

「J・D・・・貴方には関係ない話よ」

「そうですか。 まぁ、いずれ分かりますよ・・・・」

「どういう意味かしら?」

「さぁ・・・ホントにいずれ分かる事ですよ」

J・Dは着ているジャケットを脱ぐと、座っているソファにかけると、アルティナの顔を見る。
端正な顔で、左の蒼と右の紅い瞳にJ・Dの顔が写っていた。
少し見つめていたが、すぐに視線を移動させてアルフェスの寝ているベッドを見ると、杏子が布団をかけ直している所だった。
J・Dは自分の手を見て、何か呟いた。
その呟きは誰に聞こえる事は無く、その呟きは消えていった。
やることもないまま、J・Dはソファに座っていたが、アルティナが唐突に話しかけてきた。

「あなた・・・シルファリア皇国で会った事がある?」

「はぁ? 僕の住んでるところはそこですけど、会った事も話したこともありませんよ、アルティナさんを捕縛したとき以外はね」

「そう・・・」

「それがどうかしたんですか?」

「いえ、ただ以前アナタに会った時、初めてあった気がしなかったから」

「そうですか。 あ、杏子さん、僕そろそろ帰りますね」

J・Dは立ち上がり、ジャケットを羽織るとアルティナに背を向けた。
そこへ、料理を作り終えた杏子が姿を現した。
湯気の立っている料理を机の上に置き、杏子はJ・Dに向き直り言葉を紡ぐ。

「あら、もっとゆっくりしていけばいいのに」

「アルフェスさんが目を覚ましたら、なに言われるか分かりませんからね」

「そう、ならまた今度いらっしゃい。どうせ、オグヴィス基地の襲撃、アンタが指揮するんでしょう?」

「知ってたんですか?」

「まぁね。 私の能力はそう言う物だから・・・」

「そうでした・・・ね。 じゃあ、オグヴィスで会いましょう」

「踏ん切りはついたの?」

「ええ、杏子さん達に会えて踏ん切りがつきましたよ。 じゃあ、また今度」

J・Dはそう言いながら、ブーツを履いて出ていった。
杏子は優しい笑みを浮かべて、それを見送るとリビングへと戻っていった。
アルティナは既に、料理に手をつけていた。
野菜炒めと酒蒸しに、味噌汁、茶碗に盛られた白い御飯が、湯気を立てている。
そこへ、アルフェスがのそのそと起きてきて、眠気眼を擦りながら台所へと歩いていき、冷蔵庫を開けてお茶を飲んだ。
身体中にある銃創や裂傷、打撲、骨折跡等が見られ、その怪我の全てを自分で処置下のだろう。
再びアルフェスは、寝室へと行きベッドの上に寝転がると、寝息を立てて深い眠りへと落ちた。
杏子とアルティナはそれを目で追っていき、ベッドの上に寝転がると視線を戻した。
終始黙ったまま、2人は食事をしていた。
その時、アルティナが口を開き杏子に問いを放つ。

「杏子・・・未来を詠む力を持つらしいわね」

「ええ、でもこの力は使えないわ」

「未来を詠むことが出来るなら、過去を詠む事が出来る能力もあるのかしらね?」

「アルティナ・・・アナタ、何を考えているの?」

「別に、何でもないわ。 何でも・・・ね」

ふと、アルティナの顔に陰りが出来る。
杏子はそれに気付いていたが、あえて気づかないフリをした。
再び沈黙が訪れ、2人は黙ったまま食事をとった。
その頃、遠く離れた場所に一騎の騎体がある。
銀色のその騎体に乗っているのは、J・Dでは無く恐らく偶然それを発見した者だろう、見るからにならず者といった感じの男だ。
その騎体の足下には、男の仲間と思われる人物達がいて、その騎体を取り囲むように立っている。

「へっへっへっ・・・こんな所に、ATが在るとはな幸運だぜ」

ATに乗り込んだ男はそう呟き、騎体の動力炉を作動させる。
その時だ、ゴーグルを付けた男J・Dが、そこに姿を現した。
銃を持ちその銃口を、銀色の騎体へと向けている。
騎体を取り囲んでいる男達が、一斉にそちらを向き銃を構えた。
たった一人で、それを相手にするには少し、辛いようにも思えるがJ・Dは、笑みを浮かべたまま彼等に近付いていく。

「やれやれ、見つからないと思ったらしっかり見つかってるよ・・・システムに、不具合でもあったのかなぁ? 今度、自分で整備するか」

頭を掻きながら、そう呟きしっかりと自分の騎体へと歩いて行く。
乗り込んだ男が騎体を動かして、光砲をJ・Dへ向けて何かを言う。

「てめぇか、この騎体の所持者は・・・コイツは今日から俺様のもんだ。 さっさと消えろ!」

「ふぅ・・・困りますね、人の物を勝手に自分の物にしては。 でも貴方に、それをちゃんと動かせることが出来れば、それは差し上げますよ」

J・Dがそう言うと、騎体に乗った男は騎体を浮上させていく。
少し浮上させたつもりなのだが、その騎体は遙か上空まで上っていった。
しかも、凄まじい速さで。
面白い物を見る様に、J・Dは空を見上げた。
一瞬にして、それが姿を消して違う場所へと姿を現す。
どうやら扱い切れていないらしく、騎体のパワーに負けていた。
一分も経たない内に、銀色の騎体は墜落して近くへと落ちた。
騎体を取り囲んでいた男達は、そこへ近付いていき操術室を覗き込んだ。

「お、おい大丈夫か!?」

「やれやれ、だから言ったのに・・・それに、貴方達は僕の事を知らないようですね」

「何だ・・・と・・・」

J・Dの方へ振り向いた男の顔が、一瞬にして蒼くなる。
その男は、何も言わないままその場から逃げ出した。
J・Dは終始笑顔で、その男の背中を見送ると、男達へと向き直った。
そして、ゆっくりと近付いていく。

「どうやらあの人は知っていたみたいですが・・・貴方達は知らないようですね。 自己紹介をしておきましょうか・・・僕はアヴェンジャー総司令官補佐、J・Dと言います」

名と肩書きを名乗った瞬間、目の前にいる男達の顔が、みるみると蒼くなっていく。
現在では、アヴェンジャーと言うなは恐怖の対象でしかなく、操術室で気絶している男を置いて、男達は走り去ってしまった。
J・Dは少し溜息を付いた後、操術室で気絶している男を出すと、樹の幹にもたれさせリフレクターフィールドを展開し、騎体に乗り込んだ。
操術球に触れて、銀凰の腕を動かし異常がないか調べてみて、異常が無い事が分かると銀凰を空へと浮かび上がらせ、西の方角を見た。
少し舌で口唇を舐めて、J・Dは遙か西方を見つめた。
だが、騎体を反転させると東へと、飛び去った。
その頃・・・アルフェスは目を覚まして、リビングに顔を出した。
何処か体調が悪いのか、それとも悪い夢でも見たのだろうか、顔色が優れない。
ソファに座ると、暫く天井を見つめていたが、すぐに鼾が聞こえてきた。
恐る恐る顔を覗き込むと、目が開いていた。

「・・・杏子、コイツの目が開いてるのだが、どうすればいい?」

「ほっとけばいいわよ。 別に害はないんだし」

「しかし、不気味だ」

「気にしない方が良いわよ?」

杏子はそう言いながら、洗い物をしている。
髪をかき上げる様な仕草をしてから、アルティナはソファに寝転がった。
水の流れる音が、静かな部屋に響いていた。
暫くして、洗い物を終えた杏子がリビングに戻ると、テレビがつけたままソファで寝ているアルティナの姿があり、苦笑しながら杏子はアルティナに毛布を掛けると、アルフェスの頬を抓る。

「何時まで、そうしてるつもり?」

「ん・・・あれ? 確か、ベッドで寝ていたはずなんだが・・・」

「寝惚けてたのね?」

「・・・多分そうなるな」

「で、どうするの?」

「んぁ・・・何がだ?」

「何がって、オグヴィスに行くんでしょ?」

「あぁ。 で、お前の能力で何が見えたんだ?」

「ん、J・Dがアヴェンジャーを抜けて、こちらへ来ることかしら?」

「それだけ、じゃないだろう?」

アルフェスの目つきが、一瞬だが鋭くなり、杏子を睨み付ける。
それに臆した様子もなく、悪びれた態度で杏子は口を開いた。

「そんなに疑わなくても良いでしょ? それじゃ、お休み」

端的に短く答えると、寝室へと入っていった。
リビングにいるのは彼とアルティナの2人で、静まり返ったリビングには、アルティナの静かな寝息が響いていた。
少し大きめの息を付き一度台所へ行くと、ワイングラスとワインの瓶をもって、ベランダへと出た。
夜中になっても消える事のない不夜城の灯りが、彼の眼に飛び込んできた。
ネオンの煌めきと街灯の灯りが、決して消える事無く煌めき、歓楽街を照らし上げていた。
何をするのでもなく、ボーっとそれを見ている彼の瞳には、どことなく生気と言う物が感じられない。
手にしたグラスの中の酒を煽ると、アルフェスは歓楽街の方を見つめていた。

「人は、所詮他人同士・・・か」

意味深げな言葉を呟き、部屋へと戻った。
直後、其の上空を二騎のATが飛び去っていく。
深緑の騎体と、漆黒の騎体。
深緑の騎体の肩には、ある紋章が刻み込まれている。
重なる二本の剣に絡み付く一匹の龍、それは双剣竜(ソードドラゴン)と呼ばれる紋章で、ある帝国の紋章と言われているものだ。
そしてもう一騎、漆黒の騎体に刻まれた紋章は、鳳凰の紋章である。
鳳凰翔(フェニックスウィンド)と名付けられたその紋章は、真・聖暦になる以前に製作されたATでその騎体で、製作されてから数千年余り経つにも関わらず其の性能は未だに現代の技術の粋を集めてもその水準を遥かに上回っている驚異の騎体である。
その二騎は遙か西方・・・永世中立国であり、失われた技術の発掘された神聖なる土地、エルシェント帝国へと向かう進路だった。
音もなく、そこを通過し西の夜空へと消えていった。
そして次の日、杏子とアルフェスは険しい顔をして、話し合っていた。

「で・・・現在所持金は?」

「12万ヘクス・・・オグヴィスに行くには、全然足りないわよ」

「後5倍近くは欲しいな」

「賞金首(ギルティ)でも4、5人捕まえられれば良いんだけど・・・」

と、そこへアルティナが外から帰ってきた。
2人はそちらへと視線を移すが、すぐに顔を見合わせて話し合う。
靴を脱いで、2人の元へと歩いていくと、テーブルの上におかれている全財産を見て、問いを放つ。

「・・・これだけなのか?」

「「うるさい、その原因!」」

「うっ・・・た、確かに私が原因かも知れないが、あの時私を放っておけば、良かったんじゃないのか?」

「生きてる奴を放っておくことは、俺のポリシーに反する」

「止めを刺すって言うのもねぇ・・・」

「ふぅ・・・」

やれやれ、と言った感じで肩を賺せながら、その全財産を見る。
唯でさえ銃弾の補充や整備、食費、その他諸々の費用があり、今はアルティナという居候がいるため、食費がやや増えたため、この半月を生活できるか出来ないかギリギリの金だ。
現在、ATは修理中なのだが、その費用や格納庫の代金を考えると、コレでは全く足りない。
しかも、現在は手にしていた職を辞めて、世界中を飛び回っており一定の収入がないため、四苦八苦しているところだ。

「なら、私の金を使うか?」

「あぁ?」

「お父様の遺産でかなりの金額が遺産として私の元にあるけど、傭兵の私には必要ない物だから」

「あ、そう言えば貴方の父親は・・・」

「アズウェルト=レイドナー・・・元レイドナー財団の総帥よ」

そして、数日後・・・彼等は、コールセント共和国行きの飛行機の中にいた。
ビジネスではなく、ファーストクラスのゆったりとしたシートに座っている。
アルフェスはアイマスクを付けて熟睡しており、その隣では杏子がノートパソコンを使い、何かを打ち込んでいる。
カタカタと機内に、タイピングの際に発する音が響いている。
黒縁の丸い鼻眼鏡を掛けて、杏子は黙々と打ち込んでいる。
その隣に座っているアルティナは、興味本位にそれを覗き込んだ。

「ん? どうしたの?」

「いや、先程から熱心に打ち込んでいるから・・・」

「あぁ、仕事よ仕事。 一応、エッセイって言うか、そういうなのを書いてるから」

少し苦笑しながら、杏子が答えると指を動かし始めた。
アルティナは、ノートパソコンから目を離して、辺りを少し見回してみる。
やはり、アヴェンジャーの影響かして客が少ない。
それでもちらほらと、客の頭が見えたがすぐに眼を瞑り、寝息を立てて眠ってしまった。
ギリアムス公国からコールセント共和国まで、大体10時間弱の時間が掛かる。
周りの乗客も大抵が寝ており、カタカタとタイピングの音が響いていた。
眠っていたアルフェスは離陸してから、4時間ほどで目を覚ました。
杏子は依然としてタイピングを行っており、アルティナは眠っている。
立ち上がると、トイレへと向かい歩いていくが、途中で足を止めた。
ふと、窓の方へと視線を移す。
そこには白銀の騎体と、最新型のAT・灰銀剣士(アッシュ・ブレイド)が数騎、白銀の騎体の後を飛んでいる。

(J・Dの銀凰(ズイルバーケーニッヒ)か・・・)

アルフェスは、視線を背けようとした時、副座から一人の男が顔を出した。
ゴーグルを付けた銀髪の男・・・J・Dである。
口を動かし、それを見ているであろう人物・・・アルフェスへと、メッセージを送っていた。
時間にして30秒ほどで、J・Dは操術室へと入り、銀凰を加速させた。
灰銀騎士もそれに続き、加速してその姿を消した。

「・・・・ちっ、宣戦布告かよ」

誰にも聞こえない声で呟くと、アルフェスはトイレの中へと入っていった。
杏子は必至に、タイピングを行っておりエッセイを書いている。
その隣でアルティナは眠っていた。

私は夢を見ているの・・・?

アルティナはある夢を見ていた。
そこにいるのは、優しい顔をした彼女とその家族。

父様・・・母様・・・

眠っている彼女の頬を、涙が伝った。
それから・・・数時間が経過して、漸くコールセントに着いた。
国、とすら呼べるかどうか分からない程、そこは荒廃していた。
犯罪者が町を闊歩し、町の住人は殆ど外へ顔を出さない。
アルフェス達は、空港を出ると街へ向かうため一台のタクシーを止めた。
昼の街に、犯罪者が闊歩して罪を犯す街で、タクシーが正常に機能するわけがない。
三人は注意を払いながら、タクシーに乗り込むとオグヴィスの首都へと、向かった。
窓越しから外の風景を眺めていると、先の大戦の傷痕が残されていた。
先の大戦と言うのは、アヴェンジャーが開放したアナハイラスの囚人との戦いのことである。
アヴェンジャーによりSSクラスの傭兵や犯罪者、暗殺者等が捕縛されている間、軍事機関や警察機構は廃退しており、満足にATの操術をする者や、銃器を巧く扱える者がいなかった。
その為、軍事機関と警察機構の連合軍はあっさりと、アナハイラスの囚人の前に敗れ去った。
元々、一騎当千の傭兵等が数百人も捕縛されていたのだ、この結果は当然と言えるだろう。
しかしその中でも、未だにアナハイラスから出ようとしない者もいた。
大半の囚人は、喜んで牢獄から出たが、数十人の人間は出ようともしなかった。
其の理由は、今でも謎である。
タクシーが街に着く少し手前で、急に停車した。
外を見てみると、数人の武装した男達が車を取り囲んでおり、其の銃口をこちらへと向けていた。
それを指揮している男・・・J・Dの姿も、目に入った。

「あ〜あ〜聞こえますかぁ? アルフェスさん聞こえてるんなら早く降りましょうね〜〜〜♪」

「J・D・・・?」

「俺が話を付けてくる、お前らここに居ろ」

そう言うと、アルフェスはタクシーから降りて、J・Dの元へと向かい歩いていく。
恐れることもなく、どことなく傲岸不遜という雰囲気を纏っている。
歩みを早めることなく、自分のペースで歩き、J・Dの目の前に立った。
銃器の類は何も持っておらず、戦闘になれば鍛え抜いた己の身体のみが、武器になる。
幼い頃から、戦場で暮らしあらゆる戦火の場所へ行き、戦った。
生きる術も戦う術も殺しの術も、全て独学で手に入れた。
師と呼べる者は居ない、生きてきた証は今ここにあり、その証を全て知る者は、杏子ともう1人いるが、齢18でこの世を去っていた・・・彼を、生かすために。
アルフェスは、J・Dの目の前に立った。

「よぅ、久しぶりだな」

「えぇ、大体4年振りですかねぇ?」

「ああ・・・多分そん位になるな」

「4年かぁ・・・早いモンですね、貴方がアヴェンジャーを去ってから」

「で、宣戦布告したお前が、何でこんな場所にいやがる?」

「ちょっと、アルフェスさんと話がしたかっただけですよ、後ろに控えているのは僕の私兵ですから、大丈夫ですよそう身構えなくても」

「だと良いがな。 それに、おめぇ信用されてないみたいだぜ?」

「そのようですね」

2人は同時に、走った。
音速を越えた弾丸が、2人のいた場所へと突き刺さった直後。
爆音が、そこを中心に轟いた。
その音にかき消されたのか、銃声は聞こえなかった。
アルフェスはすぐ近くの、大きめの岩の後ろに隠れ、様子を伺った。
狙撃手の姿は見えない、辛うじてそうであろう者が遠く離れた崖の上に居る。
J・Dは、飛んできたであろう方角へ、ライフルの銃口を向けて狙いを定めていた。
距離は分からないが、狙撃する地点としては大体2000フォンス近く離れた崖の上が、一番の狙撃場所だろう。
何度か、弾丸か掠めるがそれをものともせずに、J・Dはその場所を見据えていた。
一瞬であるが、紅い火花が散ったのを視認すると、息を一瞬止めてトリガーを引いた。
乾いた銃声が中たりに響く。それっきり、狙撃は無くなった。
少し息を付き、J・Dは立ち上がると、アルフェスの方へと振り向いた。

「さて、僕はそろそろ行きますよ・・・」

「そうか、たとえお前だろうと、前に立つ奴には手加減しネェぞ」

「分かってますよ、では三日後・・・オグウィスの基地を襲撃しますので、その時に・・・」

そう言うとJ・Dは、アルフェスに背を向けて姿を消した。
アルフェスは立ち上がると、礫を受けた背を少し気にしながら、2人の元へと歩いていく。
止めてあったタクシーに乗り込むと、車を出させた。
一時間後、オグウィス近郊の街に着き、ホテルへとチェックインすると、杏子が口を開いた。

「ご苦労様。 で、アイツは何て?」

「ん・・・三日後に、オグウィスの基地を襲撃するとよ」

「ふぅん、三日後かぁ・・・それまで、観光しよっか?」

「程々にしろよ? 俺は、ギルドに行ってくる。 賞金首を捕まえておきたいからな」

「私もアルフェスに同行しよう、暫く体を動かしていないからな」

「むぅ・・・何で、こんな所まで来てギルドに行くのよ! 観光しなきゃ意味ないでしょ!?」

「あのな、俺達は現在誰の金で来ているんだっけか?」

「早く、ギルドへ行きましょう!」

「結構、現金な性格ね・・・」

「それを言うな」

アルフェスは苦笑いを浮かべながら、杏子を見る。
昔から、あの様な性格だったような気がするが、そんな事はどうでも良かった。
ただ一つ、気になる事があった。
それは、ディーヴァルが持っていたリヴァイダーの事だ。
彼の記憶の中には、ディーヴァルがリヴァイダーを持っていたという記憶はない。
となれば、遺跡を暴いたのか、それとも、第三者の手によりそれを渡されたか、と言う事になる。
恐らく・・・いや、確実に後者の方だろうと、アルフェスは推測したが、確信はなかった。
第三者、と言っても心当たりがない。
ディーヴァルにリヴァイダーを渡し、そして彼等に仕掛けさせる相手は、殆ど居ないと言って良い。
しかし、ふとある男達の顔が、思い浮かんだ。
漆黒の出で立ちをした男と、白衣を着た男の姿だ。
過去・・・大凡10年近く前、アルフェスが未だ14の時にその男達と出会った。
そして、当時の自分が初めて心を開いた者を目の前で殺され、自分の不甲斐なさ、弱さを叩き付けられた。
杏子と出会ったのも、その時のことである。

(まさか・・・な。 あの時の奴等が、動き始めたと言う事か?)

「どうした? 深刻な顔をして」

「いや、何でもねぇ」

「そう・・・なら良いけど」

「さて、ギルドに行くか」

アルフェスはそう言うと、荷物を置いて部屋を出た。
それに続き、2人も部屋を出ると鍵をかけ、ホテルを出た。
外に出ると見た事のある人間ばかりが、町中を歩いていた。
その殆どはアナハイラスの囚人で、アルフェスと杏子が捕縛した者もいた。
ギルドへと向かう3人に、視線は注がれてる。
彼等に手を出さない所を見ると、J・D辺りに手を出すなと命令されているのだろう。
そんなことを考えながら、半地下の酒場に入ると、まず煙草の匂いが、鼻についた。
人目を気にせず、カウンターの席に座り軽い飲み物を頼み、年老いた酒場のマスターに話しかける。

「さてと・・・マスター、賞金首は居るのか?」

「何を言っておる? このご時世じゃ、世間にごまんと居ろうが」

「まぁ、そりゃそうだけどよ・・・高い賞金首を、2〜3人捕まえたいんだが」

「ほぅ・・・それならば」

マスターはそう言って、奥へと入っていき数分して戻ってきた。
戻ってくると、数枚の古びた紙を持っていた。
その紙をアルフェス達の前に置き、アルフェスはそれを手に取ると両隣から、杏子とアルティナが覗き込んでくる。J・Dの顔が、そこに載っていた。
「マスターこいつは?」

「現在のアヴェンジャーの指揮官補佐、J・Dじゃ・・・」

「やれやれ・・・コイツを倒すって言うのは、酷な話じゃないか?」

「そりゃそうじゃろう、先代の指揮官と補佐が抜けてからは、実質ナンバー2じゃからな」

マスターはそう言い、手にしたグラスを布で拭き始めた。
機械化が進みに進んでいる中、手でグラスを拭くその手は言い得て、妙に新鮮だった。
目の前にいるのが、その先代の指揮官とその補佐の人物である事を彼は知らず、老人は手を休めずにグラスを拭いている。
沈黙が3人を包み込み、アルフェスはウィスキーの入ったグラスを傾け、それを飲む。
カラン、と氷が音を起てて、その形を崩す。
賞金首のリストをコピーしてもらい、3人は酒場を出ると先程のホテルへと、戻っていった。
翌日、杏子はアルティナを連れて、買い物に出かけたがアルフェスは体を動かしていた。
逆立ち状態で、腕を曲げて再び伸ばす。汗が腕を伝い、流れ落ちていく。
窓を締め切っており、汗の匂いが部屋の中に充満していたが、気にする様子もなく同じ動作を繰り返していたが、動きを止めて両手の指だけで支え、再び先程と同じ様に腕を動かす。
大きく、荒い息を吐いて、黙々と体を動かす。
再び腕の動きを止めて、中指を折り曲げると動作を再開した。
大量の汗が皮膚を伝い床に流れ落ちていく。
再び動きを止めると薬指を折り曲げて両手あわせて、六本の指で身体を支えて動きを再開する。
同じ様な一連の動作を繰り返し、今度は人差し指を折り曲げ、四本の指で支えて動きを再開した。
また腕を止め、小指を折り曲げて親指だけで身体を支え、同じ動作をする。
一時間程して逆立ちの腕立てを終えると、今度は足を真っ直ぐに伸ばして、重さ10kg程のリストバンドを三つ片足につけると、片足でスクワットを開始した。
三十分後、ガクガクと片膝が笑い始めると、リストバンドを付け替えて再び片足でスクワットを開始する。
黙々と体を動かし、汗を流していく。
更に三十分後、両膝がガクガクと笑い始めていた。
今度は両足を揃えると、足首を縄で縛り付けると天井に取り付けた頑強なフックにそれを通し、引き上げると柱にそれを結びつけて、手を頭の後ろに組み腹筋を始めた。
一回、二回・・・そのスピードは衰える事無く、回数を重ねていった。
ゆうに一時間が経過して、外は既に太陽が真上に昇っている。
腹筋も、攣りそうな程になっており、縄をナイフで斬り逆立ち状態で着地した。

「はぁはぁはぁ・・・」

足を結びつけている縄を外していると、扉が開き杏子とアルティナが帰ってきた。
その第一声が、これである。

「く、臭ッッッッッッッ!! 何よこの汗臭さはッ!!」

「・・・早く窓を開けろ、匂いがベッドに染みついたらどうする」

等と、言われたがアルフェスは立ち上がれない。
意を決したような顔をして、杏子は息を止めて部屋の中に入っていき、手早く窓を全開した。
風が通り、匂いが消えていくのだが、そう簡単に消えなかった。
何とか立ち上がるが、膝が笑っており歩くことすらままならない状態で、浴室へと歩いていく。
着ているパンツとトランクスを脱いで、浴室にはいるとシャワーを頭から浴びた。
温度を調節せずに、水のままそれを浴びた。熱を帯びた身体には、それはとても心地よい。
十分程度で、シャワーを浴び終えて浴室を出ると、少し鼻につく匂いが漂っている。
濡れた身体を拭き終えて、替えのトランクスを履いて、椅子に座った。
まだ足が笑っている。

「アルフェス、どうしたの?」

「ん・・・何でもねぇよ。 何か買ってきたのか?」

「えぇ、一応弾薬の換えとかね。 あの馬鹿相手じゃ、いつもの装備じゃ無駄だろうし」

「まぁ・・・な、アイツは結構頭がきれるし、機転も利くから一筋縄じゃ行かないだろうな」

そう言いながら、アルフェスはタオルで頭を拭いている。
鍛えられた身体は退役しても、微塵の衰えを見せていなかった。
長い傭兵生活の間に、日常生活の中に体を鍛えるという事が、習慣付いてしまったのだろう。
杏子もそうだが、別に筋肉質と言うわけではないが、その肢体は十代を思わす程だが、服で隠れているが無数の銃創や裂傷が、その肌には刻み込まれている。
無論、アルフェスの体にも無数の傷跡がある。

「昼飯まだ喰ってなかったな・・・」

「私達はさっき食べたけど?」

「ん〜〜なら、俺一人喰ってくるか」

アルフェスはそう言うと、革のズボンを履いてタンクトップを来て、ジャケットに袖を通す。
サングラスをジャケットの胸ポケットに入れると、財布の中身を確認して、外へと出て行った。
日射しが強く、夏のように暑い。元々、このコールセント共和国は、南方にある国なのでリゾート地として開発された場所である。
半年近く前に起こった、ユナイテッドアーツ事件はアナハイラスの囚人との戦いを指しており、比較的軍事施設の無かったここはその戦火に曝されなかったが、事件後は被害の殆ど無いここを中心として、軍事機関の増強が測られていた。
大体半年ほどで、新人の教育から新型ATの開発までの肯定を、一気に終わらせたのだ情報を得たルーシェンが兵を向けるのも頷ける。
それでも、未だ幾つも問題はあった。それは、新人の戦場の経験である。
アナハイラスの囚人の大抵は、戦争というモノを経験しているし、人を殺すのに抵抗はない。
囚人の中には、殺人に悦楽を感じる者達すらもいる。
人を殺すのに何の疑問を感じず、ただ己の欲をみたすために人を殺していく、そんな人種がいるのだ。
アルフェスも人を殺すのに抵抗はない、と言えば嘘になるだろう。
幼少の頃・・・物心着いたときには銃を持って、戦場にいた。
記憶の片隅に、母親が炎に包まれて何者かに殺されていたのが、その全てのはじまりだったのかも知れない。
小さな店に入ると、片隅に腰を下ろして大きく息をついて、水を飲んだ。
よく冷えた液体が渇いた喉を潤し、胃へと流れ込んでいく。

(しかしまぁ、良くこんなご時世に店をやっているな)

心の中で呟き、アルフェスは店の中を見渡す。
人が全くと言っていいほどいない、こんなのでは商売上がったりだろう。
それに、客が入ったとしてもそれは今、世間を騒がせている、アナハイラスの囚人。
中には理知的で理性的な人間はいるだろう。しかし、大半は金などを払わずに店を出ていく。
コレでは赤字になる一方だ。
そんなどうでも良いことを考えていると、ゴーグルを着けた銀髪の男・・・J・Dが店の中に入ってきた。
アルフェスの顔を確認すると、アルフェスの座っている目の前に、腰を下ろした。

「・・・どうした?」

「いえ、ただ昼飯を食べに来ただけですよ」

「全く・・・明後日には殺し合うかも知れないのに、じゃれあいか?」

「そう言う気はありませんが、まぁ杏子さんから聞いてると思いますが、僕は今度の一件を境に姿を眩ませますので」

「ふん、その為の私兵か?」

「やはり察しがいいですね・・・そうです、僕の私兵は口が堅いのでね、貴方と戦って死んだという風にすれば、ごまかしも利きますし・・・」

「そして、堂々と俺達側につける、ってか?」

「あぁ、やっぱり気付いてました?」

「当たり前だ、姿を消すだけなら、お前は一人でやってのける」

アルフェスはそう言い、言葉を締めくくった。
運ばれてきた料理に手をつけ、J・Dは自分の分を頼んだ。
肉を切り分けて、それを箸で器用に摘むと口の中へと放り込み、口を動かす。
頬杖をつき、水を飲みながらアルフェスを見つめるJ・D。
以前会った時と同じ様に、身体には微塵の衰えもなく、逆に脈動感に溢れている身体を見た。
老いたとは言え、未だ24という年齢で、今でも現役でいけるだろう。

「どうした、俺の顔に何か付いてるか?」

「いえ、なんでもありませんよ。 あ、僕のが来たみたいですね」

そう言い、沈黙が訪れた。
黙々と箸を動かして、昼食を摂るアルフェスとJ・D。
一時間程度で食べ終えると、2人は席を立ち店を出た。
アルフェスは、自分のホテルへ、J・Dはそれと反対の方向へと、足を向けて歩き出す。
ホテルへ戻るとくつろいでいるアルティナと、ベッドで寝ている杏子が、目に入った。
タンクトップと下着だけで寝る杏子を見て、少し溜息を付いて布団を被せ直し、アルフェスはソファに腰を下ろして少し息を付く。
ただ、何かするわけでもなく、部屋の中には沈黙が訪れていた。
そして、時は過ぎていき三日後、アルフェス達はレンタカーを借りて、オグヴィスの外れにある場所へ来ていた。
サングラスを外し、ジャケットの胸ポケットへ差し込むと、車から降りた。
少し離れた場所から、基地を双眼鏡でのぞき見ると、まだ襲撃の様子はない。
その間に、ATの格納庫から武器庫まで、隅々と観察して基地の地理や場所を頭の中に叩き込んでいった。
杏子はと言うと、ノートパソコンにインストールしているゲームに興じており、アルティナは近くの木の下でボーっとしていた。
ああ言うところを見ると、普通の女性なのでそれを見て思わず、失笑を漏らした。
アルフェスはそのまま、辺りを見回した。
少し離れた場所に、ビルが建ち並んでおり一刻程前には、彼処に並んでいるビルの一つに泊まっていたのを思いだし、今いるこの静かとしか言いようのない場所を見て、目を細めて笑みを浮かべた。
が、それは爆発音によって、終わりを告げた。

「・・・来たか」

冷静にそう言い、アルティナは呟き腰を上げた。
ノートパソコンの電源を落とし、車から降りるとアルフェスの隣りに立ち、燃え盛る基地を見据える。
アルフェスは、煙草を一本取り出すとそれをくわえて、火を付ける。
大きく深呼吸して、肺に紫煙を溜め込んで少し息を止めて、吐き出す。
吐き出された紫煙は、すぐに四散して消えていった。

「さて、行くか」

アルフェスはそう言い、革の手袋を付けなおして、一歩踏み出した。
その頃、オグヴィスの基地には、数名の囚人が銃を乱射していた。
クラートゥ=オシリスとセイドラック=アルフォンの2人だ。
周りには、既に動かなくなった国連の兵士達、そしてそれを眺めているのはJ・Dである。
一応、この基地の襲撃の指揮官を任されているのだが、何も指揮をせずにやらせたいようにさせていた。
ふと何を思ったのか、銃を抜いて構える。
両手をグリップに添えて、照準を定めるとトリガーを引いた。
銃声。
先程から、連続して聞こえる自動銃の銃声にかき消されることなく、それは響きわたる。
少し離れた場所で、ライフルを構えていた兵士が、地面へと落ちていく。

「ヤレヤレ・・・今の軍の兵士は、たかが知れてるね・・・」

そう呟くと、銃をホルスターに差し込み、歌を歌い始めた。
自分の好きなロックバンドの唄を口ずさみ、J・Dは殺戮の宴を見つめていた。
視線を絶えず移動させていき、数人の男が女性の兵士を犯そうとするのを見て、素早く銃を抜いてその男達に向けて、銃を撃つ。
聞こえないが、くぐもった呻き声がして、男達は倒れた。
J・Dじゃ腰を上げて、その女性へと近付いていく。
女性の顔は、恐怖に歪んでおり銃口を、J・Dへと向けて後ずさっていた。

「どうしたんですか? 撃つなら撃てばいいじゃないですか、それが貴女の助かる道なんですから」

「ひっ・・・」

「大丈夫ですよ、僕は女性を傷つけるようなマネはしません」

そう言い、ニッコリと笑みを浮かべて、手を差し出した。
女性は、恐る恐る手を差し出して、その手を握ると引き寄せられ、J・Dの腕の中に収まった。
慌てて引き離そうとするが、引き離すことが出来ずに足を取られて、抱きかかえられる。
そのまま離れた場所へと歩いていき、女性を下ろすと顔を見る。

「貴女は、優しすぎます・・・家に帰って、御両親と一緒に暮らした方が良い」

「・・・でも、貴方達のせいで私は、親を亡くして恋人もなくした・・・帰る場所なんて無いのに、それならいっそ・・・」

「ダメデスよ、そう悲観的になられては・・・貴女が生きているなら、その人達の分も生きないと」

「でも、でも・・・」

「でもじゃありません、この暗闇は何時か晴れるときが来ますから、それまで・・・ここに居ればいいですよ?」

そう言って、一枚の紙を取り出してその上に、ペンを走らせる。
何かを書いた後、それを女性に握らせて、多少なりと金を持たせるとこの場所から、遠ざけた。
無事に指定した場所へ着くまでの間、彼女の護衛のために私兵を着けさせた。
其の様子を見て一息つくと、一際大きな爆発音が、響きわたった。
そちらへと振り返り、J・Dは口の端を歪めて笑みを浮かべる。
先程の女性に向けた笑みとは違い、ゾッと底冷えするような笑みである。

「さて、あの人達も来たみたいですね、顔だけでも見せておきましょうか」

そう呟き、先程腰を下ろしていた場所へと、歩みを向けた。
アルフェスは、ひとまずATの格納庫へと足を向けていた。
最新型の天聖剣士(ヘヴンズ・ブレイド)へと乗り込み、騎体の動力炉を起動させる。
ヴンッ、と言う低い音と共に、天聖剣士の瞳に光が発生した。
操術球に触れて、天聖剣士の指が動く。
ATの操術方法は、操術球と呼ばれるモノに触れるだけだ。
操術球を媒介として操術師の意識を騎体へとトレースして、騎体を動かすのだ。
ただ座って居るだけで、足などは動かせない。
歩くという事を意識しなければATは動かせないのだ。
ATの複雑な動作は、このシステムによって発生していて、しかも改善されているので、ATが開発された当初とは違い複雑な操作をしなくても良いのだ。
このシステムは神経接続機能(ナーヴ・リンク・システム)と呼ばれており、その名の通り操術師と神経を接続する訳ではなく、操術球が、掌から脳内に発生している特殊な脳波をキャッチし、それを動きと変えているのだ。
その脳波というのが、人体の体を動かす為の物らしい。
天聖剣士のモニターに敵の騎体が写り、光砲(キャノン)を向けていた。
騎体の数は10騎。勝てないと言う数ではない。
光剣(ブレード)抜き放ち、敵の騎体・灰銀剣士(アッシュ・ブレイド)を見据え、一息つく。
空を見上げると、雲一つない快晴だが、たち上る黒煙がそれを台無しにしていた。
ゆっくりと光剣を構え、加速。
多大な重力が、アルフェスの身体をシートに押しつけるが、それに耐えて光剣を振るう。
ほんの一瞬の出来事だ。光剣を振るうと、反応が遅れた灰銀剣士がその斬撃を受けて、爆発。
直ぐさま踵を返し、アルフェスの繰る天聖剣士は、再び加速して斬撃を放つ。
しかし、それは銀色の騎体に阻まれ、アルフェスは間合いを取った。
その直後、銀色の騎体が斬撃を放っていた。

「ちったぁ、やるようになったじゃねぇか、J・D」

「何時までも貴方の背中ばかり見てませんよ」

「まぁ、それより・・・どうする? このまま続けるか?」

「ん〜〜〜僕としては、続けたくないんですけどねぇ・・・あの2人が居ますから、仕方ありませんね」

「あぁ〜〜〜っと、杏子達が相手をしているはずだから、多分大丈夫だろう。 降りるからお前も降りてこい」

「はいはいっと」

アルフェスは、騎体の駆動機を停止させ、天聖剣士から降りて地面を踏みしめる。
銀凰からは、ゴーグルを着けた青年・J・Dが降りてきた。
遠くから、黒煙がたち上る。
そちらへと視線を向けて、アルフェスは少し心配そうな顔をする。
その黒煙がたち上った場所には、リヴァイダーを手にした杏子が立っていた。
瓦礫の山を背にして、自分の身体を隠しながら相手の出方を探っていた。
ゆっくりと息を落ち着かせて、杏子は先程一発だけ撃ったリヴァイダーをホルスターへ差し込み、ライールMT−Gを抜いた。

(・・・十秒後にマガジン交換か、その時が狙い目ね。 音速の銃士(ソニック・ガンナー)の二つ名は伊達じゃないって事を教えてあげないとね!)

自分の能力、未来詠み(リード・ザ・ホープ)を使い、ほんの数秒先の未来を詠んだ。
きっかり十秒後に銃撃が止み、杏子は身体を180度回転させトリガーを引く。
一発の銃声に聞こえたが、10発の弾丸が相手へと向かい飛んでいた。
銃をはじき落とすと、アルティナがリヴァイダーを発射。
集約した力が開放されて、無数の白い光弾が敵へと向かい飛んでいく。
次々と着弾し、爆発の旋律を紡いでいった。

「・・・敵殲滅」

そう呟いて、アルティナはリヴァイダーを納め、愛用の銃・ガーナルSG−F改を握り油断無く辺りを見回した。
杏子も同じ様に、ライールMT−Gを手にして辺りを見回している。
カラリと、石が崩れ落ちる音を聞き逃さず、2人は同時にそこへと銃口を向けて、トリガーを引いた。
重なる二つの銃声。その銃口の先に居たのは、ライトシールドを装備して、二つの銃弾を防いだセイドラックであった。
口唇の端を歪ませて、笑みを浮かべると腕を伸ばして、払う。
見えざる何かが走り、アルティナの肩を切り裂いた。
肩から流れ出る紅い血は、アルティナの腕に真紅の筋を残して、地面へと流れ落ちていく。

「どうだ? 俺の能力・・・風神の牙(ファング・ザ・ウィンド)は」

「き、貴様・・・能力者だったのか・・・」

肩の傷を押さえ、痛みに耐えながらアルティナが呟いた。
真紅の義眼と蒼い瞳が、セイドラックを睨み付けている。
無意識の内に肩の傷の具合を確認し、アルティナは走った。
体勢を低くして、片手で銃を速射。弾切れになり、すぐにマガジンを交換し、再び速射。
とっさにそれに対応して、セイドラックは身を躍らせてそれを回避。
銃口をアルティナに向けてトリガーを引く。
流石は、歴戦の勇士、と言ったところだろうか、狙いは定まっており正確に、それはアルティナの眉間を貫くはずであった。
しかし、それは杏子の銃撃よって防がれた。

「私もいるって事を、忘れて貰っちゃ困るわね」

「チッ・・・音速の銃士か!」

「光凰翼(シャインフェザー)!!」

アルティナの声と共に、彼女の背中に光の翼が構成されていく。
その美しさは、彼女独特の雰囲気により一層と、彼女を高貴な存在へと感じさせた。
儚くも力強い脈動を感じさせ、アルティナは自分の能力を久方ぶりに発動させ、戦闘に望む。
力強く光の翼を羽ばたかせて空中へと舞う。
久方ぶりに能力を使うが、不思議と脱力感は無い。
その身を風に委ねると、笑みを浮かべた。
優しい笑みだ。人を殺した事の無い少女のように、純粋無垢な笑みを浮かべて、アルティナは風を感じていた。
ほんの数秒だったが、長い時間そうしていたように思えたが、肩の傷の痛みが現実へと引き戻す。

「・・・光翼弾(フェザー・ブリット)!!」

光の翼から、小さな光球が無数に発生し、セイドラックの居る場所へとそれは飛んだ。
流星の様に、光の帯を残し、それは飛んでいく。
光の様に早く、その一つ一つの爆発は力強い。
杏子はそれを知っていたのか、小型のリフレクターフィールドを展開しており、その爆発を凌いでいる。
爆発が収まって、白煙が晴れていくと無数に穿たれた後あり、瓦礫が全て吹き飛んでいた。
小規模の流星群が落ちたかの様に、小さなクレーターが幾つもできていた。
アルティナがゆっくりと、地上へと降りてくる。
何処か神聖な者の様にも見え、聖・メルファリア教団の信者ならばほぼ間違いなく、彼女を『天の御使い』と、口を揃えるだろう。

「・・・終わったわね」

能力を解除して、辺りを見回した後呟くと、一陣の風が吹いた。
先程までは、弱々しい風であったが、だんだんと風力が強くなっている。
その風はアルティナを包み込んでいった。
直後、風の刃が彼女の身体に、無数の傷を刻み込んでいく。
着ている服を引き裂いていき、彼女の白い肌に無数の切り傷が発生し、全身から血が流れている。
身に纏っているのは、服の下に着込んでいた衝撃吸収の黒いアンダーウェアだけだ。
しかも、そのアンダーウェアにも、無数の傷ができており、彼女の豊かな乳房が露出していた。

「クックックッ・・・無様だな、殺戮の天使(ジェノサイド・エンジェル)」

「き、貴様・・・何故生きている!」

「知れた事、俺の能力は風を操る力だ。 この能力で、お前の光翼弾の軌道を逸らしていたのさ」

「ふん、下らない能力ね」

杏子が、呟きで返し、セイドラックへと視線を移す。
蒼い双眼が、彼の顔を捕らえると同時、銃を構えてトリガーを引いていた。
銃声が響きわたり、硝煙のたち上る銃を握ったまま、杏子が走った。
風神の牙を使い、弾丸の軌道を逸らして、見える事の無い真空の刃を杏子へと飛ばす。
それをサイドステップで避けると、再び疾駆してマガジンを交換しながら、セイドラックの懐へと入り込むと、銃口を顎の下に突き付けてトリガーを引く。
再び、銃声が響く。
飛び散ったのは真紅の血、その根源は杏子の銃。
頬に刻まれた縦に避けた切り傷で、顎先から地面へと落ちて点々と赤い滲みを作った。
腕を振るい、真空の刃を飛ばして攻撃する。
しかし、見えざる真空の刃を跳躍で回避して銃を撃ち、空中で一回転すると着地して、再びセイドラックへと向かい走っていた。
また、セイドラックの能力での攻撃、それをサイドステップで避けて速射。
風神の牙で其の弾道を逸らし、銃口を杏子へと向けてトリガーを引いた。
銃声が響きわたるが、銃弾は無情にもコンクリートで舗装された地面に、穴を穿つだけであった。

「くっ・・・な、何故・・・俺の風神の牙が当たらない!?」

「言ったでしょ? くだらない能力だって・・・」

冷たく言い放つ杏子の瞳には、何時もの優しい瞳ではなく、一人の傭兵のそれへと変化していた。
音速の銃士という二つ名がある彼女にとって、早撃ちは彼女の得意分野だ。
早撃ちに関しては、アルフェスすらその足元にも及ばない程の速さを誇っており、早撃ちならば彼女に勝てる者は居ないだろう。
そんな彼女に負けじと、セイドラックは銃を抜いている。
二発の銃声がして、鮮血が飛び散った。

「さ、流石だ・・・ソニック・・・ガン・・・ナ・・・」

銃弾が心臓を貫いたにもかかわらず、セイドラックは杏子への賛辞を送り、息絶えた。
だんだんと、血が広がっていく。
杏子は十字を切ると、アルティナの前に立ち口を開いた。

「大丈夫・・・とは言いがたいわね」

「止血は行っていたから、大丈夫よ。 それより、上着を貸してくれないかしら?」

「あぁゴメン、はい」

自分の着ている上着を渡すと、杏子は眼を閉じた。
集中して、自分の能力を使うと目の前に、断片的に映像が浮かび上がる。
ATの大軍と、それを相手にしているアルフェスとJ・DのAT。
それともう一つ。黒ずくめの男と白ずくめの男が、彼等の戦いを見ている所だ。

(まさか・・・あの時の2人が、今回の事件に関与しているというの?)

「杏子、敵だ」

「えぇ・・・分かってるわ」

返事と共に振り返り、杏子はトリガーを引いた。
その頃、アルフェスとJ・Dは睨み合っていた。
一触即発の状態で2人は間隔を保っており、いつでも戦える体勢になっている。
無数の光弾と言えばいいが、遠くに降り注ぎ連続した爆発音、そして閃光を合図に、2人は走った。
拳を握り込んで、J・Dがアルフェスの顔面へと、それを叩き込んだ。
首に力を入れてそのパンチの衝撃を緩和して、蹴りを脇腹へと叩き込む。
単なる殴り合いだが、お互いの身体能力が高いため、己の拳足で人を殺す事が出来る。
パンチがカウンターでお互いの顔面に、拳が突き刺さる。
ゴーグルが僅かにずれるが、すぐにそれを戻して蹴りを放つと、アルフェスの側頭部へと突き刺さった。

「ぐぅっ!!」

「おぉぉぉぉぉっ!!」

一気にラッシュをかけて、倒そうとするが的確に突きや蹴りを捌き、致命傷を避けていく。
急所を突く攻撃をするがそれも捌かれて、逆に拳が鳩尾へと突き刺さった。
僅かな嘔吐感。
アルフェスがラッシュを仕掛けてきて、蹴りをメインとした攻撃だ。
蹴り上げるとそのまま、片方の足でバランスをとって足を振り下ろす。
踵落としが外れるのヲ確認すると、軸足のみで身体を回転させ、回し蹴りを放った。
中段の回し蹴りが、脇腹へと突き刺さり僅かながら、J・Dが呻き声を漏らす。
左の拳に全体重を乗せて、J・Dへとそれを叩き込もうとするが、それは炎によって阻まれた。

「あいたたた・・・流石に、強いですね」

足下から、身を守るようにして炎がJ・Dを包み込んでいった。
とっさに間合いを取り、アルフェスはそれを見つめている。
炎を集約させて、己の両拳に宿しJ・Dが走った。
間合いが詰まり炎を纏った拳が、アルフェスの頬を掠めた。
熱波が、頬を掠めて通り過ぎていく。
炎纏った拳が、津波のように押し寄せてくる。
右の連打を回避し、体勢を崩したところへ左の拳を叩き込み、それを防ぐと炎が腕へと確実にダメージを与え、蓄積されていく。
アルフェスの来ているジャケットが所々燃え始めていた。

「どうしました! この程度で、参る貴方じゃないでしょう!?」

防御に徹しているアルフェスへと、言葉を放ち連撃をくわえている。
次第に、アルフェスの身体から白い煙が上がり始めていたが、それを気にせずに捌いていた。
ふと、遠くからの視線を感じて、J・Dは連撃をやめて振り返る。
アルフェスも同じ様に、そちらへと視線を移していた。
何者かは分からない。だが、確実に2人へと視線は注がれている。
2人はジッと、そちらの方向を見ており、戦いが再開される気配はない。

「・・・アルフェスさん、どうします?」

「やる気が削がれた、もう終いだ」

ジャケットを脱ぎ捨てて、アンダースーツに身を包んだ彼の身体が、露わになる。
ピッタリと身体にフィットしたそれは、彼の鍛えられた身体を強調していた。
衰える事の知らない、彼の身体は脈動感に溢れている。
天聖剣士に再び乗り込み、駆動機を起動させると瞳に光が発生し、顔がJ・Dの方へと向けられた。
外部のスピーカーから、アルフェスの声が聞こえてくる。

「J・D、何ぼさっとしてやがる。 敵が来るぞ」

そう言われ、J・Dは上空を見た。
黒い点が現れており、訝しげにそれを見つめていたが、すぐに銀凰の所へと走り乗り込んだ。
極低温駆動機(アブソリュート・リアクター)を起動させ、銀凰の眼光が光る。
極低温・・・つまりは、絶対零度の冷気をエネルギー源としている喪失技術(ノイズテック)であった。
どの様な物かは分からないが、其の絶対なる冷気はほぼ全てを凍結させ、下手をすれば騎乗者すらも凍結させる物である。
しかし、何故彼がそんな騎体を使えるのか、それは先程見せた炎を操る能力だろう。
炎には物理的な上限温度はないが、低温には現在絶対零度を上回るほどの冷気はない。
最大限に炎の能力を発動させれば身体を凍結させることは防げる。
極低温駆動機が、うねり声を上げて莫大なエネルギーを作り出していく。
過去、この駆動機を積んだ騎体が開発され、幾人もの人間が凍り付いて死んでいった。
ベルヴァイザー連邦で起こった争乱がきっかけとなり、喪失技術が世界中に広まった結果が、これである。
現在では、ある程度の喪失技術が確立したものの、全ての喪失技術の根源(ルーツ)が何処から来ているのかは未だに不明である。
更にアヴェンジャー争乱の数年前、未だアルフェスと杏子がアヴェンジャーの陣頭指揮を取っていた頃に、ベルフィーク帝国内部で内乱が起こり、その際には銃と剣の特性を持った武器が、世に出回った。
恐らく、これも喪失技術の一つと考えられており、現在では全ての喪失技術を喪失文明(バニシング・テック)と呼ばれていた。
銀凰が空中へと浮かび上がっていき、装甲に光が走った。
音を起てて、装甲が変形していき鋭角的な翼を持った、人がそこに立っていた。
女性の肢体のように、滑らかな曲線を描いた胴部に、美しい金髪を持った頭部。
到底、ATである事を忘れさせそうな程、それは変化していた。

「いきますよ・・・」

銀凰は敵の大軍へと加速する。
氷神剣(グラセ・グレーヴ)を抜き、蒼白い冷気を纏わせた剣で、一閃する。
爆発はない。逆に、騎体が凍り付いていた。騎体が急に反転し、剣を薙いだ。
数騎ほど、斬撃を叩き込まれて凍り付いていく。
アルフェスはそれを見て、少し不信感を拭えない。
天聖騎士と銀凰が、ATの大軍を相手にしている頃、杏子はクラートゥと向かい合っていた。
クラートゥの足には一つの小さな穴が、穿たれており紅い血が流れ出て、ジーンズをドス黒く変色させていた。

「ヒッ・・・ヒハハハハハッ・・・ヒャーーーハッハッハッハッ!!」

両手に持ったマシンガンの銃口を向けて、乱射した。
痛みを感じていないのか、その足で杏子へ迫っていく。
横に飛んで、それを回避して銃を撃つ。
一つの銃声だが、クラートゥの持つマシンガンを同時に、撃ち落とした。
だが、顔色を変えずに走った。
杏子の目前まで来て、腕を振るう。
それをすんでで回避し、背中にあったコンクリートの壁を、抉り取った。
手の中には砕けたコンクリの破片があり、それを杏子へと投げつける。
小さな礫が、杏子の目に入り目を押さえた。
その隙に、杏子との間合いを詰めて、再び腕を振るった。
しかし、それはアルティナによって阻止された。

「テメェ・・・邪魔するんじゃネェ!!!」

「・・・」

無言のまま、クラートゥを見つめるアルティナ。
その瞳には慈悲という言葉は、一切無い。
ただ、幽鬼の様に冷たい目がクラートゥを見つめていた。
底冷えする様なほどの殺気を感じ、一歩後ずさった。
汗が流れ、肌を伝う感覚が感じられて、意を決したかの様に彼は前へと走った。
アルティナは再び自分の能力を使う。
光が翼となり、アルティナを包み込みクラートゥの能力を阻んだ。

「な、何だそれは!?」

「炎よ・・・我が翼に宿れ」

その呟きで、光だった翼が激しく燃えさかる炎へと、変化していった。
恐怖。
今まで感じたことはなかった物が、クラートゥを支配し始めた。
いつもは、獲物を狩るかの様に人を殺していたのだが、アルティナの燃えさかる炎の翼と、底冷えする瞳を見て、自分が獲物だと理解するにはそう時間はかからなかった。
炎の翼を広げると、炎の塊がアルティナの周りに浮かび始め、其の数は30を越えていた。
笑みを浮かべ、アルティナは目標へと、炎の弾丸を発射した。

「鳳翼炎弾(フレア・ブリット)!!」

次々と、炎の弾丸がクラートゥの身体を貫き、身体を灼いていく。
断末魔の悲鳴を上げる間もなく、クラートゥの身体は塵と化していた。
炎が消えて、元の光の翼に戻るとアルティナは、膝をついた。
肩で息をしており、苦しそうな表情を浮かべているが、それでも立ち上がり自分を取り囲んでいる者を見据え、銃を構えるが思うように躰が動かない。
どうやら、先程の能力は未知数の物だったらしく、精神力や体力を殆ど使い果たしたようだ。
それを理解すると眼を閉じて、ただ自分の死が訪れるのを待った。
銃声がした。
しかし、一向に痛みは訪れない。
恐る恐る目を開けて状態を確認し、周りを見回した。
血に濡れたナイフを持った男が、そこにいた。
周りには、首の皮一枚繋がっている状態で、死んでいる先程の兵士達だった。
男は、ゆっくりと振り返った。
額に巻いたバンダナ、返り血を浴びているがそれを気にした様子もなく、血に濡れたナイフを舐めた。
ゾッとする寒気を覚え、かすかに身を震わせ、アルティナは男を見ていた。

「チッ、虐殺の銃士も長い牢獄生活でだいぶ衰えていたみてぇだな、情けねぇ野郎だ」

男はそう呟くと、ナイフを振り血を振り払った。
弧月状に血が地面に飛び、男はナイフを構えアルティナを見据える。
銃声が響き、男のナイフをはじき飛ばし、銃を撃った人物・杏子が姿を見せた。
クルクルと回転しているナイフを空中で掴み、前傾姿勢でアルティナへと向かい走った。
銃声が辺りに響くが、その男には当たらなかった。

「死ね、殺戮の堕天使(ジェノサイド・エンジェル)!!」

「くっ!」

頸動脈を狙い、ナイフで一閃する。
銃でその斬撃を防ぎ、甲高い音が発生した。
一旦バックステップで間合いを取ると、杏子の速射が男を襲った。
銃弾は地面に穴を穿ち、男は手にしたナイフを杏子へと向かい投げると、懐からもう一本のナイフを引き抜いて、杏子へと向かい走る。
投げつけられたナイフを避けると、すぐに男の持ったナイフが頬を掠める。
僅かに血が流れ、杏子はそれを指で拭うと、笑みを浮かべた。

「ふぅん・・・成る程ね。 ミラージュやカウントに及ばないモノの、なかなかじゃない・・・アルファ」

「杏子か、クククッ・・・さて、俺にはやらないといけない事が在るんでな、姿を眩ませて貰うぜ」

「待ちなさい!!」

「待て、と言われて待つ馬鹿が何処にいる?」

アルファは杏子を睨み付ける。
背筋に氷水をかけられた様に冷たい視線が、杏子の四肢を貫いた。
だが、動けないと言うわけではない。
銃を引き抜きざまに連射、銃声が重なる。
その弾丸は、確実にアルファを貫いた・・・はずであった。
弾丸が貫くと同時に、蜃気楼のようにアルファの姿は消え去った。

「幻影・・・まさか、光陰の幻影(シャイン・オブ・ミラージュ)!?」

「ご名答、俺が能力者と言う事を、知らなかったみただな。 まぁ、また会えるさ・・・必ずな」

何処からか響くアルファの声。
杏子は軽く舌打ちをすると、眼を閉じてすぐに何かを探すように集中するが、それは爆発音と衝撃によって阻害された。
爆音は少し離れた場所だが、かなり大きな音だった。
音が聞こえてきた方向を見ると、二騎のATがアヴェンジャーのATと戦っていた。
片方は最新型の天聖剣士、もう片方は翼の生えた巨大な人だ。
杏子はすぐに辺りを見回すが、既に敵に囲まれている。
アルティナは傷の手当をし終えて、何かを取り出すとそれを遙か上空へと放り投げた。
とても女性の肩、しかも怪我を負っているとは思えないほどの力である。
爆発と閃光、まるで自分の居場所を知らせるような、そんな感じの爆発だった。
ぼ〜っと、空を見上げている仕草のアルティナを見て、一抹の不安を覚えた杏子はそちらへと走っていく。
アルティナは意にも介した様子はなく、ただそこに立って一点を見つめていた。

「来た・・・」

「へ?」

ぽつりと呟いたアルティナに、間の抜けた声で杏子は答えた。
アルティナの上空に、一騎のATが存在していた。
まるで、炎を纏ったような騎体で、背には翼が生えている。
自分の能力である光凰翼を使い、そのATの高さまで飛び、それに乗り込んだ。

「・・・まるで、戦隊モノみたいね」

と、言葉を零していた。
アルティナの騎乗したATの駆動機が音を起て、駆動機から精製されたエネルギーをATの全身へと供給されていく、と同時に装甲表面に光が灯る。
装甲に変化は訪れていないものの、通常のATを遥かに上回る硬度と光沢を誇り、その光が炎と熱に変化すると同時にATの周りの空気が、灼熱の空気になり辺りを焼き尽くす。
その膨大な熱量は、近くにあった鉄塔を融解させた。
シートに座り、アルティナは目を見開いて全方位型のモニターをみて、笑みを浮かべた。
殺戮の天使と呼ばれた純粋無垢な彼女の本当の笑みでは無く、アナハイラスの囚人としての笑み、人を殺すことを楽しみとしている者の笑みで、アルティナは笑みを浮かべていた。
操術球に触れて、己の思考をダイレクトにATに伝え、剣を抜いた。
すらりと伸びた長刀、大凡ATの高さほどの光剣を抜いてアルティナの専用騎・炎熱天使(フラム・アーンジェ)は、動いた。
天聖騎士と銀凰が相手をしているATの集団へと、飛び込んでいく。
杏子は黙ってそれを見つめていたが、やがて背を向けると比較的無事な格納庫へと走って行った。
炎熱天使が剣を振るう。炎ではなく膨大な熱を帯びた剣で、灰銀剣士を斬った。
あっさりと、装甲を斬り裂いて灰銀騎士は爆発、その爆風を利用して一気に加速して、後方に居たATを斬ると急上昇し光砲を構えて、トリガーを引いた。
連続した爆発音が響き、1分程の時間で五騎のATは破壊されていた。
天聖騎士を操るアルフェスは、少しばかり違和感を感じており、その違和感が何かが分からずATを繰り戦っていた。
剣の一閃を避けると同時に、斬撃を叩き込み上下を逆にして反転し、左腕で光砲を連射しながら加速していき、光砲を納めると右腕にもった光剣で一閃。
爆発音がこだまして、それに続いて連続して爆音が響いた。
J・Dから通信が入り、アルフェスは通信回線を開いて、喋り始めた

「くっ、何のようだ!?」

「アルフェスさん、どう思いますこの物量作戦!」

「どう思うもクソもねぇ、単なる囮にしか見えんぞ!」

「なら、どういう手で出ますかね!!」

「J・D・・・恐らく、蒼光弾でこの基地ごと消滅させる気だろうな!!」

「な、蒼光弾は国際条約で使用は禁止されているはずですし、蒼光弾を開発する技術は既に封印されているはずじゃ!!」

「馬鹿かお前は、そんなもん嘘に決まってるだろうが!! フィルティーズ大陸を地図から消す程の兵器を本気で封印すると思ったのか?!」

「もし、アルフェスさんの予想通りなら、どうするんです?」

「馬鹿かお前は、お前の騎体の駆動機は何だ?」

「え、あ・・・」

「アルフェス!!」

突如、杏子が通信に割り込んできた。
焦っているような顔で、杏子の顔がドアップで映し出された。
アルフェスは咄嗟に耳を塞いで、一瞬ATの動きが止まり集中砲火を喰らうが、何とか立て直してアルフェスは天聖騎士で攻め込んでいく。

「お前な、いきなり大声で叫ぶんじゃネェ!!」

「そ、それは良いからJ・D、早く上空5フィースの所まで行きなさい、こっちへ蒼光弾が撃たれるから早く!!」

「わ、分かりました!!」

騎体を急上昇させ、上空5フィースの位置まで繰ると、こちらへと向かってくる黒い点が見えた。
だんだんと近付いてくるソレに向かい、加速する。
お互いが近付いていって居るため、すぐにそれとすれ違い反転して、加速。
氷帝剣を抜き放つと、それを斬り捨てた。
弾頭が凍り付いていき氷塊の中へと封印され、爆発はない。
凍結させて爆発を防ぐと同時に、アルフェスの天聖騎士がそれをかかえて、上空へと加速していく。
単騎で大気圏を脱出出来るほど加速はないが、早い内に成層圏より上空へ運ばなければ、世界地図を書き換えなければならない。
蒼光弾はそれ程の威力があり、その破壊力は軍関係者ならばそれを知らない者はいない。
この世界、分類すると大きな大陸は三つ。
西部大陸であるアルズベルト大陸、中央大陸であるフィルティーズ大陸、東部大陸であるアーズヴァルク大陸の三つで、中央大陸であるフィルティーズ大陸の総面積は大凡200万平方フィース、アルフェス達が住む国・ギリアムス公国は東部大陸にありその総面積は420万平方フィース、三つの大陸の中で最も大きく幾つかの文明の後である遺跡が、大量に出てきている。
そして、最も謎が多いとされている西部大陸のアルズベルト大陸は、その大半を広大な森林が占めており、謎が多いエルシェント帝国が在る大陸は、一番小さく85万平方フィースなのだが、アーズヴァルク大陸を上回るほどの古代遺跡などが発見されており、アーマードトルーパーと呼ばれる近代兵器も、この大陸から出土した巨大な機械の人形を参考に作られたと言われている。
また、リヴァイダーと呼ばれる小型且つ、強力な威力を持つ武器もこの大陸から出土している。
凡そ7年近く前にフィルティーズ大陸は、現在アルフェス達の居るアルズベルト大陸より2500フィース程離れた場所にあったフィルティーズ大陸で、在る戦いが起こった。
大陸の中心部での戦いであったのだが、その戦渦は広がっていき大陸全土にまで及んだ戦争となったが、一発の蒼光弾と呼ばれる爆弾により、フィルティーズ大陸が消滅し、死者は1000万人に及んだという。
凍結させている氷が加速による空気との摩擦熱によって、徐々に溶け始めておりアルフェスは更に騎体を加速させ、成層圏を越えて電離層まで辿り着くと、加速させたままの状態で弾頭を離した。
勢い良く上空へと飛んでいき、数分後・・・爆音が轟いたと同時に、空が光ったのを確認できた。
耳を劈くような轟音が、辺りに響いていた。

「くはぁ・・・・死ぬかと思ったぜ」

「馬鹿!! アンタ、死ぬつもり?!」

「良いじゃねぇかよ・・・生きてるんだしよ」

「そんなの結果論よ、この馬鹿!!」

「な、泣くなって、ほらな?」

目に涙を浮かべながら、食ってかかってくる杏子を宥めながら、アルフェスは傷付いた身体に触れた。
細い華奢な身体だが、そこいらの女性よりは強靭な身体をしており、射撃の精密さと速さではアルフェスも彼女の足下にも及ばないほどの腕前で、料理の腕もなかなかだ。
何とか杏子を宥め、J・Dの方へと振り返る。
J・Dは銃を抜いて構えており、それに答えアルフェスも銃を抜いた。
呆れたような顔をして、アルティナは肩を竦めるとその場から離れ、完全に冷却された炎熱天使の足の上に腰を下ろし、杏子はサングラスを外して胸ポケットに刺すと、合図代わりに銃を空へと向けて撃った。
銃声を合図に同時に、銃口を向けてトリガーを引く。
重なる銃声と大地を蹴る靴の音。
2人は前進しながら、トリガーを引いて走っている。
あたらないのが目に見えているのだろうか、何の恐怖感を抱く事なく前進していた。
銃口がお互いの眉間に近づき、2人はそのまま動かなくなる。

「へぇ、良く俺の動きについて来れたな」

「何時までも、弱くはありませんよ」

「上出来だ」

アルフェスは銃を納めると、懐から黒い古びた銃を取り出した。
リヴァイダー“シュヴァルツシャイン(漆黒の閃光)”だ。
J・Dも、それに応える様に自分のリヴァイダーを抜いた。
構造的に似ているそれは、紅い銃身を持っているそれは“レッドシャイン(真紅の閃光)”、と呼ばれているもので、威力もシュヴァルツシャインと同格。
ゆっくりとリヴァイダーの銃口を向けて、トリガーに指をかける。
黒と紅い光が、お互いのリヴァイダーに集中していき、視界に入ってくる。
汗が流れ、頬を伝う感触も、空気の流れすらも詠める、そんな感覚でアルフェスは立っていた。
空気の流れが・・・変わった。
レッドシャインの銃口から、強大なエネルギーの塊が放射された。
だが、アルフェスはそれを避けていた。
音速を超えた速度で放出されているエネルギーの塊をよけ、J・Dに向けているシュヴァルツシャインのトリガーを引いた。
漆黒のエネルギーの塊が、J・Dへと飛ぶ。
ピンポイントにしたライトシールドで、それを受け止めると掌を誰もいない方へと傾けて、エネルギーの力場を逸らし、アルフェスへと向かい疾駆する。
リヴァイダーのトリガーを引いた。集約していたエネルギーが、三度放射された。
連射と言うのは、リヴァイダーにおいて高等技術とされている。
精神力と己の意志の強さに比例して、その威力は増大する・・・それこそ底なしにだ。
三つの真紅の光球が、アルフェスへと飛んでいく。
爆発と閃光、炎はたち上る事無く土煙が発生し、辺りを包み込んだ。

(何処から来る・・・気配を読め!)

J・Dは目を瞑り、土煙で閉ざされている視界を自ら塞ぎ、全神経を辺りに集中する。
微かに、空気の流れを感じ取る。
靴音と空気の流れの微妙な変化を感じ取り、J・Dはリヴァイダーを構える。
真紅の光が銃口に集約していき、更にそれを一点に集中するために圧縮されていく。
莫大なエネルギーを、一点に集中して撃ち出すそれは、勝負を決するに相応しい一発だろう。
トリガーを引くと、J・Dの身体が発射された時の反動により、後ろへと吹き飛んだ。
エネルギーの塊は一直線に飛ンで行く。
丁度アルフェスの左肩を貫き、強靭な筋肉と骨を貫通して飛んでいった。
たった一発であるが、貫通した圧縮エネルギーはアルフェスの身体を、破壊していた。
全身の骨にきめ細かい罅が入り、筋繊維を切断しており最早動ける状態ではない。
しかし、そんな状態でも激痛を無視して、アルフェスは走り拳を握った。

「オラァ!!」

全体重を乗せて、アルフェスの鉄拳がJ・Dの顔面にめりこんだ。
きめ細かく骨を走っている罅が、アルフェスの右拳を破壊した。
そのままアルフェスは倒れ、土煙が晴れた。
J・Dは仰向けに倒れており、鼻が折れているのだろう、鼻が変な方向に曲がっている。
笑みを浮かべて、J・Dは立ち上がるとレッドシャインをホルスターに納め、アルフェスを覗き込んだ。

「さすがですね、その状態で僕にパンチを叩き込むなんて」

「うるせぇ・・・痛つつ・・・」

「僕の方が痛いですよ、完全に鼻骨折れてるんですから」

「全身の筋繊維切れてる上に、右手粉砕骨折、全身に罅が入ってるんだ、動けるわけネェだろ」

「それもそうですね。 あ、杏子さんが来ましたよ」

「アルフェス!!」

「よぉ・・・」

「だ、大丈夫?」

「んなワケネェだろ、全身痛くて立つ事ができねぇ」

俯せに倒れたまま、杏子を見上げるようにしている。
視界には杏子の顔は見えておらず、ふくよかな胸で顔は隠れているのだ。
一応は癒しの極光(ブレイジング・ヒール)と言う能力を使っているのだが、細部まで行き渡った傷は治りにくいのか、然したる効果はなかった。
アルティナは炎熱天使の足に腰をかけたまま、それを伺っているだけ、なのだが実際は限界以上の能力を使ったため、動く事が出来ないだけなのだが。
J・Dは銀凰に乗り込むと、一足先に市街地へと向かい、アルフェスは杏子とアルティナに支えられて車に乗ると、杏子が運転する車の中で意識を失った。
病院の病室で目を覚ますと、ゴーグルをつけたまま鼻骨を固めているJ・Dと喋っている杏子の姿が、まず目に入った。
アルティナは壁にもたれて、うたた寝している。

「・・・ここは、病院か?」

「えぇ、コイツが手配した病院だから、安心して」

「そうか」

「んで、J・Dあんたどうするの?」

「どうするって言われましてもねぇ・・・暫くは、姿をくらましますよ」

「そう、気をつけなさいよ」

「それじゃ、また」

J・Dが病室から姿を消すと、アルフェスは身体を起こした。
痛みが身体中を駆け抜け、身体が硬直して脂汗が、額に浮かんでいる。
涙を流し、そのまま動く気配はない。
ゆっくりとアルフェスに近付き、腰に手をあてて溜息を付く。

「怪我人なんだから、ゆっくり寝てなさいよ?」

「わ、わかった・・・」

「ほら、アルティナ起きて、置いて行くわよ?」

「ん? んん・・・」

どうやら寝惚けているらしく、杏子に引っ張られていった。
2人を見送り、窓から外を見る。
夜、キラキラとネオンの灯りが煌めいており、人為的な灯りが空を照らしている。
身体に手をあてると、光が手に灯る。
癒しの極光と言う能力で、僅かながら人体の回復能力を高めるものだ。
少しずつ、痛みが和らぎどうにか首だけでも、部屋の中を見渡せる状態になった。

「いつつ・・・左肩っていうのは、運が良かったのか悪かったのかね。 まぁ、今は直す方が先決か」

アルフェスはそう呟き、瞼を閉じるとすぐに眠りに落ちた。
病院を出た杏子達は、近くの喫茶店で話をしていた。
ソファに座った三人の前にあるのは、湯気のたっているコーヒーの入ったコーヒーカップ。
アルティナは、ミルクを入れるとそれを一口飲んで、息を吐く。
久しぶりに旨いと思えるコーヒーを飲んで、頬が緩んだ。
彼女の隣にはJ・Dが座っており、砂糖をたっぷり入れたコーヒーを飲んで、テーブルの上に置くと彼の真正面に座っている杏子を見た。
流石に、このような場所は慣れているのか、落ち着いている。
コーヒーカップをテーブルの上に置いて、杏子が口を開いた。

「で、アンタは何を考えてるわけ?」

「何って・・・どういう意味です?」

「そのまんまの意味よ」

「何も考えてませんよ、僕のことは良く知ってるハズですが」

「言い方が悪かったわね・・・こんな病院を手配して、何をするつもりだったのかしら?」

「別に深い意味はありませんよ」

J・Dはそう応えると、再びコーヒーを飲んだ。
杏子は溜息を付き、アルティナは黙ってそれを見ながら、コーヒーを飲んでいた。
ただ何も言葉を発する事はなく、J・D達は何も言葉にしない。
重苦しい、と言うべきだろうかそんな空気が、三人の周りに漂っていた。
コーヒーを飲み終えて、J・Dは別行動を取ると言う事で迷彩システムを機能させているATに乗ると、迷彩システムをオフにして駆動機を作動させ、宙へと舞った。
杏子の運転で2人は宿泊するホテルへと戻り、すぐにベッドに入り眠ってしまった。
次の日、杏子とアルティナは病院へと足を運び病室へはいると、立って窓の外を見ているアルフェスが目に入った。

「ちょ、アルフェス!?」

「ん、よぉ遅かったな」

「あんた、立って大丈夫なの?」

「未だ痛みはあるが、ここで何時までものんびりしてるわけには行かないだろ?」

「アナタらしい答えね・・・」

「やっぱそう思うか」

笑みを浮かべると、アンダースーツを包帯の上から着ると、服を着た。
サングラスを掛けると病室を出て、それに続いて2人とも病室を出て行った。
車の運転は杏子に任せ、助手席に座ると一息ついてから、サングラスを外して外の景色を眺め始めた。
流れる景色、単調で同じ様な風景が流れていき、アルフェスはいつの間にか眠っていた。
後部座席のアルティナは、既に眠っており杏子は車のハンドルを握り、公道を走らせていた。
一方、アナハイラスから出た隆一は、バイクで町を走っていた。
久方ぶりに訪れる自分の家は、アナハイラスに入る前に片付けていた時と、同じであった。
懐かしいため、部屋の中を少し見渡して笑みを浮かべると、サングラスを外した。
本棚にある本を一冊、手に取ると埃をかぶった本をめくり始めた。
多少酸化しているものの、余り変化はない。

「埃をかぶっているとはな・・・今度、部屋をひっくり返して掃除でもするか」

独り言を呟くと、この部屋に置いてあるATの起動キーを手に取ると、家を出た。
家の前に止めてあるバイクに跨ると、キック一発でエンジンを掛けると其の場所から走り去った。
隆一の乗るTZ−F3は、ある場所へと向かっていた。
そのある場所、と言うのがユナイテッドアーツのほぼ中心地、と言っていい場所であった。
バイクを走らせていくと、広大な森がそこに広がっており、とても街の中心とは思えない程、静かで涼しい風が吹いている。
サングラスの奥の瞳がほんの僅かではあるが、優しい目になっていた。
バイクを走らせていくと、大きな屋敷がそこにあり、威圧感を放っている。
隆一は無言のまま、バイクのライトを二、三度モールス信号の様に点滅させると、門が音もなく開いた。
バイクに乗ったまま隆一は、其の屋敷の敷地内へと入っていき、ある場所へと足を向けた。

「全く、ここに来るのも久しぶりだな・・・」

隆一はそう言い、バイクを止めるとエンジンをきって、目の前にある格納庫へと入って良く。
個人所有のATと整備設備は、現在の軍以上の設備を持っていた。
その時、彼の後ろから一人の女性が歩いてきた、腰まである黒髪をポニーテールにした女性だ。
彼の後ろ姿を見て、少し首を傾げると後ろから足音と気配を消して、近付いていく。
隆一は格納庫の中にある自分の騎体、罪騎士(ナイツ・オブ・ギルティ)を見上げると、ほぅ、と慨嘆の声を出した彼の元へ、一人の執事らしき人物がやってきた。

「隆一様、お久しぶりでございます」

「あぁ、久しぶりだな。 罪騎士の整備は終わっているか?」

「はい、動力系統の整備は終わっております。後は騎体を作動させ、反射機関の調整をするだけでございます」

「そうか・・・調整は俺がする、お前は少し相手をしてくれ」

「かしこまりました」

執事はそう言い、離れた場所においてある旧式の剣聖(ソード・セイント)へと乗り込んだ。
隆一は罪騎士に乗り込もうと、後ろへと振り返ると女性と、目があった。
驚いたような顔を浮かべ、隆一の頬を汗が伝った。
その女性は、ニッコリと笑みを浮かべると、彼に一歩一歩近付いていく。
慎重に間合いを確認しながら、隆一は少しずつ左へと寄っていく。
その女性は両腕を一杯に広げて、隆一へと飛びついた。
それを回避しようとするが、動作が少し遅れて抱きつかれた。

「隆一〜〜〜♪」

「は、春菜、離せ!」

「イ・ヤ」

「くっ・・・」

「それはそうと、今まで何してたの?」

「・・・アナハイラスに入っていた」

「はぁ? 何でアンタがあんな場所に?」

「色々と事情があってな」

「ふぅん・・・で、アンタは罪騎士を取りに来たと」

「そう言う事になる。 後、PCを使わせてくれ」

「別に良いわよ」

「そうか、なら罪騎士の微調整が終わってから、お前の部屋に行く」

「分かったわ」

話を切り上げると、その春菜は隆一から離れて格納庫にある自分のATへと向かっていた。
罪騎士へと乗り込むと、動力炉を作動させて操術球に触れると、腕が動き手を握り込んだ。
隆一は少し笑みを浮かべると罪騎士を操作し、格納庫から出た。
後部バーニアを噴出させて宙に舞うと、先に出ていた剣聖が光剣を抜いて構えていた。
それに対して、隆一も光剣を抜いて身構えると、剣聖へと向かい加速する。
剣聖へと向かい剣を一閃すると、剣聖はそれを受け流して罪騎士へと斬撃を叩き込んだ。

「ふむ・・・どうやら、微調整は必要ないようですな」

「さっきの動きだけで分かったのか?」

「はい、隆一様の操術のクセは知っておりますので。 ですが、騎体の反応速度が少し遅れているようですが?」

「確かに僅かばかりだが、騎体の誤差がで始めている」

「左様ですか、それならば騎体の性能と反応速度を少しばかり上昇させますか?」

「ん・・・そうだな、そうしてくれ」

「かしこまりました」

会話をそこで切ると、その二騎は格納庫へと降りていく。
罪騎士をハンガーに入れると、隆一は屋敷の中を歩いていた。
余り変わらない屋敷の中を見ながら、彼女の部屋へと歩いていく。
久しぶりに訪れたためか、少し道に迷いそうになったものの、彼女の部屋の前に着くとドアノブに手を掛けてドアを開けた。
窓からは、太陽の光が射し込んでおり、以外と明るい。
春菜は服を着替えていた途中で、彼女の下着姿は隆一の網膜に焼き付けられた。

「あら、早かったじゃない」

「まぁな。 所で・・・少し太ったんじゃないか?」

「うっ・・・人が気にしている事を、さらっと言うわね相変わらず」

「事実を言っているまでだ」

極めて冷静にそう言い、隆一は部屋の隅っこに備え付けられているPCの電源を入れると、サングラスを外して椅子に座りマジマジと春菜の身体を見る。
春菜は気にする様子もなく、服を着替えていた。
ふくよかで形の良い胸に腰のくびれ、痩せた身体ではあるがそれとは逆に、強い生命の息吹を感じさせる。
隆一はPCに、一枚のCDを入れてそれを開くと膨大な量の資料が、そこに詰め込まれておりマウスを操作してプロテクトの解除を行い、それを一つ一つ見ていく。

「なにそれ?」

「ん・・・冬真に調べさせた、情報だ」

「ふぅん・・・そう言えば、あの子元気にしてる?」

「あぁ、至って元気だ。 今はアルフェスの所にいるはずだが・・・」

「アルフェス・・・か、スティアフォード戦役とバニシングブリット、そしてエルンソシエ大戦の功労者にして英雄」

「英雄・・・ね」

「あら、どうかしたの?」

「いや、何でもない」

隆一はそう言い、キーボードを叩いて行く。
重点的な情報を纏め、CDからMOディスクに移すと、それを懐に入れて立ち上がった。
が、後ろからいきなり抱きつかれて、少し動揺を隠せない。
こう言うのには免疫が無いのか、頬を少し紅くしてジッとしていた。

「ねぇ、もう帰るの?」

「あぁ・・・」

「そう・・・んじゃ、頑張りますか♪」

嫌な予感がして、隆一は彼女を振りきって逃げようとしたが、それが出来なかった。
身体が動かないのだ。
春菜が真正面に回り込むと、ニッコリと笑みを浮かべて押し倒した。
何も着ていないので、隆一は覚悟を決めて眼を閉じた。
次の日、妙に肌がつやつやの春菜と、少しや連れ気味の隆一がいたらしい。
翌朝、隆一は目を覚ますと隣に寝ている春菜を見る。
小さな寝息を立てて、眠っている春菜の頬を優しく撫でると、ベッドから抜け出して服を着た。
何時も通りの格好で部屋を出ると、格納庫へと足を向ける。

(やれやれ、アイツもまだ子どもというかなんというか・・・まぁ、また今度顔を出してみるか)

そんなことを考えながら、隆一は屋敷の廊下を歩き、気付くと格納庫の前におり、中へと入っていく。
オイルの匂いが、鼻についた。
少し笑みを浮かべて、自分の騎体へと近付いていく。
昨日と少し、形状が違っており、整備をしていた男達が隆一へと、近付いていき隣りに立つと、一緒に隆一の騎体を見上げていた。
鋭角的なフォルムは、更に洗練されており全身が刃を彷彿させるのだが、その一方で女性的な雰囲気を感じさせていた。

「隆一さん、どうです?」

「あぁ、良い仕上がりだ」

「隆一さんに誉められるとは、嬉しい限りです」

「・・・この際、名前も改めるか?」

「え、騎体名を変えるんですか?」

「あぁ、その方が色々と都合がいいかもしれんからな」

「そうですか」

「そこら辺は、追々考える。 世話になったな」

「いえ、春菜お嬢様の婚約者ですので」

「世話になったな、又後日顔を出す」

「お越しをお待ちしております」

「俺のバイクだが、すまないがここに置いといてくれ」

「わかりました」

整備士の男達が、頭を下げると隆一は罪騎士に乗り込み、動力炉を作動させた。
罪騎士に搭載されている駆動機は、最も一般的な聖霊呪石駆動機(エレメンタル・リアクター)なのだが、普通のATに搭載されているモノとは違い、二つの相反する聖霊呪石(エレメント)を使い、相互の反発する力をエネルギーとして使っているのだ。
とは言うものの、かなり危険なモノには変わりはない。
隆一は罪騎士を駆り、其の土地を後にした。
それから一週間、アルフェスは自宅のベッドで養生中なので現在は、情報収集をメインに活動していた。
時折、J・Dからの連絡を受けて彼からの情報を纏めている。
隣の部屋のキングサイズのベッドで、アルフェスは音楽を聴きながら眠っており、流れてくる音楽はクラシック音楽だ。
天の輪廻や久遠の時空(とき)と並ぶ代表作・月光の泉と呼ばれているモノだ。
昔からそういったモノが好きなアルフェスは、自分の気に入った曲だけを選び、編集した情報メディア・・・いわゆるMDにそれを編集しているのだ。
杏子は杏子で、其の音楽を聴き鼻歌を歌いながら今までの情報を纏めており、アルティナは未だ精神的な疲労が残っているのか、ソファで寝ており夢の中に居る。

「ったく、ろくな情報がないわねぇ。 まぁ、私達がいた頃から隠匿性の高い組織だったし、それに並の人間じゃあ入れないほど敷居が高いから仕方ないかしら?」

アヴェンジャーに入る試験は三つある。
一つ目は、組織に関する情報を収集すること、これは個人で行うのも複数人で行うのも良しとされ、アヴェンジャーの本部や構成員の所在地を割り出すと言う事を目的としており、高い能力を持っているか否かを確認する為でもある。
二つ目は、機械等の取り扱いについてだ。
ATやその他の精密機械等が数多く存在し、其の整備をスルにしては一流のメカニックが必要になる。
その為に複数人でATを一度解体整備させるのが、もう一つの試験でもある。
また、解体整備の際に改造を施すことも許可されており、一時期は剣聖(ソードセイント)が全く別形態になった、と言う経緯もある。
そして最後の三つ目、これが一番重要なのだ。
銃器やATの操術方法等、戦闘能力の確認である。
アルフェスを相手にして1分間持てば、優秀なのだが大半は30秒も持たずに撃墜されており、1分以上持ったのは冬真のみで、ルーシェンでも40秒程で撃墜されている。
因みに、模擬戦でアルフェス達の騎体のデータを入力して、ゲーム感覚で行われているが、爆発の衝撃なども再現されているので、結構危険である。
そんな事を思い出して少しだけ、笑みを浮かべる杏子だが、すぐに顔を引き締めてアルフェスの寝ているベッドへと、足を向けた。

「はぁ〜い、よく眠れたかなぁ?」

「あぁ、よく眠れたよ。 今日の晩飯は久々にお前が作ってくれねぇ?」

「あら、この間私が作ったじゃない」

「俺は食ってねぇよ」

「そう言えばそうだったわね。 で、なにが良い?」

「とりあえず栄養のつくもんで」

「はいはい、それじゃあ私買い物に行ってくるわ、ちゃんと寝ときなさいよ?」

「分かってる、早く行って来い。 俺はまた寝る」

アルフェスはそう言い、杏子が出て行ったのを確認してから、再び眠りにつく。
そして、彼は夢を見た。
大体5年ほど前の夢だった・・・
誰も信じず、誰を寄せ付ける事無く、彼は生きていた。
ただ、杏子のみを信じ心の拠り所にするように、ただアヴェンジャーと言う組織を指揮してたころの夢である。
今から約五年前、未だアルフェスが前線で指揮していたときの事だ。
少しは、マシになっているのだが、未だに彼の眼は猛禽類を思わす程に、鋭い眼光を持っていた。
誰も寄せ付けない、誰も信頼していない・・・そんな目だった。
だが、彼のそばには一人の女性が居た、スティアフォード戦役で出会い、それ以後行動を共にしている女性だった。
彼女の名は杏子=D=ラインハルト、後に神速の銃士(セイクリッド・ガンナー)と呼ばれる女性である。
その日は雲一つ無い晴天、杏子は不機嫌そうな顔でゲームセンターにある、筐体の中に座っていた。
基本性能自体が極めて高い上に、更に改良された事により凄まじい戦闘能力を誇り、杏子の腕と相まって鬼神の如き性能を見せている。

「で、何で私が相手をしなきゃいけないわけ?」

「そう言うな、俺を相手にして1分は正直、きついだろうからな。 それに、お前の腕は俺と同じくらいだ、滅多な事じゃ撃墜されないだろ?」

「まぁ・・・それはそうだけどさ」

「ま、俺は昨日100人近くの新人候補を相手にしたんだ、そう文句を言うな」

「はいはい、そりゃ凄いわねぇ。 で、使える新人は居た?」

「あぁ、今のところJ・Dって名前のヤツとルーシェンってヤツだ、J・Dの方は水準以上の戦闘能力に情報収集能力を誇っている、鍛えれば俺以上になるかもしれないぜ」

「アンタにそれだけ言わせるんだから、上出来ね。 言うなら、ダイヤの原石って言うヤツ?」

「ハハハッ、良い例えだ。 おっと、新入生が来たぜ手荒く歓迎してやれ」

「はいはい」

アルフェスからの通信が切れると、杏子は眼を閉じて呼吸を整える。
深呼吸を2、3度して、ゆっくりと目を開けた。
そこにいるのは、かつての戦場で音速の銃士(ソニック・ガンナー)と謳われた、一人の傭兵だ。
上唇を舐めて、仮想空間の敵を見た。
ATの最新騎・龍騎兵(ドラグーン)がそこにあり、杏子は高揚感を覚えていた。
杏子の白銀凰が加速して、龍騎兵へと迫り剣を抜いて一閃する。
あっさりと、其の一撃を受けて撃沈する龍騎兵。

「時間・・・3秒と57、失格だな。 次のやつ、騎体データの入力はすんでいるな?」

「は、はい!」

「仮想プログラムスタート」

2人のシミュレーターシステムに、戦いの場所となるシーンが流される。
因みに、彼等の使うシミュレーターシステム・・・一般的に、疑似戦闘システムと呼ばれているモノだ・・・は、巷で言うゲームセンターのゲーム機に過ぎないのだ。
ゲーム機とは言うものの、一応は改良されており、個人所有の騎体のデータをインプットするだけで、それと同等の騎体を再現するのだ。
実戦テストには持ってこい、と言うわけでアルフェスと杏子は近所のゲームセンターでそれ一度プレイしてから、この用途方法を思いついたらしい。
存外、司令官と司令官補佐はヒマなのかも知れない。
一時間ほどが経過して、シミュレータシステムの中からでてきた杏子は、げんなりとした顔をしている。
アルフェスは、コーヒーを煎れたカップを杏子に手渡すと、声を掛けた。

「ご苦労さん、これで俺の苦労も分かったか?」

「えぇ、十二分に・・・ね。 それにして、今回は凶作ねぇ・・・手加減してるのに、30秒も持たないなんてどういう事よ?」

「さぁな、それだけ平和すぎるんだろ、今の世の中が」

アルフェスはそう言うとコーヒーを呑んだ。
半日が過ぎ、杏子は付かれた顔をして、アルフェスの運転する車の助手席に座っていた。
流石にほぼ一日中座り、新入生の相手をしていたのだ、疲れない方がどうかしている。
苦笑いを浮かべながら、車を運転するアルフェスが、口を開いた。

「どうした? アレくらいで音を上げたとか言うなよ?」

「音を上げたくなるわよ・・・」

「お前らしくもないな。 ま、そう思うのは俺も同じだけどよ」

「アンタもよく考えるわねぇ・・・組織の隠匿性を極限まで高めて個人の情報収集能力の調査、それが終わればATのシミュレーションバトルに疑似戦闘。 これだけすれば、組織は精鋭だけが残る、ッテ分けね」

「それでも頭を絞って考えだしたんだ、誉めて貰えると思ったんだがな」

「はいはい、よく頑張ったわね」

「ま、それに理由はもう一つある。 普通の一般人じゃあ、歴戦の傭兵や兇悪な犯罪者の相手は無理だろうからな、必然的にああ言う試験になった、って言うのが本音か」

真面目な顔をして、アルフェスは呟く。
確かに、彼の言うとおり一般人では、数々の戦場をくぐり抜けた傭兵達を倒すのは無理だろう。
其の結果が、先程の試験内容である。
ある程度熟練したATの操術師や、高いサバイバル能力を所有して、諜報活動に向いている人間などを探して適所に配属する、と言うのがこの試験の目的でもあるのだ。
そんなわけで、2人はほぼ連日と言って良いほど、新人の相手をしているのだ。
2人は家に帰る途中、レストランで遅い夕食を摂り、帰宅した。
シャワーを浴びて、アルフェスはすぐにベッドに入って眠りにつき、杏子も同様にベッドの中に入り眠りについた。
その日から数週間後、世界政府により正式に世界政府直属の組織となったが、自治権と言うか命令権はアルフェスとその補佐である杏子のみにある。
尤も、アルフェスと杏子が選んだ選りすぐりである。
一癖も二癖もあるモノばかりで、最強を欲しいままにしているあの2人に使えるという事は、傭兵としては最高位の喜びと言えるだろう。
J・Dとルーシェンの部署は違うが、比較的年齢が近いためかすぐにうち解け、コンビを組む様になっており、違う意味で有名になっていた。

「だけど、良くこんな場所に創れたねぇ・・・ルーシェンもそう思わない?」

「別に・・・」

「あははっ、何か機嫌悪そうだよ、どーしたの?」

「カモフラージュとは言え、何故私達がこの様な事を・・・」

「良いじゃないですか、結構楽しいですよ?」

と、J・Dは今自分が来ている姿を見る。
特撮番組のヒーローモノの服を着ており、やはりゴーグルはつけたままだ。
ルーシェンも色違いで、同じ格好である。

「・・・普通、重要な組織を遊園地の真下に作るか?」

「その方が何かと好都合だと思いますよ、資金繰りが苦しいらしいですしね。 それにみんななんだかんだ言いながら楽しんでますけど?」

「はぁ・・・私はお前の様にはなれないな」

「別に僕みたいにならなくても良いですよ、ルーシェンはルーシェンですからね」

そう言い、J・Dは背を向けてゴーグルを外してから、戦隊モノのリーダーのかぶり物を被ると、それに続いてその場にいる面々がかぶり物を被った。
どうやら午後から、何かのショーがあるのだろうか、杏子は会場の司会役のお姉さんをしている。
因みに、悪役の戦闘員並びに改造人間は幹部候補で行われており、全員が格闘術のプロと言うかそんなので、手加減抜きでやり合うために迫力満点・・・むしろ、子どもの教育に悪影響を及ぼしそうな程である。
何だかんだで、1日が過ぎてカモフラージュの遊園地も、閉園した。
アルフェスと杏子、ついでに2人のお気に入り数人が、司令官室で今日の売上金の勘定中。

「・・・今日の収入は、200万飛んで1800ルツか・・・まぁまぁって所か」

「200万ルツも入ってまぁまぁって、どういう事ですか?」

「ん〜〜〜、上からの組織運営資金が少なくてねぇ・・・このままじゃATの維持費だけで底がつくのよ」

「・・・妙に納得できますね、それ」

「まぁ、100近くのATが在るんですからね、仕方ないんじゃないですか?」

「だが、直訴すれば多少は資金が入るだろう」

「あんた脅すつもりでしょ?」

「・・・よく分かったな」

「分かるわ!!」

何処からか取り出したハリセンで、アルフェスの後頭部を殴る。
普通は、叩くが表現の言葉なのだが、この場合明らかに殴る、と言う表現があっているだろう。
2人の掛け合いを見て、J・Dは笑っていたが、ルーシェンは訝しげな顔をして、それを見ていた。
J・Dはそこにいる1人の人物に、声を掛けた。
黒い礼服を着た女性で、近くの壁には巨大な剣が立て掛けられていた。
真面目に売り上げの勘定をしている。

「J・D、ルーシェン、お前達も幹部候補なら真面目に仕事をしたら? 仕事をしないなら、ここから出て行ってくれないかしら」

「イヤだなぁ〜マリアさんも少しは肩の力抜きましょうよ」

「ふぅ・・・J・D貴方が無駄に肩の力を抜きすぎている、と言う事は考えられないの?」

「あはははっ、そう言う考えもできますねぇ」

J・Dはそう答えながら、ニコニコと笑みを浮かべている。
マリア、と呼ばれた女性は少し溜息を付き、席を立ち部屋を出ていった。
アルフェスはというと、杏子に叩きのめされて昏倒していたりする。
気を取り直して、杏子はアルフェスを引きずって、今日ここへ訪れた新人達の元へと向かうため部屋を出ていった。
部屋に残ったのはルーシェンとJ・Dの2人。
何をするでもなく、2人はボーっとしながらコーヒーを飲んでいた。
ある意味で、平和すぎた。
アルフェスが意識を取り戻し、少し朦朧とした意識の中で、シミュレーターシステムの筐体に入り杏子に黒霊騎士のデータを入力させてから、筐体の電源を入れた。
目の間にいるのは漆黒の騎体・・・黒騎士の流れを汲んでいる黒聖皇(シュヴァルツ・ケーニッヒ)と呼ばれる黒騎士シリーズの最新騎で、黒霊騎士はその流れを組んでいるモノだが、実際は何度も改修した黒騎士その物である。
黒聖皇が、備え付けの剣を抜いて構える、黒霊騎士を操作してアルフェスはシールドを構えて、ハンドカノンを持つと一気に加速して、ハンドカノンを連射しながら、黒聖皇との間合いを詰める。
シールドでハンドカノンの弾を防ぎ、剣を振るい黒聖皇へと斬撃を叩き込む。
その斬撃を受け止めた黒聖皇は、すぐさま剣戟を黒霊騎士へと叩き込んだ。
金属音と、衝撃が伝わりヴァイスレットの操る黒聖皇は、膝蹴りを胸部へと叩き込む。
いったん間合いを開けて、龍封剣(エーテル・ブレード・カスタム)を抜いて、それを構えると黒聖皇も剣を抜いて構える。
二騎が同時に加速、一気に間合いが無くなり二つの剣がぶつかり合った。
火花が散る、だがすぐに黒霊騎士の拳が頭部にめり込み、画面が暗転しゲームオーバーの文字が表示され、筐体の駆動音が止まった。

「ヴァイスレット=ラナフォード・・・所要時間1分と12秒、合格よ。 書類を渡すから私の所へ来てくれるかしら」

「は、はい、分かりました」

杏子の優しい声が聞こえ、先程アルフェスが相手をしていたヴァイスレットは、筐体を出て歩いていった。
それと入れ替わりで、次ぎの試験者が筐体の中に入り、レバーを握る。

「名前は?」

「ファルバード=アインゼル」

「最終階級は風尉・・・ベルフィーク帝国保安部の人間か」

「真紅の戦神を倒せば、俺が最強だ!」

シミュレーターの仮想プログラムが作動して、2人はATは構えをとった。
黒霊騎士は剣を片手に、対するファルバードの騎体・白霊騎士(ブラーッシュ・シュヴァリエ)。
黒と白の騎体が、同時に加速して剣を一閃。
火花を散らして動きが止まるが、白霊騎士が隠し腕でハンドカノンを構えて発射するも、黒霊騎士の光盾(シールド)でそれを防ぎ、拳をマインドルームへと叩き込んだ後、光砲を発射して完璧に破壊し、GAMEOVER、と言う文字がファルバードの筐体の画面に表示される。

「弱すぎる。 そんな程度の腕じゃ、死ぬのがオチだ・・・」

「くっ・・・も、もう一度だ、もう一度すれば倒してやる!!」

「無理だな。 お前程度の腕は、アヴェンジャーにはいないぜ、お前以上の腕はゴロゴロといるがな。 それに、実戦にもう一度はない」

そう言い、アルフェスは通信を切る。
ギリギリと歯ぎしりしながら、筐体を出ると怒りを露わにして、其の場所から去っていった。
少し溜息を付いた後、すぐに次の試験者が筐体に入り、仮想プログラムをスタート。
試験者全員を相手にし終えたのは、夜の12時を少し過ぎた頃で、アルフェスは少し不機嫌なのか黙ったまま、車を運転している。
杏子はそれを横目で見て、少し肩を竦めると口を開いた。

「なにふてくされてるのよ」

「別に、ふてくされてない」

「あのね、アンタとは何年付き合ってると思う? その顔で、ふてくされていないって言うのは嘘よ」

「・・・やはり、お前は騙せないか」

「当然よ、アンタとは8年近くの付き合いだもの、すぐにわかるわよ」

「正直、俺は組織の長には向いてないと思う」

「そうね、それは私も同感よ。 貴方は、どちらかというと信頼しているように見せて、心の奥底では誰も信用していない・・・私ですら、ね」

「そんな事は無い、お前とスフィード、エリシアは別だ」

「そう? でもね、それじゃあ何時か必ず、誰かに足下を掬われるわよ」

「一応、肝に銘じておこう」

そう言い、アルフェスはアクセルを踏んで、スピードを上げた。
そんな彼を見て、杏子は少し不安にかられる。
ふと、脳裏に未来の出来事が浮かび上がった。
彼女の能力“未来読み(リード・ザ・ホープ)”の力で、何時起こるか分からない未来を、断片的に見た。
アルフェスが、部下である者達に襲われ、瀕死の重傷を負ったのを鮮明に、脳裏に浮かばせていた。
杏子はその後深い眠りへと、落ちていった。
横目で眠りに着いた杏子を見て、アルフェスは少し笑みを浮かべると、信号待ちの間に自分のジャケットを杏子に被せ、髪を梳いた。
滑らかで引っかかる事無くアルフェスの指が、杏子の髪の毛を梳る。
信号が変わり、アクセルを踏み込み、アルフェスは愛車(Fz−1928改)を走らせた。


それから数ヶ月後、アルフェスは傷を負っていた。
腕から流れ落ちる赤い鮮血は、ポタポタと床に赤いシミを点々と作っている。
息を切らし、アルフェスは物陰に隠れて、銃を握り息を整えながら気配を探っていた。

(数は10人か・・・チッ、俺としたことが油断していたか?)

心の中で呟きながら、アルフェスはまた場所を移動して、着ているジャケットを破き、それで傷口を圧迫するとホルスターから銃を抜いて残弾を確認し始めた。
コツコツと、足音が近づいてくるとアルフェスは反応して、気配を殺して息を潜める。
どうやら一人だけらしく、足音はそれ一つだけだ。

「俺も、舐められたモンだな・・・」

小さく呟き、アルフェスは近づいてくる足音。
ゆっくりと息を吐き、気配を殺してそれをやり過ごす。
目を閉じて小さく息を吐き、暫くの間その場所に座り込んでいた。
ふと、昔の事を思い出してしまい、アルフェスは失笑する。
そうだった、あの時もこんな風にして追ってから隠れていた。
数年前、ルイナと言う少女と出会った時で、アルフェスの心に大きな傷痕を残して、彼女はこの世を去った。
護れなかった、そんな大きな自責の念が、その当時の事を思い出すとその双肩にのしかかる。

(くっ、何で・・・なんでこんな時にあのときの事を?!)

アルフェスは頭を振って、その時の忌まわしい記憶を振り払おうとするが、無駄な足掻きだった。
燃え盛る炎、恐怖と共にあの男の事を思い出した。
確か、シリウスといったか・・・その男の圧倒的な実力の前に手も足も出ず、チンケなプライドと共に叩きのめされた。
血を流して男を見上げていた。
血よりも紅い瞳、シリウスと視線がぶつかった瞬間、氷水をぶちまけられた様に走る悪寒。
自分よりも遙に強く、絶対に敵わないと分かりながらも向かっていき、返り討ちに合い血を流す。
二人は手を伸ばし、何度もルイナの名前を叫んだが、男の握っている白刃が、ルイナの胸へとつきたてられた。
さらに頭を振ってそれを払拭しようとするが、それを出来ずに手が震え始めた。
涙が流れ、拭っても拭っても涙が止まらなかった。
ついに、小さな嗚咽が漏れる。

「くっ・・・ううっ・・・ふっく・・・ルイナ・・・」

小さな呟きだが、それは誰にも聞き取られること無く、消えていった。
それから30分近くして、漸く平静を取り戻したアルフェスは、再び残弾を確認する。
残り左右合わせて10発だ。
アレから人数を動員していなければ、一発で一人を殺せば自分の命は助かるのだ。
戦場では、生きるか死ぬか、それだけだ。
どうすれば生き残れるか、どうすれば弾に当たらないか、どうすれば効率よく敵を倒せるか。
そんな事を頭の中で考えて、整理しながら簡単なトラップを作りだした。
暗がりの中で、銃を構えると神経を研ぎ澄まし、トラップのある方向へと銃口を向ける。
空になったマガジンを放り投げ、音を立てる。
すぐさま、音のなった方へと足音が近づいてきて姿が見えた瞬間、アルフェスは銃を撃った。
幾つもの銃声がこだまして、くぐもったうめき声と共に、人が倒れていく。
血の独特の匂いが、辺りに漂い始めた。
更にトラップが作動して、一人それに引っかかり宙吊り状態になった瞬間、銃弾が眉間を貫いた。
銃弾が尽きると同時に走り、握りこんだ拳を顔面へと叩き込んだ。

「おぉぉぉぉぉぉッ!!」

雄たけびと共に、身体が動く。
だが、一発の銃声がアルフェスの腹部を貫き、血が流れ出る。
身を焼く様な熱と、身体を鈍器で殴られた様な衝撃。
吹き飛んでそこを押さえながら、立ち上がろうとするが、足に力が入らずに床に座り込んでしまう。
血を止め様と傷口を圧迫するのだが、止められるはずも無くドクドクと血が流れ出てる。
格下の相手に追い込まれ、アルフェスは失笑して目を閉じた。
もうすぐ死が訪れる、そう覚悟した瞬間に銃声が轟いた。
一発の銃声。
倒れる複数の音が聞こえて目を開けた。

「きょう・・・こ、か?」

「そうよ。 この馬鹿、あの時私が言ったでしょ、誰かに足元掬われるって!」

「・・・・・・・」

「言い返せないでしょ? 事実、こうやって追い詰められたんだから、私が能力(ちから)を使わなかったから、アンタ死んでたわよ?」

「すまない、礼を言う」

「馬鹿、アンタなにも分かってないでしょ? それが分からないと、アンタまた襲われるわよ?」

「・・・そ、それより、早く医者に連れてけよ・・・な」

そういって、アルフェスは意識を失って倒れた。
少しため息を付いた後、杏子は部下を使ってアルフェスをアヴェンジャー直轄の医療機関へと連れて行った。
治療を終えた後、個室のベッドの上で寝ているアルフェスを見て、杏子は少し悩んでいるような顔をしていた。
その後、眠っているアルフェスに背を向けて、病室を後にした。
数日後の早朝、アルフェスは目を覚ますと自分の手を見た。
護ると誓い、それを果たせなかった。
ルイナは死の間際であっても、笑みを浮かべてアルフェスともう一人へと、『大丈夫だから』と言う言葉を放っていた。
気丈な心を持った少女、彼女には初恋にも似た感情を持っていた。
しかしそれは、もはや叶わぬ想い。

「・・・俺は、馬鹿だよな。 ルイナ、アンタが俺を護ってくれた、それから俺はどうした? 復讐するために、力を求めた・・・その結果が、この様だ。 笑えるよな、杏子?」

自虐的な笑み、なのだが何処か柔らかく感じる笑顔だ。
病室のドアの前に、いろいろと着替えを持ってきた杏子が、立っていた。
少し笑みを浮かべており、彼女の顔も優しい顔だ。
アルフェスはその顔を見て再び、口を開いた。

「復讐か・・・俺の今までの人生は、そればかりだったよ。 俺がまだ4,5歳の頃に母さんが殺されて、それから俺は孤児院に引き取られた。 スフィードとエリシアと出会って、少しだけ心を開いた・・・お前の兄貴にも出会って、いろいろなやつらと出会っては別れていった、中には俺をかばって死んだやつもいた。 復讐を果たす為だけに生きる俺を生かすために、死んだやつもいたんだ・・・そんな事も忘れて俺は・・・」

「いいじゃない、別に・・・今は今、でしょ? それに気付いたなら、もう馬鹿なまねはしないでよ?」

「分かったよ。 杏子、今までいろいろと迷惑をかけたな、すまない」

「いいわよ、アンタと出会った頃に比べればね。 まぁ、借りを返したって言った方がいいかしら?」

「そうだな・・・お前、スティアフォードん時はアホみたいにうろたえてたからな」

その時の事を思い出したのか、アルフェスは腹部の傷の痛みに耐えながら、笑い出した。
杏子は顔を少し紅くして、笑っているアルフェスの顔を見た。
初めて、大笑いしている彼を見て、杏子はうれしい反面少しだけ恥ずかしかった。
あの当時の事を思い出すが、恥ずかしい事だらけだ。
今ではやってはいけない事を平然としでかしていたのだ、無理も無いだろう。
この日を境に、アルフェスの尖った性格が丸くなり、性格も少し明るくなった。
そこで、アルフェスは目を覚ました。
薄暗い闇の中、ベッドの上に寝転がっており、うっすらと天井が見える。
リビングの方からは香ばしい匂いが漂ってきており、その匂いを嗅いだとたんに腹の虫がなった。
と、薄暗い寝室の中で、アルフェスは自分の手を見つめた。
何度と無く人を殺め、復讐を誓い人を殺し続け、血まみれの自分の手。
人に助けられ、現在の生をつむいでいる。
それはとても喜ばしいことである反面、自分の背負ったものが重く感じられてしまう。
翔已、ルイナ、それだけではなく、戦場で命を助けて死んでいった者達の想いを背負い、アルフェスは今を生きているのだ。

「・・・ありがとう、みんな。 俺は生きている、あんた達のおかげで杏子と一緒にいられる、俺はそれだけで幸せだ」

瞳を閉じて、小さな声で呟く。
顔はやさしい笑みを浮かべており、アルフェスは身体を起こした。
アルフェスはゆっくりと目を開けた。
懐かしい夢、と言えばいいのだろうか、そんな夢を見て珍しく失笑を浮かべる。
J・Dのリヴァイダー、レッドシャインの圧縮されたエネルギーの塊にに貫かれた肩が、ズキズキと痛みを発している。
癒しの極光(ブレイジング・ヒール)の力を行使すると、アルフェスの左手に白く淡い光が発生し、それを傷口にふれた。
僅かに痛みを感じたが、痛みをこらえる。
ほんの数秒で手を離して、アルフェスは肩を少しだけ回し始めた。
軽く息をついて、ベッドから降りてリビングへと顔を出した。

「あら、目が覚めたの?」

「あぁ・・・」

「肩の傷は、大丈夫なの?」

「まぁな、癒しの極光を使ったから大して痛みは無い」

「アンタって、結構不便ね。 世界中に存在する能力を全て使える反面、その力は微弱だしね」

「うっせぇよ。 その微弱な力で、どこかの誰かさんは何回助けてもらったっけ?」

「あら、誰の事かしらぁ?」

そんなやり取りをしながら、アルフェスは箸を進めていく。

「うん、料理の腕は鈍ってねぇみたいだな」

「当ったり前よ、アンタにご飯作ってたのは私なんだから、それを忘れてもらっちゃ困るわね」

「今では、俺が殆ど作ってるけどな」

「うっ・・・」

「それに、お前はグーたら主婦みたいに昼の連ドラ見ながら、ゆっくりしてるしなぁ・・・最近、太ったんじゃねぇか?」

次々に、彼女が気にしていることを言うアルフェス。
と、その時だ。
玄関のドアが叩かれ、二人は玄関を見た。
杏子は銃を腰の後ろに挿し、玄関のドアへと近づいていく。
外から声がして、誰なのか分かりドアを開けると、ゴーグルをつけた銀髪の青年が立っていた。

「た、たた、たっ」

「どうしたのよ、そんなに慌てて」

「大変なんですよ! アルティナさんが、アヴェンジャーの支部に単身乗り込んでいったんですよ!!」

「なんですってぇ?!」

杏子が大きな声で叫び、アルフェスがそちらへと歩いていく。
事情をJ・Dに聞いた後、三人はアヴェンジャーの支部へと車を走らせた。
一方・・・アルティナはというと、自分の能力である『極光翼(シャイン・フェザー)』を使い、その場にいたアヴェンジャーの兵士や、アナハイラスの囚人達を皆殺しにして、階段を上っていく。
銃声が轟くたびに、極光翼の力を使うたびに、人の命が摘み取られていく。
今まさに、この場所に殺戮の天使が、光臨した。
アルティナは最上階に上り、ドアの前に立つ。
以前にも感じたことがある殺気を感じ、彼女は確信した。
大きくため息を吸ッた後、ドアを蹴破った。

「隆一ぃッ!!」

アルティナの咆哮と同時、銃が火を噴いた。
部屋の中に立っていた男はそれを予期していたのか、回避行動を取りながら、銃を撃った。
肩を掠めて、弾丸は壁へとめり込んだ。
傷を気にする様子も無く、アルティナは隆一と叫んだ男へと、走っている。
隆一は、サングラスの位置を正すと、アルティナの顔を見た。
復讐に染まり、親の敵を目の当たりにした様な顔で、こちらへと向かってきているのを見て、小さく自嘲的な笑みを浮かべた後、アルティナへと拳を叩き込んだ。
カウンターでアルティナの腹部へと叩き込まれ、アルティナはとっさの判断で身を捻り、直撃を避けた。

「ほぅ、良く直撃を避けたな、褒めてやる」

「黙れッ! 父様の、母様の・・・そして、姉様の仇を今こそ討つ!」

「・・・真実から目をそむけ、欺瞞へと目を向け、復讐のために生きることもまた、必要だ」

「何が言いたい? お前は自分の侵した罪を、否定するつもりなのかッ?!」

「罪・・・? そうとも言うな、だが俺は背を向けることはしない、背を向ければ俺は俺でなくなってしまうからな」

隆一はそういいながら、自分の手のひらを見つめる。
今まで、何人の人間をこの手で殺したのだろうか。
だが、それは生きるための道であり、人を殺す事で生を紡ぐ状況が、生きていると言うことを実感できる。
そんな状況で、隆一は生きたのだ。
アルティナとは比べ物にならないほどの苦難の道のりだ。
ふと、顔を上げて窓の外へと視線を移す。
確実に何かが、そこへと近づいて生きていた。

「・・・ちっ、ヤツらめ俺の居場所を嗅ぎつけたか」

「何だと?」

「今お前の相手をしている暇は無い、さっさとこの場所から失せろ」

隆一が、サングラスを外してアルティナを睨みつける。
殺気をアルティナへと向けて、放った。
それと同時、漆黒のATが姿を表し、光砲を二人へと向けて発射した。
爆発と爆音、そしてコンクリートの欠片が飛び散り、アルティナは気を失いかけたがちゃんと意識を保ち、隆一はリヴァイダー『雷神の鉄槌(イシュテネス・デジェン)』を抜いてそれを構えていた。
雷にも似たエネルギーが集約して行き、それが発射される。
漆黒のATはそれを回避して、今度は光剣を抜きそれを振るった。
轟音が轟き、隆一の居る場所へと正確に振り下ろされた。
それを余裕を持って回避すると、隆一は再びリヴァイダーのトリガーを引いた。
ATの装甲を破壊し、雷光が荒れ狂う。
そして、一人の男がATから飛び降りて、隆一に対峙する。

「・・・エファルか、久しいな」

「あぁ、お前が『ゼウス』を抜けて以来か。 よく今まで逃げ果せられたな」

「フッ・・・お前こそ、どうしたこんな場所に」

「なに、お前が牢獄から出たと聞いてな。 貴様を殺しに来た、と言えば?」

「クックックッ、誰が誰を殺すだと?」

「あの頃の俺と思うなよ・・・」

エファルが銃を抜いて、その銃口を隆一ではなく、アルティナへと向けた。
それに反応し、アルティナは銃を構えており、エファルへと向けている。
隆一は一瞬だけ逡巡して、リヴァイダーを構えた。
雷の力が集約していき、エファルはおろかアルティナを巻き込む角度だ。
笑みを浮かべたまま、三竦みの状態になっている。
エファルがトリガーを引いた。
銃声がこだましたと同時に、イシュテネスデジェンの力が、二人へと襲い掛かった。
アルティナは能力を使い、空へと舞い上がった。
エファルも能力を発動させて、イシュテネスデジェンの力を遮断した。

「クククッ、言ったはずだろう? あの頃の俺と思うなとなッ!」

更に遮断した力を隆一へと、リヴァイダーの力を向けて解放する。
隆一は自分の周囲の空間を歪め、エファルの背後と空間を接続して、こちらへと向けられたリヴァイダーの力をしのいだ。
それを見て、アルティナが能力を行使する。
光凰翼(シャイン・フェザー)から派生させる能力・光翼弾(フェザー・ブリット)を二人と向けて、飛ばした。
無数の光弾が飛び、床を破壊していく。
隆一は先程と同じ様に、周囲の空間を違う場所と接続してそれを回避した。
爆発音が連続して発せられ、煙が立ち込めていく。

「チッ、どうやら今は決着を付けるべき時ではなさそうだな。 また逢おう隆一」

煙が立ち込める中、エファルが隆一へと向けて言葉を発し、姿を消した。
アルティナが着地して、隆一へと食って掛かっていく。

「隆一、今の男は何だ?! ゼウスとか言うのは何なんだッ!! 答えろ、隆い・・・ち・・・」

アルティナが全てを言い終える前に、隆一は鳩尾へと拳を叩き込んで、アルティナを気絶させた。
彼女を抱き上げて、瓦礫の無い場所に寝かせると、隆一はアルティナの頬に手を触れた。
そして、空を見上げる。
真昼の空の中に、うっすらと浮かび上がる双月の片割れラルシアを見て、自嘲的な笑みを浮かべると、同時にアルフェスたちが姿を現した。
そして、時はほんの十分程度さかのぼり、アルフェス達が乗るFz−1928がたどり着いた。
腕を吊ったアルフェスは助手席から降り、杏子は運転席から、J・Dはバックシートから降りると、J・Dを先頭に中へと入った。
中に入った瞬間、アルティナが殺していった者達の遺体が散乱しており、血独特の鉄分の匂いが漂っていた。
銃を抜いていたJ・Dは腰の裏にあるホルスターに収め、歩いていく。
アルフェスは銃を持ったまま歩き、辺りに気配があるか探りながら歩き、杏子も同じ様に歩いていく。
階段を上り、J・Dは無防備のまま歩いていたが、どうやら生き残りの所員がいたらしく、銃弾がJ・Dの右肩を貫いた。
痛みを感じる前に、肩の感覚が消えた。
弾は貫通しており痛みはあるが、感覚は無い状態で、J・Dは所員に近づいていき、血に濡れた手で銃を取り上げると口を開いた。

「こんどは、よく確認してから撃つ様にね・・・僕じゃなかったら、殺されてましたよ?」

「ふ、副指令!?」

「い、今は・・・『元』ですけどね。 ソレより、消毒してくれません?」

「わ、わかりました!」

何処かおっとりとした感じの女性だったが、アヴェンジャーの一員だけあって、止血の方法は的確ですぐに包帯を巻き終えた。
だが、包帯で巻く前に自分の能力・灼熱の炎帝(バーン・トゥ・フレイム)で傷口を焼き、包帯を巻いた後腕を吊って肩を氷水で冷やしている。
女性は、心配そうな顔と同時に、何かに怯えるような目でJ・Dを見つめていた。
その視線に気付いたJ・Dは、その女性に笑みを浮かべ答えるが肩の傷口を灼いたため、酷く熱を持っており意識を保つのがついらいらしく、汗を流していた。
炎の能力者なので、多少なりとも炎や熱に対する耐性を持っているが、火傷の熱の耐性は無いためか、氷水で冷やしていても熱い。
少しため息を付いた後、J・Dは少しだけ失笑を漏らした。
後ろを付いて歩いている女性は、J・Dの後姿を見て銃を抜こうとしたが、やめた。
今では裏切り者と言われている彼だが、彼の実力は十二分に知っている。
年齢はまだ未成年なのだが、自分よりも遙に強いのだから、たとえ不意打ちであっても負けるのは目に見えているからだ。

「あ、そうそう、ヴァイスさん」

「は、はいッ!」

「そう畏まらなくても良いですよ、僕は敬語とか使われるの嫌いですし。 それに、同期の桜なんですし僕の方が年下なんですからタメでいいですよ」

「で、ですが・・・」

「ほらそこ! まぁ、副指令って言うのはいいですけど、普段どおりに接してください。 すねちゃいますよ?」

「あ、は・・・いえ、わかったわ、副指令」

「ヴァイスレット=ラナフォード23歳。 アヴェンジャー参入試験時にATの擬似戦闘シミュレーションで、アルフェスさんを相手に1分と12秒・・・すごいですね、女性でコレは最長記録ですよ?」

「そうなの?」

「えぇ、アルフェスさんを相手にして1分もった女性はアナタだけと思いますよ?」

「ふぅん・・・」

「ま、ソレよりも、なんでヴァイスさんが此処に配属されてるんですか?」

「それなんだけど、直前で配属を変えられたのよ・・・総司令にね」

「ルーシェンが配属をかえたのかい?」

「はい・・・」

「おかしいな、その手の話は僕を必ず通すのに・・・何か、裏がありそうだな」

J・Dは痛めている肩を気にしつつも、腕を組んだ。
ヴァイスレットと肩を並べて歩き、アルフェスの元へと行くと、杏子が銃口を向けた。
恐らくは、彼女を警戒しているのだろう。
アルフェスが杏子をいさめると、J・Dの肩に触れると痛みが和らいだ。
癒しの極光(ブレイジング・ヒール)の力で、傷を癒したのだろう。
だが、それは微々たる物で、痛みを和らげる程度でしかなく、氷水で依然として冷やしているのは変わりない。
長い廊下を歩いていく。
アヴェンジャーの職員とアナハイラスの囚人のなきがらが目に入り、生きているものは居ないか一応調べたが、ほぼ全て即死していた。
ヴァイスレットは運が良かった、としか言いようが無いだろう。
四人は、この支部の司令室の前まで来ると、銃を抜いて辺りを警戒しながら、蹴破られたドアから中を覗いた。
敵は誰も居ない。
瓦礫の無い場所で、アルティナが寝ているのを見て、J・Dが彼女へと近づいていく。
左腕で息をしているかどうか確認して、傷の有無を調べた所、どうやら気絶させられただけらしい。
銃をホルスターに収めると、大きく息をついてゴーグル越しに、アルティナの顔を見た。
こうして寝ていると、あの『殺戮の堕天使』とは思えないほどのあどけない寝顔で、とても戦場で恐れられている傭兵とは思えないほどだ。

「しかし、なんだってんだ、この荒れようは」

「アルティナの能力(ちから)とも見て取れるけど、この荒れようはそれだけじゃないわね」

「もしかしたら、隆一さんがいたかもしれませんね」

「隆一・・・か、ありえなくも無いな。 アイツなら、アルティナを殺す事無く気絶させることなんか簡単だろうからな」

アルフェスがアルティナを抱き上げると、刺すような視線が杏子からとんだ。
少し冷や汗を流して、杏子へと何かを言うとぶつぶつと何か呟きながら、引っ込んだ。
ヴァイスレットは、司令官と副司令官として見ていた二人をみて、少し笑みを浮かべた。
司令官として少し問題あったものの、そのカリスマ性、指揮官としての能力、戦士としての力は全てが一流であり、人望もある。
杏子の場合は、アルフェスと同等の能力ゆえ、彼の右腕として最前線で指揮を取ることも少なくは無かった。
指揮を執っているときの杏子は、普段の姿とは違う姿を見せた。
そんな杏子にあこがれて、ヴァイスレットはアヴェンジャーに入り、彼女を目指してがむしゃらに突き進んだ。
そして、彼女は一応幹部クラスにまで上り詰めたのだが、その直後にアルフェスと杏子はアヴェンジャーの指揮官を退いたのだ。
ふと何かを感じて、ヴァイスは能力を使う。
索敵の魔眼(サーチ・アイズ)を使い、回りを見渡すと人が一人隠れていた。

「ま、まさか・・・」

「どうした、ヴァイス?」

「い、いえ、あそこの陰に誰かいます」

「・・・アルフェスさん、杏子さん、ヴァイスさん、アルティナさんを頼みます」

「J・D?」

「いいから早く行って下さい」

ヴァイスは、初めて彼から有無を言わせぬ迫力を感じとった。
あの温厚なJ・Dが、此処まで危機感と言うべきだろうか、それを発しているのは初めて見たためか、背筋が寒くなる。
アルフェスが少し周りを見回してから、口を開こうとしたのだが、言う前に背を向けた。
アルティナを背負うと先程入ってきた場所から、何も言わずに出て行った。
その後を杏子が付いていき、ヴァイスはアルフェス達の後を追って出て行った。
出て行ったのを確認し、J・Dが口を開いた。

「そろそろ、出てきて良いですよ、隆一さん?」

「・・・よく分かったな」

「まぁね。 と言うよりも、この黒焦げは隆一さんのリヴァイダー『雷神の鉄槌(イシュテネス・デジェン)』によるものですからね。 雷の属性のリヴァイダーは数少ないですからすぐ分かりますよ」

「お前の前では、何度か使ったからな。 たしか、バニシングブリット、ベルフィーク動乱だったな」

「えぇ、姉弟そろって助けられましたからねぇ」

「フッ、世界でもっとも恐ろしい傭兵姉弟であり、『聖獣の能力者』が、よく言う」

「聖獣って・・・そんなすごいもんじゃないですよ」

「ところで、冬真」

「何ですか?」

「やつらの情報は、まだ当分収集して置いてくれ」

「わかりました」

「っと、そういえば、秋斗と夏美は元気にしてるのか?」

「えぇ、秋斗兄さんは此処暫く家に帰ってないみたいで、夏美は大学に進学しました」

「そうか。 夏美にはお前の口から『おめでとう』と伝えておいてくれ、じゃあな」

隆一は背を向けると、格納庫へと向けて歩き出した。
彼を見送って、アルフェス達の下へと、足早に駆けていく。
と、その時だ。
何者かが、こちらを見ている様な気がして、そちらへと視線を移す。
誰も居ない。だが、確かに誰かが見ている。
油断無く、辺りを見回していたが、背後から刺すような視線と、殺気がJ・Dを貫いた。
昔、一度だけ感じたことがある殺気で、ゾクリッ、と背筋が凍るような気がした。
恐る恐る振り返るが、誰も居ない。
首をかしげると、再び背を向けて歩き出した。
外に出ると、アルフェスは車にもたれ掛かっており、杏子と何か話をしている。
ヴァイスレットは気絶しているアルティナの看病中だ。

「ん、何してたんだ?」

「いえ、なんでもないです。 それじゃ、戻りましょうか?」

「・・・そうだな。 杏子、帰るぞ」

「はいはい。 そういえば、ヴァイスはどうするの?」

「私は、暫く姿をくらまそうと思っています」

「そうなの、気をつけなさいよ?」

「はい。 皆さんもお気をつけて」

ヴァイスはそういうと、自分のAT黒聖皇(シュヴァルツ・ケーニッヒ)を置いてある格納庫へと走っていった。
彼女の背中が見えなくなってから、杏子は車を出した。
J・Dはアルフェスに癒しの極光を使ってもらい、肩の傷を僅かではあるが治して貰い、肩を動かすとある程度痛みが引いていた。
ため息を付いた後、未だに気絶しているアルティナへと、視線を移す。
やはり寝ている時の顔は、可愛い。
そう感じて、J・Dは少し笑みを浮かべると、目を閉じて眠りに付いた。
それを確認すると、アルフェスは大げさにため息をつき、頭をかいた。
彼の仕草を見て、杏子は笑顔を浮かべながら、口を開く。

「どうしたの? なんだか、不機嫌みたいだけど」

「別に何でもねぇよ」

「はいはい。 口で言っても、顔に出てるわよ?」

「何でもねぇって言ってんだろ」

「わかったわよ、そういう事にしておいてあ・げ・る♪」

何処かからかっているように思える杏子の仕草に、アルフェスはまた大きなため息をついた。
先程から、誰かに見られていた。
あの場所についてから、ずっと口にする事はしなかったが、どこかで感じた視線と僅かな殺気を感じて、あの頃へと感覚が戻っていた。
嫌がおうにも高揚感を感じると同時、恐怖も感じていた。
また、大きなため息をつくと目を閉じて、眠る体制に入った。
杏子は横目でアルフェスを見ると、少し肩をすくめるとすぐに正面を向いて、運転に専念し始めた。
アヴェンジャーの反乱が始まってから、半年近くが過ぎ、その間に大きな動きを見せる事も無かった。
アルフェスとJ・Dの傷も完治して、最近では二人して身体を鍛える事が多い。
と言うのも、二人とも傷を負った為に筋力が著しく低下していた、と言うのがその答えだ。
青空が広がっており、杏子はたまっていた洗濯をして、バルコニーに出て洗濯物を干している。
アルフェスはトレーニングルームに篭って身体を鍛えており、もうすぐ腹をすかして出てくる頃と判断して、洗濯物を干し終えると台所に入り料理を作り始めた。
コトコトと鍋が噴き、火を弱めると調味料を入れて、そのまま弱火で煮る。
時折味を見て、鍋が噴かない様に気をつけながら、手の込んだ料理を作っていく。
ほぼ全部作り終えて、アルフェスが汗を流してリビングへと顔を出した。

「くはぁ・・・やっぱ、身体衰えてるな」

「そりゃそうでしょ、前線退いて探偵まがいの事してるんだから」

「あのな、探偵まがいじゃなくて探偵なんだよ、私立探偵」

「だから非合法な依頼が多いのよね」

「うるせぇ・・・」

図星を疲れたのか、アルフェスは少しムッとした顔で答えた。
杏子は少し笑みを浮かべると、出来上がった料理をテーブルに広げていく。
箸を器用に使い、アルフェスは昼食を摂って行く。
杏子はアルティナの寝ている部屋に行くと、彼女を起こしてリビングへとつれてきた。
一緒に暮らし始めて半年以上が経過し、少しだけ分かった事がある。
寝起きがすごく悪い。
ボーっとした顔で椅子に座ると、箸を持ったまま眠っている事があり、椅子に座らせて暫く放って置くと、目を覚ますのだ。
そんな平穏な日々、悪くは無いと思っていた。
だが、最終決戦は近い。
アルフェスは直感的にそれを感じており、今また戦場で『真紅の戦神』と呼ばれ、恐れられた最強の傭兵に戻るつもりなのだ。
そしてその日から数日後、アルフェスたち四人はアヴェンジャーの本部の目の前に居り、アルティナは何ともいえない顔をしている。

「・・・本当に、ここがアヴェンジャーの本部なのか?」

「あぁ、まちがいねぇ。 あの古びたジェットコースターなんか、ギシギシいってある意味でスリル満点だぜ?」

そういい、アルフェスは笑みを浮かべ、マガジンを引き抜いて残弾を確認する。
J・Dも杏子も同じ様に、代えにマガジンを調べている。
アルフェスは、懐のホルスターに収めていたシュヴァルツ・シャイン(漆黒の閃光)を抜いて、感触を確かめた。
昔から使っているリヴァイダー。
『Reject Exceed Vandal Agony Destruction Energy Rifle』
頭文字だけをとり『REVADER』と呼ばれている古代文明の遺産と呼ばれるオーパーツで、製作した者は不明。
そのエネルギーは、近年開発されたデストラクションブラスターをはるかに凌ぐ威力を持っており、それ単体でATを簡単に破壊するエネルギーを放射する力を持っているのだ。
古代文明の遺産、そして最強の武器。
その形状はさまざまで、銃状の武器が主だが中には剣型の物もあり、使用者の精神状態等を感知してその形状を変える。
エネルギーの拡散放射、そのエネルギーを圧縮して撃ちだす弾丸、エネルギーを硬質化させて剣に代えるリヴァイダーもある。
アルフェス、J・D、アルティナの持つリヴァイダーはエネルギーの拡散放射と圧縮して撃つ出す、と言うタイプの物だ。
アルフェスは自分の持つシュヴァルツシャインとは違う物を、杏子に渡した。
ディーヴァルが持っていたリヴァイダー・ブルーブラッド(蒼い血流)だ。

「え、これって・・・私に扱えるの?」

「お前なら大丈夫だ、必ず扱える」

「ま、アンタがそういうなら、大丈夫ね」

そういうと、予備のホルスターにそれを収める。
アルティナとJ・Dは、車を降りて目の前にある巨大な遊園地を見ていた。
J・Dは慣れているので、何の感覚も無いが、アルティナは少しどころかかなり呆れているようだ。
目の前にあるのが遊園地なのだ、当たり前と言えば当たり前だろう。
ため息を付いた後、アルティナは背を向けた。
J・Dは彼女が後ろを向いたのを確認し、ゴーグルを外して天を仰いだ。
空に、一騎のATが存在しているのを視認していた。
見た事があるATで、それはJ・Dしか知らないものだ。

「アレは・・・アイツか? 全く、僕によほど執着があるみたいだね」

そう呟いて、ゴーグルをかけなおして、J・Dはリヴァイダーを抜いて空へと向けて、トリガーを引いた。
真紅の閃光が空へと飛んで、そのATを掠めた。
爆発音が響き渡り、それが戦いの合図となる。
アルフェス達四人はその場所で別れ、四人は司令官室を目指し、走り出した。
連続して響く銃声。
光を翼と化して、その銃弾を全て遮ると同時に、無数の光弾を発射する。
爆発が連続して発生し、AT用の炸裂弾が着弾したように、爆発がすさまじい。
あの日、隆一ともう一人と対峙した時から、彼女の能力の力の上限が上昇しており、その威力は恐らく攻撃系能力者の中でもトップクラスの破壊力を持っているだろう。

「・・・こんなにも、破壊力は無かったはずだが」

破壊しつくされた場所を見て、ポツリと呟くと、再び走り出した。
J・Dはと言うと、頭をかいて自分を取り囲んで居る者たちを見回す。
マシンガンにショットガン、中には対戦車用のライフルを持っている者も居り、ため息をついて銃を放り投げると手を上げた。
その動作を見ても、銃を下ろす気配は無い。
意を決したのか、J・Dは威力の高い銃を持つ者へと腕を伸ばした。
すると、袖口から光景の小さな銃が飛び出し、トリガーを引いた。
銃から発射された弾丸は、眉間を貫き、そのまま落ちていた銃を蹴り上げて、空中で掴むとそのまま標的を定めずにトリガーを数度引いた。
連続して発生する銃声、目くらましの意味合いをかねて、あいた右手でリヴァイダーを抜き、床へと向けて発さした。
爆発が発生し、コンクリート片を飛び散らせて、近場にある柱の陰に隠れた。
リヴァイダーをホルスターに収め、気配を殺して相手の動きを調べ始めた。

(ふぅ・・・流石に、人数が多いから司令室まで行くのに時間がかかりそうだね)

心の中で呟くと、炎を纏って柱から飛び出した。
爆炎を走らせて相手を威嚇して、銃を撃つ。
正確に眉間を貫いていき、相手に死を与えていく。
敵の銃弾は、炎により融解しており、J・Dには届いていない。
敵陣を突っ切って、ただ全力で逃げた。
流石に、あの数を相手にしては、すぐに弾が切れるため、相手にはしない方法を選んだのだろう。
杏子、アルフェスも同じ方法を選んでおり、アルティナは自分の能力をフルに活用して、立ち塞がる者達に等しく死を与えていた。
やはり、アヴェンジャー創設者にして、最強と名高いアルフェスを倒す事は無理だった。
杏子はアナハイラスの囚人と交戦しており、銃を撃つとその場所を飛びのいて移動し、再び銃を撃つ。

「クケケケケケケッ! 杏子ぉっ、テメェはいい女だぜぇ、それでこそ俺の女にふさわしいぜぇっ!!」

「冗談! アンタみたいなヘンタイ嗜好の男の女なんて、こっちから願い下げよ!!」

「クハハハッ、その気の強さもいいぜっ、ますます俺好みだぜ!!」

銃を撃ちながら、アナハイラスの囚人が叫ぶ。
杏子は生理的悪寒を感じながら、ネルヴァード=シルバーの攻撃を防いでいた。
ライトシールドを発生させて、弾丸を防ぎながら、間合いを調整している。
絶対に避けられない位置と距離と確信して、杏子は切り札を使う!

「この位置、この距離で私のジョーカーをよけられるかしらッ!?」

腰の裏にあるホルスターから、ディーヴァルが使っていたリヴァイダー・ブルーブラッド抜いた。
銃口に青い光が集約、ソレが開放されてネルヴァードの右腕を巻き込んで、ソレは直線上にある物を破壊していき消えた。
その圧倒的な威力を見て、杏子は驚きを隠せなかった。
これほどまでに強力な武器を使い、アルフェス達は戦っていたのだ。
一歩間違えれば、致命傷どころかこの世から消滅してもおかしくは無い。
杏子はブルーブラッドをホルスターに納め、銃を抜いて油断無くネルヴァードの姿を探す。
能力を使い、数秒先の未来を視た。

(後ろっ?!)

横っ飛びでそれを交わし、銃口を向けてトリガーを引いた。
ネルヴァードの腕を足を貫くが、動きは止まらず杏子の腕を掴み、壁へとたたきつけた。
衝撃で意識が飛びかけたが、何とか意識を保ち、銃口をネルヴァードへと向けてトリガーを引いた。
速射を行い、五発の銃弾がネルヴァードへと飛んだ。
致命傷になる物だけを選び、手に装着しているライトシールドで防いで、拳を握りこんで杏子へと叩き込んだ。
身体が一瞬中に浮いた感覚があり、ソレが消えると壁に叩きつけられ、全身を痛みが駆け抜けた。
口から血をこぼし、杏子はネルヴァードを睨みつけて、銃をホルスターへと収めた。
命を捨てる、と言うわけではない。
ただ全神経を目の前の敵に集中しているのだ。
それを理解したのか、ネルヴァードは黙り込んだ。
時折、爆発に近い衝撃があり、それを合図にしてネルヴァードが仕掛けた。
銃口を杏子へと向ける動作、その動作をはるかに上回る動きで、杏子は銃を抜いてトリガーを引いていた。
銃声が響き渡る。
杏子の肩を銃弾が貫き、血が流れ落ちていく。
傷口を押さえて、ネルヴァードをにらみつけた。

「クカカカカッ! 音速の銃士(ソニック・ガンナー)とはいえ、人の子だよナァ?」

「くッ・・・」

「さぁ、お前の選択肢は二つだ。 俺様の女になるか、此処で俺様の手によって死ぬか、だ」

「・・・フフフッ、アハハハハハハッ!!」

「なんだぁ? 気でも狂ったか?」

「アンタの女になる位なら、死んだほうがマシよ!!」

「そうか、なら・・・死ねや、音速の銃士ッ!」

ナイフを一閃。
杏子の首筋を狙った一撃は、致死の一撃となるはずであった。
肩の傷の痛みを無視して、杏子が腕を振るった。
その手には、いつの間にか抜いていたブルーブラッドがあった。
銃口には既に蒼いエネルギーが、集中しておりそれが、開放されてネルヴァードを襲う。
とっさに、身を捻ってその一撃を避ける。
だが、ナイフを持っている右腕が巻き込まれ、右腕が消滅した。
受身を取って、立ち上がるが、既に第二射に入っており、横へと飛ぶ。
ブルーブラッドのエネルギーが駆け、ネルヴァードは銃を抜くと杏子へと向けて、撃った。
杏子を貫くはずの銃弾が、何かによって弾かれた

「甘いわね」

「リフレクターシールドかッ?!」

「これで・・・ジ・エンドよ、ネルヴァードッ!」

青いエネルギー流が、ネルヴァードを飲み込んだ。
リフレクターシールドを張るには遅すぎ、ネルヴァードは強力なエネルギーに飲み込まれ、この世から消滅した。
肩の傷口を押さえ、目を閉じて一息つくと、傷口を押さえながら、先へと進んでいき医療室へと足を向ける。
その頃、アルフェスは辺りを警戒しながら、廊下を歩いている。
長い廊下の先に、大きな扉があった。
少し笑みを浮かべて、扉を開けて中に入っていく。
広い空間に出て中央に、巨大な剣を持ち、修道服を着た女性が、佇んでいた。
その女性は、剣を抜くとその切っ先をアルフェスへと向けた。
微動だにせず、自分の身長よりも大きく長い大剣を片腕で振るっており、その細腕のどこにそんな力があるのか、疑いたくなる。
彼女を見てアルフェスは驚いた顔を見せ、口を開いた。

「マリア=ラザフォード・・・か。 まいったな、女とは殺り合いたくは無かったんだがな」

「総司令、お久しぶりです」

「あぁ。 で、お前は俺と戦うのか?」

「・・・はい。 私は、アイツにはまだ及ばない、ですが・・・」

「俺を倒せれば、お前の言う『ビショップ』に勝てる、って言うことか?」

「・・・」

無言を肯定と判断したのか、アルフェスは頭を掻きながら、銃を抜いた。
自然な動きで、銃口をマリアと呼んだ女性へと向けて、トリガーを引いた。
一発の銃声、その弾丸はマリアが床に突き刺した巨大な剣・聖十字剣(クロイツ・シュヴェールト)の刃により防がれ、柄を握るとアルフェスへと疾駆する。
恐らくは、ワゴン車並かそれ以上の重さはある巨大な剣を片手で引き抜き、勢いを付けて上段からの一撃を放つ。
斬撃を回避して、アルフェスはマリアの懐へと疾駆して、掌底を腹部へとたたきつける。
衝撃が身体に浸透する。
おもわず剣を手放しそうになるが、辛うじて剣を握り剣を上半身のばねだけで横薙ぎに振るった。
しゃがみこみ、その斬撃を回避したが、それを予測していたのだろう、マリアの膝蹴りがアルフェスの顔面を襲う。
首に力を込めてその威力を殺すが、流石にあの怪力の前ではそれも空しく、アルフェスの身体が宙を待った。
背中から叩きつけられ、受身も取れず、咳き込みながら立ち上がる。

「とべ、聖十字鎖(クルス・チェイン)!」

「なにっ?!」

油断していたのか、アルフェスの身体に鎖が絡まる。
マリアは、鎖を握ると片手で振り回し、アルフェスを壁にたたきつけた。
鮮血を口から吐き出し、アルフェスは身もだえするまもなく、反対側の壁に叩きつけられた。
十数回ほど壁に叩きつけられ、意識が混濁し始めており、アルフェスは朦朧とした意識の中で声を聞いた。
何故かは分からないが、その声は以前にも聞いた事があるような気がして、アルフェスは意識が遠のいていった。
突然、マリアはアルフェスに絡めた鎖を外し、彼の身体はそのまま壁に叩きつけられ、地面へとズルズルと落ちていった。
倒れたまま動かないアルフェスを見て、マリアは背を向けてこの場所を去ろうと、扉に手をかけた瞬間、背筋が凍るような殺気が叩きつけられ、マリアは振り返る。
倒れていたはずのアルフェスが立ち上がり、マリアを睨みつけていた。
その目に見つめられただけで、身体が動かなくなる。
一歩、足を踏み出した。
ただそれだけの動作だけ、それでも、今まで感じた事の無い恐怖を感じた。

「あ・・・あぁ・・・・う」

「マリア、覚悟は出来てるな?」

「う、うぅ・・・うぁぁぁぁっ!!!」

勇気を奮い立たせ、聖十字剣を掴むと、アルフェスへと向かって疾駆し、跳躍して全力で剣を振り下ろす。
アルフェスは微動だにせず、それを受け止めた。
片手で、しかもライトシールドを使用せずに生身の掌で、マリアの強大な腕力と跳躍による威力を増した巨大な剣の刃を防いでいた。
身の毛がよだつ程の恐怖。
アルフェスが手を伸ばして、マリアの手首を掴むと、笑みを浮かべた。
ソレとほぼ同時、マリアの意識は混濁とした闇へと落ちていった。
気を失い、倒れたマリアを見下ろすアルフェスの瞳は、真紅に染まっている。

「ヴォォォォォォォォォォッ!!!!!」

アルフェスが咆哮(ほ)えた。
その咆哮は、本部の内部に響き渡った。
J・Dはその咆哮を聞きながら、銃を連射した。
そのまま走り、炎を纏わせた腕を振るい、炎を走らせた。
燃え盛る炎が道を作り、その炎の上を走っていく。
拳を握り、J・Dは再び腕を振るい、炎を集中させた拳をコンクリートの壁へとたたきつけた。
炎が爆ぜてコンクリートの壁を破壊して、破片を辺りに飛び散らした。
天井へとリヴァイダーを向けて、威力を低く意識して発射した。
爆音、巨大なコンクリの塊が落ちてきて、先程の穴を閉ざしたとほぼ同時くらいに、アルフェスの咆哮が耳に付いた。

「これは、アルフェスさんの声・・・?」

先程の咆哮(さけ)びを聞いて、J・Dは呟いた。
と同時、辺りに目を配らせた。
十数人、いや、もしくはそれ以上の人数が、彼を取り囲んでいた。
銃口は全て、J・Dに狙いが定められていた。
ため息をついて、銃とリヴァイダーをコンクリートの床へと放り投げた。
カツン、と言う音が響き、連続した銃声が響き渡る。
J・Dは足元から爆炎を発生させて、銃弾の速度を殺して跳躍した。
両腕に炎を宿らせて、腕を振るい炎がほとばしる。
爆炎にまぎれて、銃とリヴァイダーを拾い上げると、トリガーを引いた。
真紅のエネルギーが銃口に集約して行き、ソレが解放された。
爆発的なエネルギーが解放され、全てを巻き込んで消滅させていく。
エネルギーの放射が終えて、J・Dは周りを見てため息をついた。

「流石に・・・やりすぎたかな?」

そう呟いて、黒焦げになった部屋を見つめたあと、部屋を出て行った。
一方、アルティナは能力を使いすぎたためか、意識が少々混濁し始めており、誰にも気付かれないような場所で十分程度仮眠をとった後、先を急ぎ始めた。
銃を抜き、連射しながら敵の真ん中を強行突破し他と同時に、後ろへと振り向いてエンジェルウィングを発射した。
光凰翼と同じ様に、無数の白いエネルギー球が飛んだ。
爆音が次々に轟き、コンクリートの壁や床を破壊していき、無数のコンクリートの破片を撒き散らしていた。
リヴァイダーをホルスターに収め、背を向けると同時に何か嫌な予感を直感、と言うべきか本能的に、と言うべきか、言葉では言い表せない感覚を感じてアルティナは能力を行使したとほぼ同時、銃弾がアルティナの肩を掠めた。
光弾を一つ作り出すと弾丸が飛んできた方向を予測して、その光弾を飛ばした。
耳を劈くような爆発が発生し、再びコンクリートの破片が飛び散った。
そのまま能力を固定して、その方向と走る。
突然、ナイフが飛んできて、ナイフを光凰翼を使い防いだが、銃を持った人物がアルティナの懐へと入り込み、銃口を顎に突き付けた。

「貴様はッ?!」

「遅いぞ、アルティナ!」

銃声が轟く。
鮮血が飛び散り、アルティナの頬を掠めた銃弾は、天井にめり込んだ。
意識が銃の方に向けられていた隙に、ナイフの硬質的な感触が、喉元に突きつけられていたのに気付き、冷や汗を流す。
恐る恐る、その敵に視線を向けると、見た事のある顔がそこにあった。

「オルフェ・・・」

「フンッ、弱い。 貴様、今まで何をしていた?」

「・・・・・」

「こたえる気は無い、か。 まぁ、いいだろう、アルティナ貴様は・・・」

「それ以上言えば、私はここでお前を殺す・・・」

「いいだろう、やってみろ虐殺の堕天使(ジェノサイドエンジェル)!!」

オルフェと呼ばれた男が、銃を抜いてアルティナへと向ける。
微動だにせずに、アルティナはオルフェの身体をみている。
光凰翼を発動したまま、アルティナは立っており、その能力(ちから)を知っているため、オルフェは警戒していた。
トリガーにかけた指に力を込めて、銃を撃つ。
その僅かな動きを見切り、アルティナは光凰翼を使い、その銃弾を防ぎそのまま、攻撃行動へと移る。
光弾を発生させずに、光凰翼自体による攻撃に意表をついたらしく、左腕を巻き込まれて、鮮血と肉片が飛び散った。
僅かなうめき声を上げて、オルフェは吹き飛んだ左腕を見て、少し笑みを浮かべた後、アルティナの顔を見た。

「クククッ・・・なるほど、能力の使い方は完璧、と言うわけか。 だが、能力者には欠点があると言うのを忘れたわけではあるまいな?」

「忘れるわけは無い。 漆黒の雷皇(ザ・ブラック・オブ・プラズマ)の能力者であるお前も、そうだろう?」

「俺の漆黒の雷、浴びてみるか?」

オルフェがそう呟いた瞬間、アルティナはリヴァイダーを抜いて、トリガーを引いた。
無数の白い光弾ではなく、エネルギーが粒子砲の様に飛んでいく。
漆黒の雷を発生させて、リヴァイダーの超エネルギーの進行方向を歪ませ、アルティナの攻撃を防ぐとすぐに漆黒の雷が襲い掛かった。
右腕が肘辺りまで巻き込まれ、アルティナは苦痛の表情を浮かべ、オルフェへと銃を速射した。
雷の障壁を作り、それを防ぐと拳に雷を纏わせ、アルティナへと疾駆する。
迫り来るオルフェを肉眼で捕らえ、あの時の感覚をよみがえらせる。
炎をイメージし、それを光凰翼に上乗せした。
すると、光が構成していた翼が、激しく燃え上がった。
光翼弾の応用で、無数の炎の塊を自分の周囲に作り出し、それを発射した。
炎が軌跡を残して、オルフェへと向かい飛んだ。

「鳳翼炎弾(フレア・ブリット)!」

「なにッ?!」

意表を突かれ、ぎりぎりの所でそれを回避するが、熱波は確実にオルフェを痛みつけていた。
炎が周囲にあるものを焦がし、消えるとオルフェが不敵な笑みを浮かべ、アルティナへと向き直る。
その顔を見て、アルティナは黙り込んだ。

「クククッ・・・アハハハハハハッ!」

「・・・何がおかしい?」

「いや、お前もずいぶんと、なんていうかな。 人間らしくなったもんだ、と思ってな」

先程とは一変して、砕けた口調になっていた。
軽くため息をついて、アルティナは銃口をオルフェの足元へと向けて、速射。
弾丸がめり込み、オルフェはタップダンスの様に踊るように、足を動かしていた。
マガジンを交換してから、硝煙が上る銃口をオルフェの眉間に押し付けた。

「熱ッ、あぢぃって!!」

「黙れ、殺すぞ」

「殺す気もねぇクセに言うなっての」

「本当にそう思うか?」

「冗談・・・じゃないの?」

「あぁ、私は冗談が嫌いなんでな」

そういい、目を細めてトリガーにかけた指に、力を込めた。
銃声が響き、オルフェは笑みを浮かべ、アルティナの手首を掴んでおり、その銃口は天井を向いている。

「おい、マジで撃つか、普通?」

「さっき言っただろ、私は冗談が嫌いってな」

「全く・・・そういうところ、少しは直せよ? そうじゃねぇと、彼氏できねぇぞ」

「うるさい、お前には関係ない。 そこをどけ、通してもらうぞ」

「あぁ、別にいいぜ。 あいつ等に尻尾を振る義理なんざねぇからな」

「オルフェ・・・死ぬなよ」

「お、なに? お前、俺に惚れてんの?」

「・・・頭は大丈夫か、精神病院で診察してもらえ」

「あらら、何か扱い酷くねぇ? 一応俺はお前に銃器とかの扱い教えたのに」

「そんな物は過去の話だ。 それに、教えてもらったといっても、安全装置の解除だけだったが?」

「そ、そうだっけ?」

「あぁ。 殆ど独学だ、コレの使い方もな」

そういいながら、リヴァイダーに手を当てた。
彼女のリヴァイダーは『光翼の堕天使』と呼ばれる物で、その特性は彼女のもつ能力とほぼ同じであり、偶然、と呼ぶよりも必然的、と呼べる物だ。
遺跡を暴き、彼女はそれを手にした瞬間に、自分とは違う誰かが、自分の中で目覚めた感覚がしたらしく、ソレがきっかけで彼女は能力に目覚めたのだ。
ある学者によると、世界中に居る能力者の数は数千万とも言われており、その大半はリヴァイダーを所持、もしくは一度は所持した者達であり、リヴァイダーは所有者の潜在的な力を感知するとそれを開放し、能力に開眼させると言う学説を発表した人物が居り、恐らくはその学説は的を得ているとは言えるが、リヴァイダーの数には現在確認されているだけで、300程度の数しかない。
それでは、数千万もの人数が、たった300しかないリヴァイダーに触れた、と言うことになってしまう。
また、数千万の内の半数以上が、西部大陸にある世界最古とも言われ、世界最強の軍事力を持つと言われている『エルシェント帝国』と呼ばれる国にすんでいる。
炎、水、風、大地といった自然を操る能力や、空間等の事象を操る能力を持つ者達も居り、能力者は偶発的な発生ではなく、自然的に発生していると言う学説も発表されている。
アルティナはリヴァイダーから手を離し、部屋を出ようとすると、オルフェが声をかけた。

「アルティナ・・・真実は、一つじゃない、と言う事を心に留めて置いてくれ」

「・・・わかった」

短くそう答えると、アルティナは姿を消した。
少し笑みを浮かべて、オルフェは煙草を銜えて火をつける。
紫煙が立ち昇り、大きく息を吸ってから、肺にためた紫煙を吐き出した。
静かに笑みを浮かべて、銃を抜くと誰も居ない方向に銃口を向けて、口を開いた。

「でてこいよ、そこに居るんだろ?」

「ふぅ、流石と言うべきか・・・気配を殺していたつもりだったんだがな」

「アンタが、ここに居るとはね。 意外だったぜ、隆一のダンナ」

「フッ・・・アイツの動向が気になってな」

「おやおや、意外だねダンナがあのお嬢ちゃんの心配なんてよ。 命、狙われてんだろ?」

「あぁ」

「簡単に答えるなよな、ダンナ」

「喧しい。 それに、アイツが俺に憎しみを抱かせたのは、生かすためだ」

「生かすため、ね。 まぁ、アンタが何をしたのか知らないが、いろいろと込み入ってるみたいだな」

「そろそろ行かんとな、ここもやつらに嗅ぎつけられそうだ」

「やつら・・・?」

「お前も、死にたくなければ、すぐに此処から出るんだな」

隆一はそういうと、オルフェに背を向けてその場を後にした。
廊下を歩き、何人かの黒尽くめの人物が、隆一へと銃口を向けている。
一瞬、微笑を浮かべて、隆一は左手を腰に手を当てた。
何をするでもない、ただ立っているだけで、銃かリヴァイダーを抜く気配は無い。
ゆっくりと右腕を上げると、挑発する。
それを合図にしてか、サブマシンガンのトリガーを引いた。
断続的な銃声が廊下に響き渡る。
全ての弾丸は、隆一に命中するはずだった。
その弾丸は全て、隆一の目の前まで来ると消滅し、いきなり背中からの銃撃を受け、前のめりに倒れた。
隆一の能力『次元門(ディメンジョン・ゲート)』の力で、自分の目の前の空間と、黒装束の人物達の背後を接続したのだ。
彼の能力は、いわゆるワープと呼ばれる物で、それを自分の自由意志で行う事ができ、防御面に関しても彼の能力に敵うのは殆ど無いだろう。

「俺を殺したいのなら、この人数は少なすぎたな」

そう呟くと、隆一は自分の能力を使い、その場所から去っていった。
アルフェスは絶えず走り、両手に持った銃を撃っている。
周囲は、数十人ものアヴェンジャーの人間が包囲しており、アルフェスの銃の残弾の減りが早い。
マガジンを交換する時も常に動いていた。
弾薬もそこを付き始め、リヴァイダーを抜こうと周囲をうかがい、入念に辺りを探り、被害が少ない場所を見つけ出して、そこへとリヴァイダーを発射した。
爆音が轟き、コンクリを破壊して土砂や岩石が崩れ落ちてくる。
その隙をついて、アルフェスは全力疾走で、敵の合間を縫う様に進み、その場を走り去った。
かなり無茶な方法だが、敵を振り切りった。
いったん立ち止まり、後ろを振り返る。
追って来ている者は居ないのを確認すると、その場に座り込んで、大きく息を吸い込んだ。
どうやら、全力疾走で走り続けたため、軽い酸欠状態になったのだろう。
壁にもたれ掛かり、アルフェスは呼吸を整えるために、大きく呼吸を始めた。
目を閉じて、呼吸を正常化させるのを最優先させていた、そのときだ。
どこからか視線を感じた。
ゆっくりと目を開けて、辺りを見回すが、誰も見ている気配は無いが、誰かの視線を感じていた。

(・・・なんだ、この視線は? それに、この気配・・・以前にも感じた事がある?)

心の中で呟き、アルフェスは思考を巡らせる。
出した結論、それは、彼に苦い思い出を思い出させた。

「チッ、考えている暇はねぇな、さっさと進むか!」

気合を入れなおして、アルフェスは立ち上がると銃の残弾を確認した後、走り出した。
こうして、アルフェス達はらった四人で、半年というきわめて少ない時間の中で、世界中の軍事機関を破壊、壊滅させたアヴェンジャーの本部に乗り込み、司令室へと足を踏み入れようとしていた。
一番最初に到着したのはJ・Dで、ゴーグルを外して、扉を見つめた。
少しだけ、はにかんだ笑みを浮かべた後、靴音を聞いて慌ててゴーグルを付けて振り返ると、長い金髪と黒いジャケットとパンツの杏子の姿があった。
どうやら苦戦したらしく、幾つもの箇所にほつれがあった。
大きくため息を付いた後、ひざに手を付いて呼吸を整え始めた。
ふとした弾みに、杏子の胸の谷間が見えた。
頬を紅くし、慌てて背を向けた。
背を向けたJ・Dに気付き、その状態のまま口を開いた。

「どうしたのよ、急に背中向けて」

「え、いや・・・その、胸の谷間が・・・」

「え? あぁ、ゴメンゴメン」

そういいながらも、何故か谷間を強調するような姿勢のままだ。
どうにかしようと四苦八苦していると、アルティナが姿を見せた。
彼女も苦戦していたらしく、服にほつれがあった。
服装に問題があり、胸が露出しているのだが、それを気にする様子も無く平然と歩いていた。
J・Dは、ずっと二人に背を向けたまま、なにもしゃべらない。
アルフェスが来たのは、最後のアルティナに送れて1時間近く遅れてやってきた。
彼が一番苦労したのか服が。ズタボロだ。

「ったく・・・くそだりぃぜ」

「遅かったじゃない」

「しかたねぇだろ、通るルート全部にアヴェンジャーの囚人が待ち伏せてたんだからよ」

「ふぅん・・・まぁ、ご苦労さん、とだけ言っておくわ」

「チッ、そう思うんなら、目の保養させろ」

そういい、アルフェスは杏子が着ている下のタンクトップの襟元を引っ張り、中を覗きこんだ。
すぐに杏子の鉄拳が飛んで、アルフェスは手を離し、上半身だけを逸らしてそれを回避する。
上半身を元に戻した直後、アルフェスは杏子の胸を鷲掴みにした。
一瞬の沈黙の後に、杏子はため息を付くと、平手打ちをアルフェスの頬に叩き込もうとしたが、避けた。
もう一度、平手を叩き込むが、また避ける。
それを全て避けており、その合間にも手を離さなかった。
そのまま杏子を抱き寄せると、今度は杏子の弱い所を攻め始めた。
それを見て、アルティナが蹴りをアルフェスに叩き込み、二人のじゃれあいが終わった。

「アルフェス、お前は遊びに来たのか?」

「んなわけねぇだろ。 単なるじゃれあいだ」

そういうが、アルティナのジト目が突き刺さる。
居心地が悪く感じるが、そんな事を気にせずにアルフェスは、杏子のほうを見た。
現在着ているのは白いタンクトップのシャツで、ブラの肩紐等が見えている。
上着は、服がボロボロになったアルティナに貸しているので、あの様な格好をしていると言うわけだ。
ジャケットを脱ぐと、杏子に向けて投げた。
それを受け取ったがそれを着ずに、アルフェスの顔を見ている。

「ちょっと、アンタコレ着なくていいの?」

「だいじょうぶだろ?」

「ジャケットアーマー脱いだまま、ルーシェンと戦り合うつもり?」

「そんときになりゃ、返してもらうさ。 ソレまで着てろ」

「ありがと」

一言、たった一言の礼の言葉だが、重みがあった。
そんな二人を見て、アルティナに少しだけ、表情に陰りが生まれた。
二人の間には、言い表せない信頼関係があり、戦いの中で培われていた物だ。
それだけ長い間一緒に居て、背中を任せていたと言う事を考えると、アルティナは自嘲的な笑みを浮かべた。
常に一人で戦い、仲間すらも屠った時もあった。
あの二人のようにお互いを信用し、背中を護りあう者が居なかったのを思い出したのだろう。
全ては復讐のため、隆一を殺すために、アルティナはたった一人で戦い、生き延びてきた。
そして、彼女は『虐殺の堕天使(ジェノサイド・エンジェル)』と言うとおり名を得た。
ふと、視線を感じてアルティナは、そちらへと振り向いた。
J・Dが笑みを浮かべて、自分の事を見ていた。

「・・・どうかしたの?」

「いえ、何でもありませんよ。 僕がアナタを捕らえた時に比べて、角が取れたような気がしましてね」

「そうかしら?」

「えぇ、そうですよ。 アナタはあの時、誰も信用してなかったでしょう? 少なくとも、あなた今現在、アルフェスさんと杏子さん、僕は微妙だけど、信用しているでしょう?」

「多分・・・ね」

「それで良いんですよ、自信が無くても、後々つけていけばいいんですからね」

「そう・・・かもしれないわね」

少しだけ、笑みを浮かべたアルティナの顔を見て、J・Dは少し見とれてしまった。
初めて、彼女の笑みを見た。
優しい笑みを見て、J・Dは思わず彼女の顔を見入っていた。
視線に気付き、アルティナがJ・Dの方へと振り向き、口を開いた。

「私の顔に何か付いてる?」

「え、あ、いいえ、なんでもないです、なんでも」

「少し、気を引き締めたほうがいいんじゃない?」

「あ、あはははっ・・・・」

乾いた笑いを発して、J・Dはそれ以降黙り込んだ。
アルフェスは後ろを振り向いて、きょろきょろと辺りを見回した。
まるで、何かを探している様だった。
数秒程度で向き直り、銃を抜いてマガジンの数を確認した。
杏子は、目を閉じた。
恐らく能力を使い、未来を視るつもりだろう。
静寂の最中、アルフェスが口を開いた。

「お前らは此処から脱出しろ」

「どういうつもりだ、お前はルーシェンと一対一で戦うつもりか?」

「あぁ。 コレは後始末さ」

「後始末・・・? どういう意味ですか?」

「そのままの意味だ、俺の興した組織が犯した罪、そして組織の司令官は俺が決めたんだ、その尻拭いさ」

呟きで答え、J・Dとアルティナに帰れ、と言うジェスチャーをして目の前のコンソールに触れて、パスワードを入力していく。
キーロックがはずれ、扉に手をかけると杏子が口を開いた。

「だめ・・・ダメよ、アルフェス!!」

「ん、どうした、杏子?」

「行っちゃダメ」

「却下、行かないと戦乱は終わらねぇ」

「だ、だけど・・・」

「ッたく、お前は昔ッからそうだな。 未来詠み(リード・ザ・ホープ)で未来視て、その結果を信じて行動する。 そんな事してっからダメなんだよ、未来ってのは幾つにも枝分かれしてるんだ、お前はその一つを見てるだけにしかすぎねぇ」

「そんなの分かってるわよ! だけど、今回だけは譲れないわ!!」

決意を滲ませた瞳で、一心にアルフェスを見つめている。
その瞳を見て、ため息をつくと、J・Dとアルティナに目配せした。
視線に気付いて、J・Dはアルティナをつれてその場を去っていった。
居なくなったのを確認して、アルフェスは杏子の唇を奪った。
顔を離してアルフェスは笑みを浮かべた。

「そんなに、俺の事が信用できねぇのか?」

「・・・あなたの実力は、私が十二分に知ってるわ」

「だったら変な心配するんじゃねぇ、外で待ってろ」

そういい、アルフェスは扉を開けた。
熱風ともとれる熱い空気が、身体を包み込んだ。
だだっ広い部屋の中央に、ロングコートを着た男が背を向けて立っていた。
アルフェスはいったん立ち止まり、深呼吸をして部屋の中に足を踏み入れた。
それを合図に男が振り返り、銃を抜いた。
腰のホルスターに挿した銃・ズフィドST−1を抜いて、ゆっくりと中央に向けて歩いていく。
靴の音が部屋の中に響き渡る。
扉が閉まり、杏子は扉を見つめていたが、背を向けると走り出した。
部屋の中で、アルフェスと男が対峙している。

「御久しぶりです、アルフェス司令」

「俺はもう司令官じゃねぇんだ、ルーシェン、お前もそこんとこ理解しろや」

「私は認めませんよ、アヴェンジャーを組織したのはあなただ、そして組織の者達を統率するにはアナタのような強さとカリスマ性を併せ持った者なんですよ」

「だから、反乱を起こして俺を炙り出した、ってワケか。 芸の細かい事だな」

「フッ・・・引っかかってくれた助かりましたよ、あなたはもう一度、司令官となるべきなんですよ」

「断る、俺は政府の人間に尻尾を振るつもりはねぇ」

「ならば、力ずくででも・・・!!」

ルーシェンとアルフェスは同時に走った。
銃を連射しながら、お互いの距離が近づいていく。
ぎりぎりを掠めて飛ぶお互いの銃弾、それをものともせずに二人は近づきながら、銃を撃ち続ける。
残弾を確認する事無く、アルフェスはマガジンを落とし、背を向けて回し蹴りを放った。
攻撃をかわして、銃口を向けてトリガーを引く。
銃声、弾丸はアルフェスのジャケットの心臓部分に着弾。
痛みが走るが、血は流れ出ない。
にやりと笑みを浮かべ、更に攻撃を繰り出して行くと、ジャケットの内側からマガジンが飛び出した。
銃を持っている腕を振るい、空中でマガジンを装填すると、トリガーを引いた。
弾丸が頬を掠め、ルーシェンはアルフェスの眉間に銃口を突きつけ、トリガーを引いた。
コンマ一秒か、それ以下の判断で、銃身を弾き身体を左へと傾かせて、ルーシェンの懐に入り込むと、掌低を腹部に叩き込んだ。
それに耐える事無く、バックステップで威力を殺し、着地すると銃口をアルフェスに向けてトリガーを引き、速射。
一瞬の判断ミスが命を落とす事になり、アルフェスとルーシェンは舞いを舞う様にして、身体を動かし攻撃していく。
飛び交う弾丸、次第に部屋の中には硝煙の匂いしかしなくなり、二人の周囲には薬莢が飛び散っていた。
換えのマガジンが無くなり、アルフェスは鋭い蹴りを叩き込み、ルーシェンの身体がくの字におれた。
更にラッシュをかけて、左右のコンビネーションを叩き込んでいく。
上からの振り下ろしの右拳、それが避けられると肘を軸にして裏拳、左のストレートと次々に拳を叩き込んでいく。
アルフェスのラッシュを捌きながら、ルーシェンは合間合間に攻撃を叩き込む。
少々のダメージを覚悟していたのだろう、防ぐ事無くそれを受けて、絶えず燃え盛る猛火のような連撃を叩き込む。
お互い防御を無視し、相手を倒す事のみを考えて、殴りあう。

「アルフェスさん、アナタはやはり強い! その強さこそ、この組織を率いるにふさわしい!」

渾身の一撃を右のわき腹へと叩き込み、小さな呻き声を漏らしたアルフェスの側頭部に蹴りを放った。
蹴りが直撃し、アルフェスの身体が床に倒れ、追い討ちをかけるように拳を振り下ろした。
アルフェスの顔面を捉えていたが、腰を浮かし、そのまま身体を回転させ、腕で立ち上がり蹴りを放つ。
拳と蹴りがぶつかり、ルーシェンの攻撃を防ぎ蹴りを叩き込み、足を掴むとマウントポジションを取り、ルーシェンの顔を見る。
一瞬だけ笑みを浮かべて、アルフェスは握った拳を振り下ろした。
鈍い音、そして骨を折る感触が、拳を伝わってきた。
鼻骨が折れており、鼻が曲がっている。
だが、ルーシェンは足を使い、マウントポジションから逃れると体勢を立て直し、アルフェスの腕を取り関節を極める。

「くっ!」

「どうです、戻る気になりましたか?」

「何度も同じ事言わせるんじゃねぇくそボケッ!」

「・・・そうですか」

それと同時、アルフェスが声を上げずに痛みに耐え、腕を引き抜くと蹴りを叩き込み、間合いを取ると腕を押さえて立ち上がった。
腕がぶらぶらと揺れており、どうやら腕の関節が外れたようだ。
笑みを浮かべて、ルーシェンは口の端からこぼれた血を拭い、アルフェスを見る。
関節を無理矢理はめ込み、アルフェスは癒しの極光を使い、痛みを和らげると銃を抜いた。
もう残弾は殆ど無い、後はリヴァイダーに頼るのみだ。
ルーシェンは銃を拾い上げ、残弾を確認する。
どうやら、彼も換えのマガジンが付き始めているようだ。
だだっ広い部屋、一応は司令室なのだが、ルーシェンの意向により改造されており、何も無いただ広いだけの部屋になっている。
天井も10フォンス以上はあり、階上にあった部屋を壊し、一つにしたのだろう。
恐らくは、この部屋でアルフェスとの戦いを予想していたのかもしれない。
二人は自然と笑みを浮かべ、向かい合った。






やけに心臓の音が耳に付く。
あの人は、私を見つめたまま微動だにしない。
私は、あの人に勝てるのだろうか・・・?
だめだ、こう思っているだけでは、あの人には勝てない!
私は今日こそ、あの人を超えてみせる・・・絶対にだッ!!






ルーシェンが先に動いた。
銃を構え、トリガーを引く。
銃声が部屋の中にこだまし、アルフェスも銃を構えてトリガーを引いた。
弾丸は二人の頬を腕を掠めて過ぎ去っていく。
それを合図に、二人は走った。
銃を撃ち、相手をけん制しながら間合いを図り、ルーシェンがリヴァイダーを抜き、トリガーを引く。
黄色いエネルギーの流動、銃口からエネルギーが放射されて、アルフェスを襲った。
ライトシールドでそれを受け止めるが、エネルギーの絶対量の差か、すぐにエネルギー切れに近づき、リヴァイダーのエネルギーに逆らわずに手を傾けて、その力の方向を変えてリヴァイダーの攻撃を凌ぎ、アルフェスが走った。
リヴァイダー・デッドムーン(死を導く月)から、エネルギーが放出され、すんでの所でサイドステップでかわすと再びルーシェンに向けて疾駆する。
ルーシェンの懐に入り込み、ライトシールドを展開したまま拳を握りこむと、渾身の力を持って鳩尾へとそれを叩き込んだ。
一瞬、身体が浮き、返す刀でアルフェスのハイキックを放つ。
僅かな差で、ハイキックを防ぎ着地すると、アルフェスの顔が迫ってきていた。
全体重をかけて、スピードの乗った拳をルーシェンへと叩き込んだ。
これもギリギリで防ぐと、今度はルーシェンが攻撃を開始する。
左の連打で間合いを図りながら、時折右のストレートを放つ。
鼻先を掠めて、ストレートが顔の真横を通り過ぎ、反撃に出ようとした矢先、顎先に衝撃が走った。
先程の右ストレートが、下からのアッパーカットに変化していたのだ。
のけぞったアルフェスの隙を突き、リヴァイダーを引き抜き、トリガーを引く。
黄色いエネルギーが集約。
一気にソレが開放され、アルフェスへと襲い掛かった。
仰け反っていたままバック転で着地すると、ライトシールドの全エネルギーを集中して、デッドムーンのエネルギーを受け止めた。
バチバチと紫電を発し、ライトシールドのエネルギー残量が残り少なくなる。
意識を集中させて、アルフェスは能力を使う。
すると、目の前の空間が歪み始めた。
『次元門』の能力が発動した。
ライトシールドのエネルギーが無くなり、アルフェスはバックステップで距離を取ると同時、リヴァイダーのエネルギーがアルフェスが開けた空間の穴の中に消えていった。
笑みを浮かべて、アルフェスは意識が遠のき始めるのを感じ、歯を食いしばり意識を保つ。
辛うじて意識を肉体に繋ぎとめると、アルフェスは一歩前に踏み出した。
奇妙な威圧感を感じ、ルーシェンは一歩後退する。

「強く・・・なったじゃねぇか、ルーシェン」

「強く・・・なった? 私が?」

「あぁ。 強くなった、俺が保障してやる」

「・・・だが、私はまだアナタを超えていない、超えなければ・・・私は私を許す事は出来ないッ!」

「許す、だと? お前は、自分がやった事を分かってるんだろ? 世界中を恐怖に陥れ、幸せな家庭を築いていた者達の幸せを破壊し、両親を殺されて孤児となった子ども達が、どんな思いで恐怖から逃げて生きていると思ってやがるッ!!」

アルフェスの叫び。
彼の真摯な瞳から目を背け、ルーシェンは目を閉じた。
そう、初めからわかっていた、いま自分がしている事を理解していた。
罪・・・アルフェスを超えると言う自分の目的のために、何の罪も無い者達をアナハイラスの囚人に殺させた。
死んでいった者達、死に逝く者達・・・今でもソレは続いているかもしれない。
それゆえか、彼等はたった二人で、世界中を飛び回り、希望と言う種を植え続けた。
アルフェスと杏子。
二人は、アヴェンジャーの創始者として、ルーシェンの犯した罪を償ってきた。
だからこそ、彼は超えたいと思うのだろう・・・憧れていた彼を。
背中を追いかけ続け、ようやく見え始めた偉大な男を超えて、そして彼は初めて一人で歩けるだろうと、信じていた。

「ルーシェン・・・お前のやった事はゆるされねぇんだ。 お前は、死して自分の罪を償うつもりなんだろう?」

「えぇ、それがこの戦乱を起こした私の罪の償い・・・」

「一つ言っておく、お前のその考えはただの逃避だ。 本当に罪を償うと言うのならば、生きろ。 悪と言う汚名を着て、全ての人間に非難されても生きろ・・・ソレがこの戦乱を起こした唯一の償いだ」

「黙れ・・・黙れぇッ!!」

ルーシェンが叫びと共に、能力を開放した。
彼の身体が、真紅に染まってゆく。
叫び・・・いや、咆哮といえばいいだろうか、ルーシェンが顔を真っ直ぐにアルフェスへと向けた。

「・・・真紅の暴君(ライオット・ザ・クリムゾン)か」

「ヴォオオアァァァァァァッ!!」

一呼吸の合間。
鳩尾へとルーシェンの拳が突き刺さり、肺にたまっていた空気が吐き出される。
咳き込む前に次の一撃が、アルフェスの顎へと叩き込まれる。
天井へとめり込み、アルフェスの身体がゆっくりと宙に舞い、床へと落ちていく。
意識は朦朧としており、着地する事が出来ず頭から落ち、意識が混濁とした闇へと、堕ちた。
ルーシェンは、ゆっくりとアルフェスへと近づいていき、真紅に染まった自分の身体を見て別の高揚感を覚えた。
衝動、と言えばいいだろうか、血が見たくなってきた。
ゆっくりと、倒れ付しているアルフェスを見て、歪んだ笑みを浮かべる。
そして、一歩一歩、ゆっくりと歩み、近づいていく。
その時だった。
アルフェスが目を開けた。
その瞳は真紅に染まっており、ギロリ、とルーシェンのほうへと向けられた。
仰向けに倒れているアルフェスはひざを立てた。
そして、足に力を込めて、腰が浮くと徐々に上半身が起き上がっていく。
完全に立ち上がり、アルフェスはゆっくりと息を吐き出した。
笑みを浮かべて、ルーシェンを見た。
僅かに、彼の身体が身じろいだ。
一歩、踏み出す。
圧倒的な威圧感を発し、ルーシェンに近づいていく。
犬歯が伸びて、牙の様になった。
歯を食いしばり、渾身の一撃を見舞うために、腰ダメに力をため始めた。
意識があるかは分からない、だが確実にアルフェスの身体には異変が起きていた・・・
朦朧としている意識の中、アルフェスは自分の身体に起きている異変に、気付いていた。
だが、それは自分の身体にとっては、当然の事だと認識している。
それを受け入れて、アルフェスはゆっくりと息を吐き、瞳を閉じたまま顔を上げる。







ルーシェン、本当に強くなったよ、お前は。 だけどな、俺は負けられねぇ・・・ アイツを二度と哀しませたくねぇ、アイツは俺に生きる道を示してくれた。 親の愛を殆ど知らずに育ち、誰も信じなかった俺を信じ、そして信じさせてくれたんだ。 つらい時も哀しい時も、アイツはそばに居てくれた。 だから・・・だからアイツに、翔已が死んだ時のように、哀しみに暮れさせるワケにはいかねぇんだよぉっ!! 絶対に、絶対に生きて帰るッ!! そう約束したんだ、アイツと・・・杏子とッ!






ドクン。
心臓の音が、アルフェスの耳に付いた。
次第に、その音が大きくなっていく。
視界が広がり、目の前が赤く染まっている。
アルフェスは拳を振るった。
ソレとほぼ同時、ルーシェンも拳を振るっていた。
拳と拳がぶつかり合う。
ほぼ一方的に、ルーシェンの拳が砕けた。
血が流れ出て、それでも砕けた拳を振るい、アルフェスへと攻撃を仕掛ける。
アルフェスはそれを受け止めもせず、顔面に受けて、ひるむ事無くアルフェスは膝蹴りを鳩尾へと突き刺した。
ルーシェンの身体が宙を舞い、壁に叩きつけられた。
更に追い討ちをかけるようにして、アルフェスが疾駆した。
左拳に全ての力を込めて、ルーシェンへとたたきつけた。
壁を貫き、隣の部屋へとルーシェンの身体は落ちた。

「・・・・・・どうした、俺を超えるんじゃねぇのか、ルーシェン!!」

「ま、だ・・・まだァッ!!」

その叫びと同時、その一撃に全てを賭けるのか、己の持てる力をすべて右の拳にこめた。
最後の一撃。
この一撃を防ぎきれば、アルフェスが勝利する。
だが、アルフェスの身体にも徐々に限界が近づき始めており、顔が少し苦しそうだ。
静寂が訪れる。
相手の出方を伺い、二人は黙ったまま向かい合っている。
口を開かない。
ただ黙り込み、目で語り合い・・・ルーシェンが動いた。
裂帛の気合と共に、アルフェスとの間合いを詰めた。
微動だにせずに、その一撃を受けた。
血が飛び散り、アルフェスは肩ひざを付いた。
ルーシェンが笑みを浮かべて、倒れた。
血が流れ出ていき、血の海を作り出していく。

「大丈夫か、ルーシェン?」

「え、えぇ・・・力を使い過ぎた様ですね、暫くすれば動けます」

「そうか。 まだ、死にたいと思うのか、お前は?」

「・・・いえ、私は生きようと思います。 アルフェスさん、いつかはあなたを越えてみせる、それがこの戦乱で死んでいった者達への、私なりの贖罪です」

「ハハハッ、まぁ、頑張んな」

アルフェスはそういい、座り込んだ。
どうやら、彼も限界だったらしく、手に力が入っていない。
両手をゆかについて、身体を支えて天井を仰ぐ。
大きく息を吐き出してから、両足に力を込めて立ち上がった。
ルーシェンの所へと歩いて近づいていき、目の前に立つと手を差し出した。
笑みを浮かべており、ルーシェンはアルフェスの手をとり、ゆっくりと立ち上がった。
膝が笑っており、アルフェスの肩を借りて、歩き出した。

「ルーシェン、お前は死んだ事にしておく。 偽名を使って生きろ」

「え?」

「そのほうが良いだろ? どの道、お前は生きていたらアルシオン連邦政府から極刑が下されるだけだからな、だからお前は死ぬんだ、存在だけな」

「・・・わかりました」

「全く、手のかかるヤツだな」

「す、すみません・・・」

「まぁいいさ、きにすんな。 それより、ATの格納庫はかえてねぇな?」

「えぇ、以前と同じ地下2階です」

二人は歩調を合わせて、地下二階へと歩みを進めた。
何事も無く、後二つ上が地下二階、と言うところまで来た途端に、警報が鳴り響いた。
無機質な女性の声が流れ、二人は警報の理由を悟る。
連邦政府がATの一個大隊を率い、この場所へと攻め込んできたのだ。
二人は小走りに走り、ATの格納庫へと急いだ。
ATの一個大隊が来るまで、約30分程だ。
普段の状態なら十分もかからずに行けるが、現在の状態ならば20分程かかり、そこからATを起動させると30分はかかり、ギリギリだろう。
二人はできるだけ足を速めて、ATの格納庫へ急ぐ。
衝撃、恐らくは先程の警報を聞いた生き残りの者達が、ATに乗って出撃したのだろう。

「格納庫にATが残ってりゃいいな」

「私のAT・蒼白騎士(ホワイテッド・ナイト)は確実にありますが、生き残りの数によりますね」

「しゃあねぇな、急ぐぞ」

「はいッ!」

二人は更に歩調を速め、走った。
殆ど、歩いているような早さだが、先程よりも早い。
格納庫に着くと、ルーシェンは自分のATに乗り込むと、駆動機である対消滅駆動機(ヴァニッシュ・リアクター)を作動させる。
駆動音が操術室に響く。
アルフェスは自分が乗るATを探しており、ルーシェンは起動した蒼白騎士を地上へと出して、空を飛んだ。
一騎の聖剣騎士(ソード・パラディン)を見つけ、それに乗り込んだ。
駆動機は一般的な聖霊呪駆動機(エレメンタル・リアクター)で、駆動機を起動させると、ルーシェンと同じ様に空へと躍り出た。
既に、ルーシェンは戦闘を開始しており、数騎のATを撃墜している。
アルフェスは恐らくは、近くに居る杏子達を探し始めた。
ルーシェンは期待を加速させて、滅翔剣(アッシュ・ブレード)を振るい、ATを撃墜していく。
斬撃を叩き込み、すぐに離脱、一拍の間を置いて爆発し、爆発音と爆炎を発する。
加速、そして斬撃を叩き込んだ後に、離脱、そして空を爆発が彩る。
ルーシェンの乗る蒼白騎士が空を加速する度に、連邦政府のATが撃墜されていく。
一騎、アルフェスたちの襲撃を生き延びた者の乗るATが、撃墜され、爆発の炎が青い空を彩る。

「くッ・・・アルフェスさんとの戦いの傷が響くか」

「し、司令、指示を!!」

「四騎の編隊を組め、指揮は臨機応変にしろ! 上も下も無い、生き延びたければ入ってくる指示に従え、良いな!!」

「り、了解!」

ルーシェンの指示を聞き、すぐさま四騎の編隊を組み、戦闘を開始。
やはり、個々の実力が高いためか、エルシェント帝国を除く連合軍の相手も十二分に務まっている。
アルフェスの課した試験は伊達ではなく、アルフェスに最低でも1分を相手にする程の実力を持つため、並みの相手では相手にはならない・・・のだが、流石に数で押されると苦しいのか、徐々にだが押され始めた。
アルフェスはと言うと、杏子達を探し出して、自分の乗るATの副座にアルティナと冬真を押し込んで、杏子は自分の膝の上に乗せて光剣を抜いて、空に騎体を舞わせた。 加速し、Gが身体をシートに押し付ける。
それに耐えて、光剣を振るう。
爆音が響き、連邦正規のAT白聖剣士(ホワイト・セイバー)が一騎、また一騎と撃墜されていく。
途中、一騎を捕まえて、冬真とアルティナが白聖剣士へと飛び移り、騎体を乗っ取ると再び先頭を開始する。
光砲での攻撃を光盾で防ぎ、一気に間合いを詰めて斬撃を放ち、離脱すると次の標的に目指して翔る。
また爆音が響き、敵を撃墜していく。
アルフェスと冬真の操る白聖剣士は、背中を護りあうように敵を撃破していった。
時折、アルフェスが檄を飛ばし、士気をあげて攻勢に出る。

「杏子、未来詠み(リード・ザ・ホープ)で未来を見ろ、俺の予測が正しければ・・・」

「分かったわ、多分、あなたの予測は的を得ていると思うけどね。 準備は怠らないようにしておいて」

「わかっている」

アルフェスの答えを聞き、杏子は目を閉じた。
彼女の周りに、うっすらと淡い光が灯る。
杏子に意識を向けつつ、ATの操術を行い、敵騎を撃墜していく。
光剣を振るいながら、アルフェスは騎体を上昇させていき、杏子が目を開けた。
ゆっくりと、アルフェスへと顔を向けて、口を開いた。

「あなたの予想通り、よ」

「そうか、そりゃなによりだな・・・」

「この騎体で、止められると思う?」

「そんなの、やってみなけりゃわかんねぇさ」

そう言い返して、アルフェスは各騎に通信を送る。

「各騎に告ぐ、蒼光弾(エクスティンクション・ブリット)が此処に向けて発射されてる、さっさと非難しろ! 敵騎にかまうんじゃねぇ、全速力でこの場所から非難しろ、良いなッ!」

叫び声だけが各騎の操術室内に響き、一瞬だけ戦闘が停止する。
そして、再び機体が動き出した。
作戦を説明されていなかったのか、慌てた様子で敵一個大隊が逃げていく。
ルーシェンや冬真の乗るATはその場を動かず、アルフェスの騎体へと向けて加速していった。
アルフェスのアップが、操術室内に映し出されて、冬真とアルティナは耳をふさいだ。

「逃げろつってんだろうが!」

「そうは言ってもですね、蒼光弾なら此処はおろか最低でも半径2〜300フィースは消滅しますからね、逃げても無駄ですよ」

「J・Dの言うとおりです、アルフェスさん。 アナタは死ぬつもりでしょう?」

「チッ、なまじ経験積んでるとダメっぽいな」

「それより、あの基地内にはまだ誰か居るのか?」

「あぁ・・・マリアのヤツが多分まだ気絶してると思う」

「あれ、マリアさんと一戦交えたんですか?」

「まぁな。 気絶させて、安全な場所に寝かせておいたんだが、蒼光弾が着弾となりゃ遺体ものこらねぇからな。 それに、バニシングブリットん時は、黒霊騎士に乗ってたからギリギリで助かったようなもんだ」

そういい、再び加速させて蒼光弾の弾頭を切り落とし、ルーシェンの蒼白騎士がそれを掴み、加速した。
白い光が装甲から発生し、装甲が軋み変化していく。
光が弾け、装甲が変化した蒼白騎士が姿を見せた。
蒼光弾の弾頭を抱えたまま、遥か天空へと加速していく。

「ルーシェン! なにやってやがるんだ!!」

「アルフェスさん・・・すみません。 私は、私は・・・!」

そう呟き、通信をきった。
アルフェスは何度も通信を送るが、通信装置自体を破壊したのか、通じなかった。
杏子は、この事が分かっていたのか、涙を流している。
コンソールを殴りつけて、アルフェスは叫んだ。

「・・・お前は、生きるっつったんだろ、馬鹿野郎ッ!!」

直後、青い光が遥か上空に発生した。
青い光を見つめて、アルフェスは涙を流した。
J・Dは、空を見上げた。
まばゆい光、それを見つめながら、ゴーグルに手をかけるとそれを取った。
蒼い瞳が空を見つめ、涙がこぼれた。
J・Dの膝の上に座り、アルティナは彼の素顔を初めて見た。
少年のあどけなさを残した顔、それでいて強い意志を秘めた蒼い瞳。
目を引いたのが、右目に埋め込まれている黒い石だ。
アルティナの視線に気付いたのか、J・Dがアルティナへと顔を向ける。

「どうしました、僕の顔に何か付いてますか?」

「え、いえ、な、なんでもないわ」

「そうですか・・・それより、顔が赤いですよ?」

「ほ、ホントになんでもないから!」

「そうですか」

そう言い返して、J・Dは流れた涙を拭う。
一息吐き、口を開いた。
アルティナは身体を抱きしめられた。
胸の辺りに、固い感触を感じて、振りほどこうとしたが、かすかに嗚咽が漏れているのに気付いた。
泣いているのだ。
ルーシェンの死によって、自分が生きていると言う事に感謝しつつ、彼の事を罵倒しているだろう。
アルティナはJ・Dの頭に手を回して、優しく抱きしめた。
僅かにJ・Dの身体がびくつくが、再び肩を震わせる。

「・・・馬鹿野郎、僕との決着を・・・付けるんじゃなかったのかよ」

耳を澄まさなければならない程の小さな声で、J・Dが呟いた。
そしてまた嗚咽を漏らし、泣き出した。
自然と、アルティナはJ・Dを落ち着かせるために、彼の頭を優しく撫で始めた。
あの頃と同じ様な感覚、まだ家族と共に暮らしていた頃、既に忘れていたモノを感じていた。
全てを覆い包み、安らぎを与える・・・慈悲と言うものを感じていたのだ。
アルティナは、小さく唇を動かす。

「大丈夫・・・彼は生きてるわきっと。 J・D、あなたとの決着を付けるために、また戻ってくるわ」

そういい、アルティナは再び、J・Dを優しく抱きしめた。














それから時が過ぎ、三ヶ月もの時が過ぎた。
J・Dは一人、旧アヴェンジャー本部に足を運んでいた。
もう、誰も来る事の無い遊園地、その地下に自分が勤めていた組織の本部がある。
そんな事を思い出し、それが遠い昔のように思えてしまい、J・Dは笑みを浮かべた。
手には一輪の花があり、あの後、奇跡的に落ちてきた蒼白騎士の持つ滅翔剣が遊園地の中央に突き刺さり、その刃に彼の名前を刻み込み、彼の墓標としたのだ。
ただ一人、J・Dはその場所を訪れており、花を添えた。
天を仰ぐ。
青い空が広がっており、太陽がまばゆいほどだ。
手で影を作り、空を見つめていると一騎のATがこちらへと向かっているのに気付いた。
恐らく、炎による陽炎のゆらめき。
アルティナの乗るAT炎熱天使(フラム・アーンジェ)と推測し、それに向かって手を振った。
それに気付いたのか、ATが降りてくる。
ATの動力炉が止まり、一人の女性が降りて来た。
金髪のセミショートの女性、アルティナ=レイドナーだ。

「やぁ、アルティナさん」

「なにかようなの、冬真?」

「いや、別にこれと言った用は無かったんですが、顔が見たかったんで」

「用がないなら呼び出さないでくれる? 私も忙しいんだから」

「すみません・・・」
「で、どうかしたの? なんだか、浮かない顔をしているわ」
「わかりますか、やっぱり?」

「分からないほうがどうかしてるわ」

アルティナはそういい、J・D・・・冬真と呼んだ青年に近づいていく。
眼前まで来ると、手を伸ばしてゴーグルに手をかけて、それを外した。
青い瞳と黒い石がアルティナを捕らえる。

「アルティナさん、僕は・・・」

「ストップ。 それ以上は言わないで、私はそれほど強くは無いわ」

そう言って、冬真にもたれ掛かった。
頬を高潮させて、冬真は抱きしめようと手を回したが、動きが止まり手が空中とまりワキワキと動かしている。
顔を上げ、アルティナは冬真の唇を奪う。
あの日、アヴェンジャー本部壊滅の翌日、アルティナがイキナリ冬真のすむ家に転がり込んできたのだ。
その理由が、居候していたアルフェスと杏子が失踪してしまい、行く宛がなくなったため、J・D・・・冬真の家を探し出したと言うのだ。
その後も新しい転居先を探す事無く、冬真の家に住み着いている。
最初は遠慮していたのだが、最近では全く遠慮はしないため、冬真も少しあきらめていたらしい。
そして、その日から二ヵ月半以上の時が流れ、お互いに意識しあっている。

「・・・大丈夫ですよ、僕はあなたをつれて実家に戻るのを考えてますからね」

冬真がそういい、笑みを浮かべる。
その言葉を聞いて、アルティナは少し頬を赤らめた。
ちなみに、彼女が名前を知っているのは、一緒に住んでいるのに何時までも『J・D』では不便なので、本名を教えたからだ。

「さて、アルフェスさんのところに顔を出してみましょうか。 居場所が分かりましたし」

「そうね・・・アレから三ヶ月、あの日の翌日に姿くらましたから、少し文句いいたいわね」

「それじゃあ、いきましょうか」

そう告げて、冬真は自分の車に乗り込んだ。
アルティナはその場所に炎熱天使を放置したまま、車の助手席に乗り込んだ。
新たなる戦いを告げる鐘が、鳴っていることを二人は知らない。
























































TO BE CONTINUED








For








Eternal Shine

















































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