GUN BRAVE IGNITION
〜BOY MEET GIRL IN STIAFORD WAR〜















第一幕 Guest of honor in the Stiaford















真・聖暦2016年 一角馬(ユニコーン)の月

世界の中心都市"ユナイテッド・アーツ"より、南西800フィースの地点に一つの巨大な都市があった。
ユナイテッド・アーツと同等で、その都市独自の軍事力を持ち、都市と言うより国家と呼べるものである。
当時の最新型のARMORED TROOPER(アーマードトルーパー)・・・通称ATと呼ばれる人型の機動兵器である"剣聖(ソード・セイント)"、と言う騎体十数騎で編成されたAT部隊があり、"騎士の大鎌(ナイツ・オブ・ハーケン)"と呼ばれていた。
難攻不落、と言っても過言ではないそんな国家に近い都市に不穏な影が迫りつつあった。
そこへ向かう、一台の車・・・その中には、3人の人間が乗っていた。
一人は、紺色の髪に青い瞳を持ち、不機嫌そうな顔をした少年。
もう1人は、金髪に黒い瞳の青年・・・いや、少年と言うべきだろうか。
最後の一人は、金髪のショートヘアーで、青い瞳の少女の三人である。
全員が15歳位で、まだ若々しい。

「で・・・・なんで、スティアフォードに行くんだ?」

不機嫌そうな顔をした少年が、口を開いた。

「おいおい、戦ってばっかで頭腐ってんのか? 遊びに行くに決まってんだろ」

「それは良いとしてだ、何故俺を?」

「アルフェスさんが居た方が楽しいかな〜〜と思って」

「ったく・・・・」

アルフェスと呼ばれた少年は、後ろを振り向いた。
その視界に数台の車が目に入る。
・・・しかも、その全てに銃器を持った人間が乗っている。
ねらいは誰か、とアルフェス考えた。
自分達はただ羽根を伸ばしに行くだけで、依頼があった訳ではない。
そう、純粋に何も無かった。スフィードの言うとおり、ただ遊びに行くだけらしい。
それでも、まだ両手で数えられる戦場経験だが、何か嫌な予感がしていた。

「スフィード・・・・もう少し、スピードをあげれないか?」

「ん〜〜〜まぁ、何とかしてくれ。 お前なら大丈夫だろ?」

スフィードと呼ばれた少年は、バックミラーで確認しながら言う。
アクセルを踏み込む様子はなく、同じスピードで奔っている。
アルフェスは、アタッシュケースを開けて分解されているライフルを組立始めた。
それとほぼ同時ぐらいか、銃撃が襲い掛かってきた。

「エリシア、少し時間稼ぎをしてくれないか?」

「は〜い♪」

エリシアと呼ばれた少女は、銃を抜き窓から身を乗り出して撃つ。
銃声が聞こえ、後方の車に命中する。
フロントガラスに罅が入り、車が蛇行、しかしすぐに真っ直ぐと奔り始めた。

「あらぁ〜〜〜効き目殆どないですね・・・・」

「俺のを使うか?」

「スフィードの銃は、反動が大きすぎて私には使えませんよ」

そう言いながら、エリシアは銃のトリガーを引く。
そのたびに、車のフロントガラスに罅が入る。
既に、5台ほどの車のフロントガラスに罅が入っていた。

「・・・エリシア、後は俺がやる」

そう言い、ライフルを持ったアルフェスはサンフールを開け、身体を出す。

「それじゃあ、よろしくお願いしますね」

エリシアはそう言い、車の中に身体を引っ込めた。
ローゼン社のライフル・ヴィルトMTG−4を手にしたアルフェスは、後続の車を見てサングラスを胸ポケットへと差し込んだ。
左肘を置いて銃身を支え、ライフルを構え照準を合わせる。
アルフェスは上唇を一舐めし、トリガーを引いた。銃声が聞こえるが、すぐに遠ざかる。
それと同時に、後続の車が蛇行してそのまま壁にぶつかり爆発、炎上した。
銃を撃ってくるが、アルフェスはひるむ様子もなくトリガーを引く。
車の振動が照準をずらすが、それをものともせず車を破壊していった。

「コイツで・・・・ラストだ」

再び上唇を舐め、トリガーを引く。
最後の一台が、壁に激突し炎を上げた。

「早くしろ、すぐに次が来るぞ」

「へいへい、もうすぐだから心配すんな」

呆れたように言い、スフィードはアクセルを踏み込んだ。
三人の乗る車は、スティアフォードへと到着した。
それとは別に、スティアフォードに入った車があった。
黒のオープンカーで、その車を運転しているのは、サングラスをかけた金髪の男だ。
その男はふと、隣にいる少女を見る。
その少女は頬杖を付き、ぼ〜っと流れる景色を見ていた。

「杏子、どうした?」

杏子、と呼ばれた少女は振り返り、男の方を向く。
プラチナブロンドの長い髪が、風に吹かれ靡いている。
その黒い瞳が、その男の顔を見る。

「何、兄さん」

「いや、ただボーっとしていたからな、声をかけてみただけだ」

「別にボーっと何かしてないわ」

「どうだかね・・・・ま、何にせよ油断するなよ?」

「分かってるわよ、いつまでも子ども扱いしないでよ」

「ハハハッ、俺に比べればお前はまだまだ子どもさ」

「もぉ!!」

杏子は、頬を膨らましそっぽ向いた。
彼女の名は杏子=D=ラインハルト。
そして、車を運転しているのは彼女の兄であり、師でもある翔已=S=ラインハルトである。
その時だった、銃声が聞こえたのは。
翔已は、バックミラーで後ろを確認する。
ある車から少女が乗り出し、銃を撃っていたのだ。

「どうやら、もめ事らしいな・・・・」

そう言い、アクセルを踏む。
スピードが上がり、後ろの車と離れていく。
銃声が幾度も聞こえるが、彼等の乗った車は止まる様子はない。
杏子は再び頬杖をつき、流れる景色を見つめていた。
たまに爆発音が耳にはいるが、それを無視し車は進んでいく。

(兄さんったら、いつまでも子ども扱いするんだから・・・)

「何考えてるんだ?」

翔已とは違う声が、杏子の耳に入る。
後部座席に座っている男で、彼女の兄・翔已の友人であるティオン=シェードだ。
銀髪の髪に、蒼い双眼が彼女の顔を見る。

「別に・・・・」

素っ気ない声で、杏子は答える。
ヤレヤレと肩をすくめ、ティオンは再び後ろを見た。
どうやら、先程の騒動が終わったらしく、普通に車は奔っている。
そして、彼等の乗る車がスティアフォードに到着した。
またその一方で、スティアフォードに向う飛行機に、その二人は居た。
乱雑な銀髪の少年と、黒い髪を持った少女が座席に座っている。

「そろそろ起きなさい、もうすぐ到着よ」

黒い髪の少女が、隣の少年に声をかける。
少年は目を開けて虚ろな目で、辺りを見回す。

「あれ? 何で僕ここにいるの?」

「まだ寝ぼけてるみたいね・・・・」

少女は、少し不安そうな顔をして、隣の少年の顔を見る。
10歳位の少年は、ただ隣にいる少女の顔を見ていた。

「姉さん、ここ何処?」

「スティアフォード行きの飛行機の中よ」

少女は少年の問いに答える。
ようやく意識がハッキリしてきたのか、少年は状況を判断した。

「えっと・・・確か、"10歳で戦場に行く"と言う家訓が適応されて、姉さんと一緒に行くことになったんだっけ・・・・?」

「残念ながら、スティアフォードで戦争が始まる、って分けじゃないわよ?」

「うん、分かってる。僕としては起こらない方が良いかなぁ・・・って」

笑みを浮かべた少年の黒い両目が、隣にいる少女を見つめる。
屈託のない笑み、そして何より、その無邪気さが現れていた。
少女は笑みを浮かべ、少年の頭を撫でた。

「いい子ね、シートベルトしめて起きなさい」

「は〜〜い」

少年は少女の言うことを聞き、シートベルトを締めた。
この少年の名は冬真=J=ドラッケン・・・当時10歳である。
後に、DOOMと言う宝玉を左目に埋め込みJ・Dと名乗る事となる。
そして、隣にいる黒髪の少女は彼女の姉・春菜=A=ドラッケン・・・当時14歳。

「夏美と秋斗兄さんは?」

「夏美はまだ当分先よ、秋斗はバイクで向かってるわ」

「ふ〜〜〜ん」

「もうすぐ着陸・・・・・とは行かないみたいね」

春菜はそう言い、前の方を見る。
すると、銃を持った人間が数名立ち上がった。
ハイジャックと呼ばれる、今では不効率極まりない犯罪方法の一つである。

(オズヴェルト社製のマシンガン・・・ルギアGH−19Zに手榴弾か・・・・)

(それに、クロイツ社製のクーゲルD−FG2もあるよ)

「おい、そこ・・・何を話している?」

ハイジャック犯の一人が、二人の座っているシートへゆっくりと近づいてくる。
春菜は、シートベルトを音を起てず外し、隙あらば飛びかかろうとシートに座っていた。
冬真も同じように、いつでも飛び出せるように準備をしていた。
ハイジャック犯の一人が、春菜の顔を見て口笛を吹く。

「ほぉ・・・なかなかいい女だ。 だが、若すぎるな」

「それはどうも、ありがとうございます!!」

春菜が立ち上がり、目の前にいる男に掌底を叩き込む。
それに続き冬真が動いた。
マシンガンと手榴弾を奪い取り、マシンガンを構える。

「チェックメイトよ、貴方達も無駄な抵抗はやめなさい。 私達には敵わないわよ?」

そう言い、笑みを浮かべる春菜。
年上のハイジャック犯に対しても、高圧的な態度と物腰だ。
そんな彼女に従うわけもなく、一人が人質を取る。

「やれやれ・・・ダメデスよ、そんな事しちゃ」

いつの間にか、ハイジャック犯の懐に潜り込んでいた冬真は、突き上げの形のアッパーを見舞う。
外見は幼いものの、その威力は極めて高い。
一瞬、身体が宙に浮き、更に体を回して上段の後ろ回し蹴りを放つ。
子どもとは思えないほどの強力な回し蹴りが、側頭部へと入った。
そのまま、その男は昏倒した。

「冬真、私はファーストへ行ってみるから、冬真はコクピットへ」

「は〜い」

冬真はマシンガンを担ぎ、コクピットへと走っていった。
春菜はすぐに、二階のファーストクラスの座席へと向かう。
気配を殺し、二階に上がっていく前に、一階のハイジャック犯を次々に気絶させ捕縛していき、二階へと足を踏み入れた。

(どうやら、下の騒動は気付かれてないようね・・・・)

階段の途中から顔を出し、二階のハイジャック犯の動きを見る。
特に大きな動きはないのだが、数が多すぎた。
春菜一人で相手にするには苦しいだろう。
スカートのスリットから覗かせた足には、スローイングダガーが数本あった。
それを手に取り、様子を伺いながら、飛び出すタイミングを計っている。
ハイジャック犯の数は5人。一人でまともに相手にするには厳しい数だが、彼女の手に掛かればどうとでもなる数である。

(・・・・今ね!!)

手にしたスローイングダガーを一本投げる。そのナイフは、ハイジャック犯の一人の頸椎に刺さる。
言葉もなく倒れ、春菜は他のハイジャック犯の元へと向かった。
先程倒した犯人が持っていた銃をすぐに拾い上げ、トリガーを引く。
数発の銃声と共に、犯人の眉間に命中した。
すぐに物陰に隠れ、春菜は様子を伺い始めた。
どうやら、先程の攻撃は全て命中したらしく、犯人は全員床に倒れていた。

「ふぅ・・・何とかなったようね・・・・」

一方、コクピットに向かっている冬真はと言うと。

「あ〜ダメですよ、こんな所でマシンガン撃ったら・・・・窓ガラスが割れたらどうするんですか?」

そう言いながら、目の前の男の顔面に拳を叩き込むとすぐに振り返り、走った。
後ろで銃を構えた男が、トリガーを引いた。
銃声が響くが冬真はひるまずに、男へと向かって走っていた。
再びトリガーを引こうとするが、その前に冬真の跳び蹴りが顔面に入る。
男は仰け反る物の、それに堪え冬真に銃を向けトリガーを引いた。
一発の銃声が、機内に響く。

「危ないナァ・・・ダメじゃないですか」

顔の前に手を翳して平然と立っている。僅かだが、手に淡い光が灯っていた。
其の光に遮られるかの様に、発射された弾丸は止まっており、宙に浮いている。
そのまま弾丸を握り、拳を作る。拳の表面を淡い光が包み込んだ。
冬真は構えたまま微動だにせず、男の動作だけを見ていた。
男はほんの少し、よく見ていても分かるかどうか分からない程僅かな動きだ。
それを見切り、冬真は走った。
その直後、冬真が立っていた場所を、弾丸が通過した。
走ったときの速度をプラスした上からの殴り付ける拳が、再び男の顔面に叩き込まれた。
骨を折る鈍い感触が伝わり、男の鼻から紅い液体が流れ出た。
拳を紅い液体が濡らすが、その感触を無視して冬真はコクピットの中へと入っていった。

「どうやら、貴方達で終わりのようですね」

冬真はそう呟くと、コクピットに居る二人のパイロットを見据えて言う。
操縦席に座っていた一人が、立ち上がった。

「ほぅ・・・ドラッケンの人間か・・・」

(こいつ・・・僕の家系を知ってるのか?)

「まぁ・・・良い。 シルヴィード、ラインハルト、アルバート、アズフェルトの人間があの街に集結した。 後は、御前様の言う通りになれば我等の勝ちだ」

(何だ? 操られてる、ってワケじゃなさそうだけど・・・・)

「小僧・・・貴様にはまだ、幾許かの生を与えてやる。 藻掻き、苦しみ、これから始まる戦いを生き抜いて見ろ」

男はそう言うと、突然倒れた。
冬真はゆっくりと近付いていき、胸に手をあてる。
ゆっくりとした心臓の鼓動が、掌に伝わってきた。

「生きてる・・・どうやら、催眠術か何かで操られてみたいだな・・・・」

冬真はそう呟くと、操縦席に座っているもう1人のパイロットに近付いていく。
こちらは既に事切れており、死亡している。冬真は十字を切り、操縦席に座った。
通信機をつけ、操縦桿を握る。

(ATとは勝手が違うな・・・けど、何とかなる!)

それから数刻後、無事飛行機は空港に着陸した。
報道陣が蟻のように集まっており、冬真と春菜の周りに集まり始めた。
二人はそれを無視して、空港から出ていこうとするが、数が多いためになかなか前に進めない。
丁度その時、一人の青年がそれを遠くで見ていた。
フルフェイスのヘルメットを被り、黒い革のライダースーツを着ている。

(全く・・・こう言うのに囲まれるのは、俺らの家の宿命かねぇ?)

その青年は、ポケットに手を突っ込むとある物を取りだした。
手榴弾・・・ではなく、スタングレネードの類の物だ。
青年がヘルメットを取った。端正な顔をしており、左頬から目をギリギリ掠め、額まで伸びてた縦の傷がある。

「総員、衝撃に備えろ!!」

青年はそう叫ぶと、スタングレネードのピンを抜き、報道陣の頭上に向かって投げつけた。
一瞬遅れ、轟音が空港内に轟いた。
冬真と春菜は咄嗟の事でも、それに対応して気を失っていないが、周りの報道陣は全て気絶していた。
冬真と春菜の二人に、青年が近付いていく。

「よぉ、姉ちゃん、冬真」

「秋斗・・・アンタ、こんな場所で何でスタングレネード使うのよ」

「しかたねぇじゃんか、放ってたら何時までも合流できなさそうだしよぉ」

「でも、スタングレネードは非致死性だよね?」

「あぁ、当たり前だ」

「はぁ・・・馬鹿な弟を持ったら手に焼けるわね・・・・」

「馬鹿とは何だ、馬鹿とは!!」

「あら、事実を言ったまでよ」

「くっ・・・・」

「ねぇ、喧嘩してる暇があったら移動しようよ・・・僕疲れたよ」

「それもそうね、こんな馬鹿をからかっても面白くないし。 今日は一緒に寝ようか?」

「良いよぉ、一人で寝れるって」

「もぉ、可愛いんだから♪」

春菜は、笑顔で冬真を抱きしめた。
思いの外、力が強かったのか、冬真の意識は夢の中へと旅だった。

「おい、姉ちゃん。 冬真ばかり可愛がり過ぎじゃねぇか? 俺にも愛情を注いでくれよ」

「あら、アンタに注ぐ位なら、父様と母様に扱かれた方がまだマシよ」

春菜はそう言うと、秋斗と呼ばた青年を一瞥し、冬真を抱いたままその場所を離れた。

「ちっ・・・夏美はまだ来れる年じゃねぇしな。 暫く姉ちゃんにはイジメられそうだな」

哀愁を漂わせながら、秋斗は春菜の後を追い、バイクでタクシーの後を追っていった。

















































アルフェスは仏頂面で、新聞に目を通していた。
経済面に目を通しながら、コーヒーを啜る。スフィードは筋トレをしており、エリシアは昼寝をしている。
アルフェスはページを捲る。部屋の中にいる人間に、紙の擦れる音が耳に付く。
ベットの上ではエリシアが寝返りをうち、衣擦れの音がして少し唸り始めた。
ホテルの部屋で、ダブルスの部屋なのだが、ベットが二つだけで一つはエリシアが使っており、もう一つ開いているベットがある。

「なぁ、アルフェス」

「・・・・・・」

「おいおい、そんな仏頂面でどうするんだ? 観光と思えばいいじゃねぇか」

「・・・・家でゆっくりしてたら、いきなり入って来て拉致同然で連れてこられたのにか?」

「気にするなって。 その手の噂じゃ、あの碧眼の死神(ブルーアイ・デス)も来てるらしいぜ」


「ほぉ、あの翔已がか?」

「らしい、だから本当かどうかは分からないけどな。 まぁ、エリシアの調べた情報だから確かだろう」

「全く・・・アイツとはよくよく縁のある事だ」

アルフェスはそう言うと、読んでいた新聞を閉じてテーブルの上に置く。
立ち上がり、椅子に架けていたジャケットを手にして立ち上がった。
財布を尻ポケットに入れ、残弾を確認した後ホルスターに銃を差し込んだ。

「ん? 出掛けるのか?」

「ああ、少しそこいらを散歩して来る、スティアフォード最強のAT集団も見ておきたいからな」

「そーかそーか、ゆっくりして来い」

「そうさせて貰う」

アルフェスはそう言うと、ドアを開けて出ていった。
戸が閉まる音を背に、アルフェスはホテルの廊下を歩いていく。
途中、一人の少女とすれ違った。気にも止めず、アルフェスはエレベーターに乗り一階に下りる。
フロントを通り過ぎ、外へと出て丁度来たバスに乗って、街の中へと消えていった。
数刻後、アルフェスはショッピングモールにある喫茶店の一角に座り、一人でコーヒーを飲みながら、MDを聞いていた。
微かに流れてくるのは、交響曲第十九番"天の輪廻"のようである。
そこへ、一人の女性が入って来て、アルフェスを見つけ彼の前の席に座った。
MDを止めて、アルフェスはその女性を見る。
烏の様に濡れた黒髪を持った女性だ。さほど化粧はしておらず、うっすらとルージュをぬっているだけなのだが、妙に色気と言うものが、その女性にはあった。

「・・・・・・誰だ?」

「依頼を受けてくれるかしら? アルフェスくん」

「すまないが、今はそんな気分じゃない・・・またにしてくれ」

「貴方には、この店がどのように写ってるのかしら? 真っ青な青? 目を覆うような緑? それとも・・・・血のように紅い紅かしら?」

「アンタ・・・目が見えないのか?」

「ええ、生まれつきです。 その分、人の心はよく見えるわ・・・貴方の燃え盛る復讐と言う名前の焔も」

「読心の魔眼(リード・ザ・ハーツ)か。 珍しい能力だな」

「ありがとう」

「気が変わった、アンタの依頼・・・引き受けよう」

アルフェスはそう言うと、女性の顔を見る。
眼が閉じられており、瞳の色は判らない。

「私の顔に何か着いているかしら?」

「別になんでもない。 で、依頼の内容は?」

「近々、この都市にある人物が訪れます」

「ある・・・人物?」

「裏社会の組織の人間、と言えばいいかしら?」

「そいつを殺せと? しかし・・・」

「無理を言っているのは分かっています。 貴方は元々傭兵ですからね、暗殺者ではありません」

「それが判っているのなら、何故?」

アルフェスが聞くと、女性は俯いて黙り込んでしまった。
気まずくなったのかアルフェスは、コーヒーのおかわりを頼み、女性を見る。
何故か判らないが、心が落ち着いていくような感覚が、彼を包み込んだ。

「そう言えば、名前を名乗っていませんでしたね・・・私はルイナ=ヴォルムスと言います」

「ヴォルムス? アンタ、もしかして・・・」

「はい、そうです。 ここスティアフォードの市長の娘です」

ルイナと名乗った女性が、そう言うとアルフェスは驚き の色を隠せなかった。

「話がそれたな・・・で、その裏社会の組織の人間を、殺せって事だな?」

「はい・・・貴方なら、可能だと思われます」

「思われる? どういう意味なんだ?」

「それは・・・」

ルイナが口を開き掛けた瞬間、店の中に数人の男が入って来た。
手には銃が握られており、追われている様子だ。
2人は店が見渡せる位置にいたので、アルフェスが直ぐさま行動に入る。
ホルスターに差し込んでいる愛用の銃"ズフィドST−1"を抜いて、トリガーを引いた。
銃声が店内に響き、男の一人が持っていた銃を弾き床の転がると同時、ルイナの手を引いて走り出した。
その二人に気付いた一人が、2人に向かって銃を向けて、発砲する。
落ちていたトレイを上手いこと蹴り上げ、それに命中するが距離が近いため貫通した。
アルフェスの頬を掠めて、壁にめりこんだ。再び銃口を相手に向け、トリガーを引いた。
計4発の銃声が、再び店内に響く。
相手の持っている銃を弾き、床に転がった。

「今の内だ、逃げるぞ!!」

「左から、来ます」

店を出る前に、ルイナが呟く。
すぐに左へと銃を向け、トリガーを引く。
街中に銃声が響き、人が倒れる音がした。
確認することなく、アルフェスはルイナの手を引いて、逆の方向へと逃げ始めた。
後ろから追ってくるが、難なく逃げおおせアルフェスの泊まるホテルへと、辿り着いた。

「ここまで来れば、大丈夫・・・だとは思うが」

「辺りに、人はいないようです」

「そうか、とりあえず俺達の部屋に来るか?」

「そうします。 家にいるよりか安全でしょうし」

「んじゃ決まりだな、ついてこい」

アルフェスはルイナの手を握ったまま、ホテルの中へ入っていった。
フロントで人数の追加をした後、自室へと戻った。
部屋の戸を開け、中に入る。ベットの上では、相変わらずエリシアが静かな寝息で眠っている。

「全く、コイツはよく寝るな」

「あのぉ・・・」

「ん? 何だ?」

「手を話してくれませんか?」

「ああ、すまん」

慌てて、握っていた手を離す。
と、そこへスフィードが顔を見せた。
風呂に入っていたらしく、腰にバスタオルを巻いて頭を拭いていた。

「何だ、アルフェスか・・・・って、その人は?」

「俺の依頼人だ」

アルフェスは素っ気なく答えると、ルイナをソファに座らせ、其の向かいのソファにアルフェスは腰を下ろした。
とても18とは思えない凛とした表情で、アルフェスはルイナを見る。
きめ細かい肌、化粧はしていないが化粧をすれば、勿体ない位に美しい。
白いドレスのようなモノを来て、ケープを羽織っている。
そして、赤いペンダントが胸元に光っている。

「ここで、ゆっくりと話を聞かせて貰う」

「ええ、構いません」

ルイナは瞳を閉じたまま、にっこりと笑みを浮かべる。
スフィードとアルフェスはその顔を見て、一瞬ドキッ、っとする。
僅かに頬を紅潮させ、アルフェスはルイナの顔を見つめた。

「どうしたんですか?」

「え、あ・・・いや、何でもない」

「おかしな人ですね」

「そう言えば、年幾つなんだ?」

「年齢ですか? 今年で18になります」

それを聞いたスフィードは、大声を上げていた。
無論、驚きの声だ。

「まだ、10代なのか!?」

「ええそうですが、それが何か?」

「いやぁ、20代前半かなぁ、と思ったんで」

「そうですか。 貴方達は幾つなんですか?」

「ん? 俺達は全員14だ、そこに寝てるヤツも含めてな」

「14歳・・・ですか。 その割りに、落ち着いて見えますね」

「その話は後にしろ。 ルイナさん、依頼内容を詳しく聞こう」

「ルイナで良いですよ、アルフェスくん」

「呼び捨てで良い、ルイナ」

「ではそうさせて貰いますね、アルフェス」

「で、依頼内容は暗殺って聞いたが、その目標と目的は?」

アルフェスは表情を引き締め、ルイナに聞く。
少しバツの悪そうな顔をしてルイナは口を開いた。

「裏世界の組織の人間が、ここスティアフォードに来ています」

「へぇ・・・俺はそっちの状勢に詳しいが、そんな情報は入って来てねぇぞ?」

「スフィード少し黙ってろ」

「へいへい」

口を挟んできたスフィードを咎め、アルフェスはルイナの話を聞き入った。
彼女の話によればこう言うことになる。
このスティアフォードに、戦争を持ち込もうとしている組織が在ると言うことだった。
ATと呼ばれる人型の機動兵器を保有し、自治権も存在するここは最早都市ではなく、国家と言って良いだろう。
自治権が存在し、都市国家と化しているスティアフォードは、極めて危険な存在であり、少し刺激を加えるだけで、戦争を起こすことが出来る。
しかし、施政は市長を中心として統率されていて、更には"剣聖(ソード・セイント)"と言う最新型のAT部隊である"騎士の大鎌(ナイツ・オブ・ハーケン)"、と言うこの都市独自の防衛部隊も存在しているので、それ相応の策が無ければ手を出す物は居ない。
だが、施政を統率する市長を利用し、このスティアフォードを火種として全世界へとその戦火を広げようと言うことらしい。

「成る程・・・市長に取り入り、戦争を起こすと言うことか」

「しっかし、大胆な作戦だねぇ・・・成功するのかよ」

「分かりません。 ですが、あの人達が来てから父は少しずつ、変化しています」

「と言うと?」

「今まで、"騎士の大鎌"の騎体の強化改造を行うこともなかったのに、最近それを行うようになってきたんです」

「・・・あの人達、と言ったな? 何者なんだ?」

「そこまでは知りません」

「ルイナの読心の魔眼で心を読めなかったのか?」

「はい、恐らくあの者達も何らかの能力を持っている筈です」

「能力者か・・・俺の"新星なる炎(フレイム・オブ・ノヴァ)"とどちらが強いかねぇ?」

「さぁな。 お前の能力は危険だからな、滅多に使うなよ」


「分かってるさ」

「なら良い。 ルイナ、今日の所はどうする? 家に帰るか?」

「一応家に帰ります、父が心配するので」

「そうか、なら家まで送ろう」

「いえ、大丈夫です」

「心配に越したことはないだろ? 万が一アンタが襲われ、殺されでもしたら誰が依頼料を払うんだ?」

アルフェスはそう言いながら真紅のジャケットを羽織り、銃をジャケットの内側にあるホルスターに差し込んだ。
アルフェスはルイナを自宅まで送っていくため、スフィードの車のキーを借りて出ていった。
スフィードはそれを見送った後、何か妙な節があると思い、持参のノートパソコンを立ち上げ、自分独自に創りあげたハッキングのシステムを使い、スティアフォードを司るメインコンピューターへとハッキングを行う。
何度も行っているのか、随分と手慣れた操作でキーボードを叩き、パスワードを打ち込んでいく。

「お・・・出た出た」

パソコンのディスプレイに、機密事項がずらりと並びそれを全て自分のパソコンへと、納めていく。
途中何度か見つかったが、それを冷静に対処してハッキングを行っていた。
仕入れた情報は三つ。



まず一つ目は、"ナイツ・オブ・ハーケン"の人員の入れ替え。
今まで、この部隊の隊長を勤めていたのは隆一=J=シュナイダーと言う男で、ATの操術から銃器をほぼ全て使いこなすことが出来る傭兵だ。
"ナイツ・オブ・ハーケン"の隊長は表の顔であり、裏では在る組織の幹部候補らしい。
スティアフォード市長は、その事を知らないのか、彼を高額で雇い、ナイツ・オブ・ハーケンの隊長にしているのだ。
しかし、今回その隊長を勤めていた隆一をクビにし、シリウスと言う男を隊長に任命する。



そして二つ目は、スティアフォードに来ている謎の組織の人間。
シリウスとベガと言う名の男で、その二人の容貌も詳しく記載されていた。
2人の特徴は、その能力にあるだろう。
シリウスと言う男は、主に近接戦闘を得意としており、刀と呼ばれる近接戦闘用の武器で相手の懐に入ればその力は絶大で、銃弾を切り落とすと言うこともやって除ける。
更にシリウスの能力は"破滅の血(ブラッディ・オブ・ドゥーム)"と呼ばれておりその力は一切記載されていなかった。
ベガと言う男も、近接戦闘が得意のようでブラスナックル系統の武器を装備していて、額の紋章はどうやら生まれつきの物であり、目も生まれつき見えないのだが体術に関しては、天才的なセンスを持っている。
さらに、正式名称は不明だが、邪眼(イビル・アイ)系統の能力の持ち主でもある。



最後に三つ目・・・スティアフォードに来ている人間だ。
その殆どが、世界各地のあらゆる紛争地や戦場で名を馳せた者達だ。
手始めにリヴァイダー"フィンスタァニスシュベールト"を使い"暗剣の春菜"と言う字を持つ、春菜=A=ドラッケン、彼女は女だてらに超高出力のリヴァイダーを片手で操る特Sランクの傭兵である。
リヴァイダー『ブラズマ・ソード』と喪失武器(ミッシング・アームズ)である剣銃『雷塵剣』を使う"雷閃の剣銃士(ライトニング・ソードガンナー)"の二つ名を持つ秋斗=G=ドラッケン、先程記載されていた春菜とは姉弟で、彼も超高出力のリヴァイダーを二つ片腕で使いこなすSSランクの傭兵だ。
"剣銃(ガンブレイド)"と呼ばれる特殊な武器を操る"ネルヴァード=シルバー"は元はサイバーフォーミュラのトップ3に入る腕だったが、とある事故で重体を負い奇跡的に復帰するが精神的な傷を負い引退。
引退後は精神異常者となり殺人を犯していき、ついには戦場を渡り歩く悪鬼と化していた。
"虐殺の銃士(ジェノサイドガンナー)"という異名を持つクラートゥ=オシリスは元々、温厚な人物だったのだが、ある事件を境に超凶悪な犯罪者のような残虐性をだし、賞金を架けられ、幾人もの追っ手である賞金稼ぎを殺していて、戦場に出てからは自分の欲望を満たすかのように、敵も味方も関係なく殺している。
この四名を筆頭に、世界中に散らばっている名のある傭兵が、このスティアフォードに集まってきているのだ、何か裏があると感じるのが普通である。

「何だよこりゃ・・・暗剣の春菜に雷閃の剣銃士(ライトニング・ソードガンナー)の秋斗、"銃剣士(ソードガンナー)"ネルヴァード、虐殺の銃士・クラートゥ=オシリス、か・・・これだけ名のある傭兵がここに集まれば、確かに戦争が起こりそうな感じだな。
 ん? コイツは・・・冬真=J=ドラッケン? 春菜と秋斗の弟か?」

と、スフィードは冬真のプロフィールを洗ってみる。
色々と出てきた。
だが、その殆どが報道陣によって報道された事である。

「年齢は10歳・・・か。 何々・・今日13時23分に発生したグリシュテッド公国発スティアフォード着の飛行機でのハイジャック事件解決の功労者か・・・こりゃ、血としか言いようがないな」

冬真と言う少年に関しての記載を読み終え、スフィードはパソコンの電源を落とした。
ベットに目をやると、寝ていたはずのエリシアの姿がなかった。
耳を澄ましてみると微かに、シャワーの音が聞こえてきたので安堵の息をつき、スフィードはテレビを付けた。ソファに座りながらチャンネルをかえていく。
面白くもないバラエティ番組や、アニメをしている時間帯でスフィードは暇を持て余していた。
銃の手入れも、先程アルフェスが出掛けている時にやってしまったので、する事がない。

「暇だ・・・・」

そう呟き、スフィードはボーっとテレビを見ていた。
一方、ルイナを送るために車を借りていったアルフェスは、彼女の家へと向かっていた。
ハイウェイを走らせながら、アルフェスは一言も発さずに車を運転していた。
時折、ルイナをちらりと見る。何が気になるか分からないが、アルフェスはそうやって時折ルイナの方を見て車を運転していた。
ふとバックミラーを見ると、一台の車が後を追ってきていた。
最初は同じ道だと思っていたのだが、既に1時間以上も同じ道を走ってきており最早、敵の追っ手と言っても良いだろう。
しかし、こちらにはルイナがいるので下手に、銃を撃つ事も出来ないので振り切ることにした。

「ルイナ、少し揺れるかも知れないが我慢しろよ?」

「追っ手ですか?」

「ああ、今から暫く喋るなよ・・・舌を噛むからな」

「はい」

それ以後、2人に会話はなくなった。
アルフェスはアクセルを踏み込み、スピードを上げる。
みるみると加速し、周囲の景色が歪んで、後ろへと流れていく。
ハイウェイを高速のまま下りて、ハンドルを切って右へと曲がる。
逆走なのは分かっているが、超人的な反射神経と判断力で右へ曲がり、左へ曲がり、突き進んでいく。
暫く逆走していくが、ぴったりとアルフェスの運転する車についてきている。
更にアクセルを踏み込みスピードを上げ、角を曲がり普通に走るのだが、速度が並では無い。 次々と車を追い越していき、信号も無視して走っていき、その2台の後をパトカーが追って来るが、次第に2台の操縦テクニックには敵わず、振り切られてしまった。
アルフェスはサイドブレーキを上げた。
車体がいとも簡単に反転したと同時、サイドブレーキを下げると、追ってきていた黒塗りの車の横を通り過ぎていった。
追い付かれないように、色々と裏路地を入っていき完全に、撒いた。

「ふぅ・・・・」

「あ、アルフェス。 もう少し、ましな方法はなかったのですか?」

目が見えない分、やはり恐かったのだろうか、ルイナは青い顔をしていた。
その顔を見て、口を開く

「すまん、追っ手を振り切るにはアレしか方法が無くてな・・・今後は気を付けよう」

「わかってもらえればそれで良いですが・・・そう言えば、今どこら辺なです?」

「さぁな、適当に走ってたからな、見当も付かない」

「・・・・」

「怒ってるのか?」

「当たり前です」

「すまない」

「仕方在りませんよ、貴男に依頼したのは私なんですから」

「とりあえず、現在位置はと・・・トワイライトストリートか」

アルフェスは外を見ると、ネオンの灯りが辺りを明るく照らしていた。
すぐに車を出し、足早にそこを後にした。
数分ほど彷徨ったが、トワイライトストリートを抜けて、先程のハイウェイへと入った。
住所の方はホテルを出る時に、ルイナから聞いているので問題はない。
以後、追っ手もなく無事にルイナの家に着いた。
門の中へと車を進めていき、彼女を玄関の前で下ろした。

「ありがとうございました」

「いや、礼には及ばない・・・気を付けろよ、お前を狙っているヤツはこの家の警備なぞ、ものともしないだろうからな・・・」

「ご心配かけますね」

「単に小心者なだけさ・・・じゃあな」

車に乗り込み、ギアチェンジしてアルフェスの乗る車は、走っていった。
車のエンジン音が消えるまで、ルイナはそこに立っており眼を閉じたままルイナは、車が走り去った方向を見ていた。
エンジン音が消えると背を向けて、家の中へと入っていった。
その一部始終を、遠くから見つめる2人の人物がいた・・・一人は黒ずくめの男で、もう1人は白衣を着た男である。
サングラスに黒いレザージャケット、黒い皮のズボン、レザーブーツと言う容貌だ。
もう1人は、眼を閉じており、額には紋章のような物が刻まれていた。手には手甲を装備しており、鼻眼鏡をかけている銀髪の男だ。

「・・・アレが、ルイナ=ヴォルムスか?」

「エエ、ここスティアフォードの市長デアるフォーグラの娘デス」

(しかし、厄介な奴に依頼をしたものだな・・・シルヴィードの人間となると、俺が動くわけにも行かなくなるな)

「・・・どうカしたのデスか?」

「お前には関係ない。 しかし、ナイツ・オブ・ハーケンの隊長のすげ替えか。 隆一と言う小僧の方が、手応えがあるが・・・まぁ、仕方在るまい」

「私達ガ仕組んだことデスからね・・・現在の隊長はアナタなのですヨ? それヲ忘れては行けマセんよ」

「あぁ、分かっているさ・・・それに、計画も今のところシナリオ通りの流れで順調だ」

「ソウですか、ソレは良かッタ」

(問題は、シルヴィードの小僧か・・・早めに抹殺せねば後々の障害になるな)

黒ずくめの男は、サングラスを上げると、背を向けてそこから飛び降りた。
白衣の男は肩をすくめ、黒ずくめの男に続き飛び降りた。
高層ビルの屋上から躊躇いもなく飛び降り、難なくコンクリートで舗装された歩道へと着地した。
すぐ脇に止めてある車に乗り、2人は去って行った。
アルフェスはハイウェイを走らせながら、ルイナの事を考えていた。

「ルイナ=ヴォルムスか・・・」

ぽつりと彼女の名を呟き、アクセルを踏み込んでスピードを上げた。
後ろには、黒のオープンカーが着いて来るように走っている。
金髪の男と金髪の少女が、話しをしていた。

「ねぇ、兄さんこれからどこ行くの?」

「ん〜〜まだ決めてねぇ」

「はぁ・・・相変わらず、無計画ね」

「うるせぇよ、お前は!」

「うるさくて結構、言っておかないと兄さんは全く聞かないじゃない」

「ま、まぁ・・・ここへは遊びに来たんだ、ゆっくりと遊ぼうぜ?」

「はぁ・・・で、ティオンさんはどうするの?」

「ん? アイツは、ここに来たいって言ってたから、送りに来ただけさ。 んで、俺達は遊びに来たと言うこった」

翔已がそう言うと、アクセルを踏み込み前の車と並んだ。
クラクションをならして、前の車の運転者と顔を合わせようとする。
車の運転者が窓を開け、顔を見せた。まだ若く、10代の少年だった。
紺色の髪で、蒼い瞳の両目が翔已を見た。
その少年は呆れたような顔をして、手でハイウェイを降りるように合図し、その2台はハイウェイを降りていき、歩道の隣に2台並んで車を止めた。
紺色の髪の少年が降りてきて、翔已の胸倉を掴んだ。

「翔已、何のつもりだ?」

「何って、俺達は遊びに来たんだ、お前を誘って遊ぼうかなぁ、ってよ」

「ったく・・・生憎、俺には連れが2人程居るんだ、早くホテルに戻らないといけないんだ」

「アルフェス、お前相変わらず人付き合いが悪いな・・・なぁ、杏子」

「何で私に振るのよ・・・」

「ふぅん、翔已の妹か・・・」

「お、惚れたのか?」

「まさか、そんなワケないだろ?」

「全く、俺がお前ら位の歳には凄かったぞ?」

「お前は遊びすぎなだけだろ」 「兄さんは遊びすぎなだけ!!」

杏子と呼ばれた少女とアルフェスが、大きな声で叫び、杏子が翔已の耳を引っ張った。
その後アルフェスは、ヤレヤレと肩をすくめて携帯を取り出した。
手慣れた手つきで電話をかけた。無論相手はスフィードである。
車の中に入って、アルフェスは携帯で話し始めた。

「兄さん、アルフェス・・・って言ったっけ? 知り合いなの?」

「あぁ、3年位前だったか、戦場で知り合ったんだよ」

「じゃあ、彼も傭兵なの?」

「ああ、この業界じゃあアイツの名前を知らないヤツは潜りだって言われるほどさ」

「そんなに強いの?」

「まぁな・・・何度か手合わせしたが、強いぜアイツは」

そんな事を話していると、一台の車が隣を走り去った。
ほんの一瞬なので分からなかったが、黒衣を着てサングラスをかけた男と、白衣を着た鼻眼鏡をかけた銀髪の男の2人が、乗っていた。
翔已は気付けば、猛禽類を思わすような鋭い目つきで、殺気を放っていた。
杏子も、そんな兄の殺気に気をされて、話しかけれなかったが、アルフェスが翔已の頬を思いっきり抓り上げた。

「何やってんだ、こんな所で殺気はなってりゃ一般人が、怖がるぞ」

少し機嫌が悪いのか、低めの声で翔已に向かって言う。

「ん、スマンスマン」

「それはそうと、俺は帰るからな」

「おろ? 一緒に遊ばねぇのか?」

「ああ、宿に連れが2人居るって言っただろ?」

「スフィードとエリシアか?」

「そうだ、殆ど拉致されてここに連れてこられた」

「ハハハッ!! あの2人らしい行動だ」

そう言いながら、翔已は笑い出した。
アルフェスは肩をすくめた後、再び車に乗り込んだ。
後ろから、翔已が声を掛けてきた。

「アルフェス、泊まってるホテルは何処だ?」

「グランドホテルの12階、1203号室だ・・・来るなよ」

「行かねぇって・・・俺はな」

「・・・・じゃあな」

「んじゃ、コイツを連れて行け、俺は今から18歳未満は入ってはいけない所へ行く」

「わかった・・・乗れ」

翔已の言葉を聞き、小さくため息をついた後、アルフェスが答えた。
翔已が、隣に乗っている杏子に、乗るように促す。
車に乗り込むと、アルフェスはサイドブレーキを外し、アクセルを踏み込んだ。
アルフェスと杏子の乗った車を見送ると、翔已は表情を一変し鋭い目つきになり、車に乗った。
スピンターンをして、アルフェス達とは逆の方向へと走っていく。
アクセルと踏み込み、風が車体にまとわりつく。
オープンカーなので、強い風が翔已の顔を殴り付けるが、平然とした顔で車を運転していた。
一方アルフェスは、杏子を車に乗せ、ホテルへ向かっている。

「あの・・・」

「何だ?」

「名前・・・は?」

「・・・名前を教えて欲しいなら、自分の名を名乗れ」

「あ、ゴメン。私は杏子・・・杏子=D=ラインハルトよ」

「俺はアルフェス、アルフェス=シルヴィードだ」

名を名乗った以降、会話は成立しなかった。
2人が会話をしないまま、アルフェス達の泊まるホテルへと到着した。
ホテルの前で車を降り、ボーイに車を任せ、アルフェスはホテルの中へ入っていった。
杏子は、慌ててアルフェスに着いていく。

「ねぇ、何で傭兵になったの?」

「・・・そんな事をお前に話す必要はあるのか?」

アルフェスはそう言い、黙り込んだ。

(な、何よコイツ! 無愛想な上に、失礼なヤツね!!)

2人はそのまま黙り込み、アルフェス達の部屋に着くまで、終始その状態だった。
部屋に着くと、アルフェスは着ているジャケットを脱ぎ捨て、ソファに座った。
杏子は恐る恐る中に入っていく。

「お、帰ってきたか・・・って、そっちの子はだれだ? もしかして、ナンパ・・・なワケねぇか。 堅物のお前に、こんな可愛い子ナンパできるわけねぇしな」

「俺は寝る、そいつの相手をしてやってくれ」

「はぁ〜い」

アルフェスはそう言い、着ているタンクトップも脱ぎ捨てた。
すると、背中に大きな傷があった。
左肩から右の脇腹にかけての、大きな切り傷と、背中一面に大きな火傷が、彼の身体に刻まれていた。
布団の中にはいると、すぐに静かな寝息が聞こえてくる。
エリシアはグラスを三つ、持ってきて炭酸飲料を注いでいく。
スフィードは頭を掻きながら、杏子の方へ振り向く。

「すまないな、そう言えば名前は?」

「杏子=D=ラインハルトよ」

「ラインハルト・・・って事は、翔已の妹か?」

「そうよ、兄さんの事知ってるの?」

「ええ、"碧眼の死神(ブルーアイデス)"と呼ばれて有名ですよ? 知らなかったんですか?」

「うん・・・兄さんは、自分のことあまり話してくれないから」

「ま、当然だろうな。 人を殺したのを自分の妹に自慢しちゃ、それこそ人として最悪な事だ・・・」

スフィードは、そう言うと少し哀しそうな顔をした。
手にしているグラスを、強く握り込む。
次第に、グラスからみしみしと、音が聞こえてきた。

「スフィード、そんなに力を込めなくて良いじゃないですか」

「・・・すまん」

「そう言えば、杏子さんは何でここに?」

「ん・・・兄さんの手伝いかしら? 私も傭兵になるつもりよ」

杏子はそう言い、グラスを傾けて炭酸飲料を飲んだ。

「本気か?」

「何がです?」

「傭兵になるって事さ・・・」

「本気よ」

「・・・考え直す気はないか? 傭兵は、アンタみたいな人に勤まらないぜ」

「どういう意味かしら?」

「そのまんまの意味さ。まぁ、アンタがそれ相応の実力を持ってたら別だけどな」

スフィードの目つきが鋭くなり、杏子を睨む。
睨まれた途端に、蛇に睨まれた蛙の如く、身体が動かなかった。
言葉を発することも出来ず、ただスフィードを見ているだけだった。
だが、エリシアは鉄拳をスフィードの頭に振り下ろし、ガツン、と言う音がする。
スフィードは殴られた場所を押さえ、悶えていた。
それほど痛かったのだろうか、目尻に涙を浮かべている。

「痛ッてーな!! いきなり何すんだよ!!」

「素人と同然の人を脅してどーするんですか?」

「む・・・」

「ほら、怖がってるじゃないですか!!」

「すまん。 だが、ホントの事だろう? お前も、俺も人を殺すのに慣れてしまったんだ、戦争に行くのも当然な。
 アルフェスや俺達はまだ優しい方でな、女なんか一人で戦場に行けば犯されるのがオチだ」

「・・・で、でも」

「でももクソもねぇ、戦場に行くなら一人で行くな。 それか、アルフェスと一緒に行け、アイツはあんなヤツだが根は優しい奴でな、未だに昔のことを引きずってて俺達位にしか心を開いてねぇんだ。
 もしかしたら、アンタなら・・・」

スフィードはそこまで言うと言葉を遮った。
いつの間にか、アルフェスが起きてきていたのだ。
足音も、気配も感じさせることなく、アルフェスは銃を手にして、それをホルスターに差し込んだ。
それを見て、スフィードが何かに気付いた。
その何か、と言うのは外から足音が聞こえてきたのだ。
聞こえてきたと言っても耳を澄ましても聞こえるかどうか分からない程、小さな靴音である。
ゆっくりと立ち上がり、スフィードは銃を手にして腰元へ差し込んだ。
エリシアも同じ様に銃を持って、アルフェスはエリシアと杏子に一緒に行動するように言うと、扉の前に立つと耳を澄ませた。
足音が二つあり、足音が聞こえるかどうか分からない程の歩き方で、恐らく暗殺者としての心得を持っている者だろう。
銃口をドアに向けて、トリガーを引くと銃声が二つ、部屋に響く。
部屋はおろか、ホテル内にもその音は響いているだろう。

「お前ら、伏せろ!! 何やってるラインハルト、早く伏せろ!!」

アルフェスは立っていた場所から飛び退くと、杏子を無理矢理伏せさせた。
直後、爆発が起こりドアが吹き飛んだ。
爆風が収まり、すぐにアルフェスは銃を構えてトリガーを引いた。
数発の銃声がした後、くぐもった呻き声が聞こえ、静かになる。
杏子が顔を上げるとそこには、血の海があった。

「ひぁっ!?」

思わず声を上げて驚く。
その声に反応して、アルフェス達が振り向いた。
血・・・紅い血が広がり、そのすぐ側に動かなくなった人間であったモノが、倒れている。
心臓の鼓動が早くなり、あるヴィジョンが見えた・・・爆炎の中を歩いていくる人物、手には黒い古ぼけた銃を持っており、縦に割れた瞳孔で紅い瞳の男だった。
すぐにそのヴィジョンは消え、元の場所の光景が広がっている、
だが、杏子の意識はそこで途絶えた。































アルフェス達が滞在している部屋が襲撃される少し前、一人の少年がある場所にいた。
ざんばらに切られた黒髪と、縦に割れた瞳孔に、紅い瞳を持った少年で独特の服を来て、歩いている。
そこに、一人の少女が現れた。少年より年上なのだろう、落ち着いた雰囲気の少女で眼を閉じている。
少女はゆっくりと歩み、黒髪の少年へと近付いていく。
それに気付いた少年はサングラスを掛けると、少女へと歩み寄っていった。
とても少年とは思えない程、凛とした表情だ。

「これはこれは、お嬢様。 俺に如何様で?」

「隆一、貴方は確か騎士の大鎌(ナイツ・オブ・ハーケン)の隊長を解任されましたね?」

隆一と呼ばれた少年は、肩をすくめた後、少女の額に銃口を押しつけた。
目を細めて、隆一は少女の顔を見る。
怖がっている様子は無い、精神的な抵抗力があるのだろうが、少女は微動だにしない。
暫く、そうやっていたが少女が口を開いた。

「撃ちたかったら撃てばどうです?」

「・・・フン、アンタを殺しても、俺に益となるワケじゃない、言うなら損だ」

「優しいですね、貴方は・・・」

「単なる気まぐれだ。 それに、アンタを殺したとあっては世界中に指名手配されるからな、それだけさ」

「でも、貴方の心は澄んでいますよ・・・」

「チッ・・・読心の魔眼(リード・ザ・ハーツ)か。 趣味が悪いぜ、ルイナお嬢さん」

隆一は舌打ちをすると彼女から顔を背けた。
笑みを浮かべながら、ルイナは彼を見つめている。

「隆一、貴方に頼みたいことがあります・・・」

「俺に頼みたい事・・・ね、それは、アンタの依頼なのか?」

「ええ、私からの依頼です。 受けてくれますね?」

「・・・まぁ、良いだろう。 で、アンタの言う頼み事ってのはなんだ?」

「父の警護と・・・あの者達の身辺を洗って下さい。 それだけです」

「フォーグラの警護とアイツら・・・シリウスとベガについての情報収集を、俺がしろと?」

「ええ、貴方なら信頼がおけますし、何より貴方にはあらゆる施設を使用できる権限がありますからね。騎士の大鎌の隊長を退任させられたとは言え、その効力は未だあります」

「成る程、奴等の情報を得るには手段を選ばないという訳か・・・危険な内容になりそうだ」

「それに、あの者達に襲われた時の事を考えれば、貴方が妥当なんです」

「やれやれ・・・本音はそこか。 まぁ、確かにそれが妥当か・・・わかった、明日から行動に移らせて貰う」

頭を掻きながらそう言うと、ルイナに背を向けて立ち去った。
少し息をついて、ルイナは天井を見上げる。
何も見えない両目で、天井を見上げていた・・・彼女の視界に広がるのは、闇。
何処までも広がり、光すら見えない深淵の闇だった、光も色も見えず音だけで構成される世界。
そのせいかして、人の心と言うものが読める能力を持ち、人の負の部分を常に、知る事となってしまった。
だが、彼女はそれに目を背けず、真正面から立ち向かっている。
ルイナはその場から立ち去り、自分の部屋へと戻った、とても目が見えないとは思えない程しっかりとした足取りで、廊下を歩き自室へと戻る。
部屋に戻ると、脱衣所に入り服を脱いだ。
白いブラに包まれたふくよかな胸、きゅっと締まったウエストに、すらりと伸びた足は妖艶な雰囲気を持っており、服を脱ぎ身につけている下着を取ると、浴場へと入っていった。
個人の部屋に備え付けるには、かなり広い浴場で、既に湯がはってあり、片膝を付くと桶で湯を浴びる。
肌につく湯は、水滴となり彼女の肢体を流れ落ちる。

「ふぅ・・・・」

湯に浸かり、一息つくと天井を見上げる形で、湯船に浸かっている。
ユラユラと揺れる水面に、彼女の長い髪が揺れていた。
目を開けると、光のない両眼が湯煙に包まれた天井を、見つめていた。
ただ何も映らず、闇しか見えぬ瞳には、何が映っているのであろうか・・・
その頃、隆一は自分の騎体である罪騎士(ナイツ・オブ・ギルティ)に騎乗し、スティアフォードの上空を飛行していた。
時速にして100フィースほどの速さで、急に旋回して再び加速。
身体に掛かるGが、彼の身体を締め付けていき、意識が朦朧としていく中、更に速度を上げた。
再び、方向を変えて加速する。
まるで、自分の身体を痛めつけるのが目的のように、隆一はがむしゃらに罪騎士を操っていた。

「くぅっ!」

僅かな呻き声を漏らし、隆一は更に速度を上昇させる。
再び、彼の身体にGが重くのしかかり、身体が重くなるが騎体を回転させて、遠心力の力を加え始めた。
意識が飛びそうなほどの重力だが、隆一はしっかりと罪騎士を操っていた。
騎体の加速を止めて、一息つくと前方のビルの屋上に、一人の男が立っているに気付く。
その男に気付き、ピントを合わせて拡大する。
漆黒の闇を纏っている、そんな言葉が当てはまるような男で、強風に吹かれても根を張っているかの様に直立し、不動の体勢を保っており、長い黒髪と黒いロングコートが風に吹かれ、靡いていた。

―――ヤツは、化け物か?

隆一は心の中で悪態をつく。
ルイナから言われ、すぐに行動を起こした。
そこまでは良かった。調べるにしても、少々心当たりがあったので、早く終えることが出来そうだった。
そう、あの二人に気付かれるまでは。
彼等の戦闘術、歩法、そして武装は一般的な戦闘術を身につけた者を蹂躙する。
たった一歩、それだけで間合いを無にし、銃弾すらも回避するというなんとも非常識な戦闘能力を持っている。
そして彼等にとって、戦うという事、命をやり取りするという事は、全てが同じ意味合いの物だ。
あくまでそれは方法に過ぎなかった、はるか高き強さを手に入れるための。
隆一は理解した。二人は、この平穏なスティアフォードに、戦乱を起こすつもりだと。
ぞくり、と背筋が寒くなる。ATに乗っていても、勝てる気がしなかった。
ただ、黒ずくめの男は不敵な笑みを浮かべており、手にしている長めの棒に手を掛けた直後、衝撃が騎体を襲った。

「な、何だ!?」

「聞こえているだろう、隆一」

通信機能は作動していない。
ソレなのに、男の声は聞こえてきた。
音とは空気の振動であり、可聴域の振動を鼓膜が捕らえる事で、人は音を聞くことが出来る
逆に言えば、騒音と呼ばれる物は、可聴域の振動が大きすぎる為に騒音となるのだ。
これが音というメカニズムである。
しかし、今現在それを無視した音声を、隆一は聞いていた。
脳に直接語りかける、そういう印象が前に出てくる。

「お前は・・・シリウスか!!」

「お前には少し退場して貰おう、次元の狭間に、な」

「何だと・・・?」

「開くがいい、冥府への門よ」

シリウスと呼ばれた男が呟き、罪騎士の背後の空間が割れると、無数の手とも言える物が罪騎士の騎体を掴み、異空間へと引きずり込んでいった。シリウスが指を鳴らすと、空間が閉じ元の静けさが戻った。
煙草を取り出すと、それをくわえて火を付け、大きく息を吸いそれを吐き出す。
強風に紫煙はすぐにかき消され、四散していく。
笑みを浮かべ、煙草を投げ捨てると一閃し、煙草はその一閃で四散して、風に吹かれて消えていった。

「これで一人、後は・・・アイツか、面白くなりそうだ」

そう呟くと、シリウスは姿を消したと同時に、遠方から爆音が轟いた。
無論、アルフェス達の居るホテルからのものである。
アルフェスは気を失った杏子を抱きかかえ、ホテルの廊下を走っている。
後ろをエリシア、前をスフィードが固めているので、人海戦術に出ない限り中央は安全と言えるだろう。
エレベーターを使わず、階段を駆け下りる三人。連続した靴音が、階段に響き渡っていた。
逃げるのに必至で、三人とも会話をする事なく階段を駆け下り、フロントへ行くと金を渡してすぐに走りだし、車に乗り込んだ。

「早く出せ、スフィード!!」

「分かってる!!」

エンジンが掛かると同時、ギアチェンジを即座に行い車が出た。
道路に出る直前、アルフェス達の乗る車の前に一人の男が姿を現した。
白衣を纏い、眼を閉じていて銀髪をオールバックにした男だ。
手には鉄甲を身に付けており、額に紋章のような物が紅く輝いているようにも見える。
その男は微動だにせず、構えた。
早撃ちのガンマンのように、腰ダメに構え両腕を腰の辺りで固定して、車を睨み付けると同時、筋肉が隆起して白衣の腕の部分がそれにより、破けた。
拳を握り込み、目に見えないほどの神速で車の前部を殴り付けた。
バンパーがへこみ、フロントガラスには縦横無尽に罅が入ったと思うと、車体が宙を舞っていた。
壊れたエンジンから煙が噴き出し、車は地面に叩き付けられた。

「シリウスに言わレた通リにしたのデスが・・・少シやリスぎテしマッたようデスね」

少し溜息を付くと、眼鏡を指で押し上げ車に近付いて行く。
拉げたドアを掴むと、無造作に引っこ抜いた。
何処か、笑みを浮かべたような表情で、男は片膝をついて覗き込もうとした瞬間、拳が彼の頬を掠めた。
それを受け止めて、手首を掴むと引きずり出す。
まだ、年端もいかない少年が引きずり出され、男を睨み付ける。
微動だにせずに、男は少年・・・アルフェスを地面に下ろすと、後部座席の2人を引きずり出した。
最後に、運転していたスフィードを引きずり出し、男は一息つき四人の方を見る。
目は見えてないのだろうが、貫かれるような視線を感じて、アルフェスとスフィードは身構えた。

「・・・私とやリ合うト言うのデスか? ヤメテおきなサい、例え子どもトて手加減ハしまセン」

2人は気圧される。
その言葉に、嘘偽りはなく立ち向かえば、確実に殺されると直感的に感じ取っていた。
アルフェスの瞳が、一瞬であるが赤みがさした。
目の前にいる男の眉が、ぴくりと動きアルフェスの方へと顔を向け、僅かに笑みを浮かべる。
一歩、アルフェスに向けて踏み込む。少しずつ近付いていき、アルフェスの目の前に立った。
アルフェスは、握り込んだ拳を男に向けて放つ。
男はそれをいとも簡単に受け止め、足を振り上げてアルフェスの顎を蹴り上げた。
仰け反りるが、踏みとどまり男を睨み付けた。

「・・・成ル程、シリウスの言う通リ、アナタは危険な様デスね」

「シリウス・・・すると、お前がベガか!」
「ふむ・・・アなタガ、スティアフォードのメインバンクコンピューターにハッキングした人物デスか・・・思ったヨリ幼イ様ですネ、歳ハ14、5歳と言った所デスか?」

「お前、本当に目が見えてないのか?」

「修練の賜デスよ。 デスが、暫く貴方達にハ眠ッテいて貰いまショウか・・・」

そう呟いた瞬間、スフィードの視界からベガと呼んだ男の姿が消えた。
鳩尾に拳が突き刺さっており、一瞬で意識が途絶えた。
エリシアに対しては、後ろへ回り込むと延髄に手刀をくわえ、気絶させた。
ほぼ一瞬の出来事で、アルフェスは体を動かせずエリシアを気絶させたベガの顔を見て、ふと既視感に囚われた。
会った事はないが、見た事がある顔だった・・・何時、何処で、と言う事がすっぽりと抜け落ちており、アルフェスはその男の顔をじっと見つめる。
だが、誰なのかは分からず、意識がそこで途絶えた。
ベガの拳が、アルフェスの鳩尾に突き刺さっており、アルフェスの身体はベガにもたれ掛かるように倒れた。 ぐったりとしており、杏子とエリシアの身体を抱えながら、アルフェスとスフィードの身体を引きずると、電磁迷彩機構を解除しATの副座へと放り込むと、ATの操術室へ入り起動させる。

「全く、目の見えナイ私にATの操術とハ・・・シリウスも無茶をサせマスね」

目の見えない割には、しっかりとした腕前でATを操り、スティアフォードの中央に位置している双頭のビル・・・“ジェミナス・タワービル”へと騎体を加速させた。




























TO BE CONTINUED









THE NEXT STAGE!




























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