恋愛:村野敦の場合











敦 Side












俺はその日、暇つぶしに町に出ていた。
暇つぶしっつても、バイトまでの時間つぶしだ。
だけど、俺は見てしまった。
レイジと天宮さんが、手を繋いで歩いている所を・・・
ま、薄々はまだ好きなんだろうな、って分かっていたが、どうも、な。
俺は暇つぶしに出たことを後悔した。
多分、あの時のアイツも、今の俺と同じだったんだろうな。
同じ女性(ひと)を好きになった者として、俺は悔しかった。
まだあの女性の心を捉えているレイジに、そしてあの女性に入り込む隙は無いと痛感させられた事に。
俺はバイトに行く時間までの事を、全くと言っていいほど覚えていない。
更には、バイトに身が入らずにさっさと追い返された、と言うことも付け加えておく。
夜の9時ごろ、俺はレイジの家に向かう途中、あの二人がキスしているところを見てしまった。
・・・なんでかなぁ、今日は厄日なのか?
そうなんだろう?
俺は誰に問いかけたのか、家へ帰る道中でそう叫んでいた。
道を変えて、自宅までの道をえっちらおっちらと歩いていく。
先程の光景がまだまぶたに焼きついて、何度も俺の脳裏を過ぎる。

「やっぱ、俺じゃ無理だったかな・・・」

俺は一人、呟いていた。
昔からそうだったよなレイジは、なんか妙にモテて俺はソレをからかって・・・
ま、こんなもんだったか。
何時からだった、アイツに嫉妬するようになったのは?
そうだ・・・あの時からだ、高校に入ってアイツが、天宮さんと付き合い始めてからだ。
高校1年の頃、文化祭が終わってからあの二人、妙に仲がよくなって・・・
7年前。
そう、俺達と天宮さんが出会って、間も無い頃だ。
文化祭で、レイジが他のやつらとバンド組んで、体育館をジャックしたんだっけか。
演劇をやっていたやつらは驚いていて、それでもアイツの歌に魅了されて、いつの間にか大盛り上がりになっていたな。
その文化祭が終わってから、レイジと天宮さんが良く一緒に居ているのを見るようになって・・・そんで
『敦・・・俺さ、天宮さんに告白しようと思う』
とか言われたんだよな。
そんなモン俺に言うなよ、とか言ってレイジをたきつけて、あの二人が付き合い始めてから、天宮さんの事がどうしようもなく気になり始めて・・・
俺じゃああんな笑顔を向けてくれないと思っていたが、4年前のあの日に、天宮さんが俺に向けてくれた笑顔。
うれしく思い、俺は舞い上がっていたのかもしれない。
あの二人がまだ想いあっている事を忘れ、何度も天宮さんを誘って遊びに行った。
俺にとっては、デートと呼べるものだったが、天宮さんにはそう呼べるものだったんだろうか?
なんだか、俺が道化みたいに思えて、無性に腹が立ち、無性に悔しかった。
ふぅ・・・
だけど、コレでいいのかもしれない。
あの二人は想いあっている、それ以外に理由は要らない。
翌日、俺はレイジをあの河原の土手に呼び出した。
アイツも覚えているだろう、俺とアイツがマジ喧嘩した場所だからな。
あまり人目に付かない時間帯を選び、俺はアイツが来るのを待っている。
まだ明け方、太陽が昇る前の時間帯・・・午前の5時ぐらいだ。
アイツがこの場所にやってきて、俺を見つけると神妙な顔をしていた。

「よッ、久しぶりだな」

「あぁ・・・久しぶりだな」

「話はなんとなく分かっている」

「そうか、なら良いんだけどな・・・」

俺は比較的冷静だったレイジの声を聞いて、ソレに答える。
やっぱ、なんとなく分かってるんだろうなあいつ。
何を話すわけでもない、何となく分かっているんだろう、俺が何を言いたいのか。
三十分ほどしてから俺は口を開いた。

「俺さ・・・天宮さんと付き合ってる、つもりだった。 昨日、お前と天宮さんが手を繋いで、歩いているのを見るまではな」

「見てたのか・・・?」

「あぁ、でもな偶然だよ偶然」

「すまん」

「何で謝るんだ?」

「・・・・」

「あのな、俺は天宮さんに告白しようとした。 だけど、彼女の笑顔を見るたびに、胸が痛むんだ・・・この笑顔は本当に俺に向けられているかどうか、不安なんだ。 未だにあの笑顔が、お前に向けられているかもしれないと思うと・・・な」

「そうか・・・だけどな、アイツは・・・夕樹は本当に俺の事を想ってるかどうか分からない。 だけど、だけど・・・俺はアイツの事が好きだ、誰よりも好きなんだ!」
「分かってるよ。 天宮さんは俺を通して、お前に笑顔を向けていたんだ・・・」

「不器用だよな、俺達ってよ」

「そうだな」

「あとよ、より戻すんだったら、一発殴らせろよ?」

「しゃぁねぇな、一発だけだぞ?」

「あぁ、分かってるよ」

そういい、俺達は笑い出した。
その日の午後、俺と天宮さんは、レイジを見送るために空港まで足を運んでいた。
レイジは鞄を持つと、飛行機に乗るために俺達に背を向けた。
天宮さんはこれが今生の別れのように、レイジの背中を見ている。
まるで、もう逢えないような寂しそうな顔をして、アイツの背中を見ていた。
俺はそんな彼女を見て、口を開く。

「いきなよ、天宮さん」

「え・・・?」

「アイツの事、まだ好きなんだろ?」

「・・・・・・・」

「好きなら言わないといけない。 俺の事は気にしなくても良い、だから今天宮さんが想っている事を全部、アイツにぶちまけるんだ」

そういい、俺は天宮さんの背中をそっと押した。
戸惑った様に天宮さんは俺の顔を見つめる。
俺は笑顔を浮かべると、天宮さんは一礼した後、レイジの所へと走っていった。
あぁ〜〜あ、失恋・・・か、まぁ新しい恋でも探すか!
俺は二人に背を向けて歩き出した。
レイジ、天宮さん、幸せにな!





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