想い出は色褪せず
忘レナ草
〜君と過した日々は色褪せず〜
終幕
そして、十数年のときが流れた。
黒いスーツに黒いネクタイ。
今日は、芹香の命日だ。
ふとあの日の事を思い出す。
芹香が死んだあの日を。
だが、それでも泣いてはいられなかった。
静真の父である紅司郎の元で働いき、紅司郎に受けた恩に報いるために懸命に働き続けた。
そして今がある。
娘と共に暮らしていると言う日々が。
娘の優奈が生まれてから18年が経ち、今年で高校を卒業する。
優奈は芹香に似て綺麗に育っているのだが、彼氏はいない。
「ほら、パパー早く早く!」
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ優奈・・・こけるぞ」
「もぉー何時までも子ども扱いしないでよ!!」
「あのなぁ、親からしたら、子どもは何時までたっても子どもだぞ?」
「また屁理屈こねてるし〜〜〜」
「あははっ、すまんすまん」
和斗は苦笑し、芹香に似た愛娘を見る。
目元がそっくりで、笑うと芹香と見まごう程だ。
花束を持ち、優奈の隣を歩いて行く。
芹香が死んで15年近くが経ち、優奈は16を迎え、自分が通っていた紫苑学園の高等部に在籍している。
墓石の前に立ち、和斗は優奈を見た。
物心が付く前に芹香が死に、母親のぬくもりを知らない。
だが、母親である芹香の分も優奈に愛情を注ぎ、育てたつもりだ。
その甲斐があってか、非行に走る事は無く、まっすぐ育ってくれた。
ありがたいことだ、と和斗は心の中で呟いた。
「パパ・・・何時もここに来ると聞くけど、ママってどんな人だった?」
「とても綺麗で、凄く料理がうまかったよ・・・性格も優しくて、包容力のある人だった。
お前と同じで少し、ドジなところもあったけどな?」
「もぉ〜〜〜私はそんなにドジじゃ無いよー!」
「そうか? まぁ、たまに大きなドジをするけどな」
「むぅ〜〜〜!」
頬を膨らませて、優奈は怒りを見せた。
だが、和斗は変わらずに優しい笑みを浮かべ、優奈を見ている。
それは今まで育ててきた愛娘を愛しむような笑みだ。
彼女の母親であり、和斗の妻である芹香の病は遺伝子変異により生み出される病で、その病を患えば必ず死に至る。
その遺伝子は優奈にも受け継がれているが、芹香の死から5年後にその遺伝子を特定し、治療方法も確立した。
和斗はその時、喜んだと同時に、悔しくも思った。
何故、芹香が生きているうちに確立しなかったのか、と考えた。
悔しくて悔しくて、優奈が眠った後に泣いた事も会った。
しかし、それは芹香を含めて、同じ病を患った人達によって解明され、当時では不治の病であったそれも治療できる病となった。
嬉しくもあった、悲しくもあった。
それでも和斗は素直に喜んだ、母と同じ病を患う娘が、自分よりも早く死ぬ事は無いと。
命日の日に、二人は芹香の墓所を訪れていた。
墓石をきれいにして、線香を上げて手を合わせる。
数秒して、目を開けて和斗は無言のまま、墓石を見つめていた。
「・・・パパ、私ちょっと住職さんのところに言ってくるね、暫く話相手してくるから」
そういい、優奈は本堂の方へと消えていった。
気を使ってくれた娘の背中を見つめ、和斗は苦笑してから墓石を向く。
「芹香・・・アイツ、お前に似てスゲェ元気だろ? まったく、似なくていい所が俺にも似ててな、剣道を始めたよ。
日曜になると『パパ、竹刀もって!!』とか言って、朝っぱらから剣道の相手させられるんだ、一本も決められなかったらすねちまうし。
まぁ、そこが可愛いんだけど・・・なんでか、彼氏を作ろうとしないんだよ、お前どう思う?
お前に似てドジな所もあるけど、俺が言うのもなんだがあれだけ美人に育ったのに、もったいないと思わないか?
何時までもパパ、パパ、って言って俺の後を追っかけてさ、それに優奈の友達の話じゃ『パパより強くてカッコイイ人じゃ無いと駄目』とか言ってるらしいんだよ・・・
俺より強くてかっこいいやつはごまんと居ると思うけどなぁ・・・」
と、延々と愚痴をこぼして行く。
和斗にしてみれば、亡き妻に話しかけているのだろうが、傍から見れば怪しいとしかいえないだろう。
それでも、和斗は口を開き言葉を発する。
「アイツも芹香と同じ病気を持ってた、遺伝子性の病気だからあたりまえか。
でもな、アイツは芹香みたいにあの病気で死ぬ事は無いんだ。
不公平だ、って思うかもしれないけどな、あの病気はもう不治の病じゃなくなったんだ・・・芹香と同じ病で死ぬ人はもう居なくなった。
俺はそれを知って、複雑だった・・・だけど俺は、素直に喜んだ。お前と同じ思いをする人が居なくなるから。
芹香と結婚した事は後悔してないよ、
心の中には何時も芹香が居る・・・それだけで、俺は笑ってられるから。
だから、心配しなくて良い、俺はずっと笑ってるよ、心の中に居る芹香と、優奈と一緒に笑ってられる・・・だからまた来るよ、芹香」
和斗はそう言い残し、背中を向けた。
その背中には哀愁と亡き妻への愛があった。
風が吹き、線香の煙は消えて行く。
ふと、その風に紛れて芹香の声が聞こえた気がして、和斗は振り返った。
墓石の前に、芹香の幻影を見た。
彼にしか見えない幻影は、柔らかな風に髪を揺らしながら微笑んでいた。
亡き妻の優しい笑顔を見た気がし、和斗は笑みをこぼした。
「そんなに心配しなくて良いよ・・・まぁ、優奈については心配して欲しいけどな」
苦笑を浮かべると、再び振り返り歩いて行く。
夏の終わり、まだ空に太陽が輝いている。
この暑さは続く夏は・・・まだまだ続いている。
また逢おうね・・・和斗
THE END
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