中学の頃から栖桜が好きだった同級生・咲弥












やっぱり、最初にくれた柊さんのを食べるか・・・
少し緊張気味に、俺は柊さんの作ってくれたチョコを頬張った。
ほんのりと甘みが口の中に広がり、それでいてしつこくない甘みだ。
何とも、俺の好みにあったチョコで、すぐに俺は平らげた。
やっぱり柊さんって、家庭的だよなぁ・・・優しいし、美人だしさぁ。
ああ言う風な人を、大和撫子って言うんだろうな。
俺は一人納得して教室に戻り、席に座ってボーっとしていると、柊さんと視線があった。
彼女は顔を紅くして俯いた・・・う〜〜ん、ああ言う仕草も可愛いな。
あんな子は、護りたくなるようんうん。
俺は、放課後になると、柊さんの所へ行った。
友達と喋っていたが、俺が近付いていくと友達がどこかへ行った。

「あ、あの、榊くん・・・」

「ん・・・な、何かな?」

柊さんが、改まって俺に何か聴こうとしてくる。
何か、スッゲェ・・・ドキドキしてるな、もしかして告白タイム?
んなワケねぇだろ、俺。
少し妄想するが、すぐにそれを振り払い俺は、柊さんを見る。
やっぱ可愛いわ・・・ショートヘアーの黒髪に少し垂れ目がちの目、ツンとたった鼻に小さい口。
それで居て、大きすぎず小さすぎない胸、きゅっと締まったウエストにすらりと伸びた長い足。
大凡、そこいらの女子生徒は彼女の前では霞んでしまうだろう。
ん〜〜〜このまま、抱きしめてみたいね、ホント。
柊さんは、俺を見つめながらもじもじとしている・・・
トイレ何だろうか・・・言ったら確実に、嫌われるだろうな。

「や、やっぱり良いです!!」

柊さんは顔を耳まで紅くして、走り去った。
な、何だったんだ一体・・・まぁ、可愛いから許せるな。
あ・・・そーいや今何時だ?
俺は時計を見ると、長針は12を指していて、龍太郎さんと約束していたので、俺はアルファ・ルーベンスのスタジオに行く事にした。
チャリンコをかっ飛ばし、制服のままそこについた。
龍太郎さんの名前を出して俺は、スタジオ内に入り龍太郎さんの仕事や、モデルの人達を見ている。
流石に、スタイルがいい人や顔のいい人ばかりだ、俺があそこに入る事は無いな、絶対に。
頬杖をつきながら、見ているとモデルの一人が俺の隣に座った。

「ふぅん・・・仲道さんが直々にスカウトしたって言うから結構期待してたのに、冴ねぇヤツだな」

「で、それがどうかしたんッスか?」

俺は努めて冷静な口調で、言う。
ナンツーカ、天狗になってるんじゃないか、コイツ・・・・
あ〜〜ヤダヤダ、俺の嫌いな人種じゃねぇか、胸くそワリィったら、ありゃしねぇ。
俺はチェーンを通して、首飾りにしている二つの指輪を見た。
死んだ親父とお袋の遺品で、俺の大切なモノ・・・いつも、コレを肌身離さずに持っている。
腹が立った時等に、俺はそれを見て気持ちを落ち着かせている。

「ん、何だその指輪」

「何でもないッスよ・・・」

「見せろよ」

「嫌です」

すると、そいつは俺の持っていた二つの指輪を横から取った。
しげしげとそれを見て、そいつはこう言った。

「何だ、ボロイ指輪だな・・・こんなもんをチェーンに通して、大切にしてる何てな、馬鹿じゃねぇの?」

大笑いして、そいつは俺に指輪の付いたチェーンを投げ返し、俺はそれを受け取った。
お前に、俺の何が分かる・・・お前に、お前に俺の何が分かるって言うんだ!?!
俺は、殴りかかりたい衝動を堪えて居たが、許せない事をそいつが言った。

「そんなボロイ指輪捨てちしまえよ、どうせ大した物じゃねぇんだろ?」

そいつがそう言った瞬間、俺は頭に血が上ってそいつを殴っていた。
顔を殴り、腹を殴り付ける。鈍い感触が、俺の拳から伝わって来る・・・
胸倉を掴み、顔面に何度も拳を叩き込んだ。
床に倒れると、腹部に蹴りを何度も叩き込み、そいつは何か言っているが俺の耳には届いていない。

「やめろ!榊くん!!」

龍太郎さん達が、俺を押さえつけた。
それでも、頭に血が上った俺は、そいつに殴りかかろうとしていた。
暫くし、俺は平静を取り戻して違う部屋に、龍太郎さんと二人ッきりで話をする事になった

「榊くん・・・理由はどうあれ、殴る事は無いだろう」

「すみません・・・」

「理由を、話してくれるかな?」

「許せなかったんすよ・・・コレを馬鹿にした事」

「指輪・・・?」

「俺の、親父とお袋の結婚指輪なんですよ、コレ・・・」

「何でそんな大切なモノを君が?」

「俺の・・・俺の親父とお袋の形見なんです・・・俺が、まだ4歳の時に、事故で死んで俺は伯母夫婦に引き取られたんですよ。 伯母さん、葵姉さん、冴姉さんみんな優しくしてくれました、でも・・・俺は引き取られて、血は繋がっていない。 それが原因で、伯父さんは俺に暴力を振るいました・・・葵姉さんや冴姉さん、薫さんはそれを止めようとしたんですけどね・・・伯父さんは葵姉さんや冴姉さん、薫さんも殴るんですよ。それだけはさせないために、俺は殴られましたよそれこそ毎日、毎日・・・ね」

それ以降も、俺は自分の事を全部語った。
どうも、俺らしくないと思った・・・こんな事を話す事は、この人が初めてだ。
龍太郎さんは言葉を発することなく、俺の話を聞いてくれた。

「まぁ、そこからは定番通り、って言うのかな?< 俺は中学を卒業するまでは、荒れてたんですよ。 クスリとかには、手を出しませんでしたけど、ダチと喧嘩しまくって校内じゃ俺に話しかける奴なんか、殆ど居なかった。 家に帰れば、伯父の暴力があって、家には帰りたくなかった・・・で、俺は殆ど家に帰る事なく友人の家に寝泊まりしてました。 今でこそ丸くなったけど、昔は抜き身の刀って感じで目を合わせたヤツに、片っ端から喧嘩売って・・・そんな毎日を過ごしてました」

手で包み込むように、コーヒーカップを持って、俺はそれを飲んだ。
温かい紅茶が、俺の喉を潤していく。
一息ついた後も、俺は淡々と過去を語った。

「でもね、ある日・・・近所に住んでる幼なじみ・・・って言えばいいかな・・・冴姉さんと同じ歳で、巴って人がいるんですけど、その人を刺されたんです、俺のせいで。  喧嘩してて、相手がナイフ出して俺に向かってきたんだ、でも通りすがりの巴さんがその間に入って、刺されて・・・その人は生きてますけど、その人には感謝してます・・・あのままだったら、俺がこの場にいなかったんですから。 目の前が真っ白になりましたよ、巴さんが俺の視界に入って初めて意識したんですよ、巴さんが死ぬってね。 慌てて、救急車呼んで俺達は事情徴集を受けて、それからっすよ・・・今みたいになったのは。 葵姉さん達の事を、悪く言われても怒りますよ、でもさっきみたいにはいきません。 だけど・・・コレを馬鹿にしたことだけは絶対に許せないんです、俺を生かすために死んでいった母さんと父さんを侮辱する事は・・・絶対に許せないんです」

「そんな事があったのか・・・」

「でも、それで人を殴って良いってワケじゃありませんからね・・・」

「まぁね、君の言うことは正しいよ。 けど、君は君の御両親が侮辱されたと思ったんだろ?」

「ええ・・・あの言葉は許せなかった」

「良いじゃないか、親思いで・・・」

「すんません、後日改めて見学に来て良いッスか?」

「ああ、構わないよ。 いつでもおいで」

龍太郎さんは、笑顔で答えてくれた。
何となく、その笑顔が今の俺にはとても嬉しかった。
俺は殴った人に謝罪した後、自転車に乗って家に帰った。
家に帰ると、すぐに部屋に籠もった・・・
冴姉や葵姉が遊びに行こう、と言ってきたが何か今はそう言う気分じゃない。
俺は飯も食わずに、すぐに眠ってしまった。
次の日、俺は一本の電話で目を覚ました。
ったく何だよ・・・こんな朝っぱらから誰だ?
俺は受話器を取り、電話に出た。

「はい、もしもし」

声から分かるように、俺は今スゲェ気分が悪い・・・と言っても、体調不良と言うわけではないぞ。
何か、昔に戻った様に気分が悪い。
受話器から聞こえてきた声は、どこぞの報道関係の雑誌社からの電話だった。
内容は昨日の事で、モデルをやってたヤツを、殴ったことに関して根ほり葉ほり聞かれた。

「うぜぇ」

そう言って、俺は電話を切った。
多分、俺の知り合いにも何か、電話がいってそうだな・・・気が滅入る。
すぐに制服に着替え、飯も食わずに学校へ向かった。
しかし、家を出ると何処から住所を知ったのか、報道記者がわんさかと居た。
カメラのフラッシュが、眩しくて思わず手で影を作る。
俺は、学校へ向かうため、自転車に乗りペダルを漕いだ。
だが目の前には、報道記者が居て前に進めない。

「イノセント・ノイズのシュウさんに、暴行をくわえたと言う事は事実なんですか?!」

マイクを向けて、何か叫んでくる。
俺はそれを無視して、人垣をかき分けて自転車を漕いで、学校へ向かった。
教室に付くと、俺に視線が向けられる。
やはり、報道関係の所から電話がいったのだろう、こうなる事は予想していた。
自分の席について、俺はMDを聞き始めた。
こうでもして気分を落ち着かせようとしたが、ひそひそと俺を見て話すヤツらが目について、俺は更に気分を落ち込ませた。
俺は、逃げるようにして教室を出て、一人屋上にいた。
ただ・・・何もする事無く、俺は空を見上げながらMDで音楽を聞いていた。
ベートーベンの運命や、モーツァルトの葬送曲を始めとした、クラシックの音楽を聞きながら俺は、空を見つめていた。
昨日の事を思い出す、ちゃんと謝罪したはずだが、何でこうなったんだ・・・

「やっぱ、ここにいたか」

「佐久也か・・・何か用か?」

「いや、外にいる報道関係の奴等は、お前絡みなんだろ?」

「まぁ・・・な、お前のとこにも電話、いったのか?」

「来たけど無視して、電話切った。 お前がああ言うことをするには、どうせワケが在るんだろ?」

「お前には、コレが何だか話してるよな・・・」

「あぁ、確かお前の親父さんとお袋さんの形見だろ?」

「コイツを馬鹿にされて、頭に血が上ったのさ。 後は知ってのとおりだ」

「そら、キレるわな。 お前、それ大事にしていつも肌身離さず持ってるしな・・・」

佐久也は昔からの、ダチだ・・・俺のほぼ全てを知っていて、俺もコイツのほぼ全てを知っている。
中学の時も、コイツとつるんでいて色々と、悪さをしたもんだ。
悪さ、と言っても万引きやクスリ、煙草には手を出してない、ただ、喧嘩ばかりしてた。
他校の連中と喧嘩ばかりして、一度体育祭の最中に他校の連中が乗り込んできて、グランドの真ん中で派手な立ち回りをしたのは、今でも記憶にある。
コイツも俺と同じ様な境遇で、コイツは今一人で暮らしている。
俺は、恵まれていた方だろうな、優しい伯母や義理の姉が居ただけ・・・コイツの場合、家族中から疎まれていて引き取って貰った家族全員から、虐待されていた。
中学になると、その家を飛び出して暫く俺の所に来て居候をしてたっけか。
まぁ、それも昔の話だ・・・
何もする事無く2人で空を見ていると、一人2人と女子が来た。
藤咲と柊さんだ。

「ねぇ、榊・・・あの話、ホントなの?」

「・・・あぁ」

藤咲があの事を聞いてきて、俺は短く且つ簡潔に答える。
今は他人の同情はいらない・・・同情されればされる程、俺が惨めに思えるからだ。
その後、2人は何も言わず俺を見ていた。
校内放送で俺は呼び出され、校長室に俺は居た。
校長と教頭、進路指導の教師、数名に囲まれて俺は校長室にいる。

「榊・・・お前のしでかした事が、どれ程の事か分かっているのか?」

いきなり、頭ごなしに教頭が俺に向かって言う。
俺は何も答えず、ただ立って居るだけだ。
俺の担任でもある高瀬瑞葉先生は、それを宥め様としたが、如何せん新任教師にそれが勤まるハズもない。
進路指導の教師も、教頭も、学校の事しか考えて無い。
この学校の校風が疑われる、だとか、こんな問題児、即刻退学にするべきだ、等と言っている。

「テメェラに、何が分かる・・・テメェラに今の俺の気持ちが、分かるか? 分かるわけねぇだろ、学校の事や自分の保身のことしか考えないヤツ等に、俺の気持ちなんか分かるわけねぇだろがっ!!」

俺は激昂して、思ったことを全て口にして校長室を出た。
高瀬先生は俺を追ってきたが、それを無視して俺は屋上に出た。
青い空が、何処までも広がっている。
もし、俺の背中に翼が在れば・・・何処まで飛んで行けるだろうか。
俺は腕を広げて、吹き付ける風を一心に受けた。
涙を流しながら・・・ずっと、ずっと俺は屋上でそうしていた。
家に帰ると、部屋に籠もる。
伯父さんは、俺の所に来て俺を殴った・・・何度も何度も殴り、薫伯母さん冴姉や葵姉が止めに入るが、逆に薫伯母さんや冴姉、葵姉を殴った。
俺は、それを見て激昂し、伯父さんを殴った・・・もう、俺は戻れないかも知れない。

「伯父さん、何で俺が大人しく殴られてたと思います・・・? 俺はどうされようが良いけど、義母さんや葵姉、冴姉に手を出させないためさ、アンタはそんな事も分からなかったのか?」

俺は、抑揚の無い声で伯父に向かってそう言うと、もう一度殴った。
伯父は尻餅を付いて、俺を睨み付ける。

「アンタがもう一度、義母さんや葵姉、冴姉を殴れば、俺は容赦無く反撃するぜ?」

俺はそう言い、ベッドに座った。
伯父はゆっくりと立ち上がり、俺を殴った。
何度も何度も殴り、身体中に痣が出来た・・・冴姉が止めに入るが、それを無視して俺を殴りつつけた。
俺は甘んじて、それを受けている。
喧嘩をしていた頃に、受けたパンチに比べればどうって事無い。
薫さんや葵姉、冴姉を部屋から追い出すと、伯父は俺の親父が使っていたギターを手にした。
や、やめろ・・・それだけは、それだけはやめてくれ!!
伯父はそれを掲げて、思いっきり床にたたきつけた。
破砕音がして、親父の使っていたギターが、壊れた・・・
俺は呆然としてそれを見つめ、気付けば、薫さん、葵姉、冴姉の顔が目に入った。
見慣れた天井で、みんな泣いている。
身体を起こそうとするが、全身を針で刺されたような痛みが走る。
ゆっくりと首を動かして部屋を見渡すと、俺の大切だった物の残骸が散らばっていた。
ギターが・・・親父が、趣味で買って使っていたギター、俺にとって、指輪もそうだがコレも宝物だった。
いつか親父みたいに、巧くギターが弾ける様になると信じて、親父のギターを使っていた。
何でだよ・・・何で、何でみんな俺の大切なモノを侮辱するんだよ・・・
身体を冷やす冷たい感覚が、妙に心地よかった・・・
それから一週間近く経っても、報道記者が家を取り囲むように来ている。
俺はベッドから降りて、リビングに降りていく。
薫さん、葵姉、冴姉が心配そうな表情で、俺を見る。
煎れて貰ったコーヒーを飲んで、俺は口を開いた。

「母さん、葵姉、冴姉。 一週間考えたけど・・・俺、この街出るわ」

俺がそう言うと、薫さん達は反対した。
けど、もう決めた事なんだ・・・俺が居なくなれば、この家にも迷惑を掛けないですむ。
俺はそれだけ告げると、部屋に戻った。
準備をしていると、冴姉と葵姉が部屋に来た。

「栖桜・・・本気で、この街を出ていくの?」

「もう少し、考えてみたら?」

「ゴメン。 冴姉、葵姉、一週間考えて出した結果なんだ・・・元々、高校卒業すれば出て行くつもりだったしさ・・・それが、早まっただけだって」

「でもさ・・・やっぱり寂しい」

「冴姉、いつもの元気はどうしたんだよ・・・葵姉も、元気ねぇぞ」

「栖桜、私達ね・・・アナタの事が好きだったのよ。 弟としてではなく、一人の男性として」

葵姉がそう告げるが、俺はあまり驚かなかった。
予想できていた事だったからだ。
葵姉も冴姉も美人なのに恋人を作らなかった。
2人の想いに、俺は心の何処かで気付いていたかも知れない。
けど、今の状況を壊したくなかったから、気づかなかったフリをしていたんだ・・・

「わかってた・・・けど、俺は」

「良いのよ、私達の一方的な思いなんだから」

「俺も、葵姉と冴姉は好きだ」

「ありがと・・・元気でやりなさいよ」

「転居先決まったら、教えてね・・・絶対に行くから!」

俺は親指を立てて、それに応えると葵姉も冴姉も満足そうな表情を浮かべて、部屋から出て行った。
衣類を鞄に詰め込み、有り金全てと親父とお袋の位牌を持って、俺は家を出た。
薫さんは最後まで引き止めようとしたが、俺は何とか説得して家を出た。
報道記者の質問責めを無視して、免許を取ってこの前買ったばかりのサイドカー付き単車に乗り、俺はこの街から出ていこうとした・・・宛もなく彷徨い歩く、それが今の俺には丁度良いかも知れない。
俺はまず、巴姉の所へ赴いた。
サイドカーに荷物を詰め込んだ後、垣根を飛び越え、玄関のドアを叩き中に入る。

「どうしたの、すおーくん・・・」

「巴姉、俺この街を出る事にしたんだ」

俺は、すぐにそれを口にする。
巴姉は驚いた顔をして、目尻に涙を溜め始めた。
泣くなよ・・・巴姉。
俺は、自然と巴姉の頭を撫でて、巴姉を宥めていた。

「すおーくん、ちゃんと帰ってくる?」

「多分、帰ってくるよ・・・」

「待ってるから、ずっと・・・ずっと、すおーくんの事待ってるからね!」

巴姉は、涙を流しながら抱きついてきた。
別に恋人同士、と言うわけでは無いのだが・・・
それがごく自然のように思え、俺は巴姉を抱きしめていた。
俺は巴姉の家を後にすると、単車に乗って佐久也の所へと行った。
佐久也にこの街を出る、と俺が告げると驚きはしたがそう驚いていなかった。
やはり、予想していたんだろうな・・・流石は親友だ。

「そうか・・・寂しくなるな。 たまには連絡よこせよ、ホレせめてもの餞別だ」

そう言って、佐久也は俺の好物を作ってくれた。
流石に自炊しているために、料理は上手い。
俺はそれを平らげると、今度は藤咲の所へ向かった。
家にいるとは思えないが一応、俺はそこへ向かう。
携帯で、連絡を取ると藤咲の家に行き俺は中に入り、この街を出ていくと言うことを話した。

「どうして、出ていくの・・・何で、私の気持ちとか無視して、出て行こうとするのよ!?」

あの藤咲が、珍しく涙を流した。
ゴメン、みんなに迷惑かけたくないんだ・・・
俺は時間を掛けて、藤咲を宥めた。
落ち着いてきたのか、平静を取り戻すと藤咲は俺を真っ直ぐに見て、口を開いた。

「連絡、くれるよね?」

「ああ・・・たまには、連絡も送るしライブも観に行ってやる」

「約束よ・・・」

「ああ、約束する」

俺達は小指を絡めて、子どものように指切りをした。
藤咲の家を後にすると・・・俺は、柊さんの所に顔を出した。
何故かは分からないけど、俺はそうしないと行けないと思い、彼女の家へ向かっている。
彼女の家の前にも何人か記者が居るが、俺はヘルメットを被ったまま、インターホンを押した。
インターホンに出たのは、柊さんだった。

「話したくありません!」

「柊さん・・・俺だけど」

「え、榊・・・くん?」

「うん、俺・・・中に入れてくれないかな」

「ちょ、ちょっと待ってて」

それからすぐに玄関が開き柊さんの家に入った。
リビングで、俺は柊さんが煎れてくれた紅茶を飲み、一息ついた。
もうすぐ、俺はこの街を出る。
4歳の時から俺はこの街で育った思い出の深い土地、俺の故郷。
走馬燈の様に、思い出が脳裏を掠める。
楽しかった事や哀しかった事、其の全てが思い出される。

「榊くん、私信じてるから」

「え?」

「榊くんがシュウさんを殴った事に、理由があるって事信じてる」

「もしも・・・もしも柊さんの御両親が亡くなられて、御両親の形見を馬鹿にされたら、柊さんはどうする?」

「え・・・多分、泣いて馬鹿にした人の頬を叩いてるかも・・・」

「それと同じだよ。 この指輪、俺の親父とお袋の結婚指輪なんだ・・・」

「そうなんだ・・・」

「でも、俺が4歳くらいの時に事故にあって、親父とお袋はその命と引き替えに、俺を助けてくれたんだ」

「・・・・・」

「コレを馬鹿にされて、俺はカッと来て気付いたら殴ってた・・・」

「気にしたらダメだよ・・・」

「分かってる、分かってるけど・・・ね」

俺は、自分自身に落ち着くように言い聞かせた。
どうしようもなく、俺の心臓は早い程脈を打った。
落ちつけ・・・落ちつけ・・・
そして、俺は口を開き、この街を出る事を柊さんに告げた。

「柊さん・・・俺、この街を出ることにした」

「え・・・?」

「この街を出て、違うところで暮らす」

「で、でも、学校はどうするの?」

「この街を出て、落ち着いてから退学届けを出す」

「・・・ねぇ、榊くん」

「ん・・・?」

「こんな時にしか言えないけど、私ね・・・榊くん・・・栖桜くんの事好きだったの」

俺はそれを冷静に受け止める。
内心は、かなり喜んでいたのだが、何故か喜べなかった。
何でだ・・・嬉しいはずなのに、喜べない。
ホントに、何でだろう?

「ねぇ・・・栖桜くん。 私も、一緒に行っちゃダメ?」

「・・・ダメだ」

「私のお父さんとお母さんね、いつも家にいないで仕事ばかり・・・私、普通の家に生まれてお父さんに学校の話をしたり、お母さんと一緒に料理、してみたかったんだ」

俺は淡々と語る柊さんの話を、黙って聞いていた。
その話を聞くと、無性に抱きしめたくなってきた・・・
でも俺は、其の衝動に耐えて俺は柊さんに、指輪を渡した。

「コレ、受け取ってくれる?」

「え、でも・・・大切なモノなんでしょ?」

「うん、確かに大切だ。 けど、俺の好きな子に、コレを持っていて貰いたいんだ・・・親父達も、その方が喜ぶだろうし」

俺は努めて冷静に言うが、内心どきどき物で、顔は耳まで紅くなっていると思う。
柊さんは、それを受け取ると左の薬指にはめてみた。
俺は目を疑った、何とすっぽりと入ったのだ、別に無理矢理入れたワケでは無くごく自然に、其の指に入るのが当然だ、と主張せんばかりにだ。
それを見ていて、俺は親父の指輪を左の薬指にはめてみた。
存外、あっさりと俺の指に入り、ぴったりだった。

「柊、落ち着いたら手紙寄越すからさ、おいでよ・・・それまでに、親を説得して俺と一緒に暮らそうぜ」

「うん・・・待ってるからね・・・栖桜くん」

俺達は、今恋人同士になった。
自然と俺達は、口唇を重ねた・・・俺のファーストキス、柊のファーストキス。
レモンの味とか言うけど、それは嘘だと思った。
その後、俺は家を出ると単車のエンジンをかけてアルファ・ルーベンスのスタジオに向かい、龍太郎さんの所へと顔を出した。

「榊くんか、どうしたんだいその荷物」

「ええ、この街をでようと思いまして・・・」

「えっ・・・本当かい、何でまた?」

「みんなに迷惑かけたくないんですよ・・・これ以上、俺のせいで滅茶苦茶にしたくありませんから」

「そうか・・・僕の誘いは蹴るのかい?」

「いえ、受けますよ・・・この街から出て行くだけです、落ち着いたら連絡するんで、教えてくれませんか?」

「ちょっと待ってね・・・ほら、コレが携帯の番号と、家の番号、こっちが僕の住所」

「ありがとうございます」

「いや、どうって事無いさ。 あ、ついさっきシュウくんに君の事を話したんだ」

「え?」

「そしたら、“大切な元は知らず、侮辱してすまない・・・許してくれ”だってさ」

「良いッスよ・・・俺の方が悪かったんですし」

「そうだ、一枚写っていくかい?」

「そうさせて貰います・・・あ、現像できたら、この住所に送ってやって下さい」

俺はそう言うと、薫さんと巴姉、佐久也、藤咲、咲弥の住所を教えた。
衣装に着替えて俺は、立った。

「良いね・・・やっぱり、僕の思ったとおりだ・・・衣装の全てを、引き出してくれている」

龍太郎さんはそう言い、シャッターを何度か切った。
ストロボが焚かれ、俺の今の姿をそのフィルムへと焼き付ける。
写し終えて、俺は衣装を脱ごうとした。

「栖桜くん、その衣装君にあげるよ」

「良いンすか、そんな事言って」

「あぁ、その衣装の全てを引き出せるのは、君だけだったからね・・・まぁ、君の新しい門出の祝いとして受け取って欲しいんだ」

「なら・・・頂いていきます」

俺はそう言い、スタジオを後にして単車に跨り、宛のない放浪の旅へと出た。
俺の育った故郷を後にして、俺は・・・旅だった。
さよならは言わない、俺の帰ってくるべき場所はここにある。
俺の帰るべき場所はアイツの元しかない。
柊咲弥・・・俺を好きでいてくれて、俺が好きな純真無垢な少女。
本当は、彼女も連れていきたかった・・・彼女を連れて、何処までも一緒に行きたかった。
けど、それはダメだと思い、俺は踏みとどまった。
彼女になら、俺の全てを知って貰いたいと思う・・・いや、俺の全てを知ってほしいんだ。
でもそれは今ではない、いつか俺がここに戻ってくるかも知れない、その時に俺の全てを彼女に知って貰うんだ・・・だから、さよならは言わない。
こうして、俺は長年住んだ町を出た・・・・










































俺が、あの街を出て数年が経った。
藤咲はトップアイドルとして、今では名前を知らない者はいない程の人気を誇っている。
冴姉は歌手としても女優として道を歩み、ファンはかなり多い。
葵姉と巴姉は、二人してユニットを組んでデビューして、それを見た時はかなり驚いた記憶がある。
佐久也は佐久也でバンドを組んで、デビューした。
驚くべき事に、咲弥も芸能界にスカウトされて藤咲と肩を並べる程の人気を誇っている。
そして、俺はと言うと・・・モデルをしていた。
あの日龍太郎さんが撮ってくれた写真で、俺は一躍時の人となった。
無論、あの日から報道記者は手を返した様にして、俺の事を報道した・・・
シュウとはあれから何度か話して、ちゃんと和解した。
何度か話している内に、意気投合して今ではかなり仲がいい。
しかし・・・それは置いておいて

「冴姉、葵姉、巴姉、藤咲、何で俺の部屋に溜まってるんだ!? しかもシュウに佐久也まで!!」

そう・・・俺はあの街から遠く離れた場所に住み、住所を今この部屋に居る人物達に教えると転がり込んできたのだ。
咲弥は良いとしてだな、冴姉、葵姉、巴姉、藤咲、シュウ、佐久也は納得がいかない。
まぁ、一人暮らしするにはでかすぎる家だから良いとしてだな・・・
俺は部屋の隅にふと、目をやる。そこには、見覚えのある人が座って、お茶を飲んでいた。
疲れてるのかな、俺・・・見間違いじゃなければ、アレは俺の元担任の高瀬瑞葉じゃないか?
目をごしごしと擦り、再びそこを凝視する。
何で高瀬先生まで居るんだ、俺は先生に住所を教えた記憶はないぞ!?
頭を抱えて、苦悩する俺。

「まぁまぁ、良いじゃない♪」

「そうそう、正妻の座は咲弥ちゃんに譲ったけど、愛人の座はまだ開いてるからね♪」

冴姉、藤咲が、何故か意気投合して言う。
シュウと佐久也は声を殺して笑っている・・・何か、無性に殴りたくなってきたぞ、この2人。
巴姉と葵姉は格闘ゲームに興じており、現在・・・葵姉が圧勝中。
咲弥はと言うと・・・今は、ここにいない。
病院に入院しているのだ。
ま、まぁ、その・・・な、何て言うかな、出来ちゃったんだよね。
この事が、日本中に報道されて一時期、剃刀レターや無言電話の嵐があったなぁ・・・
しかも、冴姉、葵姉、巴姉、藤咲が居候する事になり、色々と変な噂も流れた。
俺がイスラム国籍を持っている、だとかハーレムを作ってるだとか・・・
まぁ、ある意味で正解かも知れないな、うんうん。
別にイスラム国籍を持っているわけでもないし、ハーレムを作った覚えはない。

「全く・・・アンタらそれで良いのか、ここにいる全員日本中に知られてるのに・・・」

俺はそう言うと、服を着替えて外出する準備をした。
とりあえず、みんな大して変わっていない。
無論、俺も変わっていないぞ。
ブーツを履いて、単車のキーとヘルメットを掴むと、家を出た。
背中から、何か俺を冷やかすような声が聞こえてくるが、無視をして病院へと向かった。
産婦人科の一室に入り、俺は最愛の人の顔を見る。
変わらない・・・俺も咲弥も変わっていない。
変わったのは、俺達を囲む環境だけで後は全然変わっていない。

「あ、栖桜来たんだ・・・」

「ああ、大丈夫か?」

「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても」

咲弥は笑顔で俺に言う。
やっぱ、咲弥の笑顔は可愛いねぇ、抱きしめたい位だ。
・・・ん?
何か、咲弥の顔が紅いな・・・まさか

「なぁ・・・やっぱ、口に出してたか?」

俺が咲弥に聞くと顔を真っ赤にして、無言のまま頷いた。
あちゃ〜〜〜やっぱ、口に出てたのか。
何とかしないとな、このクセ・・・いつか確実に、墓穴を掘るな。
俺は一人納得しながら、咲弥のベッドに腰を下ろした。
頬をそっと撫でて、咲弥の髪の毛を指で触る。
絹のように滑らかな感触で、黒髪が太陽の光を反射して艶やかに見える。

「なぁ、咲弥・・・・」

「何?」

「俺と一緒に居れて、幸せか?」

「幸せよ、あなたと一緒に居れてね」

笑顔で咲弥は言う。
俺は、その笑顔を見て年甲斐もなく、ドキッとした。
うぅ・・・やっぱり、この笑顔は俺にとっては凶器だな。
優しい笑みで、俺を見る。
自然と俺は、咲弥を抱きしめていた。
窓の外には桜の花が咲き乱れ、美しい光景が広がっている。
二人ッきりの病室・・・では無いな、確実にデバガメが扉の前に。
俺は扉の前に行こうとしたが、咲弥が俺に回した手を離さなかった。

「咲弥・・・見られてるぞ?」

「良いのよ、見られてても。 その方が良いじゃない、ね?」

咲弥がそう言うと、俺達は口唇を重ねた。

季節は桜舞う陽光の春・・・・

その日、俺と咲弥の子が生まれた・・・・

このニュースは、瞬く間に広がって行きお茶の間を賑わせた。

幸せか?

と聞かれれば、俺は自信を持って応えられる。

今、俺は幸せなんだ、と・・・断言できる。

願わくば、この幸せがいつまでもいつまでも続きますように・・・・




























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