恋愛:天宮夕樹の場合







夕樹 Side








私は夢を見た。
高校の頃に、零慈と歩いたあの桜並木の土手、夏祭りの縁日。
今でも、色あせずに残っている。
レージは私の隣を歩く事をやめて、私から離れていった。
高校を卒業してから、レージは東京のプロダクションに所属して、歌手デビューした。
テレビで見て、歌詞を聴いたら私との思い出を唄っていた。
私の事を忘れていないと、私の事を想っていると思い安心できた。
時が経つにつれて、レージは良くテレビに出る様になっており、不安が大きくなり始めた。
もう、私の事を好きなんじゃないかって、思ってしまう。
レージと連絡を取りたくても、取れない状況が続いてしまい、そんな折にレージとマネージャーがデキているという報道が流れ、愕然とした。
本人達は、そんな関係じゃないと否定しているけど、マネージャーの桑島弥生(くわしまやよい)って言う人の所に、行くわけは無い。
私は・・・捨てられた?
違う、捨てられたんじゃない・・・絶対に違うッ!
否定したい、だけど否定できないそんな二律背反の思いを抱きながら、日々を過していた。
電話が鳴っている・・・だけど、出る気に離れない。
ずっと放っておいて、電話が鳴らなくなった。
レージ、寂しいよぉ・・・そばに居て、抱きしめてよあの時見たいにぃッ!
私は、自分の身体を抱きしめた。
レージと離れ離れになってから、一年が経過した。
レージからは音沙汰なし、やっぱり・・・あのマネージャーとデキてるのかなぁ・・・?
そんな事を考えながら町を歩いていると、レージの幼馴染・村野敦・・・だっけ、が声をかけてきた。

「よっ、天宮さんなにしてんの?」

「・・・たしか、村野くんだったっけ、レージの幼馴染の」

「あぁ。 しかし、天宮さんに覚えられて貰えてるなんて、光栄だね」

「そりゃ・・・ね。 一年の頃にレージと一緒に、バンド組んでたんだから、覚えてるわよ。 その後、上級生の反感を買ったんだからね」

私はそのときの事を思い出して、笑みを浮かべる。
屋外で、突然にギターをかき鳴らして、歌いだしたんだから覚えていて当然だよ。
それに・・・とっても、楽しそうだったしね。
その時のレージは、ギターを弾いて歌を唄っていた。
誰かに、自分の想いを告げる様な感じがして、その時の歌詞は今でも覚えている。
確か、唄いだしは『いつもキミの事を見つめていたよこの想いキミに届けたい・・・だからいつかキミに届け』だったよね。 その相手が、私だったとは思わなかったけどね。
村野君と話をして、私は家に帰った。
家に帰ってお風呂に入って、部屋でゆっくりしていると電話がかかってきた。
出るのがめんどくさいので放っておき、お母さんが私に電話だって行ってきたけど、居ないと言ってもらった。
数日後、私はこの日を境に、村野君とよく出かけるようになっていた。
待ち合わせをして、いろんな場所に行った。
レージとの思いでも場所にも、足を運んでいる。

「そういえば、レージのヤツと此処で喧嘩したな・・・」

「そうなの? スッゴク仲がいいから、喧嘩した事ないって思ったけど」

「あははっ、幼馴染でも喧嘩する時はするさ。 そん時は、取っ組み合いの喧嘩してな、その後お互い親に樹につるされてさ、それでも口げんかしてたなぁ」

「樹につるされながら?」

「あぁ」

へぇ・・・レージでも、村野君と喧嘩したんだ。
私は、今まで知らなかったレージの子ども時代の話しを聞いて、自然と笑顔を浮かべていた。
それからも、レージの話を聞いていた。
私は、次第に遠い地に居るレージよりも、村野くんに惹かれ始めていた。
そして、その日は村野くんと一緒に、買い物に出かけた。
少し暑くなり始めて、初夏の薫りがする。
ノースリーブのニットシャツとデニム生地のジャケット、黒いタイトスカートを穿いて、私は村野くんを待っていた。
地元なので、見知った顔が話しかけてくる。
大抵が、レージが帰ってきたのか、とか聞いてきた。
やっぱり・・・私はまだレージが好きだ、その反面レージを憎む自分も居る。
付き合っていた頃は、少しわがままな面が見れたけど、それは私に甘えていると言う事を、私は感じ取っていた。
だからこそ、私はレージと一緒にいた。
レージと一緒に居て、楽しかったのは事実だから。
目を閉じて、あの日を想う。
楽しかった日々、喧嘩もしたけど、それも今では思い出の一つだ。
やっぱり、私は・・・

「どうしたの、天宮さん?」

「え?」

「いや、何かボーっとしてたからさ」

「あ、ううん、何でもないの、ちょっと考え事してただけだから」

「ふぅん・・・(やっぱ、まだレージのことが好きなんだな)」

「どうしたの?」

「ん、いんや、なんでもないよ。 それじゃいこうか?」

「え、うん」

私は村野くんの隣を歩き、私達の生まれ育った町を歩く。
あれ・・・?
何か視線を感じる様な・・・私の気のせいだよね?
私は、村野くんからレージの話を聞いて、笑顔を浮かべていた。
でもこの笑顔が、すべてを壊してしまう事を・・・今の私は知らない。
それから数日後、音楽番組にレージが出るのを新聞で見て、私はその番組を見ていた。
レージが歌を唄い始めた。
なんだか、何時もと違う気がした。
これは・・・なに、哀しみなの?
不意に、レージの目元が光った。
もしかして、レージは泣いている?
どうして・・・どうして泣いているの?

「何度も願ったよ、君ともう一度逢える事を・・・」

テレビから流れてくる、レージが作った歌。
オールドギターの音色とピアノの音楽が合わさり、私が好きな曲調だった。
時間が過ぎて行き、音楽番組が終わって私は、家を出た。
外の空気が吸いたかったからだ。
比較的、ここは山の上に在るため空気が澄んでいる。
あの時、歌を唄っていたレージが何故、涙を流したのか分からない。
そういえば・・・レージとマネージャーが付き合ってる、って言う報道が半年前にあったっけ?
・・・レージを信じてる、と言えばウソになるかもしれない。
けど、レージはうそをつかないと言うのは、私が一番わかっている。
私は深呼吸をすると、家の中に戻り歯を磨いてベッドに入ると、眠りに付いた。
翌日、私は村野くんと買い物をしに、街まで出かけていった。
村野くんの車に乗って、比較的近い街で買い物をしていると、CDショップからレージの出した歌が流れてきた。

「ん〜〜〜レイジのヤツ、いまやすっかり時の人だな」

村野くんがそういい、私のほうを見た。
多分私は、言いがたい顔をしていると思う。
暫く街を歩いて、服を見ながらウィンドウショッピングを十分に楽しんで、気に入った服を買って私は家に帰ることにした。
車で家まで送って貰い、車を降りて家に入ろうとしたら、レイジの声が聞こえてきた。

「夕樹ッ!!」

私は驚いて、声の聞こえた方へと振り返る。
そこにはレージが、立っていた。
レージのお母さんの自転車に乗っていて、なんだか笑えるけどね。
私と村野くんが、呆然と立っているとレージは私の手を引いて、家の角を曲がっていく。
レージが手を離して、私の顔を見る。

「・・・ゴメン。 今日は、キミに言いたい事があってきた」

「言いたいこと・・・? どうして、どうしてアナタってそう自分勝手なの!? 私を置いて、この町を出て行ったクセして・・・私には話すことなんて無いわ!!」

違う、ホントは、こんな事を言いたいんじゃない!
レージに聞かないといけないのに、何でこんな事を言っちゃうの・・・
泣きそうになってしまうけど、レージの顔を見ると言ってしまう。

「それでも、俺は夕樹に言いたい事があるんだ・・・頼む、聞いてくれないか?」

「・・・分かったわ。 で、話したい事って何なの?」

「俺、今でも夕樹のことが好きだ、夕樹の事を想わなかった日は無い。 だけど、俺にはそんな事を言う資格は無いのは分かっている、だから・・・お別れを言いに来たんだ」

「・・・・・・・・・」

「そのまま聞いていてくれて良い。 もう二度と、夕樹の前には姿を現さない、電話もかけない。 もう二度と・・・夕樹と会うことは無い、今日、これが最後の逢瀬だ・・・さようなら、夕樹」

レージは笑顔を浮かべて、私に言う。
いや、別れたくない・・・私も連れて行って、お願い。
レージぃッ!!
私は何も言えず、ただ泣きながらレージの背中を見送る事しか、できなかった。
その日、私は泣いてすごした。
何で心にも思っていないことを言っちゃうんだろう?
今でもまだ、レージの事が好きなのに・・・なんで、何でなのッ?!
何度もレージに連絡を取ろうとしたんだけど、連絡が取れなくて・・・そんな日々が続いた。
レージはもう、私の事が好きじゃない・・・?
ううん、違う・・・レージは私の事が好きだから、あんな悲しい顔をしながら歌を唄っている。
レージの歌声は、私の心に響いてくる。
私に、高校の頃の事を思い出させていた。
楽しかった、本当に楽しかった。
私達は何時も笑っている事が出来た・・・テレビから流れてくるレージの歌を聞きながら、私はまた涙を流した。
























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